【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
ギルドの掲示板の前に大勢の冒険者達が集まっていた。
どうやら貼り紙に釘付けになっているらしく、様々な会話が
飛び交っていた。
その貼り紙に掲載されている内容はこうだ。
[リヴィラの街を襲った食人花及び巨大なモンスターの出現した原因は、
イヴィルスによる奇襲であり、今後も要注意が必要となる。
尚、両モンスターはロキ・ファミリア、アストレア・ファミリア、
ガネーシャ・ファミリアの手により討伐。
奇襲の首謀者であるオリヴァス・アクトは死亡した。
以下の似顔絵と酷似した緑色の瞳に赤い髪をした女性は同じく
イヴィルスの首謀者であるため要注意されたし]
名前が不明なため、レヴィスの特徴のみがブラックリストに
記載されていた。
当然ながらネフテュス・ファミリアの名前は一切書かれていない。
フィルヴィスの名前も無いのは、何かしらの理由があるのだろう。
「仲間が惨い殺され方をしたから、その復讐でもしようとしていたのか...?」
「さぁな。どっちにしろ、あんな事した連中にはお似合いの最後だよ」
「全くだ...やり過ぎだと思ってる奴らがどうかしてるんだ。
殺した奴らは賞賛すべきだな。もし会えたら酒でも交わすか?」
と、イヴィルスを唾棄する冒険者達はネフテュス・ファミリアに対し
恩義を知らず知らずの内に感じているようだった。
その様子に、事務処理を熟すエイナはつい手を止めてしまう。
そのイヴィルスを殺した者の正体を知っているがために、複雑な心境に
立たされているからだ。
「(...あの人は...どういう気持ちで、人を殺したのかな...
恨みながら?怒りながら?...それとも...快楽的に)」
「...あの、すみません」
「!。あ、は、はい!?...あれ?」
「あ、こちらです。下ですよ、下」
エイナは声がしてくるカウンターの下を覗き込んだ。
そこに居たのはリリルカだった。筒状に巻いた羊皮紙を握っている。
「お忙しい中申し訳ありません。リリはリリルカ・アーデと言います。
この度、所属していたファミリアからコンバージョンしましたので...
冒険者登録の再登録をお願いしたいんですが、よろしいでしょうか?」
エイナは書類の数を確かめ、この程度ならすぐに終わると判断すると、
カウンターの前に立つリリルカと向かい合った。
「はい。問題ありませんので承りますよ。
私はエイナ・チュールと申します。
では、コンバージョン先のファミリアの名前を教えていただけますか?」
エイナに返事をしながらリリルカは握っていた羊皮紙をカウンターの
上に広げて差し出す。
「ヘスティア・ファミリアと言います」
「...ヘスティア・ファミリア、ですね。聞いた事はありませんが...」
「それはそうでしょうね。
何せつい数時間前に結成したばかりですので、団員はリリだけです」
「えぇ!?...あ、え、えっと、そ、そうなんですね。
わかりました...」
「まぁ、驚くのも無理はありません。あの女神様は優しいですが...
堕落し過ぎて友神様を怒らせた結果追い出されて、ようやくファミリアを建てる事にしたのですからね」
「...何と言うか...頑張ってくださいね」
「ありがとうございます...」
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「アーディ~?居るんでしょ~?出てきてよ~!」
ガネーシャ・ファミリアのホーム、アイアム・ガネーシャにティオナは
足を運んでいた。
正確にはアーディを訪ねに来ている。
シャクティから自室に引き籠もっていると聞いているため、居るはず
なのだが、何度もドアを叩いては呼びかけ続けても、一向に返事は
返って来ない。
無理矢理こじ開けるという手もあるが、そうしてしまうと自分が
叱られると思ったので考え直した。
「んー...ん?」
ふとティオナは鍵が掛かっているのかどうかを確認していない事と
気付く。
ドアノブを捻ってみると、簡単に開いてしまった。
最初からなのか途中で開けたのかわからないが、開いたのなら入ろうと
ティオナは躊躇なく入室する。
「アーディ?」
「...」
ティオナはベッドの上で背を向けたまま座り込むアーディを見つけた。
室内はカーテンも閉められており暗い。
辛うじて隙間から溢れる日差しで足元が見えるくらいであり、
アーディの様子がよくわからない。
目を凝らしながら窓に近付き、ティオナはカーテンを勢い良く開ける。
室内が明るく照らされ、アーディが何をしているのか見えるように
なった。
「おはよう、じゃなくてもうこんにちはだね。
...大丈夫?朝から何も食べてないって聞いたけど...」
「...」
一切答えない様子にティオナはお見舞いの品をそばにあった机の上に
置くと、背中合わせとなるようにベッドの縁へ座った。
お互いに、というよりもティオナの方から話しかけず、静寂の中で
時間だけが過ぎていく。
しばらくして、ようやくティオナが口を開いた。
「アーディ...もうクヨクヨするのはやめようよ。
ずっとそうしてても、つまんないでしょ?」
それにアーディは答えなかった。
ティオナは体ごと振り返り、ベッドの上で胡坐をかいてアーディの方を
向く。
その表情に怒りは籠っていなかったが、真剣そのものだった。
「シャクティも言ってたけど...
気持ちの切り替えをはっきりしないとダメだと思うよ。
あたしよりアーディは年上なんだし、大人になってるんだから...
楽な気持ちにはなれなくても、辛い気持ちにはならないようにしようよ」
かつて、自分が経験した苦い思い出が鮮明に蘇る。
怪我をしていないのにも関わらず、辛いと感じる度に拳や心臓に
鈍く冷たい痛みを感じる時があった。
それが悲しみのせいなのか、幼い少女にはわからなかった。
師弟の契りをバーチェと結ばされ、更に過酷な鍛錬が課せられた。
手加減など一切しないバーチェの瞳は感情が宿っておらず、冷たく
見据えているだけだった。
それにティオナは恐怖した。
一方で、ティオネは何もかもが荒々しくなっていた。
言葉遣いは汚くなり、事ある事に乱暴さが増していき、目は濁って
いく...
血反吐を吐く程の鍛錬を何年も続けている内に、ティオナ自身は感情が
薄れていく事にすら気付かなくなっていた。
だが、そんなティオナを救ったのは丸められていた紙の塊。
破られた英雄譚の数ページ。アルゴノゥトの物語だった。
バーチェに読んでもらい、その物語に今まで感じた事もなかった
喜楽が芽生え始めた。
その後はバーチェとほんの少しだけ打ち解けたのか、指導の際に
問いかけたりしていた。
そのおかげか、痛みに耐えるだけだった鍛錬が辛くなくなっていき、
寧ろ話したり出来る機会えて楽しみになっていった。
それからというもの儀式に勝つと、カーリーに本を与えてもらい
ずっと読み続けた。
本に描かれている物語にのめり込んでいき、いつしかティオナは
笑うようになっていた。
鈍く冷たい痛みが消えていたからだ。
「...な...」
「ん?なに?」
アーディが何かを言ったのに気付き、ティオナはそっと近付いて
耳を傾ける。
泣き続けたせいなのか、掠れた声でアーディはもう一度言った。
「...どう、すれば...いいのか、な...」
辛い気持ちにならなくなる方法を問いかけられているとティオナは
思い、一度ベッドから降りる。
机に置いてあったお見舞いの品を手に取って、再度ベッドの上に乗ると
アーディに近寄って篭の中から果物を1つ差し出した。
「沢山食べながら話そうよ。そうすれば、少しはマシになるかも」
それが、ティオナなりに思いついた方法であった。
かつての自分を見ているように思えたからこそ、そう思いつき
アーディの苦しみを少しでも取り除きたいという気遣いも含めて、
ティオナはそう言ったのだ。
差し出された果物をジッと見つめ、ゆっくりと体を振り向かせると
アーディはティオナと向き合いながらそれを受け取る。
ティオナは別の果物を手に取り、アーディの隣に座り直した。
「果物屋のおばさんがね、一番美味しいのを選んでくれたの。
美味しいものを食べたら元気になって、辛い気持ちもきっと収まるよ」
「...そっか...じゃあ、いただくね?」
「うん!遠慮なく全部食べてよ」
「全部はちょっと...まぁ、食べられるだけ貰うね」
そう言ってアーディは一口齧る。
甘いしっとりとした触感が口に広がり、少しだけ心が安らぐのを
感じた。
ティオナも頬張りながら、アーディに話しかけた。
「ほひょふひゃもふひゃもひょっへひゃへふのひゃは?」
「...飲み込んでから言って?」
「んぐっ...」