【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...ティオナ」

 「んー?」

 「私も確かに気分転換しようと思ってダンジョンに潜ろうとは思ってたよ?

  ...だけど何で...」

 

 バオォォォオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 「何で21階層まで潜っちゃうかなぁ~~~!!

  武器を持ってきてないのにぃ~~~~~!!」

 

 その叫び声は、マンモス・フールの咆哮に負けない程の声量で

 響き渡った。

 何故、ティオナとアーディが21階層まで潜っているのかというと、

 始めにティオナが外へ出ようと言い出して、アーディを自室から

 引っ張り出した。

 その際、アーディの言った通り武器を持ち損ねている。

 バベルを通って一気に18階層へ辿り着き、そのまま21階層まで

 降りてきた途中でモンスタールームに迷い込んでしまい、壁から

 生まれたマンモス・フールと対峙しているのだ。

 

 「いやー、運動には丁度いいくらいかなーって」

 「武器も無いのにどこが丁度なの!?」

 

 アーディは胸倉を掴んでティオナに言い寄る。

 しかし、マンモス・フールが槍の様な2本の象牙を突き出し、巨体に

 そぐわない程の速度で突進してきた。

 アーディはティオナを担ぐや否や全速力で走り出し、追いかけっこが

 始まった。

 モンスタールームは円形状となっており、どこかに隠れそうな岩陰が

 無いのか走りながら見渡すが、どこにもそういった場所は無かった。

 マンモス・フールが踏みしめる度に、地面が揺れて転びそうになるが

 何とか体勢を立ち直らせ、必死になって逃げまわる。

 

 「どうしようどうしようどうしよう!?」

 「あのモンスターって確か...転ばせて魔石を突けばいいんだよね?」

 「そうだよ!そうだけどその転ばせるための岩もロープも無いから困ってるの!」

 

 担がれているティオナはふと上の方を見ると、木の根で形成された

 壁から突起している状態の岩を見つける。

 あれを落として上手く頭部にぶつければ、何とかなるかもしれないと

 考え出した。

 

 「アーディ。あの上にある岩を落としてみるのはどうかな?

  頭に当たれば倒れるかも!」

 「...あれ!?あれの事!?高すぎて届かないよ!」

 「でも他に方法が無いし...」

 

 ティオナに言われアーディはぐうの音も出なかった。

 ここで突破口を導き出せば助かるはずだが、成功する可能性も

 高いかといえばそうでもないと思える。

 しかし、マンモス・フールはしつこく追いかけて来てくるので

 通路に出たとしても、出入口が広いため追ってくるのは明白だった。

 思考を巡らせた結果、アーディは腹を括るしかなかった。

 

 「じゃあティオナが上に登ってあれを落として!

  何とか私が誘導するから!」

 「オッケー!」

 「タイミング絶対に間違えないでよ!?」

 

 ティオナを下ろし、最初は並走して徐々にアーディが先を走り抜けて

 いった。

 ティオナとの距離を十分に空け、突起している岩が頭上の前方に

 見える位置で立ち止まった。

 少し屈み両手を重ねて足場を作る。

 その両手の足場に後方から走って来たティオナが跳び乗り、アーディは

 タイミングを見計らって勢いよく腕を振るい上げた。

 頭上を滑空する様に跳んで行くティオナを見送り、アーディは急いで

 また走り出す。

 跳んで行くティオナは勢いが無くなってくると、木の根で形成された

 壁にへばり付いた。

 

 「よっ、ほっ、っと、ふっ...」

 

 手と足の指を隙間に突っ込み、勢いをつけて斜めに上へと登っていく。

 岩の上まで辿り着くとティオナは着地し、体重を掛けながら踏み付け

 岩の根元に罅を入れようとする。 

 

 ビキッ ビキキッ... バキッ...!

 

 「よしっ!アーディー!いつでもいいよー!」

 

 下に居るアーディに呼びかけ、アーディが頷きサムズアップするのを

 確認しマンモス・フールが一周するのを待った。

 もしも失敗した場合はアーディも巻き添えになり、遅ければ当たらなく

 早ければアーディのみが潰される事になる。

 ティオナはタイミングを誤らないようリズムに合わせ、体を小刻みに

 上下させる。 

 そして、勢いよく跳び上がると全体重を掛けて岩を踏み付ける。

 

 ガゴッ...!

 

 罅が根元を一周し完全に割れると、上にティオナは乗せたまま岩が

 落下していく。

 アーディは頭上から降ってくる岩を見逃さず、マンモス・フールに

 悟られないためにあえて速力を落す。

 マンモス・フールは遅くなったのに気付くと咆哮を上げ、2本の象牙を

 突き出し猛突進してきた。 

 猛突進してくるマンモス・フールに合わせ、アーディも更に速力を

 上げる。

 細かい落石が降り注ぐ中、頭上に注意しながら落下してくる岩の下を

 駆け抜け通過し、岩がマンモス・フールの頭部に直撃した。

 

 ド ゴ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ ンッ !!

 

 マンモス・フールは頭部に与えられた衝撃で脳が揺さぶられる。

 覚束ない足取りで体勢を保とうとするが、耐えきれず足が崩れ落ち、

 横転した。

 頭部に直撃する直前に岩から離れていたティオナが着地していると、

 アーディが息を切らしながら近寄ってきた。

 

 「ハァーッ...ハァーッ...な、何とか...転ばせたね...」 

 「うん。じゃあ...どうやって魔石を突こっか?」

 「え?え!?それ考えてなかったの!?」 

 「...テヘッ」

 

 舌を出して誤魔化そうとするティオナにアーディはチョップを頭部に

 叩き込んだ。

 悶絶するティオナにため息をつきながら急所をどの様にして突けば

 良いのかを考える。

 自分はもちろんティオナの拳打でも急所にある魔石に衝撃を与えるのは

 困難だと判断する。

 その時、ふと2本の象牙に目が行くとある方法を閃いた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ホントにいいの?買い取ってもらったお金全部貰っちゃって」

 「いいよ(ホントは慰謝料として半分以上貰おうかと思ったけど...)

  ゴブニュ・ファミリアに借金してるって聞いたから、先にそっちを支払いなよ」

 「あははは...そうだね。ありがとう、アーディ」

 

 結果的にマンモス・フールの魔石は手に入れる事が出来た。

 マンモス・フールの象牙をへし折り、それを2人掛かりで構えながら

 破城槌が如く急所を突いた。

 象牙の先端が分厚い皮膚を貫くと、ものの見事に魔石へ到達した事で

 マンモス・フールは消滅し、魔石とドロップアイテムとしてその象牙を

 入手したのだ。

 疲労の具合と持ち運びの難しさから、リヴィラの街で買い取ってもらい

 証文をティオナにアーディは渡していた。

 アーディの言った通り未だに借金を返していないティオナは照れ笑いを

 浮かべている。

 

 「...こっちこそ、ありがとう。

  おかげで少しは吹っ切れた気が...するかな」

 

 まだ少し蟠りはあるものの、最初の時よりは幾分かマシになったと

 アーディ自身そう思った。

 

 「そっかぁ~!それならよかった!

  ...でも、やっぱり捕食者の事は許せない?」

 「それは...。...心の中では、まだそうだけど...

  今だけは...心の内に秘めておく事にしようかな」

  

 それはギルドの近くを通っていた際に聞いた事だった。

 邪悪な殺人鬼達を全滅させる救世主が現れた。

 かつての罪を精算させた。

 名も無き英雄を称えるべきだ。

 どれも殺されたイヴィルスの使者に対する同情の無い言葉ばかりで

 やはり自分が間違っていたのではないかとアーディは思った。

 しかし、それでも自分自身を裏切る事は出来ないと決意し、一度

 心の整理をつかせるためにそうしたのだ。

 自分の信念を捨てれば最後、何もかもを見失うと思ったのだろう。

 

 「(...じゃあ、もう少し言わないでおこっと。

   せっかくアーディと仲直り出来たのにまたあんな風になったら嫌だし)」

 「あ。前からミノタウロスが数体来てるよ」

 「っと、うん!任せてっ!」

 「(それに、今よりも強くなって...

   捕食者に認めてもらえるくらいにならないとね!)」

 

 ティオナは片腕をグルンと回し、ミノタウロス目掛けて走り出す。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「はい、あーん」

 「は、恥ずかしいから、今は遠慮させて...」

 

 話し合いは終わったが既に日も暮れてきたので、夕食を出されて

 しまった。

 我が主神は喜んで召し上がっていて、アストレア様に食べさせて

 上げている。

 かなり恥ずかしがっているようで、中々食べようとしていないが...

 それよりも...

 

 「ほらほら、捕食者君も食べなってば。

  今日はリューが作った料理じゃないし、安心して食べられるわよ」

 「ア、アリーゼ!わざわざそんな事を言わなくていいですから!?」

 

 アリーゼという女性がとにかく僕に話しかけてきている。

 というよりヘルメットを脱がせようとしてくる。

 不思議な事に腹が立つ事も鬱陶しくも感じないが...

 僕の事はそっとしてほしいのが本音だ。

 

 「美味しい...!これは何ですカ...?」

 「ミネストローネという野菜のスープです。

  鍋さえあればレイでも作れるかもしれませんね。

  ゼノス達にも食べさせてあげられますよ」

 「本当ですか...!」

  

 レイというゼノスもスープの美味しさに満足しているようだった。

 作れるとアスフィという女性は言っているが、あの数であれば

 かなり大型の鍋でないといけないんだろうか...

 そう考えていると輝夜という女性が同じスープを差し出してくる。

 

 「スープくらいなら飲んでもいいのではありませんかねぇ?

  口元がちょっとだけ見えるくらいでしょうし」

 

 ...なるほど、この女もグルになったな。

 少しだけヘルメットをズラした隙に外そうという魂胆だろう。

 ...それなら、こうするか。

 まず、受け取って飲もうとする素振りを見せるためにヘルメットの

 縁に手を掛けた。

 その瞬間に直ぐさま別の方向を向き凝視する。

 

 「ん?」

 「どうかしたの?」

 

 と2人の女性が余所見をしている瞬間にヘルメットを少しだけ上に

 ズラす。

 皿に口を添え、注がれているスープを一気に口内へ流し込む。

 ...熱っ...

 口内に熱湯が溜まった事で体が震えるが無理矢理飲み込んだ。

 喉から食道を走る熱い刺激に耐え、少し咳き込む。

 それに気付いた2人の女性が視線を僕にへと戻す。

 

 「...!?」

 「あれ!?いつの間に...!?」

 

 ...恐らく、舌が火傷しただろうから後で冷やそう。


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