【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「また食人花が出現する可能性がある。

  ラクタ、くれぐれも気をつけるようにな」

 「は、はい」

 「それじゃあ、出発しよう」

 

 ラクタが頷くとフィンの号令でティオナ達はダンジョン探索へ

 出発した。

 前回、リヴィラの街で襲撃が起きた当日の件を知るメンバーに

 サポーターとしてラクタを加えた編成となっている。 

 3日が経ちようやくギルドへの報告などの後始末が終わったので、

 イヴィルスの企みを解き明かすために、手掛かりを見つけるべく

 再びリヴィラの街へ向かう事にしたのだ。

 ギルドからの依頼ではなくロキ・ファミリアの幹部での話し合いで

 そうする事になっている。

 もし何も手掛かりが無いと判断した場合は、ギルドに後を任せその後は

 通常通りの探索を行なうそうだ。

 

 「あ。ねぇねぇ、そう言えば聞いた?

  イヴィルスの残党を完全に撲滅するために、ギルドが懸賞金を賭けるんだって。

  使者を捕まえても殺害しても変わらない額って聞いたよ」 

 「懸賞金ねぇ...まぁ、どうせ大した額でもなさそうだし、気にするだけ無駄よ」

 「どれ程の規模で動いているのかわからない以上、最初よりは減っていくだろうね」

 「そ、そうですか...」

 

 ラクタはガッカリしたようで耳を八の字に垂れ下げる。

 これまで幾度となくオラリオに被害をもたらしたイヴィルスを今度こそ

 滅しようというギルドの覚悟は確かに感じられる。

 だが、イヴィルスとは1つのファミリアで成り立っているのではなく、

 複数のファミリアが集った事で形成している。

 そうなれば人数は当時よりも増えている可能性が高い。

 なので、フィンの予想が正しければ懸賞金もガクッと下がるのは

 明白である。 

 その話が終わってレフィーヤはふと隣を歩くアイズに目を向ける。

 顔を俯かせたまま、どこか足取りが重い様に思えた。

 

 「アイズさん、大丈夫ですか?どこか体調が良くないとかじゃ...」

 「...ううん。何でもない」

 

 そう答えるアイズは足を止めず、先にレフィーヤの前を進んで行く。

 レフィーヤは立ち止まって明らかに何かあると違和感を覚える。

 だが、あの様子では何も話してくれないと思い、もう少しだけ時間を

 置いて再度話しかけようと決めた。

 やがて18階層まで潜り、リヴィラの街に到着する。

 

 「おう!戻ってきたか。

  宿から道具屋から何でも揃ってるぜ。有り金全部落していきな!」

 「ありがとう。3日の内にすっかり元通りになったようだね」

 「ああ。ここはダンジョンの重要拠点だからな!

  俺様達が一肌脱いでやらねえと困る奴らが大勢いるだろ!」

 

 リヴィラの街はいつも通りの賑わいを取り戻していた。

 建物などの施設の補修工事などは終了しており、外見は不格好だが

 雨漏りや隙間からの風の心配がここでは必要のない事なのでそのままに

 しているのだろう。

 フィンはボールスに事情を話し、街中を探索する許可を得た。

 3人と4人の2組に分かれ、それぞれ各自思い当たる所を手分けして

 探す事になった。

 

 「ティオナさん、どこを探してみましょうか?」

 「ん~~っと...やっぱり物資置き場が怪しそうだから、そこに行ってみよ?」

 

 ティオナ、レフィーヤ、アイズ、ラクタの4人は物資置き場へ赴き、

 最初にルルネと出会った場所を捜索し始める。

 木箱の隙間や積み上げられた箇所までしっかりと見ていったが、何も

 見つけられなかった。

 一度集合してその事を話し合っている際、ティオナの腕から血が

 垂れているのにアイズが気付く。

 曰わく、狭い隙間を覗き込んでいる際に擦ったのだそうだ。

 フィン達と合流する前に洗い流したいとの事でティオナは湖へ

 向かった。

 足を水中に浸けたまま、屈んだ状態で乾いた血と傷口を洗い流す。

 出血は既に止っておりポーションを掛ける必要もないと思いつつ、

 立ち上がろうとしたが、そこであるものが目に止った。

 それは赤黒い小さな斑点が付いた石と、同じ様な模様がある葉っぱ。

 恐らく血痕だと思われ、付近にもそれらしきものがありティオナは目で

 追って行く。

 その時、地面に落ちている何かが光を反射させているのを見つけた。

 ティオナはそれが何なのか気になり、近付いて見てみると、今まで

 見た事もない小さな物体が落ちていた。

 拾い上げてみると、それはコの字をした形状で鋭利な先端をしている。

 

 「...!。ひょっとして、捕食者の武器なのかな...?」

 

 ティオナはそう予想し、その武器と思われる物体を見つめる。

 フィンに渡すべきかと考えるが、ティオナはそれをパレオの金具で

 隠れる位置に刺し込む。

 

 「(...別に渡したからって何になる訳でもないだろうし...

   いいよね)」

 

 そう決めつけると、フィン達が待つ集合場所へ向かうのだった。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 所変わって地上のオラリオは第三区画にある歓楽街。

 まだ朝方なので、どの店も扉や窓が閉まっており、どの建物よりも

 一際目立つイシュタル・ファミリアのホームであるベーレト・バビリも

 不気味な程静かだった。

 

 「んん...」

 

 窓から光が差し込むと、ベッドの上で眠るイシュタルは鬱陶しそうに

 背を向けて蹲る。

 光が遮られ、目に当たる刺激が無くなると再び安眠し始めた。

 しかし、ドアをノックする音が数回鳴らされ、重い瞼を開けると

 イシュタルは気怠げに上半身を起こす。

 ため息をつきながらベッドから降り、何も身に付けずにドアの前へ

 移動した。

 ドアノブを捻り開けてみると、そこにはアイシャが腕を組んで佇んで

 いた。

 

 「...何用だ、アイシャ。まだ私は寝足りぬというのに」

 「アンタに女神様の客人が来てるんだ。それも...

  とびきり体が疼く雄を引き連れてね」

 「女神...?...誰だか知らぬが、後日にしてくれと」

 「いや、もうそこに居るんだ。待たせるのもあれだと思ってさ」

 

 そう答えるアイシャにイシュタルは気が利かないと、ため息をついて

 ドアを更に開けると身を乗り出してアイシャが手で示す方を見る。

 そこには2人の仮面を被り鎧を纏っている大男を背に立たせている

 ネフテュスの姿があった。

 

 「...あら、イシュタルったら。性欲的ね...私を誘ってるのかしら?」

 「...」

 

 ソッとドアを閉めるとイシュタルは自室へ入ってしまった。

 アイシャはその行動を訝り、またノックしようとするがそれよりも 

 先にドアが再度開かれる。

 先程まで何も身に付けていなかったはずのイシュタルは、先程の数秒の

 内に胸掛けとスカートを着ていた。

 

 「アイシャ、付いて来い。恐らく話し合いをするはずだ。

  ...恐らく...強制送還させられるとも考え得る」

 「なっ...」

 

 そう答えるイシュタルだが、その表情は諦めの色は窺えない程に

 平静だった。

 アイシャは対照的に目を見開き、先に進んで行くイシュタルの背を

 見るしかなかった。


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