【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

73 / 156
>'、< ̄、⊦ C’hweeros

 「グゥウウ...!?」

 

 フリュネは歯を食い縛って醜い顔を更に醜くくさせ、丸く太い腕に

 血管が浮かぶ程、命一杯力を入れながらフリュネはゴルダを

 押しつけていく。

 しかし、その場から微動だしない捕食者はもう片方の腕を振るい上げ、

 斜め下の死角から一枚刃による斬撃でフリュネの顎から眉間までを

 斬り付けた。

 

 ザシュッ!

 

 「ギ、ギギャァアアアア!?」

 

 フリュネはゴルダを1本落し、片手で顔面を押さえる。

 怯んだ隙を突いて捕食者は即座に接近し、頭突きを鼻に叩き込んで

 続け様におかっぱ頭の髪の毛を引っ掴む。

 体重を掛け、落下する勢いで顔を強引に引っ張ると膝蹴りを額に

 めり込ませた。

 フリュネの頭部がボールの様に弾かれると天を仰いだ。

 

 ドスンッ!

 

 「ア、ぎ、ェエエ...!?」

 

 追撃は止らず、捕食者は一枚刃を半分まで収縮させ、顔に切り傷を入れた

 時と同じ動作で脇腹に突き刺す。

 しかし、一枚刃が分厚い肉で浅くしか刺さらず、与えられるダメージが

 少ないと気付くと引き抜いて前蹴りで刺し傷を蹴り付け、強制的に

 距離を取らせた。

 地面を転がったフリュネは横倒れの状態となり、腹部の苦痛に

 悶えながら上半身を起こして片膝をつく、。

 その顔には先程の切り傷が縦一直線に走っており、腹部の刺し傷からは

 血が滲んでいる。

 

 「こ゛、こ゛のぉ...!よくも...よくも、よくもよくも!!

  私の顔に傷を付けてくれたねぇえ!?

  殺すっ!殺す殺す!殺してやるぅうううっ!!」

 

 青筋をいくつも立てて叫ぶフリュネに、捕食者は右手の人差し指で

 自分自身を指した。

 次にお前、と言っている様にフリュネを指すと自分の首へ手を移動させ

 中指を伸しながら首を切る様に見せ、最後に手を突き出してそのまま

 中指を立てる。

 

 「(あらあら...チョッパーったら)」

 

 ネフテュスにはその手振りに少し呆れつつも、可笑しそうに笑みを

 浮かべる。

 対してフリュネは更に怒り心頭となり、青筋がはち切れんばかりに

 体を震わせる。

 バーベラ達も手振りの意味を少なからず理解しているようで、

 フリュネを激怒させた事に顔が蒼褪めている。

 

 「ゲ、ゲ...ゲゲェェエエエエッ!!」

 

 奇声を発しながら、建物を揺らす錯覚を起こすかの如く捕食者目掛けて

 猛進していく。

 逆鱗に触れた事で我を忘れ、ただ殺すという事だけが頭の中を占領して

 しまっているのだろう。

 捕食者は向かってくるフリュネに対し、足元に落ちていたゴルダを

 拾い上げると投擲した。

 斧刃が縦に回転しながら、フリュネの進行方向上のすぐ目の前に

 突き刺さった。

 フリュネは転ばそうとしていると見抜いて走力を落して横へ飛び、

 回避するとまた前進しようとする。

 だが、それが敵わなくなる。

  

 ドシャアッ!

 

 「ゲヒッ...!?」

 

 フリュネは転んでしまった。足を滑らせたのか、絡まってしまったのか

 考える間もなく答えをすぐに理解する。

 いつの間にか目の前まで移動していた捕食者が自分を転ばせたのだと。

 背中が床に落ち、仰向けとなったフリュネに捕食者は跳び上がると

 体を捻らせながら背を向けつつ肘を背中側に突き出す。

 

 ゴキャッ...!

 

 肘の先が鼻をへし折り、両方の鼻孔から鼻血が噴き出てくる。

 それによって鼻での呼吸が困難となり、更には仰向けになっているため

 上咽頭から流れる血が中咽頭と下咽頭に詰まり口での呼吸まで

 出来なくなる。

 フリュネは鼻の痛みを堪えつつ、急いで俯せになり喉の奥の血を

 吐き出す。

 

 「ゲ、ゥ...ブゲェエ...!」

 

 グシャッ!

 

 息をつかせる隙さえ与えず、捕食者は片足を軸にした横向きの膝蹴り

 を繰り出して、またも鼻に叩き込む。

 下から上へ突き抜ける衝撃によってフリュネの頭部がまた天を仰いだ。 

 仰け反る体勢で頭部が後方へ吹き飛ぶため、体の重心が背中側へ傾くと

 フリュネは仰向けに倒れた。

 後頭部を強く打った事で意識が朦朧となり目を回しながらも、顔を

 上げつつ、本能的に捕食者から目を離さまいとする。

 

 ジャキンッ

 

 「ゲッ...」

 

 ゴルルルルルッ...

 

 捕食者は目と鼻の先まで一枚刃を伸ばし、身動きを取らせなくした。

 それに自身の絶体絶命的な状況を悟ってフリュネはゴルダを手放すと

 両手の掌を前に向け待ったを掛ける。

 

 「こ、降参だよ!降参するから、やめておくれよぉ...!」

 

 フリュネが負けを認めた事にバーベラ達は歓声も驚愕の声も上げず

 ただ息を呑んだ。 

 発展アビリティの治力により鼻血は既に止まっている様だが、

 残息奄々となって、恐怖で震えているフリュネを捕食者は観察する。

 そして、戦意喪失したと判断したのか、腕を引き背を向けて

 離れていきネフテュスの元へ足を進める。

 それを狙っていたようで、フリュネは口の両端を吊り上げ誰もが

 不快に思うがまでの笑みを浮かべゴルダを再び手にする。

 

 「ゲッゲッ!甘いよぉ!」

 

 ドヒュンッ!

 

 仰向けの状態でゴルダを槍の様に構え、投擲する。

 斧刃の根元にある鋭く尖った部分が空を切りながら向かって行き、

 捕食者の背中に突き刺さってしまうと、バーベラ達は悲鳴を上げる。

 

 バシュンッ!

 

 しかし、ゴルダが捕食者の背中に突き刺さる事はなかった。

 

 バキィィンッ!!

 

 左肩に装備されている武器が向きを後ろへ変え、青白い光弾を発射し

 粉砕したのだ。

 アダマンタイト製の武器が容易く破壊されてしまったのに、フリュネは

 理解が及ばず口を半開きにしたまま呆然となる。

 万策尽き無気力に陥る中、分厚い皮に埋もれた首が掴まれ体が宙に

 浮かぶ感覚に恐慌する。

 戻ってきた捕食者がそうしていると分かり、フリュネは捕食者の手首を

 掴みながら許しを乞う。

 

 「ギ、ィ...!ご、ごめんよぉ?つい、手が...

  も、もうしないから、さ!ほ、奉仕でも何でも、してあげるから」

 

 ギリリ... ギリリリッ...!

 

 「ゲ、ェ...」

 

 捕食者はフリュネの言葉など聞き入れず、両手で首を絞めつける。

 頚動脈の血流が遮断され、迷走神経が過剰な反射を起こす。

 それが心臓の洞房結節や房室結節に伝わり抑制され、徐脈となって

 血圧が低下し、脳幹へ行く血液が少なくなり脳幹での酸素量が減少して

 いく。

 やがてフリュネは白目を剥いて、口を開けたまま涎を垂らし掴んでいた

 捕食者の手首を離し失神する。

 

 カカカカカカ...

 

 ドシャッ!

 

 捕食者は放り投げる様にしてフリュネの首を離す。

 倒れたフリュネは息こそあるものの起き上がる事は無かった。

 バーベラ達はフリュネの完全なる敗北に戦慄する。

 しかし、ほんの数秒もすれば戦慄は掻き消され、捕食者の圧倒的な

 強さに興奮が勝って歓声を上げる。

 

 「勝っちゃった!あの人フリュネに勝っちゃったよ!」

 「マジかよ...マジかよ、おい...!

  やべぇ、体が疼いてきちまった...!」

 

 歓喜の声を聴いた捕食者は振り返ると睨みつける様にバーベラ達を

 見据えた。

 それにバーベラ達は一瞬で静まり返り、狼狽えてしまう。

 

 ウ゛オ゙オ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

 

 気に障ってしまったと思っていたが、捕食者は両腕を上げると

 自身の勝利を告げるかのように雄叫びを上げた。

 バーベラ達はその心が揺れる程の力強い雄叫びと雄姿に、先程とは

 比べ物にならない程の歓声を上げるのだった。

 

 「お前達、興奮するのは構わないがフリュネを退かせ。

  次はアイシャの番だからな」

 「ああ...ようやくやり合える...」

 

 引きずられて運ばれていくフリュネには眼中になかった。

 次に相手となる捕食者だけをアイシャは見ている。

 

 「この疼きを止めるには...

  ...とことんやるしかないみたいだね...!」




ザ・プレイ最高にクールでしたね。
原始的とは言え、やっぱり科学技術は桁違いだと思いました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。