【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
次の決闘に臨むアイシャと捕食者は、先程フリュネ達が立っていたのと
同じ位置に着き開始の合図を待っていた。
先程までとは打って変わって、周囲のバーベラ達が2人に対し声援を
送っている。
フリュネと違いバーベラ達から信頼が厚いからこそ、彼女の決闘には
熱狂的となっているのだろう。
フリュネを倒した捕食者の事もあるので、同じ様な強さを見せつけて
くれるという期待もあるのだと思われる。
「準備はいいな?では...始め!」
「Ā,u!」
決闘が開始され、アイシャは愛用するザーガを手に捕食者に歩み寄って
行く。
捕食者も腰に装備していた巨大なハンマーを手にすると、ゆっくり
近付いていった。
柄を含めると自身の身長より巨大な得物を担いでいるアイシャもだが、
見るからに重量が捕食者自身よりも重たいはずのハンマーを片手で
軽々と持っている様は、不釣り合いとしか言いようがない。
2人は互いに攻撃が届く範囲まで近付くと、足を止めた。
アイシャは決闘が始まる前の興奮状態のはずだったが、今の様子は
一変して冷静そのものに見えている。
「...言葉が通じてるかわからないけど、言わせてもらえるかい?」
...カカカカカカ...
「いいんだね。...一目で、あたしはあんたが欲しいと心身が求めたんだ。
それも、習性として求めているだけじゃない。何なんだろうね、これは...
まだやり合ってもないから断言は出来ないが...
あたしを満足させてもらおうじゃないのさ!」
言い終えると同時にアイシャは担いでいたザーガを構えた。
捕食者もハンマーを構え、唸り声を上げる。
ゴルルルルルッ!
「いいねぇ、その威勢...そそられるよっ!」
周囲にも聞こえる程の風切り音を鳴らしながら横払いに斬ろうとする。
それを捕食者は何とブーツの底で足払いをし、斬撃をいなしてみせた。
アイシャはゾーガを振るった軌道に弾かれた事で、片足が浮かぶ状態と
なり蹌踉めくと、逆にその状態を利用して回し蹴りを捕食者の横腹に
叩き込んだ。
ゴキィンッ!
かに思われたが、足払いをするために支えとして置いていたハンマーで
捕食者は足蹴りを防ぐ。
誰もがアイシャの美脚に傷が付いたと思われたが、よく見ると上手い
具合に紫色のハーレム・パンツの裾となる金属で脚には直撃して
いなかった。
咄嗟に防御したとは思わず、アイシャは捕食者の実力に舌舐めずりを
しながら笑みを浮かべる。
「ハハハッ...!そうでないとねぇ!」
逆手に持ち替えられたザーガを先程と同じ様に横払いしてくるのに
対し、捕食者はハンマーのヘッド部分を蹴って持ち上げると振るわれた
ザーガを防ぐ。
火花が飛び散り、お互いに押し退け合い始めた。
逆手持ちにしているアイシャの方がしっかりと力を込められないため、
不利になると思われるが全くそうにはならず互角となっている。
長く続くかと思いきや、アイシャが先に押し退けられた。
しかし、それは意図的にであって彼女の顔には笑みが浮かんでおり、
床にザーガを突き刺しそれを軸に柄を掴んだまま一回転すると、
2連続で飛び蹴りを繰り出す。
片腕を突き出し、捕食者は蹴りを受け止めると脚が引っ込められる前に
足首を掴んだ。
ギュオッ!
「ッ...!」
足首を掴んでいるアイシャを捕食者は自身を回転させた事で生じる
遠心力を応用し、豪快に投げ飛ばした。
アイシャは水平に飛ばされた事で床に叩き付けられはしなかったため、
何とか空中で体勢を整え着地する。
どちらも攻勢を譲らない戦いにバーベラ達の歓声がより一層増す。
ネフテュスは楽しんでいるバーベラ達の様子を見て、大いに満足して
いる様だった。
「やっぱりいいわね。力のぶつかり合いに歓喜するこの光景は...
堪らなく心地良いわ」
ネフテュスが悦に入っていると、始まってから今まで先に仕掛けに
行かなかった捕食者の方から動いた。
槍で刺突するかの様にヘッド部分を突き出しアイシャが回避すると、
両手で握っているためそのままの姿勢でハンマーを大振りする。
直撃すれば肋骨が全て折れそうな勢いだがアイシャは上体を仰け反らせ
黒い艶やかな長髪を掠めつつもまた回避して見せた。
したり顔になるアイシャはお返しとザーガを突き出そうとする。
ゴ ンッ !!
「ぐぅっ...!?」
だが、目の前に迫る四角い塊に気付き手で受け止めようとするも、
衝撃で体勢を崩し、背を床に付けてしまう。
四角い塊の正体はハンマーのヘッドだった。
捕食者は横へ振るった勢いを殺さず、円を描く様にしてハンマーを
振るうと、今度は頭上から叩き込んできたのだ。
仰向けの姿勢で倒れているアイシャに、捕食者はハンマーを顔へ
突き付ける。
降参するかどうかを問いかけている様だ。
当然、アイシャは降参する訳もなくザーガを周囲に投げ飛ばすと、
足を回す様に空を蹴るその勢いを利用して、華麗に立ち上がった。
「まだまだこれからだよ。
もっとあんたの強さを味合わせてもらおうじゃないか!」
バク転をしながらザーガが落ちている場所まで移動し、手が床に着く
タイミングでザーガの柄を掴み取る。
足を踏みしめ床を蹴ると全速力で捕食者に接近し、斬り掛かった。
「【来れ、蛮勇の覇者、雄々しき戦士よ、たくましき豪傑よ、欲深き非道の英傑よ」
捕食者は右腕のガントレットから同じ様な一枚刃を伸ばし、斬撃を
屈みながら受け身を取ると片手に握っているハンマーでザーガの刀身を
叩く。
ガギィィンッ!!
「っ...!
女帝の帝帯が欲しくば証明せよ、我が身を満たし我が身を貫き、我が身を殺し証明せよ」
それによってザーガが弾かれるが、顔を顰めながらも手放さず
アイシャもハイキックを繰り出してハンマーを弾いた。
距離が開くとアイシャはザーガを構え、最後の詠唱を唱える。
「飢える我が刃はヒッポリュテー】!
【ヘル・カイオス】!」
詠唱を終えた後に剣を振り下ろし、床を這いながら抉る程に巨大な
紅色の斬撃波を放つ。
その大きさは4Mにまで達し、捕食者を優に超える。
捕食者は素早く左腕に装備しているガントレットの表面をなぞり、
何かをする様だった。
ギュオン ギュオン ギュオン...
するとハンマーが青白い光をヘッド部分に収束し始める。
バーベラ達はそれが魔法だと思ったが、ガントレットを触っただけで
詠唱をしていない事に驚く。
ハンマーのヘッド部分が青白い光に包まれると、捕食者はその場から
飛び上がりハンマーを振るい上げる。
前方へ降下していき、虹色の斬撃波を迎え撃とうとしている様だ。
アイシャはその無謀なまでの勇ましさに、胸が締め付けられる感覚に
陥った。
「(...あぁ、そうか...そうだったんだね...)」
十分に攻撃が届く距離まで接近し、捕食者はハンマーを斬撃波に
叩き付けた。
ギュオンギュオンギュオンギュオン...!!
...ド ゴ オ ォ ォ オ オ オ オ オ オ ンッ !!
ヘッド部分は真っ二つにも、粉々に砕かれる事もなく虹色の斬撃波と
鍔迫り合いの様にぶつかり合い、先に虹色の斬撃波が粉砕された。
打撃面から青白い光を衝撃波として放った事で、虹色の斬撃波を
相殺したのだ。
だが、勢い余ってハンマーは屋上の床に打撃面を叩き付けてしまい、
石灰が捕食者の周囲に撒き散らされ煙となる。
バーベラ達はもちろんの事、イシュタルも凄まじ過ぎる荒業に度肝を
抜かれていた。
それに対して、魔法を物理的に打ち砕かれたアイシャはというと。
「(...一目惚れ、って奴だったんだね。
我ながら、春姫みたいな乙女思考みたいで参っちゃうよ...」
と、自身が捕食者に対して純粋な好意を抱いた事を自覚していた。
石灰の煙が晴れていき、のそりと黒い影が動いた。
砕けたコンクリートを踏み付けながら、捕食者が無傷の状態で姿を
現した。
数秒経ち、バーベラ達はまた歓声を上げ途轍もない力でアイシャの
魔法を破った捕食者に拍手を送って称える。
「...流石、ネフテュスの眷族だな...」
イシュタルも最初こそは呆れていたが、捕食者の実力を認めざるを
得ないと苦笑いを浮かべつつ一服した。
アイシャはザーガの刀身を労わる様に撫でてから、床に切っ先を
突き刺して固定する。
そして、そのまま置いていき捕食者へと近付いていった。
捕食者はアイシャが近付いて来るのに気付くと、対面する位置まで
来るのを待った。
アイシャは捕食者の前まで来ると、両手で拳をつくり構えを取る。
「...これで最後にしようじゃないか。
くたばるまでとことん...付き合ってもらうよ」
...カカカカカカ...
ケルティックVSアイシャ