【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
決闘が行われる数時間前、話し合いの最中まで遡る。
その頃、アリーゼ達はオラリオの外、南西3Kに位置するメレン港へ
到着していた。
誰にもバレないよう、ドロップ・シップは高い岩陰がある砂浜に
隠している。
そもそも肉眼で見えないので隠す必要はないが、用心のためである。
ドロップ・シップから降りるや否や白い砂浜を走り、眼前に広がる
ロログ湖を見て、アリーゼは大はしゃぎしていた。
ダンジョンの27階層に出来た滝壺にある底の穴から淡水が3K離れた
地上に溢れ出た事で巨大な湖を形成。
その湖の付近が海であったため、陸が消滅した事で海水が侵入し
淡水と海水が混じる汽水湖となっているのだ。
「一番乗りは私が貰うわよ~!」
「おい!先にニョルズ様の所に、って何脱ぎ始めてんだ!?」
「やめなさいアリーゼ!」
当然の如くアリーゼは泳ごうと服を脱ぎ始めたのに、ライラとリューは
強烈なタックルをして押し倒した。
ドサッと顔から砂に突っ込んだので口に入ったらしく、ペッペッと舌を出して
アリーゼは不快そうになる。
「裸になって泳ぐ気か!?馬鹿なマネはやめろ!」
「下着で泳ぐから大丈夫よ!替えもいっぱい持ってきたんだし!」
「(あのギッシリ詰まった荷物がそうですか...!)」
リューは鞄の中身が何であるのか謎が解けて呆れ返る。
「あ、あの、【狡鼠】。少しよろしいでしょうか...」
「何だよ?それともう名前で呼べよ、名前で」
「そ、そうですね。では...ライラ?あちらはよろしいのですか...?」
ライラが恥じらいを持てと言っている最中にアスフィとレイが顔を
赤くしてライラの肩を軽く叩き、ロログ湖の方を指した。
その方を見ると、輝夜が既に水に浸かっていっている姿が見えた。
着物どころか下着までも脱ぎ捨てて。
絶句するライラとリューだが、すぐに我に返ったライラはアリーゼを
リューに任せると彼女自身は輝夜の元へ全力疾走していった。
品性が欠けている痴女かと、ライラは輝夜に罵声を浴びせていたが、
輝夜はうるさいと手酌で掬った水を浴びせる。
完全に堪忍袋の緒が切れたライラは仕返しに砂を掛けようとした所で
アスフィが待ったを掛ける。
「こ、こちらを着てください!
ま、万が一、水辺での調査を行う際に用意した物ですが...
アリーゼもこれをお使いください」
そう答えながら羽織っている白いマントを勢いよく広げ、裏地に
貼り付いている衣類を差し出した。
輝夜は立ち上がってそれを受け取る。レイは慌てて拾っていた着物で
こちらからの視点を遮った。
「これは...どう見ても下着でございますねぇ」
「これは神々の発明した三種の神器の1つ...水着です」
「あ、知ってる!水に濡れるために創られた物よね!
じゃあ、これさえ着ればライラもリューも不満はないわよね?」
「不満、というより...私達の本来の目的を貴女は忘れているのですか?」
再度呆れ返ってリューは頭を抱える。ライラも同様に。
レイの傍に立っていたアストレアは微笑んで2人に伝えた。
「ニョルズと話しに行くのに全員は多いと思うし...
私だけで話しに行ってくるわ。だから、皆は楽しんでて?」
「いや、護衛ぐらいは居るでしょうよ...
アタシは心配だから、付いてってやりますよ」
「そう。ありがとう、ライラ」
リューも咄嗟に護衛の候補を名乗ろうとしたがライラに止められ、
見守り役を任せると言った。
嫌がるリューにライラは問答無用で押し付ける。
「リオン、頼んだからな。アスフィとレイ、それから捕食者も頼むぞ」
「は、はい...」
「わかりましタ」
カカカカカカ...
そうしてアストレアはライラを連れて、メレン港にある町の方へと
向かって行った。
アリーゼは見送り終えると同時にアスフィから受け取った水着へ
着替えるべく、脱ぎかけだった服をまた脱ぎ始める。
輝夜は脱ぐ以前に一糸纏わぬ姿となっていたので既に水着を着ていた。
リューが思わず手で目を隠すと、レイはその行動の意味を理解して
いないがそれを真似た。捕食者は背を向けている。
水着に着替えたアリーゼはクルリと1回転し、自身のプロポーションを
見せつける様なポーズを取る。
「どうかしら?似合ってる?ねぇねぇリオン、似合ってるでしょ!」
トップスは布面積が大きいので胸部はそれほど大きく露出していないが、
ボトムは紐と同じ程細い物を履き、その上に少し大きめの物を重ねると
いった男性が見れば、釘付けになりそうな白色のビキニを着ている。
「ん~...素っ裸で泳ごうと思ってたが、中々着心地は悪くはないな」
輝夜の水着はというと、Vを描く様な形状をした前面は胸部と下半身を
隠しているが背中はまる見えとなっている物だった。
リューは下着の定義と水着の定義がわからなくなり、アスフィに
問いかける。
「...本当に、あれが水着という神器なのですか?アスフィ...
どう見ても下着にしか...」
「いえ、歴とした水中で活動するための物です。
残念ながらレイの分が無いので...いつかお作りしましょう」
「あ、ありがとうございまス...」
頭を下げるアスフィにレイは苦笑いを浮かべつつお礼を述べた。
レイはネフテュスの言った通り、パレオを腰に巻いており足を隠した
状態となっている。
パレオは同じくアスフィが持参していた物だ。
「さ、リオンも水着に着替えなさいよ」
「結構です。木陰で見守っていますの、でっ!?か、輝夜!?
何故、羽交い締めに...!?」
「アスフィ。この慎ましい胸に見合う水着はございますか?」
それを聞いた瞬間、リューは渾身の力を振り絞ると輝夜から逃れようと
する。
しかし、その腕から逃れる事が出来ず目の前に差し出された水着を
見て絶句した。
アリーゼ達の水着と同等な、ほぼ裸体を晒す事になる水着だからだ。
「こちらはどうでしょうか?きっと似合いますよ」
「ア、アスフィ!貴女は私の味方ではないのですか!?」
「見た目も重要な事なので...
リオン、貴女の望まぬ犠牲とご協力に感謝します」
「一言もそんな事は」
「はいはい、もう大人しく着替えちゃいなさい!」
「あぁああああああ~~~~!
ベルトを外さないでくださいアリーゼ~~!」
リューの悲鳴はロログ湖を越え海へと響き渡るのだった。
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...見てはいけないと本能で感じ取った僕は、余所見をしていた。
しばらくしてアスフィという女性に呼び掛けられ視線を前に戻す。
「うぅぅ...」
先程まで悲鳴を上げながら抵抗していたリューという女性は
体を自ら抱きしめる様にして隠そうとしていた。
しかし、隠せているのは一部のみでほとんどの裸体は見えている。
胸を隠す中央にリングの装飾がついた黒い布はとても細く、
胸元を大きく露出している。
下半身を隠す黒い布も細く、鼠蹊部が覗く程際どい。
「いいじゃない、リオン!とっても似合ってるわ!」
「胸が少し寂しい以外は男を虜に出来るでしょうねぇ」
「褒めているのですか!?軽蔑しているのですか!?
どちらですか!?」
「わ、私としても似合っていますので、決して軽蔑はしませんよ」
アスフィという女性がフォローし、リューという女性は口を紡いで
怒りを堪える。
その間にアリーゼという女性が僕に近付いて来る。
今は彼女達以外に誰も居ないので、クローキング機能は解いており
見えているんだ。
僕の方が背丈が高いので自然と上を向きながら、彼女は笑みを
浮かべて問いかけてくる。
「ねぇねぇ、捕食者君。
貴方もリューの水着、似合ってると思うわよね?」
カカカカカカ...
...不格好ではないので頷く事にした。
リューという女性は異性からの評価に恥ずかしさが込み上げたようで
俯いている耳から首元まで顔が赤く染まっている。
それに輝夜という女性はからかうと、リューという女性は怒りながら
何か反論し始めた。
アリーゼという女性が宥めに行くと、僕は目の前の汽水湖を見渡す。
...ダンジョンでよく見かける湖より、とても綺麗だ。
雲が点々と散らばっている青空の下に、水面が輝くこの光景は
天井の発光する水晶で照らされる湖とは違う美しさを見出している。
ザッパァアーン!
そんな音が聞こえ、見てみるとリューという女性が汽水湖へ浸かって
いた。
浸かっていたというよりも、どうやら輝夜という女性が投げ飛ばした
ようだ。
続いてアリーゼという女性も汽水湖へ飛び込み、リューという女性の
近くへ着水する。
...少し騒がしいと思い、彼女達を放って置く事にしてその場から
離れていった。
汽水湖の畔に沿って歩き続け、やがて声が聞こえなくなったその場所に
腰を下ろす。
人2人分に木々が開けたスペースで僕はもう一度、汽水湖を眺める。
ここから更に遠くは海へ繋がっており、オラリオがある陸地とは別の
陸地に海洋国が存在しているそうだ。
まだ原始的な木造の帆船で海を渡るしかないこの地球上の人々にして
みれば、そこへ向かうのも途方も無い旅だと思った。
尤も、魔石を原料にしている現段階では向こう数百年は技術の発展も
遅れる事だろう。