【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「っぷはぁ~~~!ふぅ~...気持ちいいわね、リオン!」

 「ぜぇ、ぜぇ...え、ええ...」

 

 答えるリューだが、疲労した以外に何も思い浮かばなかった。

 確かに水着を着ているおかげで泳ぎやすくなっていると思うが、

 それでもアリーゼに付いていくだけでやっとだった。

 更には輝夜が思い切り水を掛けてきた事で、小規模の波となり

 リューを転倒させたりしたのも原因だろう。

 まだまだ遊び足りないアリーゼと輝夜から逃げる様にリューは潜行して

 浜辺へと避難する。

 息を切らしながら砂浜を這いずり上がっていると、影が自身に覆い

 被さった事に気付く。 

 見上げるとこの世に何故存在するのかわからない、スクール水着を

 着たアスフィが心配そうに見つめていた。

 

 「大丈夫ですか?リオン...」

 「...しばらく休憩させていただきたい...」 

 「そうでしょうね...」

 

 苦笑いを浮かべるアスフィはその場に座り、リューも体を起こすと

 アスフィの隣に座る。

 ふと、レイはどこに居るのか問いかけると波打ち際で白い砂を寄せ集め

 山を作っていた。

 見た目は成人女性だが、幼い子供の様に遊ぶ姿にリューは自然と

 微笑みを浮かべた。

 

 「やはり来て正解でしたね。レイが喜んでもらえてよかったと思います」

 「そうですか...確かに疲れる以外には、アリーゼ達も楽しめているので何よりですね」

 

 お互い控え目に笑い合って、リューはアリーゼを見た。

 つい数日前まで蘇ったトラウマにより、意気消沈していた姿とは

 思えない程、明るい笑みを浮かべ楽しげにしている。

 ふと周囲を見渡し、捕食者が居ない事に気付いた。

 恐らくどこか静かな所へ行ったのだろうと思い、視線をアリーゼに

 戻すとアスフィが問いかけてきた。

 

 「...アスフィ。彼が、イヴィルスの使者に対してした行為は...

  皆に伝えるべきでしょうか...?」

 「...レイの仲間達を助けに行った際、イケロス・ファミリアの団員達の...

  内臓を抜き取り、生皮を剥ぎ、吊し上げたのを目撃した身として言えば...

  今は、アリーゼのためにも墓まで持っていく事ですね。

  後々バレるとしても、その方が捕食者との良好な関係を維持出来ますから」

 「...そうですね」

 

 24階層で見つけたイヴィルスの使者の死体。  

 あの時、悲鳴を上げていたアリーゼの叫び声が鮮明に蘇った。

 またあんな目に遭って欲しくないと、リューの良心が訴えかけてきて

 アスフィの言う通りにする事にしたようだ。

 

 「真実を知った時、アリーゼは...彼の事をどう思うでしょうか...」

 「わかりません。...彼女自身の意思の問題ですから」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「いやぁ、まさかアストレアがここへ来るなんてな。

  珍しい事もあるもんだ」

 「ふふっ、そうでもないと思うけど...」

 

 メレン港にあるニョルズ・ファミリアのホーム、ノアトゥーン。

 仕事の最中だったニョルズはアストレアが来たと知り、一度作業を

 止めて応接室で対談をする事となった。  

 アストレアがオラリオで治安維持をしているのを知っているためか、

 オラリオの外であるメレン港に赴いた事に驚いている様子だ。

 

 「それで、わざわざここへ来た理由は...  

  何かオラリオで良くない事でもあったのか?」

 「...ニョルズ、正直に答えてほしいの。

  そうでないと...ネフテュス様がどんな処罰を下すのか、恐ろしいから...」

 

 ネフテュスの名前を聞いた途端、ニョルズの顔から笑みが消えた。

 日差しが強い生活で肌が焼けているため、すぐに顔色が悪くなったのが

 わかった。

 アストレアはその反応から察し、言い逃れさせないよう手を伸ばして 

 ニョルズの手を包む込む様に重ねた。

 人肌の温もりとは他人に対して安心感をもたらすとされる。

 アストレアは安心感を与え、ニョルズから正直に真相を話して

 もらおうとしているのだ。

 

 「お願い、ニョルズ。話して?どうしてイヴィルスと関わりを持ってしまったのか...

  イケロスやその子供達は手遅れだったけど...

  貴方やイシュタルは、まだ間に合うはずだから」

 「...。...ネフテュス先輩にバレてんなら...仕方ないか...」

 

 顔を俯かせ、観念したニョルズは語り始めた。

 切っ掛けは増えすぎた水棲モンスターによる、海中での生態系が

 狂った事が原因だった。

 海中に生きる水棲モンスターはかつて27階層のレート・フォールから

 流れ落ちる水流によって形成された滝壺の底にある大穴から、地上へ

 進出した古代のモンスターの繁栄させてきた子孫である。

 現在その大穴はゼウス、ヘラ、ポセイドン・ファミリアの協力によって

 倒されたリヴァイアサンのドロップアイテムを利用し作った、蓋となる

 リヴァイアサン・シールによって塞がれている。

 しかし、水棲モンスターは駆除する事は陸上のモンスターよりも

 困難とされる。

 水中で戦う事はまず不可能であり、罠を仕掛けた上で仕留める事も

 危険を伴うからだ。

 その上、繁殖する規模も年々拡大していき、倒しても切りが無いため

 水棲モンスターが魚介類を補食し続けた事でメレン港での収穫量は、

 ほとんど0に近くなっていく一方となった。

 ファミリアの維持費や眷族の生活費など、様々な費用が必要になるため

 漁をしなければならないが、その度に網に掛かった水棲モンスターに

 海へ引きずり込まれ、落水してしまった眷族が幾人も餌食となって

 死んでしまっていく。

 ニョルズはファルナを授けた主神として自身を不甲斐なく思い、

 その状況を憂う日々を送っていた。

 しかし、6年前に事態が急変した。

 オラリオとメレン港を繋ぐ排水路から流れ着いた、ヴィオラスが

 出現したのだ。

 ヴィオラスは偶然にも訪問していたアステリオス・ファミリアの助けも

 あり駆除には成功した。

 その時、ニョルズはヴィオラスが魔石を狙う習性に気付いたという。

 アストレアには新種だと誤魔化し、彼女達が旅立った後に無断で

 オラリオの地下水路を調べに行ったニョルズはそこである人物と

 遭遇したそうだ。

 

 「...見ず知らずの人間に話したの?」

 「別に隠す様な事でもないだろ?子供達の命が掛かってたんだからな...」

 「...そう」

 「それで、そいつは条件を呑むなら食人花を貸してくれる、って言ってきたんだ」

 「その条件って...?」

 「ここで密輸が出来るように手配してくれたらって感じだ。

  俺は中身の事は知らないが、子供達曰わく金目の物だったり酒だったり...

  あとは、そう。箱がガタガタ震えてたらしいから、生き物って線があるな」

 

 アストレアはハッとレイの言葉を思い出す。

 その生き物は、恐らく捕えられ密売されてしまったゼノスなのだと。

 アストレアが考察している中、ニョルズは続けた。 

 密輸の手配をするため、ギルド支部と街長であるボルクに話を

 持ちかけたという。

 ボルグには、ヴィオラスに襲われないため魔石を魔法の粉と称し、

 粉末状にした物を隠すために屋敷にある地下を借りたいと言った所、

 ボルグは街長として漁場の平和のためなら、と承諾したそうだ。

 一方、ギルド支部。もとい総責任者のルバートは相応の報酬を要求し、

 魔石の横流しに協力する事となったとの事。

 そして、密輸の準備が整った事でヴィオラスを数匹貸し出してもらい、

 ロログ湖へ放ったと答える。

 ヴィオラスは目論み通り、付近の水棲モンスターは数が減っていき

 魔法の粉のおかげでヴィオラスには襲われず、以前より安全に漁が

 行えているそうだ。

 

 「粉を持っていない人達がどうなるか...それは考えていなかったの?」

 「海からモンスターが減らなきゃ人類がもっと死ぬ...

  そう考えちまって、頭に入ってなかったんだ...

 「...それで、密輸をしていたファミリアが...イケロスね」

 「ああ。それと、イシュタルの子供達も時折だが運びに来ていた。

  下水道に居るイヴィルスとの仲介役とか強くなりすぎた食人花の処理とか...

  商会とグルで都市を出入りしてたみたいで、色々頼ってた」

 「...そうなのね。イシュタルが何故、イヴィルスと関わっているのか...

  大凡見当は付くから、ネフテュス様も大目に見ている事でしょうね」 

 

 アストレアはクスリと笑みを浮かべながらそう予想した。

 流石と言うべきか、読み通りネフテュスはイシュタルに処罰を

 下さない事にしていた。

 結果的にニョルズは自身の眷族のために、イヴィルスと交渉して

 ヴィオラスを貸し出してもらったという事に過ぎないという事が

 わかった。

 ヴィオラスに他国からの船が襲われる危険性を考慮していなかったとは

 いえ彼の神格者である事に変わりないと、それに安堵しアストレアは

 微笑みながらニョルズを抱きしめる。

 数秒、呆然としていたニョルズだが慌てて離れようとするもその神格が

 故に無理矢理突き放す事は出来なかった。

 

 「ありがとう、ニョルズ。正直に話してくれて。

  貴方の行いでメレンが平和になったのは間違いないわ。

  ...でも、ネフテュス様には伝えておかないといけないし...

  食人花も使ってはダメよ。いいかしら?」

 「...むぐぐ、むごむご」

 

 ニョルズは頷いて、アストレアが抱きしめるのを止めると仰け反る様に

 急いで離れた。

 逃れられない包容によって、息が切れており何故、アストレアは

 そうなっているのか首を傾げる。

 

 「...じゃあ、ロログ湖に放ってる食人花は駆除しないとな」

 「そうね。...ん~...手伝ってくれるかしら...」

 「何言ってるんだよ。これは元々俺の責任なんだ。

  当然手伝ってやるよ」

 「あ、そうじゃなくて...」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 話し合いが無事に終わったその頃、捕食者は未だにロログ湖を眺めて

 いた。

 すると、背後から誰かが近付いてくるのに気付き、直ぐさま姿を消す。

 何者かと警戒していたが、すぐに姿を見せる事となった。

 その正体がリューだったからだ。

 

 「ここに居たのですね。

  ...お隣に座っても、よろしいでしょうか?」

 

 カカカカカカ...

 

 「ありがとうございます」

 

 捕食者からの返事を聞き、リューは座った。


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