【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ザパァ...

 

 水面から現れた捕食者...ではなく、捕食者の装備を纏った女性が

 浜辺に上がってきた。 

 素肌がほとんど露出する網状の衣服ではなく、水着を着用して

 装備を見に纏っているため、見た目と該当しないからだ。

 アリーゼ達の前まで近付き、ヘルメットを脱いだ。

 その正体はアスフィだった。水が滴る前髪が顔に張り付くのを嫌い、

 顔を振るって、手で掻き上げる。

 

 「どうだった?アスフィ」

 「...水中をあれほど速く動ける事にも、息が出来る事にも驚きを隠せません。

  ある程度このヘルメットを扱えていると思っていた自分を恥ずかしく思いました...」

 「い、いえ、それは気付かなかっただけであって、何も自分を貶める事はありません。

 確かに、貴女でも作るのは無理なような気もしますが...」 

 

 浅はかな理解力で納得し、自己嫌悪感を覚えるアスフィを見てリューは

 励まそうとした。

 だが、最後に余計な事を言ってしまったので、アスフィは自尊心が

 喪失しかけるかの様に眼鏡に罅が入る。

 レイは駆け寄ってアスフィを心配し、リューの後頭部にチョップを

 輝夜は叩き込んだ。

 

 「トドメを刺してどうするんだ、このポンコツエルフ。

  馬鹿にしているようにしか聞こえなかったぞ」

 「そ、そんな!?わ、私は決してアスフィのアイテムメーカーとしての腕を見込んで励まそうと...!」

 

 後頭部を抑えながら言い訳をするリューに輝夜はため息をついて、

 あまりにも不器用なリューの気遣いに落胆する。

 一方、アリーゼはアスフィに近寄りるとリューに代わってアスフィを

 励ましていた。

 

 「大丈夫よ、アスフィ!その悔しさをバネしてもっとすごい魔道具を作る目標を立てたら気が落ち着くはずよ。

 貴女の魔道具には助けられてる人達が沢山居るんだし、自分に自信を持つ事が肝心なんだから。」

 「...その通りですね。

  アイテムメーカーとしてのプライドに掛けて、作ってみせましょう...!

  捕食者が驚くようなすごい物を!」

 「その意気よ!レイも見てみたいわよね?そのすごい物!」

 

 不意に問いかけられたレイは慌てながらも頷いて答える。

 

 「は、はい!み、見てみたいでス。なので...

  が、頑張ってくださいネ、アスフィさん」

 「はい。ありがとうございます」

 「...さて、ちょっと捕食者君の様子見に行ってくるわね。

  お腹壊してないか心配だから。あ、それとちょっとだけ、それ後で貸してね?」

 「あ...は、はい...」

 「(励ましたのはそのためでしたか...まぁ、いいでしょう。

   これは是非とも体験してもらいたいですから)」

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 パチパチと木片が燃え上がる焚火の中で蟹の甲羅が赤く染まり始めた。

 赤色色素の影響で、生きている内はタンパク質と結びついて寒色と

 なっているが、熱によってタンパク質と分離すると赤色化するんだ。

 この蟹は恐らくダンジョンの下層に出現する同種の青い蟹が太古の昔に

 地上へ進出し、繁栄し続けてきた子孫だと思われる。

 僕はセレモニアル・ダガーで燃える木片を退かし、状態を確認した。

 鋏部分に巻き付けていたロープを握り、焚火の中から引っ張り出す。

 木片が崩れ落ち、焼き上がった蟹を重ね合わせた大きな葉を皿として

 その上に置き、バトル・アックスを手に取る。

 

 バキッ!

 

 狙いを定め、勢いよく振り下ろし鋏の根元を叩き切った。

 切り落とした鋏を持ち上げ、両端にある筋に沿って短刀で切れ込みを

 入れていく。

 

 ミシミシッ...! ベキィッ!

 

 それから身がはみ出ている根元に指を食い込ませ、切り込みに

 沿って強引に引き裂く。

 カパッと割れた鋏の中には、甲羅に閉じ込められている事によって蒸し上がった

 赤い身が詰まっていた。

  

 カカカカカカ...

 

 僕はヘルメットをズラし、食べようとしたが背後から近付いて来る

 気配に気付いて手を止めた。

 姿は消しているので気付かれないようにすれば問題ないと思っていると

 正体がアリーゼという女性だとわかって、僕はクローキング機能を

 解除し、姿を見せるようにする。

 

 「あ、なんだ、そこに居たのね。

  てっきり別の所で食べてるのかと思ったわ」

 

 現に僕が彼女達と別の場所で食べているのだけど...

 僕はまたクローキング機能で姿を消し、ヘルメットを少しズラして

 赤い身に喰らいついた。まだ少し熱いので口内に空気を入れながら

 唾液で冷まして咀嚼する。

 味は蟹の味でどちらかと言えば美味い方だ。

 加えてこれだけ大きければ、空腹も満たす事が出来る。

 もう一口食べようとしていたが、不意に隣からの視線を感じた僕は

 その方を見る。

 アリーゼという女性が凝視していた。正確にはこの蟹を。

 ...放っておいてもいいとは思うが、どのみち少し分けて欲しいと

 言ってくると予想して僕は一度手に持っている鋏を葉の上に置く。

 残っている脚の一本を胴体から引き千切り、同じ要領で裂くとそれを

 アリーゼという女性に差し出す。

 

 「あ、いいの?あはは。ごめんね、何だか強請ったみたいで」

 

 実際そうなんじゃないのか...?

 僕は内心でそう思いつつも、改めて鋏を拾い上げ赤い身を食べ始める。

 先程よりは熱くなくなっているので食べやすくなった。

 

 「じゃあ、いただきまーす」

 

 アリーゼという女性は赤い身を摘まんで一口で食べられるサイズにし、

 食べた。

 すると、目を見開いて口元に手を当てる。

 僕は口に合わなかったのかと食べるのを中断し、彼女に何があったのか

 問いかけようとしたが、突然叫んできた。

 

 「美味しい!何これ!すっごく美味しいじゃない!?

  モンスターがこんなに美味しいなんて初めて知ったわ!

  どうしようかしら、これクセになりそうかも...」

 

 ...お気に召してくれたのならよかった。

 僕は恐らく食べ足りないので、また要求してくると思い脚を数本、

 彼女が食べられるようにしておく事にした。

 その後、予想通り彼女はその数本を平らげて満腹になったのか

 ため息をつきながら幸福に満ち足りた表情になっていた。

 

 「はぁ~...美味しかった。ありがとう、捕食者君。

  お礼に完璧美女からの素敵なお礼を」

 

 グルルルルッ...

 

 要らない。と、威嚇して断る様に唸る。

 アリーゼという女性は見るからに残念そうにしながら、諦めてくれた。

 彼女の相手をするリューという女性達は苦労しているんだと、僕は

 若干同情した。

 ...ただ、嫌な気持ちにならないのはアリーゼという女性の愛嬌と

 性格なんだろう。

 

 「...ねぇ、今更聞くのも遅いかもしれないけど...

  君の事を君付けで呼んで大丈夫なのかしら?」

 

 カカカカカカ...

 

 「そう...じゃあ、私より歳下...になるの?それとも同い年?

  私は今、君のおかげで23になってるけど」

 

 それなら歳下で間違いない。肉体的には2つ下だからだ。

 僕が人差し指を下に指し、2本の指を立て年齢を伝えると

 アリーゼという女性は納得した様で頷いていた。

 

 「そうよね。私より背が大きいし...

  その体格で14歳って言われても無理があるわ」

 

 ...本来ならこの地球上で育っていれば、その通りだ。

 地球を離れて体感では9年もの間、母星で育てられ、狩りや勉学を

 学び、皆と狩りを共にしていると思っていたが...

 地球の時間の流れでだと、僅か2年程しか経っていないんだ。

 何故なら、母星での時間の流れは地球上よりも早いため、1日が

 10.95秒早く進む事で2年というの時間の流れは大きく変化し、

 9年間の時間を僕は過ごした事になる。

 ブラックホールなどの引力で発生する重力により、時間の流れが

 変化するのは自然現象の様なもので、母星がそうなっているのも

 重力に関係しているんだとレックスに教えられた。

 しかし、地球とは987億光年も離れているため本当に重力に

 よるものかどうかは確証が無いらしい。

 話を戻して、僕はアリーゼという女性の話に耳を傾ける。

 

 「でも、どうしてかしら?貴方の事を14歳って思ったのは...

  ん~...わからないわね...」

 

 ...案外、彼女は勘が鋭いのだと思った。

 ファミリアの団長をしているだけはあるのか...

 そう思っていると通信が入ってくる。

 ...ケルティックに許婚候補が出来た、という内容だった。

 驚いた様なやっと見つけたかという様な、何とも言えない気持ちに

 なる...

 一応、祝福しよう。何か渡した方がいいだろうか...?


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