【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「溶けちゃった。てへっ」 

 「ノオォォォォォーーーーー!?

 

 泣き叫ぶ鍛冶師は泡を吹き、その場で力無く倒れる。

 不眠不休で鍛え上げた大双刀を、その一言だけで事の経緯を説明して

 しまったからだ。

 親方と呼んでいる他の鍛冶師達は慌てて駆け寄り、安否を心配する。

 

 「あ、そうそう。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 「何だよ!?今この状況を見て何が聞きたいんだよ!?」

 

 倒れてしまった親方を運んでいる最中にティオナが問いかけてきて、

 苛立ちながらも聞き返す。

 

 「何でも溶かす液に耐えられる武器って作れる?」

 「そんなもん打てるかぁぁあ~~~~~~~っ!

 「えぇ~!そうなの~?」

 

 鍛冶師は怒りを込めた絶叫で答える。

 ゴブニュ・ファミリアは最高品質の武具を作っている。

 だが、質実剛健であっても打てないものは当然ある。それがティオナの

 言っている武器だ。

 溶解に耐える性質を持つ特殊な金属を加工し、武器に混ぜ込む事は

 並みの鍛冶師では容易ではなく、更に言えば打つにしても何年掛かるか

 わからないためだ。

 

 「ここで言っちゃあれだがヘファイストス・ファミリアに頼め!」

 「でも頼んだら高いんじゃないかな」

 「当たり前だろうがぁ~っ!大双刀以上するに決まってんだろ!」

 「つか大双刀の借金すら払い終えてないし!そっち先に寄こせ!

 「あーまた今度返すから」

 「ふざけんなぁあああ~~~~~~っ!

 

 そうしてティオナはアイズが戻ってくると、そそくさと逃げるように

 ゴブニュ・ファミリアのホームを後にする。

 背後から聞こえる怒号に、ティオナは蛙の面に水といった様子だった。

 

 「あーあ。ヘファイストス・ファミリアに頼めって言われちゃったら諦めるしかないなー。

  でも、あそこにオーダーしたらゴブニュ・ファミリアのところよりも高いんだよね...」 

 「でも、また深層へ潜った時に出てくると思うから...

  フィンが用意してくれるかもしれないよ」

 「あ、そっか!そうだよね!」

 

 アイズの予想にティオナは掌に拳を軽く当てて納得する。

 モンスターの特性や攻撃手段に対策を練る事を続けた事で、最高記録の

 59階層へ到達している。

 だからこそ、ヴィルガの腐食液に対抗する手段として溶解に耐性を持つ

 武器を用意するはずだ。

 

 「じゃあ、今度出た時は大双刀の仇を討たないとね!」

 

 フンスと意気込んでいるティオナにアイズは、ふと問いかけてきた。

 

 「ティオナ、あの時どうして血だらけになってたの?」

 「え?...あ、えっと、ミ、ミノタウロスを倒してる時にちょっと派手にやっちゃって...

  それでああなってたの」

 

 ティオナはあの時の事を誤魔化して答える。

 誰にも言わないようにと、約束されたからだ。

 アイズはそれに疑問を抱かず、頷いた。

 

 「そっか...ティオネに洗ってもらってた時、教えてもらえなかったから気になってたの。

  皆も、驚いてたから...」

 「あー、ごめんね?でも、それだけだから大丈夫だよ」

 

 アイズは再び頷きそれ以上は何も聞いてこなかった。

 そうして、会話が途切れるとティオナはあの人物の事を思い浮かべた。

 

 「(あの人は...あたしを助けようとして、ミノタウロスを倒したのかな?

  それともリヴェリアの言ってた通り、狩りたかっただけだったのかな...

  でも、どっちにしてもあたしは助けられたって事なんだし、もう1回キチンとお礼は言わないといけないよね。

   ティオネも皆を助けてくれたから、感謝してもいいって言ってたんだし)」

 

 そう思っていると、急に後ろへ引っ張られる感覚に襲われる。

 驚いて振り返って見てみるとティオネが慌てた様子で胸に巻いている

 布を引っ張っていた。

 よく見れば既に集合していたロキ・ファミリアの仲間達から離れて

 しまっていた。

 仲間の皆も不思議そうにティオナに注目していた。

 

 「アンタどこ行こうとしてるのよ」

 「あ、ご、ごめんごめん!ちょっと考え事してて...」

 「何かを買い忘れたとか、ですか?」

 「ううん!そうじゃなくて、大した事ないから平気だよ」

 

 レフィーヤにそう答えるティオナは考えるのをやめて、打ち上げへ

 向かう事にした。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 受付終了間際になり、エイナは背筋を伸ばして腕を上げながら伸びをし

 時計を見て、安堵したように見える。

 事務作業が意外にも早く終わり、このまま終業時間になれば帰宅できる

 と思っていたからだ。

 ギルドのホールに居る冒険者達も次々と各自のホームへ帰って行き、

 ほとんど人が居なくなってきた。

 

 「今日の夕食はどうしようかな...」

 『ならよ、外食にしようぜ』

 「外食かぁ、まぁたまに...わぁあっ!?」

 

 突然提案され、思わず驚くエイナに後ろを歩いていたミィシャも驚く。

 持ち歩いていた書類を落しそうになるも何とか持ち堪え、エイナに

 文句を言う。

 

 「ビックリさせないでよ~!何があったの?」

 「う、ううん!ま、また、この人が...」

 

 そう言って目の前を指す。

 ミィシャは目を凝らして見ると、黄色く発光する眼が出現する。

 それを見てエイナが驚いていたのかミィシャは納得した。

 

 「この人エイナを驚かせるのが趣味なのかな?」

 「ちょ、ちょっと失礼な事言わないの!ほら、さっさと自分の仕事する!」

 「はーい」

 

 そう返事をしてミィシャは自分の受付へ戻っていった。

 そしてエイナは動かしてしまった椅子を元の位置へ戻し、咳払いをして

 対応し始めた。

 

 「どうも。今日はどういったご用件でしょうか?」

  

 それに答えるように1枚の紙がカウンターに置かれる。

 エイナはそれを持ち上げ読む。

 

 [51階層まで潜った。無事に皆が戻って来る事が出来た。

  石をヴァリスにする]

 

 とても簡略的な説明でもう少し詳しく書いてほしいと思ったが、

 エイナはその人物に労いの言葉を掛け、魔石の換金を承諾した。

 

 「お疲れさまでした。皆さんがご無事で何よりです。まだ換金所は開いていますが、お早めにお願いします」

 

 カカカカカカッ...

 

 眼をもう一度発光させ、今度は低い顫動音も鳴らした。

 相手が返事をしてくれたのに安堵して、エイナはお辞儀をする。

 数秒して居なくなったのを手で触ろうと軽く振りさせ、当たらなかった

 のを確認すると、椅子に座って凭れ掛かる。

 

 「(あの人の担当になって5年になるけど...全っ然慣れない!

  前任者が2年で交代するよう申請してきたのがよくわかったわ...

  だって眼を光らせて、一方的に文章を読ませて終わりなんだもん)」

 

 そう苦渋を思っていると、1人の少女がカウンターをノックするように

 軽く叩いた。

 俯かせていた顔を上げると、エイナの見知った顔がそこにあった。

 

 「どうしたのよ、エイナ。やっと仕事が終わったって感じ?」

 「違うわよ、マリス。ほら、貴女と同じ時期から担当になった人の対応に、ちょっとね...」

 「あぁ、そういう事。じゃあ、ご苦労様って事で今日一緒に飲みに行かない?」

 「...うん、いいわね。そうしましょうか」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ザラザラザラザラザラザラザラザラザラザラ

 

 ゴトンッ 

 

 僕は石を換える所へ赴き、皆が回収した石を引き出しのような部分に

 入れていく。

 それぞれの袋から大きさの異なる様々な石を入れ、最後に白い猿から

 抜き取った大きな石も入れた。

 奥へ引っ張られようとされたが、大きな石が引っかかってしまった。

 目隠しがされている窓の奥で引っ張っている人物は焦っているようで、

 何度も繰り返している。

 僕は取っ手を掴み無理矢理引っ張り戻して小さな石を掻き分け、大きな

 石を押し込み、引っかからないようにさせて奥へやった。

 しばらくして引き出しの中が埋め尽くされる程のヴァリスが入った袋が

 出された。

 

 「またいつも通り、これは一部だ。すまないが、後日来てくれ」

 

 カカカカカカッ...

 

 僕は返事をして袋を全て取り出し、腰に引っさげその場を後にする。

 その際、迷惑代として目隠しの隙間にヴァリスを入れておいた。

 これは6年前からやっている事だ。相手も何も言わずに受け取って

 くれていると思う。


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