【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 蟹を食べ終え、浜辺へと戻るとアストレア様とライラという女性が

 戻って来ており、日焼けしている男神もそこに居た。

 恐らくニョルズという男神だ。

 僕とアリーゼという女性は近付き、声を掛けると話の内容を詳しく

 アストレア様は説明してくださった。

 ...眷族のためとはいえ、奴らの力を借りた事は頂けない事だ。

 しかし、アストレア様がそれを許したのであれば、その意思に

 背く事などしてはならないので不本意ながら目を瞑る事にした。

 そして、アストレア様からこう告げられた。

 

 「海に棲んでいるモンスターを少しでも倒してほしいの。

  可能な限りで構わないから」

 

 そうなるとドロップ・シップの兵装であるレーザーキャノンを使えば

 済む話しだが、それには我が主神の許可が必要だ。

 バーナーやスマート・ディスクなどの武器は小型のため目立たないが、

 レーザーキャノンの威力は当然ながら強力で人目に付けば面倒な事に

 なるはずだ。

 僕はすぐに我が主神へ通信を入れ、許可を求めた。

 しばらくして返信が届き、我が主神からの承諾を得た事を確認する。

 僕は返信の内容を書き記し、アストレア様と男神ニョルズに見せる。

 

 「...わかったわ。ニョルズ、ギルド支部には...

  モンスターを一掃するために強力な魔法を使ったと誤魔化してもらえるかしら?」

 「え?どうするんだ?」

 「ネフテュス様の子供が何とかしてくれるから、その代わりに口止めしてもらうのよ」

 「あ、あぁ、そういう事か...わかった。何とかしてみる。

  ...すまないな。

  後の事まで考えないばっかりに迷惑かけてしまって」

 

 ...二度と奴らに関わらないでくれるなら、その謝罪で十分だ。

 巨大な花のモンスターも駆除がてらに狩るとするか。

 僕がドロップ・シップへ向かおうとすると、アスフィとアリーゼと

 いう女性達が同行しようとしてきたので止める。

 流石にこればかりは見世物ではないのでダメだ。

 残念がりながらもアスフィという女性は素直に引き下がってくれたが、

 文句を言っているアリーゼという女性にライラという女性と輝夜という

 女性が後頭部を殴打する。

 砂浜を転がりながら悶絶している間に、僕はドロップ・シップへ

 搭乗した。

 ジェットブースターではなく力制御システムで操縦しているため、

 離陸の際も無音で上昇する。

 コントロールスティックを前に倒し、海上を目指して前進して

 いった。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ピッ ピッ ピピッ ピッ ビビッ

 

 まずはモンスターを誘き寄せる事から始めようと、メレン港から

 約5K離れた海上で滞空し、コンソールパネルを操作する。

 ドロップ・シップの船体の底からディッピング・ソナーを海中へ

 投下し、およそ1000Mの漸深層まで沈めていった。

 漸深層まで到達するとディッピング・ソナーから、特殊な音波を

 響かせる。

 この音波は多種多様な生物に共通して聴性誘発反応を起こすので、

 有機体であれば指定した半径の生物は必ず反応し、誘き寄せる事が

 可能だ。

 しかし、例外としてあの価値が高い獲物には効果がない。

 尤もあったとしても使わないだろうが...

 

 ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ

 

 そう考えていると、早速モンスターが集まり始めた。

 モニターに映っているドロップ・シップを中心とした反応は、

 夥しい数を表わす様に赤く浸食されていく。

 数百、数千、数万と増えていく中、ディッピング・ソナーを早急に

 引き上げながら、僕はレーザーキャノンの発射用意をする。

 回収出来るまで残り500Mを切り、トリガーに指を掛けた。

 ディッピング・ソナーを追いかけて来ているのをソナーモニターで

 確認しながらタイミングを見計らう。

 

 ...ピピィーッ!

 

 回収完了、発射する。

 

 ドシュンッ! ドシュンッ!

 

 レーザーキャノンから2発のプラズマシェルが発射され、海中に

 消える。

 

 ...ド ギュ ォ オ オ オ オ オ オ オ ンッ!!

 

 プラズマシェルが水中で爆発し、100Mは越える水柱が立った。 

 海中の水温がプラズマシェルの爆発によって上昇していき、やがて

 熱膨張を引き起こし始める。

 海面の様子を観察するためのモニターに視線を移すと、水柱が

 崩れ落ちていく中、ブクブクと沸騰する勢いで海面に泡が立ち、

 煮えたぎっている様子がよくわかった。

 その泡に混ざってモンスターの死骸が浮かび上がってきており、

 まだ生き存えていたモンスターも数回飛び跳ねていたが、すぐに

 茹で上がって絶命する。

 ソナーモニターに映る反応が見る見る内に消えていき、周囲の

 モンスターは全滅したと確認する。

 

 ピピッ ピピッ

 

 しかし、ソナーモニターに別の反応が現われ始めた。

 見ると巨大な長細い影が集まり始めてきている。これは巨大な花だ。

 どうやら付近をグルグルと周回して、水温が低下してから死んだ

 モンスターを躍り食いでもしようとしているんだろう。

 腹立たしいくらい利口だと思いながらも、僕はコンソールパネルを

 操作しオートパイロットシステムを起動する。

 コクピットから立ち上がると、ウェポンボックスに常備されている

 水中でも使用可能な武器を装備する。

 武器が正常に作動する事を確認し、サイドハッチを開いて勢いよく

 飛び降りた。

 

 ザッパァァアアンッ!!

 

 海中へ潜り込むと、直ぐさまブーツの推進力で潜行し巨大な花の元へ

 向かって行く。

 複数の巨大な花がまだ頭部を咲かせていないが、根を揺らしながら

 泳ぐ姿を捉える。

 その姿を見て、地上で活動する際とは全く異なっている様に思えた。

 以前にもあの街で出現した同種は湖をあの様に進みながら崖を

 這い上がって来ていたのだろうか。

 そう考えていると、巨大な花が次々と頭部を咲かせ始めた。

 どうやら食事を始めるらしい。

 だが、そうはさせない。獲物の横取りするなど反吐が出る。

 最初に狙いを定めた巨大な花に目掛けてクラッシュ・ダイブしながら

 ハープーン・スピアを構える。

 本来、スピアは古代から神聖且つ狩人としての象徴的な武器とされて

 いるので僕は成人の儀を迎えるまでは持つ事は許されない。

 しかし、ハープーン・スピアは水中でのみ使用するという条件で

 成人の儀を迎えていない僕でも扱う事は出来る。

 

 ザシュッ!

 

 その性能は、水中戦に特化している事もあり潜行する勢いによる

 水圧が掛かると先端のトライデントが衝撃波を放ち刺殺の威力を高め、

 巨大な花の胴体を容易く斬り裂いた。

 更に地上で振るうかの様に水の抵抗力を受け流すシステムが搭載されて

 いるので、傍を泳いで来た巨大な花も頭部を真っ二つにする。

 また別の個体に接近していき、通り過ぎる間際にしがみついて

 収縮させた状態でハープーン・スピアを首の根元部分に突き刺す。

 突き刺した箇所のその先には石が埋め込まれており、トライデントが

 石を粉砕した事で巨大な花は消滅する。

 複数生息していた巨大な花を確実に仕留めていき残るは2匹だけだ。

 すると、危険を察知したのか1匹は逃走を図りもう1匹は僕の方へと

 向かって来た。

 僕はガントレットで滞空状態のドロップ・シップを遠隔操縦し、

 逃走する巨大な花が潜行していく方角にレーザーキャノンの照準を

 合わせる。

 向かって来る巨大な花が噛み付こうとしてきたので、僕は口頭部に

 ハープーン・スピアを縦状に入れ込みボタンを押し、ハンドル部分を

 伸ばした。

 そうする事で上の顎をトライデントが貫いて開閉が出来なくなり、

 支え棒の役割を持つ。

 それに混乱し、周辺で暴れ始めハープーン・スピアを取り除こうと

 している間に再びドロップ・シップを遠隔操縦すると、同じ様に

 タイミングを見計らってレーザーキャノンを放った。

 

 ...ド ゴ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ ンッ !!

 

 巨大な花の頭上からプラズマシェルが直撃したか、衝撃波による

 威力でなのかは不明だが仕留めたのは確かで反応は消える。

 最後に残った個体へ接近していき、ハープーン・スピアを掴んだ。

 そして、鰐が獲物を殺す際に見せるデスロールと同じ様に僕自身が

 回転する事で巨大な花の頭部を捻じ切る。

 頭部を失った胴体は海底へと沈んでいった。

 これでモンスター諸共全滅させたはずだ。

 ドロップ・シップを遠隔操縦で頭上の海面まで降下させ、海から

 上がろう。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 捕食者がアリーゼ達の元へ戻ってくると、ヴィオラスの首を見せて

 モンスターを駆除した事を告げた。

 しかし、見せなくとも浜辺から見えた水柱で威力は十分に伝わって

 いるのでその場に居る全員は既に把握していた様だった。

 

 「ははは...流石、ネフテュス先輩の子供なだけあるな...

  ありがとな、助かったよ。これでまた安全に漁へ出られる」

  

 カカカカカカ...

 

 「もう少しで夕暮れになるわね。そろそろオラリオへ戻りましょうか」

 「では、服へ着替えましょうか」

 「そうですね。...レイ、楽しめましたか?」

 「はイ!とても楽しめましタ。

  外の世界は、こんなにも美しいのですネ...」 

 

 レイというゼノスは湖を見つめて、沈んでゆく夕陽を見つめた。

 

 「あれが、リドの言っていた夕陽...本物を見られて、よかったです」

 

 その言葉にはリドというゼノスへの思いが込められているように

 思えた。


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