【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「はぁ...ん...」

 

 灯りが消された部屋で、カーテンの隙間から溢れる月光を頼りに

 アイシャはシーツを手繰り寄せる。

 思うように手が動かせずにいると、のそりと彼女を覆い隠す程の

 大きな影が動いた。

 ケルティックだ。彼女の代わりにシーツを掛けてやった。

 それにアイシャは笑みを浮かべる。

 

 「...ふふ...あたしを、あんなにも夢中に...  

  それも火傷するくらい火照らせるなんてね...」

 

 ケルティックの顔にアイシャは手を添え、牙に沿って指先で撫でた。

 それを嫌がる素振りは見せないケルティックは同じ様にアイシャの

 頬を撫でた。

 

 「ケルティック...あんたに惚れてよかったよ...

  許婚に...してくれるかい?」

 

 カカカカカカ...

 

 「...ありがと。...ん...」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 イシュタルの自室でネフテュスは微笑みながら、手渡された羊皮紙に

 目を通していた。

 そこには更新したばかりのステイタスが書き写されている。

 

 「...そうね、あの子を相手にあれだけ奮闘したのだから...

  これは当然だと思うわ」

 

 [Aisha Belka        

  LV 4

  

  STR G 290 

  VIT G 201 

  DEX H 105

  AGI H 155 

  MAG H 103

 

  ABILITY:Hunter :H

       :Guard Anomaly :I

       :Knuckle :H 

  MAGIC:Hell Kaios     ]

     

 「元々からレベル4へのランクアップは目と鼻の先だった。しかし...

  それを超えて余る程、熟練度が伸びたのには驚くしかないな」

 「それだけケルティックが強いという事ね。

  実力は知っていたけれど、改めて認識すると嬉しく思うわ」

 

 ランクアップする事で熟練度は1度リセットされ、潜在値として

 能力に反映するはずなのだが、それを越えてそのままレベル4の

 状態で数値が上がっていたのだ。

 羊皮紙をイシュタルに返すと、ネフテュスは通信が入ってきたのに

 気付いてガントレットを操作する。

  

 「...そろそろ、アストレアが戻ってくるみたいね

  ケルティック達は、十分お楽しみ出来たかしら?」

 「一応は、秀才な教え子達だと自慢出来る。

  男を持て成す術は熟知し、愛と欲望を満たすのは得意だぞ。

  ...ケルティックともう1人が人間と同じ感性であればの話しだが...」

 「大丈夫よ?人体はほぼ同じ構造だから、快感を得るもの。

  それに私が立てた掟の方針で女性は大切にって教えているから、その辺も大丈夫よ」

 

 あの見た目で紳士的だという事に、イシュタルは余計に混乱が

 生じそうだった。

 明らかに獣の様な性欲の求め方をしそうだと思っていたからだ。

  

 「そういえば...神々を集めて話し合いをすると言っていたな?

  それはデナトゥスの際という事か?」 

 「デナトゥス...?そんなものがあるの?」

 

 ネフテュスの反応からして、本当に知らないと察したイシュタルは

 デナトゥスについての説明をした。

 

 「3ヶ月に一度行なわれている。

  神々が情報を共有、意見交換を行ったりランクアップした眷族の二つ名の命名式や都市規模の催し物を企画したりもするな」

 「あら、面白そうね。3ヶ月という事は...あと1ヶ月後になるのかしら?」

 「ああ、その中旬になるぞ。今回、私は参加するつもりでなかったが...

  アイシャがレベル4となったからには出るしかあるまい」

 「そう。じゃあ、そのデナトゥスに私も参加して話す事にするわ。

  貴女とニョルズは咎めないとして、イケロスだけは処罰しないと」

 

 決闘を行なう前にイシュタルは無様に負けた場合はファミリアから

 追放するとアイシャに言っていた。

 しかし、アイシャは果敢に挑み、イシュタル自身も声援を送る程の

 奮闘を見せた。

 更にはお釣りが出る程に熟練度が伸び、ランクアップを果たした。

 なので、手放したくなくなったという心変わりはもちろんあるのだが、

 新たな団長としてアイシャを置く事にするというを含め、追放はしない

 という事になった。

 何故アイシャが団長となるのかというと、敗北したフリュネが自室へ

 引き籠もったままになってしまっているからだ。

 ポーションなどで体の傷は癒えたが、完膚無きまでに叩きのめされ、

 殺されかけた恐怖心によってフリュネは実質的に再起不能となった。

 副団長の座には同じレベル4のタンムズがいるのだが、彼自身から

 アイシャを団長にするべきだと薦められたので決定したのだ。

 ファミリアのNo.2の立場に就いており、バーベラ達からの信頼も

 厚いので、誰1人からも拒否はされないだろうとイシュタルは踏んで

 いる。

 

 「しかし...事前にお前が来る事は伝えておいた方がいいのではないか?

  腑抜けな奴らでは押し黙るのは目に見えているぞ」

 「そうね...じゃあ、伝言を任せておきましょうか」

 「ウラノスにか?」

 「いいえ。実はウラノス以外に私が7年前からこの街に居るのを知ってる知神が居るの。

  その彼に頼んでみるわ」

 「そうか...」

  

 名前を言わなかった所からして、恐らく教えてはくれないのだと

 イシュタルは察して話を変えた。

 

 「またこう言うのもなんだが、本当にあの金額で身請けしていいのか?

  アイシャとフリュネの治療費だけでも十分な気がするのだが...」

 「ヘルメスにもそれくらいで口止めしてもらっているし、何より貯まるばかりで困っているもの。     

  税金のために全部はあげられないけど、相応に支払うわよ」

 「それなら...まぁいいが。支払うにしても出し過ぎないのが賢明だ」  

 「わかったわ。ご忠告ありがとう」 

 

 ネフテュスがお礼を言うと、イシュタルは立ち上がる。

 捕食者を相手にしているバーベラ達を止めにいくためだったようだが、

 通路の曲がり角からレナが覚束ない足取りで歩いて来るのが見えた。 

 よく見れば衣服を着ておらず、艶やかな汗だくの裸体を隠している

 のみだ。

 その姿にイシュタルは虚をつかれ、絶句したまま戸惑うがすぐにレナの

 元へ駆け寄る。

 

 「レ...レナ?何が...」

 「あ、あの人...すご過ぎるよぉ...

  サミラも、皆も、限界で...あふん...」

 「レナ!?」

 

 その場に倒れてしまったレナを咄嗟に抱き抱え、イシュタルは

 頬を叩き意識の有無を確かめる。

 穏やかな笑みを浮かべたままスヤスヤと寝息を立てているのを見て、

 安堵していると今度は捕食者が向かって来た。

 水が滴っている所を見ると、シャワーを浴びてから一切体を拭かずに

 歩いて来た様だ。通路の床が水浸しになっている。

 それを気に留めず、捕食者はネフテュスの傍に立った。

 

 「満足したかしら?」

 

 カカカカカカ...

 

 「そう。よかったわ」

 「...一体、どれだけ相手をしたというんだ...?」

 「お相手なら1000人は余裕なのよ。

  この子には番の子も4人居て、その子達も性欲はすごいから...

  アマゾネスの子達の欲求を満たすなんてお手の物だわ」

 「...そうか。恐れ入ったな」

 

 イシュタルはレナを抱き抱え、自身が座っていたソファに寝かせ、

 体が冷めないための配慮としてシーツを掛けた。

  

 「あ、ちなみに人体の構造は似ていると言ったけど...

  DNAが異なるから妊娠はしないの。それだけは伝えておいてちょうだいね?」

 「?...DNAとは何かわからないが、子は出来ないというのは理解した。

  しっかりと伝えておこう」

 「ええ。でも、妊娠出来るようにしてあげられる事は可能だから、いつでもお呼びして構わないわ。

  呼ぶ時は、これを押してね」

 

 ネフテュスは以前にもロキに渡したのと同じ物を差し出す。

 イシュタルはそれを受け取ろうとしたが、手を止める。

 

 「...少し考えさせてくれ。

  その者の強い血を引く子供を授かるのは、有り難いとは思うが...」

 「あぁ、大丈夫よ。

  人間と同じDNAに組み替えたら、お腹の子はアマゾネスの子として生まれてくるから」

 「そうか...それなら次を楽しみに待っていてくれ」

 

 そう答えながら受け取るイシュタルに、ネフテュスは微笑んだ。

 

 「今の話、本当なんだろうね?...嘘だったら悲しい他ないよ」

 「アイシャ...。...お前も随分、堪能したようだな」

 「うるさい...」

 「あらあら...」

 

 ケルティックに抱き抱えられているアイシャは図星を突かれ、そっぽを

 向くしかなかった。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、旅人の宿ではヘルメスが落ち着きなく、部屋中をウロウロと

 徘徊してアスフィの安否を気遣っていた。

 同じくキークスも窓の外を見ては椅子に座り直すといった一連の行動を

 繰り返している。

 それが2日間も続けば、いい加減鬱陶しさも限界となりルルネは

 テーブルを叩いて怒りを露わにする。

 その際、いくつも積み上げていた金貨のタワーが倒れた。

 それはネフテュス・ファミリアが口止め料としてくれたヴァリスだ。

 一緒に数えていたゴルメスとドドンが慌てて落ちた金貨を拾おうと

 するがお互いに頭突きをし合うようになってしまって両者床に倒れる。

 

 「ヘルメス様!いい加減落ち着いてくださいよ!キークスも!

  私が言うのも何ですけど、ネフテュス様は神格者みたいなんですから」

 「だからって2日も戻って来ないなんておかしいだろ!?

  つかお前はその女神様に買収されるのも同然なんだから信用できねーよ!」

 「なんだとぉ~~~!?」

 「やめてください2人共!確かに心配になるでしょうけど...

  団長は無事だと私も思っています。信じて待ちましょう」

 

 ローリエはルルネとキークスの間に立ち、そう言った。

 他の団員達もキークスと同じ気持ちになっていたため、心配にはなって

 ているがアスフィに限ってと思っている。

 キークスは言い返そうとはせず引き下がると、ヘルメスがパンッと

 軽く手を叩きその場に居る全員の視線を集めた。

 

 「ま、ルルネの言う通り...アスフィなら大丈夫だと思うぜ?

  ネフテュス先輩は裏表がないからこそ、信用出来る女神様だからさ。

  もし万が一、明日にも戻って来ないとなったら...

  その時はギルドやアストレアの所に捜索依頼を出してみるか」

 

 ヘルメスはキークスの肩に手を乗せ、軽く笑みを浮かべた。

 先程まで同じ様に心配していた様子とは打って変わって、冷静な

 雰囲気になっていると団員達は思った。

 芝居だったのか、それとも気持ちを抑え込んでいるのかわからないが

 ヘルメスの提案に無言で全員が頷いた。

 

 ...コンコンッ

 

 その時、出入口のドアからノックする音が聞こえてくると、ヘルメスを

 突き飛ばしてキークスは我先にとドアへと向かった

 ヘルメスが俯せに倒れた事で、また積み上げられていた金貨が倒れる。

 キークスはドアを勢いよく開け、アスフィに抱きつこうとする。

 

 「アスフィさぁ~~~ん!心配してたんですよ!?一体どこで何をぶぐえ!?」

 

 しかし、ドアの前には誰も立っておらず端から見れば、キークスが外へ

 ダイブする様な光景となっていた。

 幸いな事に、周辺には誰も居なかったので彼の赤っ恥は部屋から

 様子を伺っていたルルネ達しか見られなかった。

 

 「何やってんだが...というか、ホントに居ないの?」

 「居ないねー。...でも、誰がノックしたのかな?」

 

 全員が周辺を見渡している中、ヘルメスは誰からの心配されない事に

 ショックを受けながらも立ち上がっていた。

 帽子を被り直し、ヘルメスも出入口へ向かおうとした。

 その瞬間、ルルネを始めとするファルガー、ホセ、タバサの獣人達が

 チャキッと刃物が引き抜かれる音に気付く。

 急いで振り返って見ると、ヘルメスが立ったまま動かずにいて

 振り向いたルルネ達に来るなと手振りをしていた。

 他の団員達も異変に気付くや否や、各自の得物を手にして臨戦態勢と

 なる。

 

 ...ヴゥウン...

 

 「なっ...!?」

 

 突如として、その姿を見せた人物にルルネ達は驚愕した。

 特にルルネとローリエは。

 何故なら、捕食者がヘルメスの首に短剣を突き立てていたからだ。

 それもよく見てみると、アスフィがオーダーメイドとして彼女自身が

 作り上げたカノーヴァル・ダガーを握っている。

 

 「お前...!?何でアスフィさんの武器を持ってんだ!?

  あの人をどうしたってんだ!?」

 「落ち着けキークス!今の状況を考えろ!」

 

 ファルガーがキークスを止めている間に、捕食者がヘルメスの横へ

 ゆっくりと移動した。

 ヘルメスは動じないまま、観察するかの様に捕食者の動きを見ている。

 

 「...ネフテュス先輩の所の子供、でいいのかな?

  これは何の冗談で」

 『JYOウDAンDEYAッTEIルTOデモ、OMOッTEイRUノKA?』

 「「喋った!?」」 

 

 その声は不気味な程、低音でどこか発音が変に聞こえた。

 捕食者はその声で話し続ける。

 

 『...ネフテュス様からの伝言だ。

  あまりアスフィに苦労を掛けさせるのはやめなさい、と。

  ...覚えたか?』

 「...ああ、よーく覚えたよ。アスフィ」

 

 そう答えたヘルメスに全員が絶句した。

 誰の名前を言った?と思っていると、パイプを引き抜きヘルメットを

 脱いで顔を露わにする。

 ヘルメスが言った通り、正しくアスフィ本人だった。 

 キークスは混乱のあまり全身が真っ白くなり、そのままの姿勢で

 石像の様に倒れた。

 

 「よくわかりましたね。私であると...」

 「ま、伊達に神様やってる訳じゃないからな。

  ...それで、今まで何をしていたのか...話せないって感じか?」

 「はい。貴方であっても、他言無用にと...

  ネフテュス様からのお願いですから」

 

 ヘルメスは困った様にため息をつくが、仕方ないと言いつつ

 それ以上は何も言わなかった。

 どうやら、ネフテュスのお達しを素直に聞き入れるつもりらしい。

 

 「...あ、えっと...アスフィ?レイの奴はどうしたんだ?」

 「無事に送り届けました。捕食者も同行していただきまして...

  私は先に地上へ戻って来たんです。

  今頃、彼らと楽しく長話をしているでしょうね」


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