【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...なので、どうか手を貸してくれないだろうか?」

 

 カカカカカカ...

 

 そう問いかけたフェルズに捕食者は低い顫動音を鳴らし、眉間に

 拳を当てた。

 何を話していたのかというと、イケロス・ファミリアに捕獲され

 密売されてしまったゼノス達の居場所を突き止めたので救助に

 向かってほしいという事だった。

 ディックスを殺害する際に何かを落した事がある。

 それは手帳だった。

 中身には様々な名簿が書かれており、その中に密売されたゼノス達が

 どこに居るのかを突き止める事が出来る。

 しかし、オラリオと同じ大陸に居るのであればフェルズでも

 向えるのだが、オラリオから海を越える程の距離まで密輸されて

 しまったゼノス達は流石に向えないという事で捕食者に協力を

 依頼したのだ。

 

 「感謝する。

  ...そういえば、メレン港で不可解な水柱が立ったと聞いたが...

  君は何か知っているか?」

 

 その問いかけに捕食者は無言で消し、答えなかった。

 話は終わりだ、とでも言う様に。

 フェルズは捕食者が立っていた場所を見据えて、少し残念そうにして

 いた。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 明朝から数時間が経ち、ディアンケヒト・ファミリアの治療院は

 開店時間と同時に灯りが灯される。

 出入口の扉がゆっくり開かれると、アミッドは足元を見渡す。

 捕食者が贈呈するドロップアイテムが置かれていないかを確認する事が

 日課となっているのだ。

 置かれているのは時折だが、今回は布に包まれて居る状態で置かれて

 いた。

 持ち上げてみると更に下には折り畳まれた紙もあった。

 

 「あ...!」

 

 アミッドは慌ててその紙も拾い上げ、店内へ戻った。

 ドロップアイテムはカウンターの上に置き、手に残っているのは

 紙だけとなる。

 深呼吸を数回し、心を落ちる科せてアミッドは広げてみると何か

 書かれているとわかった。

 

 [そちらの感謝の意、とても嬉しく思う。

  こちらも不要な物を押しつけてしまい、迷惑でないのであれば

  これからも贈呈するとする]

 

 「...ありがとうございます」

 

 そう呟くアミッドは嬉しそうな微笑みを浮かべていた。

 そして、手紙をポケットに仕舞い、贈呈してくれたドロップアイテムが

 どの様な物か見るために広げて確認し始めるのだった。

  

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 「...くれるのはいいけどよ...

  せめて武器になりそうなもんだけにしてくれねえもんかなぁ...」

 

 同じ頃、ヴェルフはまた置かれていたドロップアイテムにため息を

 ついて頭を掻いていた。

 今回は毛皮、血、目玉などが贈呈されており、武器や防具として

 成り立つ素材ではないため、売りに出すという事になった。

 

 「ま、今日もアイツらとダンジョンに潜る予定だったし、丁度いいな」  

 

 ヴェルフは風呂敷に贈呈されたドロップアイテムを包んで、

 先に自身が手掛けた武器が売れたかどうかを確認するためにバベルへ

 向かった。

 バベル7階の武器・防具店に居る店員に訪ねると案の定売れていないと

 言う。

 以前売れたのは命が購入した刀だけで、それ以降からは全く売れては

 いないと言われ、ヴェルフはガックリと肩を落しながら店員に何か

 言われている事も耳に入らず下に降りようしていた。

 

 「おっ?何だ、ヴェル吉。そんな何時になく肩を落しおって。

  シャキッとせんかシャキッと!」

 「いでっ!?...うるせねえな、ほっとけ。椿ぃ~...」

  

 背中を力一杯叩かれ、ヴェルフは無理矢理椿に背筋を伸ばされる。

 椿はいつも通りのヴェルフの返事を聞き、豪快に笑って肩に腕を

 回し問いかけた。

 

 「そう言うな。何を落ち込んでいたのか、手前が相談に乗ってやろう。

  まぁ、聞かずとも答えられるが」

 「何だよ、なら言ってみろよ」

 「ネーミングセンスが無いから売れないんだろうな」

 

 ぐうの音も出ない言葉にヴェルフは顔を背けるしかなかった。

 それにまた椿は笑うと、肩をポンポンと軽く叩いて腕を解く。

 

 「もう少しマシな名前は思いつかないもんなのか?

  以前打った極東様式の刀もエラく酷い名前だった気がするぞ」 

 「そ、それでも売れたからいいだろ!?

  名前なんかより、俺の血と汗を注ぎ込んだあの刀は、持つべき奴に買われたんだからよっ!」

 「まぁ、それは確かにスミスとしては喜ばしい事だな。

  そういえば、その買った奴と今日もダンジョンへ向かうのか?」

 「ああ。発展アビリティを習得するためってのもあるが...

  アイツらと冒険するのは悪くないからな」

 「...そうか。それなら気合を入れて行ってこい!」

 「いっでぇ!」 

 

 椿は気合を注入するかの様に、またヴェルフの背中を力一杯

 叩くのだった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 バベルの中央広場では、タケミカヅチ・ファミリアの団員達と

 リリルカが談笑していた。

 今回はどこまで潜るか、どれだけ稼ぐ事が出来るかなどリリルカは

 純粋に話の輪に入って楽しげである。

 すると、ヴェルフが走って向かって来るのに桜花が気付く。

 

 「悪い、遅れちまった!」

 「ヴェルフ殿。何かあったのですか?」

 「いや、面倒くせぇハーフドワーフの団長に絡まられちまってて...

  ...なぁ、お前ら。1ついいか?」

 「何だ?相談事なら乗ってやるぞ」

 「ネーミングセンスがどうかと聞かれたら困りますけど」

 

 リリルカの発言にヴェルフは俯いて何も言わなくなってしまう。

 その場に居る全員が全てを察し、汗を垂らした。

 これでパーティーを組むのはまだ2度目となるが、それだけでも

 ヴェルフのネーミングセンスについて話すとなると何とも言えない

 雰囲気となるのだ。

 

 「...やっぱ、思う所はあったのか...」

 「も、申し訳ありません!その...

  と、とても素晴らしい刀だと賞賛はさせていただきます!

  ...ただ、やはり...この刀の名前を言うとなると...」

 「ヴェルフ様、ネーミングセンスを磨きたいのでしたら、詩など書物を読むといいですよ。 

  ユーモアある方々の大半は親しみやすい言葉を使う事で知られるので、ネーミングセンスを磨くには打って付けではないかと」

 「詩かぁ...柄じゃねぇけど、アドバイスとして受け取っておくぜ。リリスケ」

 「そうですか。...ってまたリリスケって呼びましたね!?

  やめてくださいってば!」

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 『それじゃあ、皆には前日に知らせておいてね』

 「ふむ、では手配しておこう。ネフテュス氏」

 『あ、そういえば武器の性能は落ちていないかしら?』

 「問題ないようだ。以前よりも格段に使い熟せている」

 「それならよかったわ。じゃあ、お願いね」

 

 通信が切れ、装置を懐に仕舞うとネフテュスに言われた知らせる手段は

 どうしようかと考える。

 親しい神友にならその眷族の冒険者に伝えておけば問題ないが、

 それほど知る仲ではない神々は直接ホームへ赴くしかないかと悩む。

 しかし、すぐにギルドの職員に伝えておけば問題ないかと決断して

 店内の掃除に戻る事にした。

 中堅ファミリアとして、忙しい日々を送る中でも欠かせない事だ。   

 商品を丁寧に並べていると、階段を誰かが降りてくるのに気付き

 振り返る。

 

 「今日はダンジョンへ行ってきます」

 「ああ。ランクアップしたとはいえ、十分気をつけて行ってくるのだぞ」 

 「はい」

 

 そう答えてヘルメットを被り、裏口のドアを開けると同時に姿を消した。

 ドアは独りでに閉じられる。

 

 『今日は...フロッグシューターの油とスライムのゲル...

  それからミノタウロスの紅血を摂りに行こう』


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