【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「...それじゃあ、しばらくはここから離れる事になるわね。
少し寂しくなってしまうかも...」
『僕が居なくても、スカー達が居ます。
なので、寂しい思いにはならないですよ』
「そういう意味じゃないのだけど...はぁ...
まぁ、とにかく気をつけて行ってくるのよ?」
カカカカカカ...
...正直に言えば、寂しくなると言ってくださって少し嬉しいと
感じた。
我が主神が僕の事を想ってくださっていると改めて認識したからだ。
僕は眉に拳を当て承諾すると、立ち上がって自室へ戻ろうとしたが、
不意に我が主神に呼び止められる。
「そうそう。近々貴方の成人の儀を行う事にしたわ。
それまでに...鍛練に余念を許さないようにね」
『...はい。ありがとうございます』
「それと...ゼノスを買ったのは貴族だったのよね?
それなら慰謝料を貰いなさい。どうやってかは貴方に任せるわ」
カカカカカカ...
「...それじゃあ、私も迎えに行かないと」
再度我が主神に返事をし、オープンスペースを離れて自室に戻った。
我が主神が言った通りマザー・シップには当分戻らないだろうから、
装備の点検は怠ってはならない。
点検を済ませた僕は格納庫へ赴くと、前回も乗ったドロップ・シップに
搭乗する。
エンジンを点火し、ハッチを開かせると数M浮遊させた状態にして
前進しながら格納庫から出て行く。
ギュ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ オ...!!
クローキング起動。目的地設定完了。
テイクオフ。
グ オ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オッ!!
森を飛び出し、オラリオから数K離れた所でエネルギーチャージを
行いワープドライビングサークルを形成する。
前方へ射出すると、空間を斜め状に裂きドロップ・シップは目的地へ
ワープドライブする。
バシュンッ!
裂かれた空間は瞬時に戻り、何の証拠も無くなる、
――――――――――――――――――――――――――――――――
「よっと。ふぅ~...これくらいあれば足りるよね」
ティオナは24階層に生えている白い木々から同じ様な色をしている
葉を掌一杯に持って降りてきた。
4日前にアミッドから受けた依頼のために採取したのだ。
待たせていたフィン達と合流し、それを布に包んでラクタに渡して、
再び捜索を開始する。
「団長、ここはもう粗方探しましたし...
もっと下の階層まで降りてみましょうか?」
「そうした方が良さそうだね。恐らく下層を探すとしても見つかるとは思えないから、そのまま深層まで降りてみよう」
そう話している2人をティオナはジッと観察する様に凝視していた。
フィンに恋をした事でティオネは変わった。
ティオナからすればそれは一目瞭然で、自身も捕食者に好意を抱いたと
リューに告げられ自覚する事となった。
それならば、フィンに恋心を抱く姉の様子を伺い、役立ちそうな事を
学ぼうとしているようである。
その凝視する様子を見て、レフィーヤは不思議そうに思いながら
問いかけた。
「ティオナさん?お2人をずっと見ていますが...
どうかしたんですか?」
「ん?あー...何だかんだ言って2人は仲がいいんだなーと思って」
「あぁ...確かにそうですね。
見ている側としては、少し恥ずかしいように思いますが...
それでも羨ましいと思う程、仲が良いですよね」
率直な意見を述べるレフィーヤに後ろを歩くラクタは頷いて
肯定した。
過度な言動はあるにしろ、ティオネのフィンに好意を抱いている事は
ロキ・ファミリアの団員含め自他共に認められている。
加えてフィン自身が彼女の想いを受け止めるのは難しい事も。
しかし、それでも折れないティオネの信念は本物だ。
「うん。...好きな人だとあんな風になれるんだね...」
「...へ?」
アイズは俯いて聞こえていないようだったが、ティオナの言葉に
レフィーヤとラクタは耳を疑う。
ティオネと違い、色恋沙汰に関心を抱くような事はないと思っていて
遠征時などで女子同士でのお話し会では、首を傾げている事が多い
印象が強かったからだ。
なので、ティオナがそう言った事には違和感を覚える他なかった。
そう思っているとティオナが問いかけてくる。
「...ねぇ、レフィーヤだったら好きな人とあんな風に楽しく話したり出来る?」
「え?えぇ!?あ、え、えっと、そ、それは、その...
す、好きな人、という定義がどれかによりますが...」
「定義?」
「ほ、ほらあれですよ。親しい真柄としてなのか...
こ、ここ、こここ、恋人としてという意味で...」
ティオナはその解説を理解している中、ラクタはそそくさとアイズの
斜め後ろへ移動した。
話しに巻き込まれないためだろう。
「じゃあ、恋人としてならどう?」
「ふぇっ!?こ、ここ、こ、恋人、で、ですか...」
チラッとアイズに視線を移すと脳内で様々な妄想が巡りやがて
涎を垂らしながら不可解な笑みを浮かべ始める。
それにティオナはどうかしのかと思い、レフィーヤの目の前で
手を振った。
視界に光が数回入った事で脳が刺激されたレフィーヤはハッと我に
返り首を振って涎を吹き飛ばす。
「や、やっぱ少し緊張はしますでしょうけど...
楽しくお話し出来たらすごく幸福でずっと傍に居たいと思うようになると思います。
それ程こ、こ、恋人というのは特別なのですから...」
「...そっか。そうなんだ...」
レフィーヤの返答を聞いて、ティオナは何かを考え始める。
最近になってよく見かけるようになった両手で後頭部を支えながら、
頭上を眺める姿だ。
そうなると会話が終わりとなる。
レフィーヤはホッとしつつも、再度妄想に浸り始めてしまい2人して
上の空となった。
「...ダメだありゃ」
「?」
ため息をつき、少し呆れているラクタにアイズは首を傾げるのだった。
その時、先導していたフィン達が立ち止まったのに気付いてラクタと
アイズは足を止めるが、ティオナとレフィーヤだけはそのまま進んで
しまいフィン達の横を素通りしてしまった。
「は?ちょ、ちょっと、ティオナ!?レフィーヤ!?」
「「え?」」
呼び止められた2人は何故、自分達が先頭になっているのか
キョトンと思考が停止した。
すると、肩を誰かが軽く叩かれてレフィーヤは視線を前に戻す。
「ここで会うとは奇遇だな、ウィルディス」
「フィ、フィルヴィスさん!?あ、ど、どうも、お久しぶりです...」
そこに立っていたのはフィルヴィスだった。
もう1人、影となって顔がわからないが誰か立っている。
「やぁ、シャリア。また会うとはね。
...君も何か探している口だったりするかい?」
「ん?探し物、という訳ではないが...
一先ず、体を馴染ませてるために来ていたんだ」
「え?それは、つまり...?」
「ランクアップしたという事か。それは何よりだ。
よかったな、フィルヴィス」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
フィルヴィスが深々と頭を下げた事で、後ろに立っていた人物の姿が
ハッキリと明確に見えた。
その瞬間、レフィーヤを始め全員が驚く。
フィルヴィス本人とそっくりな少女が立っていたからだ。
違う箇所といえば手袋を着けず、ズボンを履いていないのでスラッと
した白い手と足を露出させているぐらいだった。
「あ、あの、フィルヴィスさん?あ、あちらは...
ふ、双子の方ですか?」
「いや、魔法によって生み出した分身だ。
分身と言えど意思を持ち、考える事も話す事も出来る。
区別するために、私の主神が名はエインと名付けてくださった」
「そ、そんなすごい魔法を持っているなんて...
流石フィルヴィスさんです!
「ああ。意思を持つとは、長らく生きてきた私としても初めて見る。
とても興味深い」
リヴェリアはエインに近寄ろうとするが、エインが顰め面になったのに
気付くと足を止めた。
エインはドレスの裾を翻し、フィン達のそばを通り過ぎて行くのを
見て慌てて呼び止めようとする。
だが、エインはそのまま進んで行ってしまった。
「まったく...リヴェリア様、大変なご無礼を...」
「いや...気にしないでくれ。それより、後を追った方がいいのではないか?」
「はい。では、失礼します」
一礼をしてフィルヴィスはエインの後を追いかけていき、フィン達は
その背を見送る。
「...まるで姉妹の様だな。お前達とよく似ている」
「あはは。確かに、言われてみるとそう思うかな」
「だ、団長!私は決して、決して...!
あんな態度は取ったりしませんから安心してください!」
「わかっているよ。...さぁ、進むとしよう」