【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ダンジョン11階層。

 ダンジョンギミックである濃霧が発生し、視界が妨害されている中で

 命達は多数のモンスターと戦っていた。

 オーク、バッドバット、ハード・アーマードなどといった種類の

 モンスター・パーティと遭遇し、団長である桜花が前衛で指揮を

 執りながら命とヴェルフと応戦し、中衛と後衛に居るリリルカ達は

 待機しつつ、いつでも援護射撃が行える陣形を組んでいる。 

 

 「桜花殿!また3匹増援が!」

 「リリルカと千草!前衛に上がれ!」

 「わ、わかった...!」

 「お任せください!」

 

 探知系スキルの八咫黒鳥を持つ命がモンスターの数を伝えてきて、

 桜花はリリルカと千草を増援として呼び、遊撃する態勢を取った。

 バッドバットに接近し、千草は小刀の細雪で鋭い爪の攻撃を受け流し

 足を踏み付け後退させるのを防ぐ。

 胸部を斬り付け裂傷部から覗く魔石を細雪の頭で強く叩くと

 魔石が弾き飛び、魔石を失ったバッドバットは消滅する。

 

 「(千草様は性格からして戦闘は不向きなのではと思っていましたが...

   どうやらリリの見当違いだった様ですね)」

 

 千草の戦闘能力の高さを見て、そう思っているとヴェルフの

 叫び声が聞こえてきた。

 オークが倒れたと同時にヴェルフは大振りをして大刀で頭部を

 叩き切った。

 大刀を引き抜いている隙を狙ってハード・アーマードが身を丸め、

 回転しながら突進してくるのを桜花が逆手持ちにした戦斧を横に

 振るって真っ二つに斬り裂く。

  

 「助かったぜ!礼に何か武器作ってやるよ!」

 「それはありがたい...が、出来ればまけてくれないか?」

 「いやいや礼の品って言っただろ?」

 「ヴェルフ様!桜花様!お話しは後にしてくだ...さいっ!」

 

 ダンッ! ダンッ!

 

 右腕に装備しているリトル・バリスタから2発の矢を発射した。

 2人に接近しようとしていたオークの右肩に命中し、それに一瞬だけ

 怯むオークだがすぐにリリルカを睨み付けて先程よりも敵意を

 剥き出しにする。

 しかし、怯んだ隙に桜花とヴェルフが同時に目の前まで接近し、

 大刀と戦斧を交差する様に振るう。

 オークは魔石諸共、全身を斬られた様で灰と化し消滅した。

 

 「ああ~~~っ!?

  お2人共せっかくの魔石を斬られてしまっては困ります!

  収入が減るじゃないですか!」

 「あ...!す、すまない、つい勢いで...」

 「しょうがないだろ、やっちまったもんは。

  それにまだこんだけ...っ!?」 

 

 周辺を駆け抜けた影に勘付いたヴェルフと桜花は急いで、それぞれの

 得物を構える。

 影が止まって奇跡的に霧が晴れると、姿を明確に捉える事が出来た。

 その正体はシルバーバックだ。

 大柄な桜花と同等の大きさで、成長途中であるようだが3匹も

 居る。

 ヴェルフと桜花は背中合わせになり、話し合い始める。

 

 「3対2。でもって囲ってやがる」

 「それぞれ1体ずつやったとしても...

  残る1体は背を向けているどちらかに襲ってくるのは間違いないか。

  リリルカが気を反らせたとしても、リリルカを襲う可能性も...

  ...なら、俺の方へ来るように誘き寄せて」

 「ふざけろ!んな無茶な事させられっかよ...って、ん?

  ...っはは!それだ!良い考えが浮かんだぜ!」

 「何だ?」

 

 ヴェルフは耳打ちをして桜花に思いついた作戦を伝える。

 その作戦を聞いた桜花は不敵に笑みを浮かべ頷いた。

 

 「リリスケ!俺が合図してから撃て!いいな!」

 「な、何をするつもりですか!?」

 「っしゃ!やってやろうぜッ!」

 「応ッ!」

 

 リリルカに作戦を伝えず、2人は同時に動き出す。

 しかし、分かれてではなく1体に対して同時に接近していった。

 シルバーバックはその行動に驚き、動きを止めてしまった事で

 ヴェルフの大刀が腹部を、桜花の戦斧によって首を刎ねられる。

 残る2体は同種の死に激怒したのか、凄まじい勢いで猛突進してくる。

 

 「今だ!やれ!」

 「っ!」

 

 ダンッ!

 

 ヴェルフの合図を聞いてリリルカは2体の内、1体のシルバーバックに

 向かって矢を発射する。

 脇腹に刺さった激痛で、その個体は転倒した。

 2人に向かってくるシルバーバックは豪腕で薙ぎ払おうとしたが、

 戦斧で受け止められ、ヴェルフが死角から現われると大刀でその腕を

 斬り落とされる。

 一方、転倒した個体は矢が刺さったままでありながらリリルカを

 見つけ襲いかかろうとする。

 

 「させませんっ!」

 「命様!」

 

 命がリリルカの前に立ち、飛び掛かってくるタイミングを見計らって

 自身も跳び上がると体を横向きに大きく足を蹴り上げる。

 ブレる程の勢いで顔の側面に蹴りが入り、シルバーバックは横へと

 落下していった。

 命も宙返りをしながら降下してき、着地するや否やすぐさま

 地に伏しているシルバーバックへ近付き、胸部に引き抜いた刀で

 一突きして討ち取る。

 

 「ありがとうございました、命様」

 「当然の事をしただけです。さぁ、もう一踏ん張りと参りましょう!」

 「はい!」

 

 笑い合うリリルカと命を見て、ヴェルフもつられて笑っていた。

 

 「どうかしたか?」

 「いや...やっぱいいよな、仲間っていうのは。

  頼り切るのもダメなんだが...頼りになるのに越した事はないんだからよ」

 「...ああ。そうだな」

 

 桜花は今までパーティを組めずにいたヴェルフの心境を察して、

 頷くのだった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「お前という奴はいつもそうだ!

  親しく接してくる者に対しての敬意が足りな過ぎる!

  リヴェリア様が寛大なお方で命拾いしたと反省しろ!」

 「いい加減説教は止めろ。耳障りだ」 

 「な、こ、この...!」

 

 歯軋りをしながらフィルヴィスは青筋を立て、握り拳をつくり

 聞き分けが悪いエインに怒りを見せる。

 しかし、エインはどこ吹く風と聞き流しており全く相手にしようと

 していなかった。

 フィルヴィスはそれに呆れ返ってため息をつき、何を言っても無駄だと

 わかってそれ以上何も言わなくなる。

 やがて11階層にまで登ってくると、小規模のパーティが戦闘を終え

 一息ついている所を見かける。

 顔立ちからして極東出身の冒険者が大半を占め、他の2人は別の

 出身である冒険者のパーティだった。

 恐らくその2人は別のファミリアの冒険者だろうとフィルヴィスは

 推測した。

 周辺には倒されたモンスターが散らばっており、それをパルゥムの

 少女や首に包帯を巻いた少女が一箇所に集めて魔石を採取していた。

 

 「(...まだレベル2に至ったばかりの冒険者が2人しかいない様だが...

   それでもあの極東の者達は中々の手練れと見受けられる。

   主神の指導による賜物といったものか)」

 

 そう思いながらフィルヴィスはなるべく気付かれないよう、少し離れて

 10階層へ続く階段まで進んで行く。

 階段の1段目に足を掛けようとしたその時だった。

 

 オオオォォォオオオオオオオオッ!!

 

 空間がビリビリと揺れるかの如く、その唸り声は響き渡った。

 フィルヴィスとエインはすぐに振り返って見てみると、先程見かけた

 パーティが居るその後ろの壁から、巨大な影が壁を突き破るかの様に

 現われた。

 けたたましい足音を轟かせ、パーティのすぐ目の前で立ち止まる

 その巨体は牙を剥き出しにし威嚇し始める。

 

 「インファント・ドラゴン・・・!」

 「あの者達だけでは太刀打ち出来るか、厳しい所だな」

 

 エインがそう言った矢先、インファント・ドラゴンは目玉を

 動かしリリルカを視界に捉える。

 魔石の採取に専念していたリリルカは突然の事に硬直してしまい、

 動けなくなってしまっていた。

 

 「まずい!逃げろリリスケェ!」

 「あ...!」

 

 仲間の1人がそう叫ぶがインファント・ドラゴンは既に尻尾を大きく

 振るう体勢に入っており、逃げるのは困難である。

 

 「っ!アーデさんっ!」

 「うわっ...!?」

 

 ド ゴ ォ ォ オ オ オッ!!

 

 「ち、千草!?」

 「千草殿ッ!」

 

 千草と呼ばれる少女がパルゥムの少女を庇って押し退け、代わりに

 尻尾の打撃を無防備の姿勢で受けてしまった。

 仲間の2人が叫び、千草は白い大木に激突して地面に倒れる。

 このままでは全滅してしまう、とフィルヴィスは判断して直ぐさま

 パーティの元へ向かおうとする。

 だが、その時エインに片腕で制止され行く手を阻まれる。

  

 「っ!?何のマネだ!?今すぐに助けなければ」

 「...その必要はないみたいだぞ?」

 

 エインは見殺しにするつもりなのだと思い、フィルヴィスは

 殴ってでも退かそうとした。

 しかし、不意に指を指してきたのでその方を見る。

 そこに居るのはパーティを襲っているインファント・ドラゴンで

 他に誰かが居る訳でもない。

 そして、千草に駆け寄り安否を心配するパルゥムの少女に近付き、

 再びインファント・ドラゴンが襲い掛かろうとしている。

 フィルヴィスは今度こそエインを押し退けようとした。

 

 ヒュンッ! ヒュンッ!

 

 しかし、風切り音に気付きインファント・ドラゴンを見る。

 

 グ オ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オッ !!

 

 片目に銀色をした長細い矢が深く突き刺さっており、目玉を

 潰された激痛にインファント・ドラゴンは絶叫していた。

 そして、フィルヴィスはようやく気付く。

 インファント・ドラゴンの鼻先に赤い1点の光が照射されて

 いる事に。


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