【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「じゃあ、タケミカヅチの所まで送ってあげるわ」

 「...いえ、自らの足で向かわせてください。

  それが...私の最初となる冒険にしたいのです」

 「...わかったわ、春姫。貴女の勇気、確かに受け止めたから」

 「ありがとうございます」

 

 そうと決まればとイシュタルは立ち上がって、襖を開ける。

 するとドタドタとアイシャを始めとするバーベラ達が座敷に

 傾れ込んできた。

 バーベラの数人は泣いており、どうやら盗み聞きをしていたよう

 だった。

 春姫は何が起きたのかわからずキョトンとしており、ネフテュスは

 デジャビュを感じ笑っていた。

 イシュタルが見送る準備をしろ、と叱咤する様に指示を出してきて

 アイシャ達は慌てて起き上がりその指示に従った。

 

 「...春姫。お前も表門から出る準備をするんだぞ」

 「あ、は、はい。荷物を纏めてありますので、いつでも...」

 「そうか。では...先に外で待っているぞ。呼び出しが来たら外に出よ」 

 「わかりました」

 「ネフテュスも一緒に来てくれ。極東の仕来り通りに見送るんだ」

 「そうなの。わかったわ」

 

 イシュタルの後を追ってネフテュスは来た道となる渡り廊下を

 同じ順路で進み、外に出た。

 既に眷族のアイシャ達や歓楽街で働く一般人の女郎達が入口となる

 表門の通り道で横一列に並んでいた。

 身請けをされた娼婦は見送りも無く、黙ってその表門を出て行くのだが

 極東出身の娼婦の場合は世話になった恩義を示すために、並んでいる

 者達へ一礼をしながら進んで行き、表門から出る際に最後は最も深く

 お辞儀をして出ていくのだとイシュタルから教えられる。

 しばらくして、荷物を持った春姫が向こうから歩いてきた。

 特別な装いで来るのかとネフテュスは思っていたのだが、春姫は

 赤い着物のままで風に金色の長髪を靡かせながらゆったりとした

 姿勢で向かってくる...が。

 

 「へぶっ!?」

 

 石に躓いてしまい、ビターン!と顔から転んでしまった。

 綺麗に整えていたであろう荷物も地面に散乱する。

 ネフテュスは思わず硬直してしまい、イシュタルやその場に居る全員は

 ため息をついたりガクリと肩を落したりなど様々な反応を見せた。

 慌てて荷物を拾い集める春姫に見ていられない、とアイシャやレナ達が

 駆け寄って一緒に拾い集めた。

 

 「さ、最後の最後に申し訳ございません...」

 「あ~もう、止しな辛気臭い。これで世話を見るのも最後なんだ。

  次は無いんだし甘え時なよ」

 「そうそう。はい、これで全部だよね?」

 「はい。ありがとうございます...」

 

 集めてもらった荷物を改めて春姫が持ち、アイシャはレナ達と列に

 戻ろうとした際、耳元でこう呟いた。

 

 「これからは自分らしく生きていくんだよ。

  じゃあな、春姫」

 「...はい。今まで本当にありがとうございました」

 

 アイシャの激励に、春姫は涙を目尻に浮かべて微笑んだ。

 イシュタルが言った通り春姫は一礼をしながら進んで行く。

 バーベラ達は手を軽く振ったり、不安そうな面持ちになりながらも

 アイシャと同じ様に激励していた。

 そして表門の前で立ち止まり、振り返る。

 少しだけ俯き、意を決して感謝の意を込めながら深々とお辞儀をした。

 表門を出て行く春姫に、先程激励や手を振っていたバーベラ達は拍手や

 歓声は送らず、ただ静かに見送っていた。

 

 「...上手く行けばいいのだが...」 

 「きっと大丈夫よ。あの子はもう迷ったりしないはずだから」

 「意思はそうだろうが...

  私が言っているのは道に迷わないかどうかの心配だ」

 「...やっぱり送ってあげる事にするわ。但し...

  彼女の意思を無下には出来ないから、言った通り自分の足で辿り着くようにしないと」

 「眷族になった訳でもないのに、お節介なものだな...」

 「それが、皆の先輩である私でしょ?」  

 「違いないな。...では、頼んだ」

  

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ダイダロス通りを彷徨い始めて早30分。

 イシュタルの言った通り案の定、春姫は迷子となってしまっていた。

 

 「ど、どうすれば良いのでしょう...」

 

 困っている最中、ふと何かが動いたような気がして横を振り向き、

 ユラユラと揺れながら浮遊している何かを見つけた。

 目を凝らしてよく見てみると、春姫はハッと息を呑む。

 それは、ナナイロ蛍だった。

 あり得ない、と自分の目が信じられなかった。

 何故なら極東のみにしか生息しない虫であり、しかも水源も無い街中に

 居る事は絶対に無いからだ。

 春姫は本物なのかと近付こうとすると、ナナイロ蛍は曲がり角へ

 消える。 

 

 「あ...!」

 

 春姫は転ばないように気をつけながら、早歩きとなって追いかける。

 ナナイロ蛍は曲がり角の向こう側からまた別の薄暗い細道へと入って

 いっていた。

 まるで追いかけっこでもしている様に思いながら春姫はナナイロ蛍を

 追いかけ続けた。

 次に曲がり角へ入り、真っ直ぐそのまま進んで行くと...

 

 「っ、ま、眩し...え...?」

 「ん?あ、やぁ!いらっしゃい!」

 

 先程までナナイロ蛍を追いかけていた薄暗い細道から、いつの間にか

 東のメインストリートに出ていた。

 行き交う人々に戸惑っている中、真横から接客業の挨拶が掛けられる。

 ジャガ丸くんを売っているヘスティアからだ、

 

 「あ、え?えっと、その...」

 「丁度良いタイミングで来てくれたね!

  出来たてのジャガ丸くんはいかがかな?」

 

 ヘスティアに促されて春姫はこんがり焼き上がったジャガ丸くんを

 見ていると、可愛らしい腹の虫が鳴った。

 思わず赤くなる春姫にヘスティアは微笑むと、ジャガ丸くんを1つ

 手に取って差し出してくる。

 

 「お腹が空いているようだから、サービスしてあげるよ。

  遠慮は無用だぜ?」

 「え?で、ですが」

 「いいんだよ。ボクの先輩が5ヶ月分の収入分まで支払ってくれたものだから...

  1つや5つくらい、君にあげても文句は言われないからね」

 「...では、お言葉に甘えまして...」

 

 春姫は荷物を傍にあったベンチに置き、ジャガ丸くんを受け取った。

 ジッと見つめていると口の中が唾液でいっぱいになり、飲み込んでも

 また口内がいっぱいになりそうになる。

 瑞々しく潤った唇を開け、一口食べる。

 出来たてとだけあって少し熱く感じるが、それ以前にサクサクした

 食感と中身の美味しさに春姫は自然と笑みが零れた。

 

 「美味しいかい?」

 「は、はい。とても...とても美味しいです...!」

 「それはよかった。さ、そこに座ってゆっくり食べなよ」

 

 春姫は頷くとベンチに座り、また一口食べて至福に浸る。

 初めて食べるジャガ丸くんの味が相当お気に召したのだろう。

 ヘスティアは嬉しそうに食べている春姫の隣に座ると、話しかけて

 きた。

 

 「ボクはヘスティアというんだけど、君は?」 

 「んくっ...私は春姫と申します。ヘスティア様、こちらの...

  じゃがまるくん、を食させていただき、ありがとうございます」

 「うん、どういたしまして。

  ...えっと、ちなみに春姫君は極東の出身になるのかな?」

 

 ヘスティアは恐らく着物姿からそう予想したのだろう。

 春姫は頷いて肯定する。

 

 「その通りです。アマテラス様に仕えていた貴族なのですが...

  訳あってここオラリオへ流れ着いたのです。」

 「そっか。じゃあ、タケの事も知ってるのかな?」

 「タケ...。!?、も、もしや、タケミカヅチ様をご存知なのですか!?」

  「う、うん。神友だからね...

  もしかしてタケの事を探しているのかい?」

 

 思ってもみなかった交流関係に春姫は少し高揚した気分となっていた。

 ヘスティアの問いかけに、春姫はまた同じ様に頷く。

 

 「は、はい!も、もしよろしければ、どこに居るのか教えていただけませんか...?」

 「もちろん、教えてあげるに決まってるよ!

  もうすぐバイトの時間も終わるから、その後に案内してあげるよ」

 「あ、ありがとうございます...!」

 

 お礼を述べる春姫にヘスティアは微笑んでいた。

 その後、バイトの終了時間となってヘスティアはエプロンを脱いで

 屋台を畳むと春姫をタケミカヅチの元へ案内をし始めた。 

 案内している最中、ヘスティアと春姫は楽しそうに話していた。

 しばらくして周囲の建物とは似つかわしくない、極東様式の長く

 延びた建物が見えてきた。

 

 「ほら、あれがタケのホーム、タウンハウスさ」

 「あそこが...あそこに、皆さんが...」

 

 そう呟いて春姫が一歩踏み出した時だった。

 聞き慣れた声が複数、前方から聞こえてくる。

 立ち止まったのに首を傾げ、ヘスティアは呼び掛けるが春姫は

 反応せず前を向いていいた。

 やがて、夕暮れを背に近付いてきていた8人の影の内、6人が

 同じ様に立ち止まって春姫の事を見つけていた。

 

 「おい、桜花。どうしたんだ?」

 「命様?千草様も...一体何を...?」

 

 懐かしい名前。そしてその姿。

 間違いなく、友達の命達がそこに居た。

 春姫は思わず荷物を手から落してしまうが、間一髪の所でヘスティアが

 何とか掴み取った。

 それを気に留めず、春姫は駆け出して命達の元へ急ぐ。

 そして、目の前まで近寄ったが足は止めずそのまま、命に抱きついた。

 

 「命ちゃん!桜花さん!千草ちゃん!」

 「春姫、殿...春姫殿...っ!」

 

 春姫を抱き止め、命の目からはありったけの涙が零れていた。

 千草も前上で隠している瞳から大粒の涙を流し、桜花は安堵した様子で

 春姫の肩に手を乗せていた。

 ヘスティアは春姫の荷物を持ちながら、何が起きているのかわからず

 棒立ちとなっているリリルカとヴェルフに近寄った。

 

 「...あの、ヘスティア様?これは一体...

  何がどうなってるのでしょうか?」

 「ボクも詳しい事はわからないんだけど...

  まぁ、物語の最後で言うめでたしめでたしって事でいいんじゃないかな?」

 「いや、それじゃ説明も何もないじゃないですか...」

 「お?ヘスティア?それにリリルカとヴェルフ・クロッゾも...

  って、は、春姫...?春姫なのか!?」

 

 リリルカとヴェルフは説明してもらえそうなタケミカヅチに

 期待を持ったが、当の本人は3人を飛び越えて眷族達の元に

 歩み寄って行ってしまった。

 ヴェルフとリリルカはまた呆然と立ち尽くし、その様子にヘスティアは

 苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。

 尚、唯一事情を把握しているネフテュスはマザー・シップ内で

 感動のあまり号泣してたという。

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