【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
オラリオから遥か遠くに存在する王国。
その王国の街中で一際目立つ豪邸に僕はファルコナーを侵入させ、
室内を隈無く調べていた。
理由はそこに住まう貴族がゼノスを買ったとされていからだ。
あれから2日経ち、数体のゼノス達を貴族達から慰謝料と一緒に
奪還させる事に成功した。
移動時間は1分も掛からずに目的地へ着くので、フェルズという
人物から教えられた買い取り手である貴族もここだけとなった。
それまで、向かった先で既に死んでしまったゼノスのために、
制裁として慰謝料分の金品を奪い、残りは貴族の邸宅諸共
焼き払った。
生皮を剥いで、吊し上げるつもりだったが我が主神にどう処罰を
すればいいのかを聞いた際に、そうするよう告げられたのでそう
したんだ。
なので、今回もゼノスが死んでしまっていたらこの豪邸も焼き払う
つもりでいる。
X線スキャナーを掛けているため、ヘルメットのゴーグルに
送られてくる映像は透明になっている。
すると、今まで見かけた豪奢なドアとは違う全面が鉄製の扉を
見つける。
カメラを下に向けてそれが地下へと続く扉だと分かり、恐らく
地下室がありそこに閉じ込められているのでは、と僕は予想する。
ファルコナーを扉の前に滞空させ、僕も忍び込む事にした。
楽々と塀に跳び乗り、番犬として飼っている猛犬を犬笛で誘き寄せる。
その犬笛は本来、僕らが飼育している犬に使う物だが一般的な犬も
聞こえるので上手く誘導させる事が出来た。
猛犬と言えど、今の僕にとっては戦利品にもならないので狩っても
仕方ないのでそのまま放っておいて豪邸の中へと入った。
鉄製の扉がある通路まで来て、ファルコナーを肩の装甲に収納すると
リスト・ブレイドを1枚だけ伸ばし、隙間に差し込んでデッドボルトを
斬り落とすと扉が開いた。
使用人が通り際に違和感を覚え、バレる前に見つけ出さなければ
いけない。
階段を降りて行き最下部の地下室に続く通路へ辿り着いた。
「次の飯までに食い終わってお、げぅッ...!?」
バギィッ!
その時、視界に男の姿が入ってきたので側頭部を掴むと反対側の
側頭部を壁に叩き付ける。
軽い脳震盪を起して、男は倒れた。息はあるから大丈夫だろう。
丁度良く鍵を落したので僕はそれを拾い、いくつかある牢屋を
覗き込んで確認する。
...居た。最後の1体だ。
僕は牢屋の前に近付き、クローキング機能を解除して姿を見せる。
そこに居るのは女体を持つ蜘蛛のゼノスで、男が倒れた男に気付いて
いたのか、鉄格子の穴から様子を覗き込もうとしていた。
なので、僕が姿を現わすと目を見開いて驚く。
「だ、誰なの...!?」
言葉を発したので、ゼノスに間違いない。
僕はガントレットを操作し、通信を繋げた。
2日前から奪還する際にはリドいうゼノスに通信装置を渡して
いるので、彼に事情を説明してもらうという事にしている。
女体を持つ蜘蛛のゼノスはリドというゼノスが話している説明を
聞き入れてもらえた。
『そいつの言う通りにして、そこから出るんだぞ』
「わ、わかった...」
『無事でよかった。帰ってきたら、また楽しくやろうぜ!』
「...うんっ」
『じゃあ、頼んだぜ。捕食者!』
カカカカカカ...
通信を終了し、鍵を使って扉を開けるとゼノスを牢屋の外へ
出した。
代わりに、まだ気絶している男を放り投げておき鍵を掛けて、その鍵を
へし折り床に投げ捨てる。
ファルコナーに内臓されているシフターを渡し、クローキング機能で
彼女も肉眼で見えなくさせ、降りてきた階段を登ろうとした。
ところが、女体を持つ蜘蛛のゼノスの体格では階段の幅が狭い事に
気付く。
どうやって入れたのか、僕が訝っていると彼女が言った。
「ここからじゃなくて、そこの大きな扉から入ったんだよ。
でも...開けたらすごい音が鳴って、すぐにバレるかもしれない...」
...それなら、好都合だ。
...ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギッ!
「ん?...っ!。おい!地下の扉が勝手に開いてるぞ!?」
「何だとっ!?くそっ!」
豪邸が収まる程の敷地内を見回っている衛兵の1人が急いで地下室へ
向かった。
地下室へ降りる階段の出入り口となる扉が開かれているのに驚くが、
それよりも主人が買い取ったモンスターがどうなっているのかを
確かめるべく階段を下りていく。
地下室に辿り着いて牢屋を見ようとしたその時、開かれた扉から
黒い影が飛び出し、地面に着地している所を衛兵は目撃する。
「おい待て!逃げるなぁっ!」
衛兵は黒い影を追いかけ飛び掛かった。
弱っているであろう喋るアラクネなら自分だけでも抑え込める、と
思っていたのだが、違和感を覚え、その正体をよく見てみると
驚愕する。
黒い影の正体は同僚の男だった。白目を剥いて気絶している。
「し、しっかりしろ!大丈夫か!?」
衛兵は同僚の男の安否を気遣っていると、遠方から何かが走ってくる
音に気付く。
その瞬間、衛兵は地面に押し倒され右腕に走る激痛に悲鳴を上げた。
「ギャァァアアアアアアアアッ!!」
「どうし...!?」
悲鳴を聞きつけた別の衛兵はその光景を見て、困惑するしかなかった。
何と、自分達が躾け手懐けた番犬が仲間の衛兵に襲い掛かっているでは
ないか。
間違っても襲わせない事を教え込んだはずなのだが、目の前の光景は
幻などではなく現実であり、すぐにでも止めなければ仲間が餌食に
なってしまうと衛兵は駆け寄っていった。
敷地内の衛兵達は逃げ出したモンスターを捜索し始めているが、
どこにも見つからない。
「塀をよじ登った姿を見た者は!?居ないのか!?」
「そ、その様です...侵入者の姿も、見た者はいません」
「馬鹿な...一体どうやって」
...ドゴォオオオンッ!
侵入者を見つけようと叫ぶ衛兵達の声で聞こえ難かったが、
微かに爆発した音がしたように思えた。
指示を出していた上級の衛兵が見渡し始めると、他の衛兵達もつられて
周囲を見渡す。
すると、建物の一部から黒煙が噴き上がり始めているのを見つけた。
そこは財産などを保管するための貯蔵庫がある場所だった。
上級の衛兵にそれを伝えると急いで建物の中へと入り、貯蔵庫へと
向かう。
通路を進んで行くにつれ、黒煙だけでなく白い粉末も舞っている。
恐らく壁を構築するために用いたコンクリートが粉砕された事で
浮遊する石灰であると思われた。
そして、貯蔵庫がある通路の曲がり角の前に衛兵が倒れているのを
発見する。
「2名で救護しろ!残りは俺に続け!」
そう上級の衛兵は指示を出し、曲がり角を進んでいった。
貯蔵庫の前に着くと、既に扉が壁毎破壊されてしまっているのが
目に張った。
上級の衛兵はサーベルを手にし、自らが確認するので他の衛兵には
待機するよう指示を出す。
足音をなるべく立てず歩み寄って行き、大穴の縁から貯蔵庫の中を
覗き込んだ。
誰も居ない。あの短時間で、どうやって逃げ出したのかと訝る上級の
衛兵は身を乗り出して中へと入る。
「...な...何て事だ...!」
立ち並ぶ一部の棚が爆風によって倒れているが、それよりも重要な
金庫の扉が開かれてしまっていた。
当然ながら金貨も全て奪われており、挙げ句の果てにオークションへ
出品するために保存していた油絵に2本の爪で斬り付けられた様な
裂傷が付けられていた。
主人が見れば間違いなく卒倒するはずだ。
それに伴い、見張りとしての役目を果たしていないと断定され、
クビになるだろうと上級の衛兵は悲観する。
その場に腰掛けて今後どうしようかと思い悩んでいると、ふと足元に
落ちていた金貨を目にし徐ろにスッと拾いくすねるのだった。
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バシュンッ!
女体を持つ蜘蛛のゼノスをドロップ・シップへ乗せ、オラリオから
10K離れた上空にワープドライブをした。
斬り裂かれた空間は瞬時に元通りとなって、何事もなかったかの様に
青空に戻っている。
以前アストレア・ファミリアを乗せた事のある貨物室に居るゼノス達は
お互いに無事を喜び合い、隠れ家で待つリドというゼノス達の元へ
早く行きたい、と言っていた。
気持ちはわかるけども...これから我が主神にレーザーキャノンによる
20-D5への近道を作ってもらう必要がある。
それに、まだ冒険者達がダンジョンを彷徨いている時間帯なので
もう少し待つ事になる。
なので、深夜になるまで僕は寝る事にした。
ある惑星で1ヶ月間、睡眠を取らず狩りを続けた事があり、それに
比べれば大した事はない。
しかし、皆と違って僕は人間なため、睡眠は必要だとレックスや
マチコに教えられた事があるので教えを無視する事はしないように
しているんだ。