【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ジャキンッ 

 

 バチッ...

 

 少しリスト・ブレイドが不調に感じる。伸縮にラグがあり、時折

 火花が散ったりしていた。

 原因は覚えがある。落石を回避している際、リスト・ブレイドで

 弾き返していたからだ。

 僕らの使う武器の耐久性能は、ここで売られている武器より軟弱では

 ない。

 だが、激しい物量の負担が掛かれば、不調となるのは当然だった。

 今、僕らは人通りから離れた木々の中に居る。

 ...戻って直す前に、一度調べてみよう。

 そう判断し、僕は先にマザー・シップへ戻るよう伝えた。

 ヴァリスの入った袋は各自に渡しておいた。自分の分を持って帰るだけ

 なので、荷物にはならない。

 何かあってはならないとスカーが残る事を伝えてきた。

 僕は承諾し、スカーが残り、他の皆は木々の間を駆け抜けていった。

 夕暮れ時となり、既に木々の中は暗く常人の視界ではまともに調べられ

 ないだろう。

 だが、僕は屈んでナイトビジョンに切り替ると、暗視補正機能によって

 ハッキリと見えている。

 

 ガチッ プシューッ...

 

 リスト・ブレイドのガントレットを取り外し、内蔵されている制御装置

 などを覗く。

 レーザーサイトから光波を照射し、スキャンしてみると数カ所の

 カバーの歪みと切断されてしまっている配線を確認出来た。

 この歪みでスリットから伸ばされるはずのリスト・ブレイドが擦れ、

 伸縮が遅れていたんだ。

 配線も切れていた事から切断面から伸びている電線の接触不良によって

 火花が散っていたと理解する。

 配線はともかく歪み程度なら直せると思い、僕は右脚の脹脛に

 備えているウォー・クラブを手にした。

 

 ビィィィィィィ...

 

 ...ジジジッ... ジジッ... 

 

 カンッ! カンッ! 

 

 高出力に設定したレーザーサイトをカバーの歪んでいる箇所に当てると

 熱していく。

 本来はリスト・ブレイドに付着している固まった血を落とすために

 使用するものだ。

 熱せられた箇所は赤みがかり始め、そこをウォー・クラブの刃が

 収納されていない反対側で叩く。

 その個所が平らになり、次の箇所も同じように熱していく。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 打ち上げをする店として、行きつけの店に来ていた。

 ロキが立ち上がって、咳払いをし高らかにジョッキを掲げる。

 

 「今日は宴や!飲めぇっ!!」

 「「「「乾っ杯!!!」」」」

 

 ガシャン!

 

 ロキが音頭をとり、一同は並々と酒が注がれているジョッキを

 ぶつけ合う。

 酒豪のロキとガレスは一飲みして、次を注文した。

 フィンが飲み終えたと同時に、隣に座っているティオネは間髪入れずに

 酒を注ぎ込む。

 それにベートはジョッキを持ったまま呆れていた。

 その3人の向かい側に座っているリヴェリアは静かにアルヴの清水を

 嗜んでいる。

 また、その隣に居るレフィーヤは自分が食べた料理をアイズに勧め、

 それをアイズは食べていた。

 そして、アイズの隣ではティオナが一心不乱に大皿に盛り付けられた

 料理を頬張っている。

 

 「んん~~~!ここの料理、ホント美味しいんだよね~」

 「ティオナ、喉に詰まらせんようにな。しっかり噛め」

 「うん!」 

 

 そう注意していたガレスにロキが飲み比べを持ちかけてきた。

 更に卑猥な権利を餌に他の団員も巻き込み始める。

 そんな中、2人の団員がジョッキを片手にアイズへ近寄った。

 

 「あの、アイズさん!」

 「お、俺達と一献していただけませんか!?」

 「え...えと...私は...」

 「ダメだよー。アイズに飲ませたりなんかしたら、面倒なんだからさー」

 「どーしてもってんなら俺に寄こせ。てめえらの酒なんぞ俺が飲み干してやる」

 

 ティオナが最初に2人を止めようとしていると、ベートが強引に団員

 2人からジョッキを奪い取って、宣言通り全て飲み干した。

 既に赤面しているところを見るに既に自身の飲める範疇を超えていたが

 無理をして飲んだのではないだろうか。

 レフィーヤがアイズに飲酒が出来ないのかを質問した。

 それにアイズは答えなかったが、代わりにティオナが答えた。

 

 「下戸っていうか、悪酔いなんて目じゃないっていうか...

  ロキが殺されかけたっていうかぁ」

 「はい?」

 「ティオナ、お願い...それ以上は、やめて」

 「あははっ!アイズ顔赤~い!」

 「ティオナさん!」 

 

 アイズの顔に抱きつくのをレフィーヤに注意され、ティオナは仕方なく

 離した。

 ふと、ティオナは店内を見渡した。様々な種族が飲食を楽しんでおり、

 その中にあの人物が居ないか探してみたのである。

 それに気付き、アイズが首を傾げながら声をかけた。

 

 「ティオナ、誰か探してるの?」

 「あ...ちょっと、ね。こう銀、っていうか鋼色の仮面を着けた...」

 「仮面...?」

 「店内で着けている人はそう居ないと思いますが...

  その方がどうかされたんですか?」

 「ううん!何でもないよ!気にしないで」

 

 それ以上の事を話すと、危うく答えそうになったので適当に

 はぐらかした。

 アイズとレフィーヤは不思議そうにしていたが、誰かが思い出したかの

 ように、例の件を口にした。

 

 

 歪んでいた箇所を再度スキャンし、少しは正常な形状に整えられたと

 確認する。

 カバーをガントレット本体に嵌めこみ、動作確認をした。

 

 ジャキンッ

 

 バチィッ...

 

 ラグは解消された。火花はやはり散るが、動作に問題はない。 

 僕は立ち上がってスカーに戻るよう伝える。時間はかなり経ったようで

 既に夜空が広がっていた。

 夜は僕らにとって、自由に動け回れる時間だ。

 クローキングは解除しないが、昼間より人通りが格段に減っているため

 屋根を伝って

 走る事はせずに道を歩ける。

 僕が先を歩き、その後をスカーが2人分の間を空けて建物と建物に

 挟まれている、少し狭い道を歩いていた。 

 

 「何が捕食者だってんだ!笑わせんじゃねえよ!」

 

 通り過ぎようとしていた建物の一角で一際目立つ声が聞こえた。

 捕食者、という言葉が聞こえたが気にせずにいた。

 

 「言っただろ、姿を消してんのは雑魚が怖えからだ!優勢どうのとか関係ねえ!

  武器にしても楽して勝つ手段に過ぎねえんだよ」

 

 立ち止まり、その場で建物の中を覗く。

 少し遠方に拡大し、誰が言っているのかを探す。

 ...見つけた。あの狼だ。

 

 「お前らを助けに行ってたアイズは無駄骨喰らったんだぞ? 

  文句の1つくらい言ったっていいんだぜ、アイズ」

 「そんな事、全然ないです...皆が助かったなら...」

 「ケッ...俺はあんな奴らのやり口なんざ反吐が出る...」

 

 ...僕らの狩りを貶すのか...?

 我が主神がお教えくださった掟を侮辱しているのか...?

 

 「主神がどんだけ甘い奴か、想像もつかねえーな。

  武器頼りの軟弱な雑魚にしちまってんだから、ロキよりも酷えだろうけどよ」

 「ちょ、さり気なしにディスってるやん!?」

 

 ...我が主神を罵った。間違いなく、ネフテュス様を...

 

 「ベート。それ以上口を開けば、わかっているだろうな」

 「うるせえ。とにかくだ、感謝だの礼だの俺は願い下げだ。

  ま...あのまま下に潜って死んだってのなら...

  笑えるけどなぁッ!!カハハハハハハハハッ!!」

 

 ...スカー。わかってる。

 ...戦利品にもならない、愚かなアレは許されない。

 ...生皮を剥いで吊るしてやる


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