【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
暗闇の中で浮いている様な感覚。
自分の鼓動さえ全く聞こえない無音の中に居る、とティオナの意識は
虚空へ沈んでいく。
目を開けていても何も見えないのは変わらない虚空の中で、誰かの
声が聞こえてきた。
聞き覚えのある...いや、日常で常に聞く自分の声が。
[あれ?捕食者に負けっぱなしで終わっちゃうけど...
あたしはそれでいいの?]
自問自答しているのだとわかり、ティオナはすぐに答えようとするの
だが、迷いが生まれ口を閉ざす。
恐らく気を失っているであろう自身の体はボロボロで動けなくなって
おり、スキルが発動しない限りは立ち上がる事さえ無理だと思われる。
捕食者に立ち向かった所で勝機は無い。
[ふーん...ここで立ち上がらなかったら、今度こそ会えなくなるよ?]
それだけは絶対に嫌だ、とティオナの意識は拒否する。
諦めたくない。負けたくない。後悔したくない。
嫌いになってほしくない。
様々な想いがティオナの思考を巡りやがてそれは一筋の光へと
変わった。
沈んでいた感覚が消え、いつの間にか足が地に着いておりティオナは
立っていた。
あの光へ向かって行けばいいのかと考えていると、不意に背中を誰かが
押し、前進させられる。
[じゃあ、ティオネに言った期待を裏切らないで...頑張りなよ]
振り返った時にはフッとその姿は虚空に溶け、一瞬で消えた。
ティオナは頷いて答え、その光へと向かって行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「...っ!...ッハァ!ハァッ...!」
...僕は改めて思った。彼女は強い、と。
あの一撃で倒れなかったのは流石だ。
普通なら半身の麻痺や、激しい頭痛と嘔吐で立つのは難しいはずであり
腕部裂傷からの出血多量で目眩も含めれば、人体の構造上そうなるのも
不思議じゃない。
それでも...ティオナという少女は立ち上がった。
目眩の症状が現われているようで片目は薄く開かれ、今にも倒れそう
だが立ち上がっている。
「ま...だ、やれるよ...ま、だ...!」
...なら...倒れる前に言っていた通り、全力を見せてほしい。
僕は足元に落ちていた彼女の得物である大型のダブルブレードを拾い、
投げ渡した。
受け取るとティオナという少女は深呼吸をし、構えようとする。
しかし、片腕が上手く動かない様で片手のみで持つ事にした様だ。
...情けをかけるか。
これで二度目だが、今回で本当に最後だ。
ガリッ ガリッ
僕はバトルアックスを地面に突き立て、ガントレットに隠れていない
前腕の掌側にアックスブレードを当てると、深く切り傷を入れる。
鮮血が噴き出てビリビリとした、腕部が麻痺していく感覚が起こり
始める。
腱が通る箇所を切ったので、僕も指が動かなくなった。
ティオナという少女は一連の行動に驚いていた様子だったが、
バトルアックスを片手で握るのを見て、僕が情けをかけていると
気付いたようだ。
「...そこまで合わせてくれたからには...負けないよ!
絶対に...絶対に掠り傷だけでも、つけてみせるんだからっ!」
『...ヴォォォオオオオオッ!!』
僕は彼女の威勢に答える。
互いにどちらからともなく接近し、それぞれが持つ得物をぶつけ
合った。
火花が飛び散る程の力を、片手だけでも発揮するのかと驚くが、すぐに
体勢を立て直しながら踏み止まる。
透かさず彼女が仕掛けてきた飛び蹴りを回避し、バトルアックスを
横に振るった。
「っと...!」
ガギィンッ!
屈んだ所に右脚を軸にした左足の回し蹴りでティオナという少女の肩に
叩き込もうとしたが、手首から先が動かない腕によってガードされる。
足蹴りが直撃した腕の裂傷部から鮮血が僕の仮面や地面に飛び散った。
「ぃ゙、っ...!く、んぬぅうっ!!」
痛みで顔を歪ませつつ僕の足を払い退け、大型のダブルブレードを
振り翳し、勢いよく振るい下ろす姿勢を取った。
僕はリスト・ブレイドを伸ばしてから地を蹴り、ティオナという少女に
体当たりで距離を詰め、斬撃を阻止する。
メキィ...!
「ぐぶっ...!?」
右肩の装甲を鳩尾にめり込み、彼女は肺の空気を唾液と一緒に
吐き出して体を硬直させる。
僕は右腕の肘を引き、リスト・ブレイドを死角から腹部に突き刺そうと
したが、硬直が解けた彼女は大型のダブルブレードで僕が身に纏って
いる鎧の背中側を叩き、反動で頭上へ跳び上がる様に回避した。
振り向き様に突き出される大型のダブルブレードをバトルアックスの
斧刃の面を押さえながら受け止めるが、膝を蹴られ体勢を崩される。
その隙を狙い、彼女は大型のダブルブレードを背後へ投げ飛ばすと
握り締めた拳を振るってくる。
僕は敢えて頭突きの要領で威力を弱めさせ、受け止める事が出来た。
痛みを堪えきれず、ティオナという少女は水を払う様に拳を振りながら
後退し、僕と距離を取った。
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「っ...ぁ、動いた...まだ、大丈夫...」
ティオナは手に罅が入っていないか確かめ、戦えると判断する。
先程投げ飛ばし、足元に落ちている大双刀をその手で掴み取って
構え直す。
捕食者は前方で待ち構えており、ティオナと同じ様に戦う気満々で
いた。
「(...すっごく強い...
さっきはああ言ったけど、掠り傷さえ付けられそうにないかも...)」