【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「(多分、スキルはどっちも発動してるはず...
それなら、もう我武者羅になってでもっ!)」
ティオナは捕食者へと接近するとなるべく隙が出来ないよう、縦横に
小さく動いて大双刀を振るい捕食者が受け止めるとローキックで膝を
蹴りつけ、また姿勢を崩させた。
どれだけ強靱な肉体であっても、関節を狙って動きを止める事は
有効的な攻撃手段である。
少し前にも同様の手段が成功したので、上手くいけば一発逆転を
狙う事が出来るかもしれない、とティオナは考えていた。
今度は拳ではなく、蹴った方の足を軸に反対の脚で無防備となっている
左脇を蹴った。
足蹴りを受け、捕食者は僅かに体を揺らす。
それを見てティオナは初めての手応えにやってやった、と喜びを露わに
するかの様に笑みを浮かべた。
「(どうだっ!)」
カカカカカカ...
捕食者は低い顫動音を鳴らし、どこか喜々としている様に思えた。
一歩後退すると足払いで大双刀を弾き、間合いを取って巨大な斧を
アッパーをするかの様に振るい上げてティオナに斬りかかる。
体を仰け反らせるティオナを逃さまいと肩の重砲から、青白い光弾を
ティオナの背後へ撃った。
ドオォォンッ!
「うわっ!?」
爆風によって強制的に前へと上半身が押し出されるティオナは、慌てて
大双刀を先程と同じ動作で攻め込もうとする。
もっと素早く仕掛けようと捕食者が受け止め、膝を蹴ろうとする。
だが、捕食者はティオナが狙っていた脚を滑らせるように後ろへと
動かし、回避した。
驚くティオナだが、それは偶然避ける事が出来たのではない。
学習及び記憶力はどの生物にも備わっており、今、ティオナと
対峙する人間の捕食者も例外ではなく、どの様に動けばいいのかを
最適な方法で対処する事が出来る。
捕食者は大双刀を下へ弾き返し、腕を下ろさせると巨大な斧の石突を
左肩の下、正確に言うと腕部分へ叩き込んだ。
ゴキャッ...!
「っ!アァアァアアアアアアアアッ!!」
上腕骨頭に直撃した事で、関節窩から外れ脱臼した。
激痛にティオナは膝を折るが、幸いな事に手が動かない方の
腕だったので大双刀を離す事はなかったが、これで完全に片腕のみで
戦う事になる。
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恐らくあれから10分...いや、30分以上は経っているかも
しれないか?
ともかく、それだけ長い持久戦となるのは予想外だった。
既に手を濡らしていた血も乾き、裂傷部からの出血も勝手に
止まっていた。
「ぐ、ぅぅっ...!あ、ぐ...!」
それはティオナという少女も同じ状態だが...心拍数が最初よりも
異常に増加してきている。
失血した血流量を維持しようとする働きによってだと思われる。
脱臼させたのもあるから、これ以上は命に関わる。
本気にさせてみたかったが...死んでしまっては意味がない。
僕は柄の根元である石突部分を握り、脱臼させた肩側の方へと
回り込んで即座に接近していく。
ティオナという少女は僕に近接攻撃をさせないようにするためか
歯を食い縛りながら、僕の方へと向かってきた。
僕は足を止めないまま、肩を突き出し体当たりを繰り出す。
ドガァアッ!!
「ぐ、ぬぅうッ...!」
『ヴオ゙ォ゙オ゙オ゙ッ!』
脱臼して激痛を伴っているはずだが、彼女はそれを物ともせず
体当たりしてきた僕を受け止めた。
互いに肩を押し込む持久戦になるのは避けたいと思い、僕は背後へ
回ろうと算段を考える。
その時、彼女が持つ大型のダブルブレードの丸い切っ先が足元に
刺さったのを見て咄嗟に足を移動させた。
...ザクッ
鋭い痛みが走ったのを腕から感じた。見ると、小さな傷が出来ている。
彼女が何かをしたのかと思い、拳を見て僕は驚く。
脱臼したはずの腕が動いており、指が動かなくなっていた手も拳を
握り締め、人差し指と中指の間から覗く針の様な物体を挟んでいた。
...ステープルだ。まさか、あれを手持ち様の武器として使うとは...
僕もあの時は角の生えた兎を狩るために射撃として使ったが、そうして
使う発想は中々思いつかないと思った。
肩の脱臼も先程の体当たりで肩同士がぶつかった事により、上手く
嵌め込まれたんだろう。
指も恐らくは、気力か魔法で曲げたのかもしれない。
...見くびっていた訳ではないが、掠り傷は付けられた。
これで終わりにしよう。
彼女を後退させる様に押し退け、プラズマをガントレットから介して
エネルギーセーバーに蓄積させる。
青白い発光体がアックスブレードを包み込んでいく。
「(あれって...!?やばっ!)」
ティオナという少女は得物を横向きにして前へ突き出してくる。
以前にも見た事があるので、防ごうとしているのだろう。
だが...甘く見るんじゃない。
僕は振り翳したバトルアックスを勢いよく振るい下ろした。
バ ギ ィ ィイ イ ンッ!!
大型のダブルブレードは柄部分から真っ二つに切断される。
どれだけ硬質な素材で作られた武器であっても、僕らの武器なら
容易く切断や粉砕も出来るんだ。
「な、ぁ...」
ガチッ! ギリギリギリギリ...!
「っ...!っ!」
驚く彼女を余所に僕は背後へと回った。
彼女は逃れようと前へ動こうとするが、そうはさせない。
バトルアックスを死角から首へ回り込ませ、アックスブレードの隙間に
腕を引っ掛けるようにする。
石突から柄の部分に手を移動させて握り締めながら、引っ掛けている
腕を引く事で首は絞め付けられる。
このまま落せば...っ
ド タ ァ ア ンッ !
ティオナという少女は抵抗しようと、地面を蹴り僕が背中側へと
倒れる様に押し倒した。
まだこれだけの気力を見せるのか...。
仰向けの状態のまま首を絞める僕に肘打ちをしてくるが、やがて力が
入らなくなっていく。
そして、最後の一突きが腕に当たったと同時に彼女の後頭部が僕の
ヘルメットの上に乗る様に落ちた。
...見事だった。
彼女をゆっくりと僕の上から下ろし、僕は起き上がると屈んだ状態に
なって彼女の両足首を掴み足を伸ばしたまま持ち上げる。
数秒後、深く息を吸って息を吹き返した。
状況を飲み込めていないのか、呆然と仰向けのまま動かずにいる。
ゼノス達はいつの間にか静まり返っていて、まるで凍っている様に
なっていた。
すると、通路から誰かが声を掛けながら出て来た。リド達だ。
「おーい!グロス!連れてきたぜーっ!」
「...。...アア。ソレナラ、早ク傷ヲ癒シテヤレ」
「ああっ!マリィ、ちょっとだけチクッとするぞ」
「うん。わかった」
リドというゼノスはマリィと呼ばれる人魚の少女のゼノスの指先に、
爪を少し刺して血を滲ませた。
人魚という事は、あの血液による治療を施すつもりなんだと思って
いるとラウアというゼノスが近付いてきた。
「捕食者。その子をあそこに運んでもらえるかしら?」
カカカカカカ...
僕はラウラというゼノスに入れた通り、ティオナという少女を
運ぶために彼女を横抱きで抱え上げる。
彼女は突然の事に驚いていたが、僕に抱き抱えたられていると気付く。
「...あはは...負けちゃったなぁ...
やっぱり強いね、君って...」
カカカカカカ...
それは僕の台詞でもある。そちらも強かった。
リドというゼノス達の元へと歩み寄り、ティオナという少女を
寝かせる。
マリィというゼノスはその指を彼女の口内へ差し入れた。
すると、全身が淡い黄緑色の光に包まれ傷が塞がっていく。
やはりそういった治療法か...僕もしておこう。