【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
捕食者とティオナの勝負が終わった頃、27階層にある巨大な
滝壺にて、アイシャやイシュタル・ファミリアに所属する数人の
バーベラ達が下層の階層主であるアンフィス・バエナと応戦していた。
正確には、捕食者達の狩りを見ていると言った方が正しいだろう。
蒼い炎の息吹を吐き出す筈の2つの口は、矢が深々と引っ掛かるように
突き刺さって開口出来なくさせられており既に全身の裂傷部から血を
噴き出している。
フォシュンッ! フォシュンッ!
ドゴォオオオンッ!! ドゴォオオオオオンッ!
その裂傷部に容赦無く青白い光弾が命中した事で大穴を開く。
アンフィス・バエナは口の端から悲鳴にも似た咆哮を漏らし、
グレート・フォールを昇って上層階へと逃げようとする。
だが、激しく落ちてくる水流の中を赤い線が走っているのに片方の
頭部が気付き避けようとするが、もう片方の頭部は気付くのに遅れ、
その赤い線に触れた途端上顎と下顎を境に真っ二つに裂ける。
それによって重心が崩れ、アンフィス・バエナは滝壺へと真っ逆さまに
落下していく。
ザシュッ!
ズ バ バ バ バ バッ !!
落下する最中、突如として首と胴体を繋ぐ部位から頭部まで縦状に
斬り裂かれる。
頚髄と脳幹が機能しなくなった事により絶命したアンフィス・バエナの
死骸は滝壺に落水し、プカプカと水面に浮かんだ。
バーベラ達は歓声を上げ、トドメを刺した捕食者を賞賛する。
「やっぱり強えなぁ!俺らでもやっとだったってのに」
「ホントね。あぁ...疼いてきた...」
「ちょっと...流石にここはマズイから戻るまで辛抱しなさいよ。
...まぁ、気持ちはわかるけど」
と性欲的な眼差しを捕食者達に向ける仲間達を放って置き、アイシャは
ケルティックに近寄る。
彼女も又、同じ感性を持っているため、その逞しい肉体に指を這わせ
ながら恍惚の微笑みを浮かべていた。
「流石だよ、ケルティック...
あたしも火照りをちょっと収めたいから、リヴィラの街にある宿で...いいかい?」
カカカカカカ...
「ふふっ...ありがとう。
皆!魔石とドロップアイテムを取って18階層へ戻るよ!」
「「「はーい!」」」
引き上げたアンフィス・バエナの死骸から魔石を抜き取った事で
滑らかな白色をした無数の鱗と竜胆を獲得した。
更に、狩っている際に呼び寄せられたモンスターからも多数の魔石や
ドロップアイテムを入手し、アイシャ達は満足な収穫を得た様子で
18階層へと登る事にした。
「...18階層へ向かうつもりだ」
「その前に仕留めるぞ。全員殺せば...報酬は上乗せされるからな」
――――――――――――――――――――――――――――――――
蒼色の水晶で覆われた広大な通路を進んで行く道中、バーベラ達は
今回の収穫で換金の額がどれほどになるのか和気藹々と話しており、
アイシャはケルティックの隣を歩いている、様に少し後方へ離れて
歩いていた。
腕に抱きついているようだが、姿が見えないため少し不自然な姿勢で
歩いている様に見える。
しかし、唐突にケルティックが足を止めた事で腕を離してしまい、
アイシャは眉間に皺を寄せつつ振り返りながら不機嫌そうに答えた。
「急にどうしたんだい?抱きついてるのが嫌なら丁寧に」
フォシュンッ! フォシュンッ!
「っ!?」
突如として捕食者達が四方八方へ向かって青白い光弾を発射した。
1本道となる通路の両端は盛り上がった出っ張りのある崖状となって
おり、それが破壊される。
粉砕された水晶と一緒に、何かがドチャッと異物と一緒に落ちる水音を
立て落ちてきた。
アイシャはそれを見ていち早く、ザーガを構え仲間達に指示を飛ばす。
「襲撃だッ!武器を取りなッ!拳を固めろッ!」
バーベラ達は大剣、メイス、ハルバードに拳を覆うナックルダスターを
装備し警戒態勢に入った。
粉末状となった水晶の霧が晴れた瞬間に黒い影が一斉に飛び出し、
アイシャ達に襲いかかる。
黒い影の正体は、その見た目通り黒装束を身に纏った黒一色で
イヴィルスの使者とは対を成す様な襲撃者達だった。
中には防護を重視した鎧を着込んでいる者も見受けられる。
「(アイツらは一体...!?)」
襲撃者達に見覚えがなかったが、アイシャは自分達が狙われているのは
間違いないと、只ならぬ殺気で勘付く。
捕食者達は青白い光弾で降下中と着地時に数人を射殺し、接近しようと
してくる襲撃者達を投げ飛ばした円盤や6枚の鋭い刃が備わった物体で
横並びになっている所を斬首した。
隙を狙い、捕食者達の攻撃を掻い潜って接近した襲撃者はアイシャ達が
対処している。
襲撃者達のほとんどは片手剣やナイフを手にしており、重厚な鎧を
纏っている者は両手の鉤爪による攻撃で襲いかかってくる。
片手で扱う武器に対し、大型の武器では小回りが利かず対処し難いと
思われるが、アマゾネス特有の高い体術で斬撃や刺突などを回避や
武器で受け止めたりなどして、同時に足払いや股間を狙った足蹴りで
姿勢を崩させた隙を狙い、襲撃者の頭部や胸部、鳩尾などを的確に
強打して撲殺する。
「アイシャッ!こいつらかなりの手練れだ!
どっかの暗殺者かもしれない!」
「なら、裏切ったって事はバレたって事だね...
1人は生け捕りにして後は残らず息の根を止めるんだよ!」
そう指示を出した瞬間、背後から接近してきた襲撃者のナイフによる
攻撃を回避し、別の方向から現われた襲撃者に同士討ちさせる。
屈んだ姿勢でアイシャは利き足を軸に回転すると、横向きに構えた
ザーガで背後の襲撃者の胴体を斬り裂く。
立ち上がって同士討ちされた襲撃者の傷口を見て異様な事に気付く。
刺されたとはいえ、心臓まで達する程の刺傷ではないはずだが、その
襲撃者の出血は明らかに異常なまでに多量だった。
アイシャは武器に何からの細工をしていると睨み、仲間達に注意を
促した。
「そいつらの武器は小細工が施されているよ!
掠り傷だからって嘗めてたら死ぬからね!」
それを聞いたバーベラ達は自身の傷口が確かに塞がっていない事に
気付く。
1人を残して、手早く全員を仕留めなければならないと悟った。
しかし、捕食者の先制攻撃によるおかげか既に半数以上が減っており
残るは数人程度となっている。
このまま押して行けば仕留められる、とバーベラ達が思っていた矢先、
襲撃者達は攻撃を止めた。
アイシャが訝っていると、突然襲撃者達は背を向けて走り去ろうと
した。
「逃げる気かいっ!?そうはいかないよっ!」
「待ってアイシャ!レナがマズイかも!」
「何だって...!?」
リーシャに止められ、レナの元へと急ぐ。
その間にケルティックが捕食者の1人に指示を出して、襲撃者達を
追跡させた。
「レナ、傷はどこだい?」
「よ、横っ腹のとこっ。うぅ...
アンチ・ステイタスで油断しちゃって...」
傷口は10Cの切り傷で皮膚の断面が見える程の深さだった。
バーベラの1人が急いでポーションを掛ける。
しかし、一時は塞がるもすぐに傷口が開いて出血し始める。
それにアイシャやバーベラ達は驚き、すぐにも地上へ戻るしかないと
判断した。
すると、捕食者の1人が姿を見せてレナに近寄ってきた。
手には見た事のない器具を持っている。
「それで治せるっていうのかい?」
アイシャの問いかけに捕食者は器具の底にある突起を押すと、透明な
液体が先端部から溢れ出てきた。
地面に落ちるとジュウッと小さく煙を噴き、高熱を発している事が
わかる。
それで止血出来るのかどうかはわからないが、アイシャは捕食者の
治療に賭ける事にした。
「...レナ、歯食い縛っておきな!」
「っ!」
「動かさないように手足を掴んでおいて」
ケルティックと別の捕食者が手足を掴んで拘束し、レナは歯を
食い縛って見ないようにと視界を傷口から反らす。
鼻孔で深呼吸をしながら数秒も経たない内に、信じられない程の
激痛が横腹の傷口に走った。
ジュウウウウウゥ...
「あぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!」
「レナ!」
「耐えるんだよっ!死ぬよりマシだろっ!」
アイシャの言葉が聞こえたのか、レナは首を左右に激しく振って
激痛に耐えようとする。
捕食者が傷口を塞ぎ終えたと同時にレナは気を失ってしまった。
バーベラ達が呼び掛ける中、アイシャは冷静に傷口が開かないかを
確認する。
透明な液体によって出血面の皮膚と血が焼けた事で、傷口は密閉され
開く気配もなかった。
「リーシャ!イライザ!死体だけど1人、それと武器を数本持って行くよ。
【戦場の聖女】とヘファイストス・ファミリアなら何かわかるはずだからね!」
アイシャはレナを背負い、リーシャとイライザに襲撃者の死体と武器を
確保させる。
ケルティックから捕食者の1人に追跡させたと身振りで伝えてもらい、
それを把握したアイシャは任せる事にして地上へと急いだ。