【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「...んうっ...?」
「キューッ!」
「ふぶわ!?」
目を開けた途端にティオナの視界が何かに覆われ真っ暗となる。
顔面にはモコモコとした感触が押しつけられており、思い切り首を
左右に振っても取れない。
ティオナはそれを手で掴み、引き剥がしてみると顔に貼り付いていた
その正体はアルルだった。
「キュキューッ!」
「い、いきなり何するのさ!?」
「あ、お目覚めになったんですね。地上の方」
真横から聞こえてきた声にティオナは顔を振り向かせる。
器用に小翼羽でジョッキと葉っぱで包んだ物を持ったフィアが
隣へ座り、ティオナの傍に置いた。
「えっと...あたしはティオナでいいよ」
「では、ティオナさん。私の事はフィアと呼んでほしいです。
それから、どうぞこちらを召し上がってください」
「あ、ありがとう...」
フィアが葉っぱの包みを解くと、中には色取り取りの木の実が山盛りに
入っていた。
火で通さず、新鮮なままであるのだがそれを気にせずティオナは
大きめの赤い木の実を取って一口食べる。
「ん...美味しい...!」
「お口に合ってよかったです。
まだまだ沢山ありますから、沢山食べてくださいね」
「うん!あぐっ、んむ...!」
ティオナはフィアの言う通り、食べる口と手を止めず一心不乱に
木の実をガツガツと食べた。
時折、喉を詰まらせて咽せたりするとフィアが水を薦めて背中を
擦ってあげていた。
やがて山盛りだった木の実が半分以下までになると、ティオナは
息をついてフィアに話しかける。
「...あたし、負けちゃったんだよね...?」
「そう、ですね。で、でも、すごく頑張っていましたね!
捕食者が認めている方なだけはあると思いました」
「...そっか。ありがとう」
負けたからには強いと認めてもらっていた事も無しになる、と思って
いるティオナは、浮かない表情となっていた。
すると、どこからともなくネフテュスが現われてティオナは驚きつつも
何かを覚悟したかのように座り直す。
ネフテュスはフィアに2人きりで話したい、と伝えてフィアを
その場から外した。
『目覚めたわね、ティオナ・ヒリュテ。
...あの子に負けてしまったわね』
「...うん...これで、もう会えなくなっちゃうんだよね...」
『ん?何の事かしら?...あ、もしかして...
負けたから、ペナルティがあると思っていたの?』
「え?あ...う、うん。一応、そう思ってたけど...」
ネフテュスはそう答えたティオナにクスリと細く笑みを浮かべる。
『大丈夫よ。今回は戦いであって、決闘の様に何かを賭けた訳でもないし...
第一、あの子は改めて貴女の事を強いって思ったそうだから』
「ホ、ホント?...素直に喜べないけど...
ガッカリさせてなかったなら、よかったかな...」
ティオナは木の実を摘まんで、口の中へ放り込む。
安堵して食欲がまた湧いてきたのだろう。
そんなティオナにネフテュスは問いかけた。
『ねぇ、ティオナ・ヒリュテ。貴女はあの子の事...
どう思ってるのかしら?』
「...ど、どうって...
あたしより強くて、今は勝てそうにないなって思うけど...?」
『そう。...それ以外には?例えば...欲しい、とか』
ティオナは咀嚼を止め、ネフテュスを見る。
視線を自分に向けてきたティオナにネフテュスは悪戯を楽しむ様に
微笑みを浮かべて答えるのを待っていた。
「...欲しいってどういう意味?」
『そのままの意味よ。アマゾネスは強い雄を求めるのでしょう?
だから...貴女もあの子を欲しいと思ったんじゃないかと思って』
「...うん。欲しい、っていうより好きになったって思ってはいるよ。
友達に相談して教えてもらったから」
『あら、そうなの?ふーん...それはいつからなの?』
「数日前。オリヴァスを倒した時に自然と...」
――――――――――――――――――――――――――――――――
僕は少し離れた空洞で休んでいた。
ゼノス達は宴をしていて、楽しげな笑い声がここまで聞こえてくる。
手当てした傷口に触れる。少し熱を持っていて、疼く様に感じた。
...思ってた通り彼女は強く、僕に傷を負わせた。
決闘だったら、もっと全力を見せてくれると思うが...
すぐにとは言わない。僕にも休息が必要だからだ。
ピピッ ピピッ
その時、誰かが近付いてくるのに気付き僕は起き上がる。
クローキング機能で姿を消し、空洞に入って来たのが誰なのか
確かめるとすぐに姿を見せる。
正体はティオナという少女だった。
「...えっと、傷の方はどう?大丈夫?」
...カカカカカカ
「そっか...
あたしもマリィってマーメイドの子に手当てしてもらってたみたい」
...つい数時間前に見ていたはずの覇気が、彼女から一切感じられ
ないように思えた。
僕に負けた事がそんなに悔しかったんだろうか...?
「隣に座っていいかな?」
僕は頷く承諾する。
ティオナという少女は背を向けた状態で隣に座ってきた。
それから、しばらくの間ゼノス達の笑い声が聞こえる程の
静寂が訪れた。