転生特典として世界最強の魔法を選んだけど、まさかネタ魔法扱いされてるなんて思わないよね? 作:苺1円
まるで案山子のようだと言われてもおかしくはないほどに何か動作をするでもなくひたすらに棒立ちを続ける僕へ向けて、しばらく躊躇していた相手方は一度ゆっくりと息をはきだすと覚悟を決めたような面持ちで、ある程度の加減はあるだろうが、それでも当たればひとたまりもないことが容易に想像できる力の込めた剣を振りかぶり……僕めがけて振り下ろす、続けざまに行使される剣技にぎこちなさなどなく、幾度も振るってきた代物だろうことが伺い知れる、そして剣の重さに振り回されている様子もないことから女性だからと物理関連の能力値を甘く勘定するべきではないと考えを改め直す僕ではあるが……
いくらなんでも目前の光景には絶句せざるえない
それは相手を絶対に勝たせるという意志が透けてみえる八百長か、もしくは剣術の美しさを見せるために相手へ攻撃を当てないことを意識した演舞のように、ただひたすらに振るわれる剣は空を切る
当たればひとたまりもないという命中する前提の思考が当然のように否定されている現状になんとも言い難い感覚を覚えた、擬音で表現するならモヤモヤする、という具合に
何せ僕は相手が剣を振るう覚悟を決めていない段階からすでに動く素振りすら見せていないし実際に動いていないのだから、もはや不自然さすら感じる空振りにどんな感想を抱けばいいのか検討がつかない
当事者から見ても不思議な光景は傍から見れば遊んでいるようにしか思えないだろうという評価をもって相手を見やれば、自身の視線がひどく冷たいものになっていることを自覚することができる、事前に聞いていたがここまで酷いとは思わなかった、そんな意図が込められた僕のアイコンタクトを終了宣言として相手はこれまで振るっていた剣を手元に戻して………
「はぁはぁ、どうだろうか?」
疲労による息切れなどではなく先程の視線が原因だろうか?明らかな興奮による息遣いから、クリスから聞いていた少し変わっているが、という言葉を全力をもって否定したい衝動に駆られるのは別に間違っていないはずだ
どうしようもない変人、というか変態に投げかけられた疑問の答えなんて特に考える必要すらなく決まりきっており……
「壁扱いでいいなら」
「それでも問題ない、いや、ぜひやらせてくれ!」
そんな僕の割と尊厳を無視した発言にも鼻息を荒くして喜ぶ変態には、遠慮なんて単語を忘れて接しても問題ないような気がする今日このごろ、数時間前に臨時パーティについて悩んでいた僕の臨時メンバーがこれで大丈夫なのか、また別の不安が脳裏をよぎるのだった
………数時間前………
「私のことはダクネスと呼んでくれ」
呼んでくれ、という言葉選びにわずかな違和感を覚えた僕だが、特に気にすることでもないため相手の名乗りに返答するような形で自身の名前を告げる
依頼書が貼られたボードの前では邪魔になるだろうと食事で賑わう昼時でもなければ酒が進む夜中でもない中途半端な時間帯のおかげか空いている酒場の席へ移動して対面に座っている僕達だが、何も頼まないのに場所を借りるというのはいかがなものかという余計な日本人精神が働き、何か頼もうと思いメニューを手に取ろうとしたところで……面倒なので放置という結論を僕の脳は弾き出した、日本人精神とはなんだったのだろうか
「こちらから話しかけたのだから、多少なら好きなものを頼んでくれても構わないが……」
僕がメニューに手を伸ばした様子を見ていたダクネスの気遣いだろう言葉ではあるが、クリスに多量の恩があるのにその知り合いにも恩を増やすなんて論外である、そんな他者の厚意は素直に受け取るべきという思想に真っ向から喧嘩を売るような理由と、おまけのようなものになってしまうけれど頼みたいものが思いつかないという理由もまた事実である
「そうか?なら早速本題に入ろうと思うのだが……」
特に遮る理由もないためどうぞと続きを促しつつ手持ち無沙汰を解消するように呪いの剣へ手を伸ばせば、ジャイアントトード討伐制限が出る直前に平原に突き刺すことで捨ててきたのにすでに帰ってきていることが確認できた、やはりあとでどの程度の速度で帰ってくるのかなどの検証は必要な予感がする、ただ今はまだ思考の海に潜る時間ではないとダクネスの話へ耳を傾ける
「パーティを、組んでくれないだろうか?」
却下、反射的に僕の口から飛び出た言葉に若干驚くような表情を見せたダクネスが一応理由を聞いてもいいだろうか?とおそるおそる問いかけてくるが、別にダクネスに非があるというわけではないのだ、それこそ、先程パーティを組むのに重要なことを考えたばかりなのだから……
「前提として、クリスさんという共通の友人がいるというのは間違いない事実ですが、それだけです、僕は別にあなたに命を預けられるほどの信頼がない」
どうにも返答が冷たくなってしまうのは仕方ないことだろう、命の問題というのは、それほどに重く受け止めるべきものなのだから、ただ予想外だったのは……
その言葉を受けたダクネスが、悲しげな表情を浮かべるでもなく、驚愕で顔を強張らせるでもなく、背中を少し強めに震わせたあとに恍惚とした表情を見せはじめたことだ
この瞬間、もしかしてダクネスは……という疑問が浮かんできたが、この世界にきてから割と頻度が増えた現実逃避気味の思考で強引に注目点を逸らす
まあ逸らしてもなお次の言葉を告げるのに躊躇いがうまれた僕はなんら正常だと思う
「臨時パーティなど、いかがですか?」
それでも言い放ったのは、ひとえに目下の問題、つまり金策について考えていたからに他ならない
「いいのか?」
「いいも何も、こちらからお願いしたいくらいです」
そうなのだ、例え目前の変態がダクネスだったとしても、いや逆だ、ダクネスが変態だったとしてもクリスから聞いていた話ではダクネスはクルセイダーという攻守一体の上級職についており、これ以上ない優良物件なのは間違いないのだ、おそらくは
「その…言いにくいのだが…」
そして唐突にはじまったダクネスの告白こそが冒頭のそれに繋がるものであり……
「私は、攻撃が当たらないんだ」
「少し考え直していいですか?」
その考え直した結果として、僕はダクネスが実際にどれくらい攻撃が当たらないのかを試したいからある程度本気で攻撃してほしいと提案し、戦闘しても問題ないよう二人で平原に場所を移すのだった
ダクネスの変人具合を表現しつつストーリーを進めるのは難しいという答えを作者は得たのだった、この先のストーリーも不安です