ドンモモタロウが童磨をオトモと認めるまでのアレコレ! 略してドン×どま! オンリーワンのハイブリッド鬼退治物語、満員御礼・大好評連載中…ドンドン行くぜぇ!!   作:マキシマムとと

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短編から連載に設定変更しました。
対戦ヨロシクお願いします!!




②【とんでもねぇエラーが】鬼滅の刃 第29話 那田蜘蛛山【に発生◇$■¶!!】前編!

 

 

「何故こんな事になる…!」

 

『絶賛閉店中!』の張り紙を表に、喫茶どんぶらの室内でマスターが一つの端末を睨み付けていた。

 

桃井タロウの帰還プログラムにバグが発生したのだ。

 

本来であれば有り得ない現象。

そもそもの話、いくらでも替えの利くお供を助けるために、誰一人として代わる者がいない【ドンモモタロウ】がエラー時空にインサートしたという、頭の痛くなる現実こそが有り得ない話なのだが、その原因の一端を担う以上、マスターに仕事を投げるという選択肢は無い。

 

わめき散らしたい心を切り離し、端末を。

その先に見える景色を睨んだ。

 

「童磨…厄介な奴め」

 

 

 

 

 

 

事の起こりは前話の終盤にまで遡る。

 

ハルカの恐ろしい恫喝と、それに震えた管理者のミスにより始まった一連の騒動。

それが終局し、円満に別れを迎えたその瞬間。

 

「よっと」

 

気負い一つ無く、当然のように童磨が光の扉を潜った。

 

「へ? えっ??」

 

胡蝶カナエの手を引いて。

 

「…は??」

「何ぃ?」

 

振り向いたハルカとタロウの驚愕は、あまりにも遅すぎた。

 

「どうした? 腹が減ったのかい?」

 

目映いアバター空間を背景に、ニコニコと擬音が見えそうな屈託のない表情で笑う童磨。

その彼の襟元を掴んでハルカが怒鳴った。

 

「な! ななな!? なんで付いてきてんの!?」

 

くっつかれて嬉しい。

そんな気持ちを隠すこと無く眉尻を下げ、童磨がへらへらと口を開いた。

 

「だってハルカちゃんが言ったんだぜ? 『人を助けろ』って、もちろん俺は可愛い可愛いハルカちゃんの言葉に従うけれど、どうせ助けるなら俺はハルカちゃんを助けたい。だってほら、君に見つめられるだけでこんなに胸がトキメクんだもの! 可愛い! 胸が張り裂けそうなほど愛おしい! こんな素敵な気持ち生まれて初めてだぜ! ハルカちゃん! 好きだ!!」

 

身長差を活かしてそのままハルカに抱き付く童磨。

 

「んぎゃー!! こぉんの、野郎ォ!」

 

ハルカ怒りのボディーブローが童磨の腹に突き刺さる。

ーーーその時。

 

けたたましい警報がアバター空間に鳴り響き、白と青のプリズムで構築された世界が一面赤に切り替わる。

 

【エラー発生】【エラー発生】【エラー発生】

 

【エラー発生】【エラー発生】【エラー発生】

 

黒と黄色の警告色で空間一帯を包む文字が浮き上がり、彼等を取り囲んで交錯しながら少しずつその範囲を狭めてくる。

 

「アレ? これ…もしかしてヤバいのかな?」

 

さりげなくハルカの腰に手を回す童磨と、その阻止に命を賭けるハルカの攻防。

 

「遊んでいる場合か!」

 

タロウが叱咤しながらドンブラスターを抜き放ち、足元にアバターゲートを作り出した。

 

「急げ!」

 

童磨を押し退けてハルカが、次にカナエがゲートに消える。

 

「どうした、早くしろ!」

 

タロウが童磨を急かし、大柄な彼を見上げた瞬間。

 

「ハハッ、やっぱりお前…嫌いだなぁ」

 

視線がかち合うだけでお互いの思考が読み取れる。

他者の思考を読む事など造作もないが、読みながら読み返されるとなると、タロウには経験が無かった。

 

見せ付けるように腕を組み、嘲笑を浮かべて目で喰らう。

 

「俺は確かに負けた」

 

じわりじわりと狭まる世界。

 

「それを否定する気はないんだぜ?」

 

次第次第に高まる闘気。

 

「けど、負けや間違いを犯したからって、それを諦める理由にしちゃ駄目だって、俺の女神が言うから」

 

赤子のそれより無垢な笑みで童磨が構え、剣の切れ味冴え渡る眼力でタロウが拳を握り締めた。

 

「お前の口上は好きだぜ? 『いざ、尋常に』」

 

「「勝負!!」」

 

先手を選んだのはタロウ。

身長は同程度。

しかし対格差を鑑みれば長期戦は不利となる。

そして迫り来る空間の消滅を思えば、待ち構える選択肢など考慮にすら値しない。

 

「やっぱり、殴りかたも様になってる」

 

穏やな童磨は、笑顔を浮かべたままその拳を受け止めた。

回避・防御…何れの行動も選ばずに。

 

「ぐ…ぉ!」

 

間違いなく、桃井タロウは天才だ。

常人とは違う瞳で世界を生きて、常人とは違う速度で世界の真理を解読して進む。

 

平和な世界に生まれ、拳で人を殴る経験が無くとも、ただテレビ越しに格闘技を眺めた記憶。そのたった一つの経験から最適で最高の武闘家としての極められた一撃を放てる。

 

(一撃で沈める!)

 

その意思を込めて放った拳は、

 

「…やるじゃないか。これは痛いぜ」

 

ーーーだが、と童磨が唇を舌で濡らした。

 

本来、人の拳とは物を掴むために機能する部位であり、それを握り締めて物質を叩くようには出来ていない。

だから拳を用いる格闘を主とする武闘家はその強化・鍛練を怠らない。

鈍器としての扱いのために、心血を注いで本来の在るべき機能を壊し、崩して再構築するのだ。

 

ーーー長い長い、年月をかけて。

 

「俺さ。鬼になる前も鬼になってからも、人を殴った経験は無いんだぜ? お前と同じで」

 

芸術的な迄に真芯を捉えた一撃のお陰だろう。

タロウの手は、その甲の骨に亀裂が入る程度の怪我で済んだし、殴られた童磨は僅かにその巨体を中空に浮かせた。

 

…だが、それがどうした?

 

殴った側がたたらを踏むほどの負傷をして、殴られた本人は飄々とこちらの様子を窺っているのだ。

生まれてこのかた経験の無い異常事態に、明晰な頭脳と堅牢な精神がどうしようもなく揺らいだ。

 

「だからお前は俺にとっても初めての人間になるわけだ! キッショク悪ぃな、ハハハ!」

 

機械のように意思の無い拳。

相手を憎まず、相手を尊ばず。

ただ殴るための拳がタロウの腹に突き刺さり、その身体をくの字に折り曲げた。

 

「う~ん、対格差ってのは正義だねぇ。我ながら恐ろしいぜ」

 

格闘家の観点からして、童磨の肉体は理想形に近い。

高身長になればなるほど、タロウがそうであるように自然と細く尖ったり、逆に肉が付きやすくなる。

 

だが童磨の筋肉は太く、しなやかで強靭だ。

鍛練すら必要とせず、本来の用途と違う『打撃』にすら対応し得る頑強を、骨にまで伝えて遺憾なく発揮する。

 

「…だけどこれ、長い間鬼だった補正が入ってるな。鬼補正? いくらなんでもこの肉体は強すぎる」

 

小鹿のように足を震わせるタロウ。

追撃に移る気配もなく、むしろ背を向けて数歩進み、距離を取った童磨が一対の鉄扇を大仰な動作で広げた。

 

「俺はお前を過大評価するつもりはないが、その逆もまた無い。公平にヤろうぜ? もちろん、お前が逃げ出したいのなら止めはしないが?」

 

眼前の脅威、差し迫る空間の消失。

 

彼がただの天才であったなら、無駄なリスクに片足を入れることなどしなかっただろう。

むしろ今後ドンブラザーズにとって危険因子となり得る存在をアバター空間に閉じ込めて抹殺する事すら有り得たかもしれない。

 

だが、彼は天才である以上に『戦士』なのだ!

あまねく歴代のヒーロー達の魂を受け継ぐ、男の中のドンブラコ!

 

【ドン・ドン・ドン・ドンブラコォ!!】

 

「アバターチェンジ!」

 

発奮興起!

 

『赤』のスーツに身を包み、ドンブラザーズが一党の頭。

【ドンモモタロウ】が現れ出でた!

 

《ヨッ! 日本一ぃ!!》

 

合いの手の言葉に恥じる事なきその勇姿!

ザングラソードを煌めかせ、一気呵成に攻め立てるぅ!

 

「くっ…フッ、、、ハハ!」

 

鬼の力を引き継いだといっても、あくまでもそれは本来の能力の一部に過ぎず、また一世紀に近い長い年月を『鬼』として存在していた童磨にとって、人間の肉体は重すぎた。

 

そして、何よりもーーー。

 

「どうした!? その程度で俺を煽ったのか!」

 

タロウがあえて殺意を乗せた致命的な剣線だけを鉄扇で弾きながら、しかしその肉体には無数に細かな斬撃の印が刻まれる。

 

「ハハ、少ぉし不味い…かな?」

 

首と日光以外に明確な弱点を持たず、損傷など一瞬で消え去ってしまう鬼の肉体に慣れきり、それを前提としている童磨の戦闘スタイルそのものが、この場において致命的な過失となっていた。

 

「ゼィヤぁ!!」

 

上段からの打ち下ろし。

抜刀状態にある人類が成し得る、合理の極致。

凌ぐためには両手の扇と骨を犠牲にする以外に無い、完全にタイミングを見計らった豪剣が童磨を討つ。

 

「流石だぜ、たろーちゃん!」

 

楽しげな笑みを崩さない童磨。

その様子に一瞬の疑念が過った。

 

(この男は俺と同等の能力を持つ。それならば見えていた筈だ、この結末に至る盤面が………まさか!?)

 

「氷の呼吸…」

 

童磨が穏やかに告げた。

 

肺の使い方、気道の筋肉、空気への理解。

全身を駆け巡る血潮と、その循環を生み出す臓器の猛烈な蠢動(しゅんどう)

 

まるでアバターチェンジでもしたかのような急激な変化が、タロウの剣を撫でるように絡めとり、刹那の後には鉄扇の冷気がタロウの首に添えられていた。

 

「…これで一勝一敗」

 

童磨に殺意は無い。

その内にあったのは。

 

「この世界の人間の技だ。この技術を極めなくては立ち向かう事すら出来ないのが、この世の鬼だ」

 

互いに姿勢を正し童磨は呼吸を、タロウはチェンジOFFを行って緊張を解いた。

 

「鬼は理不尽だぜ? 俺がいた世界に戻る事になるようだし、ゆめゆめ寝首を掻かれないように気を付けるんだね」

 

スッキリした様子でゲートに足を向ける童磨を、タロウが止めた。

 

「口で言えば十分に伝わっただろう!?」

 

「は? そんな事したら俺が負けっぱなしになるじゃないか?」

 

勝者の笑みで、童磨が消える。

 

「…チッ」

 

舌打ちを響かせながら、しかしタロウの瞳はギラギラと狂暴な歓喜を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーなってんのよ!?」

 

アバター空間から落っこちた先は、再度の戦場。

先ほどみた朝日の景色とは真逆の肌寒い闇夜の森の中。

 

背中に『滅』の一文字が縫われた黒い制服を身に纏う剣士の集団が、奇っ怪な動きで剣を振り回してはオニシスターに襲いかかっていた。

意識もなく、呻き声を垂れながら迫るその姿はまるで。

 

「ひぇぇぇぇ! ゾンビ映画!? ゾンビ映画の世界キタコレ!?」

 

(フルコンボウ(あの金棒の名前です、作者は3日前に知りました)で殴ったりして、万が一腐肉が飛び散ったりしたらアタシ絶対に死ぬ! 心が死ぬ!)

 

「もぅヤダ! ヤダヤダヤダヤダヤダ!! 超怖い! チョー怖い! 鬼コワイィィィ!! ドンだけ待ってもタロウ来ないし! もぉ! 労働局に訴えてやる! ドンブラザーズなんて辞めてやるんだからぁ!!」

 

視界を妨げる夜の帳と森の草木、想像力を掻き立てる血臭と呻き声。

膝と頭を抱えて器用に鬼ぴょいポーズを決めたハルカだが、彼等に可愛さなど通用しない。

 

「ハルカさん!?」

 

操られた剣士の一人がハルカの背中越しに剣を振り上げる。

間に合わない!

カナエの叫びは、しかし!!

 

 

 

「水の呼吸!」

 

 

 

独特に、空気を震わす呼吸の響き。

 

「肆ノ型!!」

 

誰かの為に、命の為に。

常に懸命に立ち向かう、勇気の音色を伴って!

 

「打ち潮!!!」

 

竈門炭治郎。

この世界の主人公たる男の中の(お母さん)が、その危機を切り払った。

 

「大丈夫ですか!? この人達は蜘蛛の糸で操られているみたいなんです!」

 

「おい権八郎! コイツら何だ? 変態か!?」

 

確かに、オニシスターとチョウシスターの出で立ちは奇抜ではある。だが。

 

「俺は炭治郎だ!! …て、お前がそれを言うのか!?」 

 

伊之助(猪頭)が言えた台詞ではないのだ。

 

「あ゛あ゛ん? どーいう意味だゴラァ!」

 

蜘蛛の糸と格闘しながらも言い争う二人の影で、チョウシスターが呟いた。

 

「成る程、私とした事が気が動転しておりました」 

 

それからはーーー、

 

「花の呼吸ーーー漆ノ型・胡蝶蘭!」

 

一瞬。

 

「は………え?」

 

「ウッそだろオィ、米粒みてぇなチビ蜘蛛まで、一匹残らず叩っ斬りやがったぞ!?」

 

風に舞う蝶々のような、緩やかな羽ばたきを感じさせる優雅な舞い。

しかしてその剣は効率と緻密によって極限にまで研ぎ澄まされた秘剣。

鬼滅の歴史により裏打ちされた花の呼吸、至上の連撃剣が闇に蠢く邪悪を打ち払ったのだ!!

 

「凄い! スゴイ!スゴイ! カナエちゃん格好いい!」

 

無邪気そのもの。

元気を取り戻したオニシスターが小躍りしそうな勢いでチョウシスターに抱き付き、押し返される胸の弾力に硬直した。

 

「…待って、まてまてまて、え? あれ? カナエちゃん何歳?」

 

「はい? 私は数えで17になりますが、どうかされたのですか?」

 

「ジーザス! タメじゃん!? 同い年でこの差!? は? は? ハァァァァァァア!?」

 

有無を言わさず『グワシ』と胸を揉みしだく。

 

「ひゃ!?」

「ブッ!?」

 

驚くカナエと首が折れそうなほど高速で首をへチに回した炭治郎。一人状況を理解していない伊之助は不思議そうに腕組みをして首を傾げた。

 

「チート!」

 

ハルカは叫びながら腰の細さをサワサワと確認し、もう一度胸を掴んで轟き叫ぶ。

 

「チィィトォォォーーーーーーーー!!!」

 

 

 

ーーーと、その瞬間。

 

 

 

「【斑毒痰】」

 

 

 

「アギャ!?」

 

オニシスターの首と腰をしっかりと抱き締め、チョウシスターが出し抜けに地面を転がった。

 

「なに!?」

 

彼女達がいた場所から、鼻がもげて涙まで流れ出そうな強烈な臭気と、物質が溶解するおぞましい音が届いた。

それは毒。

恐ろしく濃い毒素を凝縮し、強い粘性を持ってこの世のあらゆる繋がりを融解させる悪鬼の外法。

 

「チッ…面倒だな」

 

その声は、空。

月光を受けて煌めく糸のその上に立つ、白い少年の口から放たれた。

 

「あのお方からの警告は、やっぱり正しかった」

 

白い髪の間から覗く冷酷な片目。

その上下には赤丸の文様。

 

「お前は…!?」

 

炭治郎の誰何(すいか)に応えるように、悪戯な風が舞い上がり白い少年の髪を掬い上げた。

 

隠されていた左目には《下伍》の刻印。

 

その名は『累』他の鬼へと力を授ける能力を持ち、例外的に群れる事を許された子供の姿の絆鬼。

 

「下限の鬼!」

 

カナエは知っている。

如何に下限とは言えど、数字を与えられた存在の恐ろしさを。

 

呼吸を更に深め『悪鬼滅殺』の日輪刀を腰だめに構えた。

暴れ狂うような血液の膨張が、その活力の渦がアバタースーツの外側にまで溢れて美しい花弁の閃光を放つ。

 

「花の呼吸ーーー」

 

「待って!」

 

臭いでも触感でもない。

女の勘でハルカが叫んだ。

 

「ドンブラスター!」

 

小銃から射ち出された光の弾が複数の花火のように天へと登りーーーその途中で不可視の糸に切り裂かれ、火花を生じて掻き消えた。

 

「なんだよ、黄色はカスだって聞いてたのに…」

 

厄介な柱を誘い殺すための罠を見抜かれた累が不服そうに呟き、

 

【殺目篭・弐ノ絆】

 

三重に折り重なった死と糸で作られた巨大な篭が編み出され、四人を取り囲んだ。

 

「うォあ!?」

「これは、なんて臭いだ!!」

「なに! なになになに!?」

 

三者三様に取り乱す中、カナエは冷静に累を睨みながら呼吸を整える。

 

「私の背後に集まって下さい!」

 

扱うは伍ノ型・徒の芍薬。

急角度の剣閃が芍薬の花弁のように咲き誇り、僅か一息の間に血鬼術の全てを切り捨てていた。

 

「なんて、凄い…!」

「お、おぉ」

「チート過ぎる…」

 

しかし。

 

<やっぱり、お前に対抗するにはまだ足りないのか>

 

姿を眩ませた累の声が、糸の先から朧気に伝わる。

 

<面倒だけと仕方がない、また一から作り直しになってしまうけれど、仕方がない…あぁ、仕方がない、仕方がない。あぁ……不快だ、本当に………不快…だ>

 

気配が消え去る。

だが同時に別の気配の接近に気付いていたカナエが炭治郎と伊之助に語りかけた。

 

「新手が来ます。血鬼術に犯された人間の気配が…複数」

 

明らかに強い、その上で人間の部分を残した被害者の集団が眼前に迫っている。

 

「先ほどの操り糸の比ではありません。ここは私が引き受けます、ハルカさんは二人を連れてあの鬼を追ってください、嫌な予感がします!」

 

「えっ、でもーーー!?」

 

一人残して行く事へのためらいは、しかし。

 

「ウヲォゴケケケ…」

 

二本の足で歩く人の身体を持ちながら、頭部は完全な蜘蛛のそれ。

隊服を突き破って現れた毛の生えた三本腕が痙攣し、チラリと見えたお尻の袋がネタネタした液体を被って蛆虫のように蠢いた。

 

怪人・蜘蛛男。

 

その団体御一行を前に、ハルカのためらいなど綿毛よりも軽くコンコルドよりも速やかに吹き飛んだ。

 

「イ゛ッっってき゛ます!!」

 

とりあえず怖い!

なにアレ怖い!

生理的にムリ!! ムリムリムリムリムリ!!

 

(し、ししししし、死んじゃう!!)

 

五感の、その全てのセンサーが(警報)一色に切り替わり、ハルカの中に住まう八百万(やおよろず)のチビハルカが満場一致で逃走ボタンを押しまくった。

 

「ぐえっ!」

 

ちょうど逃走ルートの近くにいた炭治郎の首に腕をかけ、引き摺りながら鬼ダッシュで駆け抜けるぅ!

 

…怖い時って、無性に人肌が恋しいよね。

 

恐怖を紛らわせる為の肉人形となった炭治郎の呻き声が消え去り、辺り一帯には本物の怪人が発する悲痛な音が木霊した。

 

「貴方も早く!」

 

包囲される、そうなっては逃げられない!

その思いは。

 

「嫌だぜ!」

 

森の王が鼻息一つで吹き飛ばした!

 

「お前は強ぇ! 俺が今まで見てきた中でも最強だ!」

 

わざわざ近くの小岩に登り、見下ろして指を突きつけながら伊之助が叫ぶ。

 

「だが俺様はもっと強い!」

 

根拠も実力も欠いていて、それでも伊之助は叫び倒す!

 

「お前よりも活躍して、証明してやる! そういう寸法だ。どうだ!? 参ったか!!」

 

死の恐怖など微塵も持たず、未来を信じて大笑いするその姿に、カナエは桃井タロウを重ね見た。

 

「ふ…ふふふっ」

 

「なんだ!? どうした! 腹が痛いのか!?」

 

「いえ、面白くって。そうですね、簡単な事です。誰一人殺さずに脅威を奪い取り、その上で猪頭の坊やに『格の違い』を見せつけて差し上げるだけですもの。この程度、そつなく泰然とこなせなくて、どうしてあのお方のお供を名乗れるというのでしょうか」

 

仮面によって見えない視線。

にも関わらず伊之助の肌が恐ろしさに震えた。

 

「伊之助と仰いましたね? 貴方の呼吸はまるでダメです。基礎の基礎から叩き潰して、私色に染め上げて差し上げますからーーー」

 

ゾクリ。

肌が粟立つ。

 

「ーーー途中で死なないで下さいね?」

 

「は、、、ぷ、ぷぎぃ…」

 

間違えたがもしれない。

伊之助は、生まれて初めて己の選択を後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎ぉぉぉ、本当にコッチであってる? ねぇ大丈夫なの? 本当にあのバケモノ出てこない? ね、ね、ねぇ炭治郎ってばぁ!」

 

「いや、あのねハルカさん? 俺たちはあの鬼を追ってるんだから出てきてくれなきゃ駄目なんじゃないですかね?」

 

「わぎゃってるよぉ! 違うじゃん!? そっちじゃなくてさっきの蜘蛛男! あんなのダメでしょ? 乙女に見せるクリーチャーじゃないでしょ? も、ホント無理、絶対夢に出るよ。夜中の3時に飛び起きてそれからドキッドキ! 恐怖に耐えられなくなって部屋中の電気点けてさ? それから温かいミルク飲んでトイレに行ったらさ? そこに居るの! トイレにお座りして大股開けて、タバコふかしてんの!! んぎゃーつって叫んだらそこまでか夢だったって言うオチ! やだ怖い、も、ほんっっっと怖い! 怖いよぉ禰豆子ちゃぁぁぁぁぁん」

 

「台詞だけ聞いてたらまんま善逸だよコレ…」

 

戦闘よりも疲弊した表情で炭治郎がハルカを見下ろす。

その隣では少しだけ柔らかい表情を浮かべた彼の妹が、がっしりと腰に抱き付かれた格好のままでゆっくりとハルカ

の頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

「正直に申し上げて、迷子です」

 

手詰まりだ。

その思いでその場に腰を下ろして頭を抱えた。

 

「な、なんで!? 言ってたじゃん! 臭いで追いかけちゃうぞって! ウチのイヌブラザーよりも優秀なんでしょ?」

 

混乱するハルカに、疲れた笑みで炭治郎が応える。

 

「イヌブラザーという方が誰かは知りませんが、無理です。さっきの鬼の仕業だと思うのですが、そこかしこに斑毒痰の臭気が撒かれてて鼻が馬鹿になってるんですよ」

 

そもそもの話。

鬼を見失った原因はハルカの暴走にある。

 

炭治郎を強引に引き摺りながらあてもなく森の中を爆走したのだ。ウマシスターすら追い抜きかねないオニシスターの暴走特急。

その状態で数分間は走り続け、唐突に立ち止まったハルカがチェンジOFF。

黄色いチェック柄のシャツが良く似合う、可愛らしい私服姿に変貌した。

 

驚く炭治郎を完全に無視してその場で膝を抱えるハルカ。

 

度重なる激戦、命に関わる本気の勝負。

それが終わって朝日を眺め、さて帰れるぞと思ったら夜更けの森の中に落っことされてゾンビ(生きてます)やクリーチャー(半分人間)に襲われ続けたのだ。

 

限界。

ハルカちゃん17さい。

限界にゴサルぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。

 

年上女子の声を圧し殺したガン泣き。

炭治郎は長男だ。

だが、彼はまだ15歳の少年なのだ。

 

対応を決めあぐねる兄の心情を感じ取り、霧雲杉の木で作られた箱から現れた禰豆子が優しくハルカを抱き締めなければ、炭治郎はこの居たたまれない空間で一夜を明かす事になっていただろう。

 

慰められたハルカは禰豆子の着物を汚しながら泣き続け、それから少しして彼女が鬼である事を聞いた。

そして家族を惨殺され、ただ一人生き残った妹を人間に戻そうと足掻いている炭治郎の身の上を知った。

 

知って、その上で自分を労るように抱き締めてくれた禰豆子の優しさにそれまでとは別の涙を流し、そこでようやく歩ける精神状態にまで回復したのだった。

 

(持つべきものは妹。やはり妹は正義…!)

 

と、そのように思考が壊れた炭治郎の耳に聞き慣れた声が届いた。

 

「この声は善逸! おーい善逸ぅ!! こっちだー!」

 

「炭治郎ー! たんじっ…禰豆子ちゃん!? うっひょー↑↑↑ ねぇぇぇぇずこちゅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

(俺ってなんて運が良いんだろう! 森の中をさまよって、もう二度と禰豆子ちゃんには会えないと思ってたのに。女の人の泣き声が聞こえたから紳士として手を差しのべてあげようとしたのが良かったんだ、やっぱ愛だよ! 愛が世界を救うんだ!)

 

頭の上にお花畑を咲かせ、舞い上がりながら近付く善逸。

その瞳に映るのは、恐怖に震えながらそれでも探し求めた愛しい愛しい女の子、ただ一人。

 

「は?」

 

しかし、その眼前に一人の女が立ちはだかった。

 

鬼頭ハルカ。

 

女子高生として、漫画家として。

そして何よりもオニシスターとして…。

ハルカにはわかる。

コレは、悪い虫…!

 

我妻善逸。

 

男として、剣士として。

そして何よりも雷の呼吸の継承者として…。

善逸にはわかる。

コレは、天敵…!!

 

空気がひび割れるような気迫が、稲妻の幻影を見せる。

 

「…アァん?」

「…ンだぁ??」

 

※ここは、ヤンキー漫画の世界ではありません。

 

お互いに感じ入るナニカがあるのか、まるで蛇とマングースの生霊に取り憑かれたかのように、お互いの間に火花が飛び散り。

 

「なにをやってるんだ!」

 

慌てて炭治郎が仲裁に入った。

 

そりゃ慌てるよ、もぉホントなんなのこの人たち。

出会って一秒で睨み合いとかどうなってるの?

ここが何処で、俺たちが何をしてるのか忘れちゃったの??

どんな脳ミソしてるんだ???

 

そんな思いをひた隠して場を収めようと頑張る長男。

 

「は? この金髪がーーー」

「炭治郎この人ーーー」

 

とても険悪とは思えないほど、息を揃えて自分の正当性を主張しようとした二人の口が固まる。

 

「「逃げて!!」」

 

炭治郎の背後、その暗がりから突如として白銀の糸が迫る!!

 

細く、薄氷のように頼りない風切り音が通り抜け、直後には信じられないような轟音を発して辺り一帯の大木が放射状に薙ぎ倒された。

 

「本当だよ…お前らは本当に、何をやってるんだ?」

 

森の中心に大きな広場を作り出した鬼が、呆れたように髪をかきあげ、乱暴に掻き乱した。

 

「追ってこないと思ったら『迷子』だと? 『蜘蛛が怖い』だと? お前ら、僕の事を馬鹿にしてるのか?」

 

「なんなのアレ!? 今回の鬼!? ひ、ヒェェ! ね、ねねね、禰豆子ちゃんは俺が守るから、だからほら行って! 炭治郎頑張って!」

 

臆面もなく仲間を盾にして鼻水を垂らす善逸の言動に青筋が浮かび。

 

「なんか…あれ? この子大きくなってない? いや大きいよ、成人男性サイズ? 着物はそのままなのに背丈だけが伸びて…」

 

まるで脅威と対峙しているとは思えない呆けた顔のハルカに堪忍袋の尾が切れるーーー寸前。

 

 

「待って!!」

 

 

恐ろしく真剣なその表情。

遠目に見てもわかるほどポッカリと瞳孔が開き、指先が僅かに痙攣さえするハルカ。

常軌を逸した気迫に、鬼として…存在として遥かに格上の累すらも動きを止めた。

 

その彼を指差して。

 

「絶対に駄目だからね!?」

 

「………は?」

 

「ちょ、ちょっと君ほんとデリカシー無いの? こっちには花の女子高生と可愛い可愛い禰豆子ちゃんがいるんだよ!? ほんっと信じらんない!」

 

顔が赤くなっていく。

その理由、根本的なズレを誰一人として理解できない。

それがより一層場を混乱させた。

 

「炭治郎!」

 

「は!? ハイィ??」

 

俺!?

俺なんかした!?

 

そんな心の声が背景に浮かぶが、ハルカはまるで考慮しない。

そんな余裕があるわけがない。

 

「替えのズボン持ってないの?」

 

「ーーーえっ………………とぉ?」

 

「わかんない? ズボンだよズボン! 下履きって言う方がわかる? ほら、ズ・ボ・ン!」

 

言葉が理解できてないわけじゃ、ないんです。

 

炭治郎の背景に浮かぶ文字を、当たり前に無視してハルカが天を仰いだ。

 

「ほんっと、なんなの? いくら鬼だからってパンツ丸出しで女子の前に来る? 普通にありえないってーーーあ、いや違うのよ? パンツ見たわけじゃ無いの! その着物の長さで戦ったりしたら絶対に見えちゃうじゃん? 私は見てないよ? 別に見る気もないし本気で困ってるって言うか絶対に困ったことになるから事前に予防的な意味で話をしてるんてあってね?」

 

「ーーーね、ねえ。これ…この空気、嘘でしょ? 俺たちこれから死闘するんだよね?」

 

純粋な疑問を善逸がこぼした。

 

「金髪!」

 

「ひゃい!?」

 

「なに馬鹿なこと言ってるのよ! これから戦うからこそ言ってるんじゃないの! アンタ私がどれだけ恥ずかしい思いで言ってると思ってるの? 謝りなさい! 私と禰豆子ちゃんに謝りなさい!!」

 

「ひ、ひぃぃぃ、ゴメン、ほんと『でりかしー?』が無くってゴメン、ごめんよ禰豆子ちゃぁぁぁぁん」

 

ひどい寸劇であるーーーが。

本人たちはいたって真面目なのだ。

これこそがドンブラクオリティ。

本物はもっと凄いので自信をもってドンブラザーズを知人にお勧めしましょう。

 

「…なんで?」

 

(なにもしていないのに、ただ少し身体より小さい着物を身につけていただけなのに…なんで? なんで僕がこんな、惨めな思いをしなくちゃならないんだ…!!)

 

炭治郎から向けられる哀れみの視線。

優しさがヒトを傷付ける、そんな悲しい現実を知らない炭治郎の生ぬるい視線が、ツラい。

 

「…鬼は悲しい生き物だ」

 

「た! たぁぁあんじろ!? その台詞ダメでしょ! 使いどころ間違えてるよね? バグってるよね!? ガチでガチな人から怒られるよ!? 粛清されちゃうからぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

人間であった頃の記憶が無くも、これほど残酷な刑罰を受けたことは無いと、累は断言出来た。

 

「………やる」

 

鬼を無視してワーワーと盛り上がる黄色と黄色と緑色。

三人の姦しい声に、累がキレた。

 

「サイコロステーキにしてやるぅううう!!!」 

 

この時代の解釈には登場しない単語を叫んだのはきっと、怒りがフッハフッハしていたのが原因である、と後の学者が言ったとか言わなかったとか。

 

「【血鬼術・刻糸輪転ーー肆ノ絆ーー】」

 

家族役を任せていた4体の鬼。

その全てを取り込んだ累の能力は上弦にすら匹敵する。

 

鬼頭ハルカをこの世から追放する。

絶対に、絶対にだよ!?

 

その鋼の意思を乗せ、五芒星を描くようにハルカを取り囲んだ糸がギュルギュルと唸りを上げた。

 

あわや!

ハルカの命は風前の灯火!

 

何故こうなったんだ!

誰が悪かったんだ!?

 

風は応えず、ただ吹きすさぶのみ。

 

(ちなみに累は血鬼術を使う傍らで糸を編み、白いズボンを足に纏いました。安心してください)

 

 

 

そんな感じて次回へ………続く!!

 

 

 

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