ドンモモタロウが童磨をオトモと認めるまでのアレコレ! 略してドン×どま! オンリーワンのハイブリッド鬼退治物語、満員御礼・大好評連載中…ドンドン行くぜぇ!! 作:マキシマムとと
ダメだ。
週一投稿を目指してたんだけど、
本編が良すぎて我慢出来ない。
よって、本日は2話連続更新となります。
「ハァ ゼィ ハァ」
一羽の鴉が、珍しくも口から荒い息を吐く。
その場所は産屋敷。
鬼滅を目的とする集団。
その頭領が隠し持つ、数多あるの拠点の中の一つ。
伝令の為に死力を尽くした鎹鴉を労いながら『お館様』が口を開いた。
「しのぶ、我慢しなくて良いんだよ」
彼の背後に控えて座する二人の柱。
その片方『蟲柱』胡蝶しのぶが、恐れ入るように身体を丸めて、
「シッ!」
発破が炸裂するような呼気だけを残しその場から姿を消した。
「…良かった。あのしのぶが、礼節を欠くほど喜んでいる」
それはそうだろう。
四年前、突如としてこの世界に現れた光の戦士と共に上弦の弐を討伐し、どういう理屈か不明ながら討伐した筈の上弦の弐に連れられて朝日の中に現れた光の扉の中に姿を消した姉。
その姉と思しき『白』の戦士が、那田蜘蛛山に現れたのだ。
「………」
「そうか、義勇も嬉しいか」
姉を喪う悲しみを知る『水柱』が微笑んだ(表情筋は死んでる)。
「俺も行きます」
当然ながら、彼は蟲柱…そして花柱の実力を知っている。
だがあの山にはまだ沢山の仲間が鬼の術中に陥っているのだ。
微力であろうとも、仲間のために最善を尽くす。
それが義勇の矜持。
「あぁ、待ってくれないか」
立ち上がった義勇を、お館様が制した。
「…?」
目上の人の制止を受け、立ったまま無言で先を促す。
流石は義勇。
サスギユである。
いや、万が一知らない人の為に明言しておくが、義勇は礼儀知らずでもなければお館様を小馬鹿にしているわけでもない。
効率だ。
義勇にとって現在、達成目標の最上段にある項目が『仲間の救出』で固定されているが故の誤作動であり、それ以上も以下もないのだ。
…サスギユである。
「義勇には少し、お願いしたい事があるんだ…」
数少ない理解者であるお館様は、今日も穏やかに微笑んだ。
◆
似たような歴史を辿り、似たように人が死ぬ。
けれど、決して同じではない。
そうした可能性の世界。
あらゆる世界において、鬼殺隊という集団が存在した。
九人の柱の中で『蟲柱』と呼ばれる人間は同一人物が勤めており、皆が同じように『しのぶ』と呼ばれていた。
この世界に存在する『しのぶ』は他の世界と比べても特筆する事のない、ごく普通の『しのぶ』だった。
鬼に両親を殺され、姉を敬愛し、姉の志を信じて鬼滅の道をひた走る。
なんの変哲もない、運命に裏打ちされた『しのぶ』の人生を進んでいた。
しかし。
その運命は『しのぶ』を置き去りにして、最愛の姉を奪い去った。
四年前。
半身とも言える存在を唐突に喪失した『しのぶ』は、それでも懸命だった。
「姉さんは必ず帰ってきます」
「姉さんが帰ってきた時に、少しでも強くなってビックリさせてあげるんです」
「姉さんは少しだけ間の抜けた所がありますから、きっと道に迷っているんですよ」
「姉さんは」
「姉さんは」
「姉さんはーーー」
彼女は『しのぶ』は本当に素晴らしい人間だった。
泣きたい。
喚きたい。
当たり散らしたい。
一年、二年、三年…耐えて、耐えて、耐え続けた。
四年目にはついに、喪失した当時の姉の年齢を追い越して、それでも。
仕事や人付き合いに私情を挟まず。
声を圧し殺して、絶望的な喪失感に耐えていた。
きっと。
それだけならば、問題はなかったのだ。
…しかし、運命は常に残酷を強いる。
この世界の『しのぶ』には1つだけ、他の世界の『しのぶ』が持たない習慣があった。
それはあの日、姉が消え去った扉が存在した場所へ赴くこと。
空き時間があれば鍛錬がてらそこへと向かい、考え事をする際にもそこで思考する事が習癖となっていた。
ここで待っていれば、姉が帰ってきた時に一番に抱き締めてあげられるかもしれない。
そんな幼さを秘めた純心。
誰が見ても、そこに悪を見出だす事は無いだろう。
心を打たれ、涙する者とている…その想い。
だが、悲劇は常に爪を研ぐ。
誰が予想しただろう。
かつて、一瞬だけアバターゲートを通して繋がった異界の怪異が、その源泉となる因子が、目には見えず音にも聞こえない小さな小さな世界の狂いが、片羽の蝶へ汚れた
悲劇は常に爪を研ぐ。
虎視眈々と、世界に悲しみを刻み込む為に。
◇
「ひ…あ………」
煌々と、鮮やかに満月が輝く。
その月を見上げるのは死屍累々の妖怪変化。
ピクピクと微かに痙攣する怪人・蜘蛛男の群れの中で、まるで戦友のようにそれらと肩を並べて倒れ伏す伊之助の姿があった。
(死ぬよりもツラいってのは、こういうことなのか?)
まさか、自分が。
この嘴平伊之助様が、こんなに弱いイキモノだとは知らなかった。
<呼吸を整えなさい>
優しい口振り、包容力のある心地よい響きの音の列が、あんなにも恐ろしいモノだとは、知らなかった。
<肺と心臓は素晴らしい。天性の素質もあるのでしょうけれど、貴方が普通よりもかなり過酷な環境で生き抜いた事を証明しています>
蜘蛛男を相手取りながら、二人羽織のように伊之助の背後に立って『文字通り』手取り足取り伊之助の肉体を操って、当たり前に蜘蛛男を蹴散らしながらカナエの指導は激化した。
<だけれど、筋肉が悪い>
白くて細い。
この手のどこにそんな力があるんじゃワレぇ!
と叫びたくなるような万力で締め上げられる。
<貴方の筋肉は剣士としては最低です、剣に関連しない筋肉が多い。取り返しようがないほどに容量を圧迫し、その才能を潰してしまっています>
難しい、息が苦しい、ユルシテ…ユルシテ。
<簡単な話ですよ? 剣で斬るために必要な玉の色が赤、その他を青としましょう。今回は単純化して考えるために赤と青は混ざり合わないモノとします。私の玉の数は貴方が所有する玉の数よりもずっとずっと少ない。けれどほぼ全ての玉が赤色です。対して、貴方は青ばかり。だから、こんな華奢な私に翻弄される>
意味がわからなかった。
わからないなりに、カナエの理論が無茶苦茶だという確信だけはあった。
コイツの筋肉が俺より少ないなら、何故俺はコイツの操り人形にされている?
<フムフムなるほど、なるほど。よくわかりました、貴方を強くする方法>
その言葉に希望を感じた。
強くなれる、そうなれば、この地獄から解放される?
その、毛先ほどの気の緩み。
<ダメ、ですよ?>
手が三本あるのか?
両手で伊之助の腕を操りながら、硬い何かで背中越しに伊之助の肺を突いてくる。
怖い、苦しい、おっかねぇ。
<青い玉に色を塗りましょう、一つ一つ丁寧に塗って赤色の玉だと錯覚させましょう、うんうん、それが一番ですね>
待て!
なんか、絶対にマトモじゃねぇ! せめて、こ、心の準備ーーー
<さん、ハイ!>
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そして、気付けは月を見上げていた。
「もしもーし」
カナエの声がする。
だが伊之助は動かない。
恐怖もある、気合いもある。
だが、肉体は完全に機能停止している。
だから無視していたのだが、目の前に映るカナエの髪はもう少し長かったような、気がした。
「大丈夫ですか~?」
蜘蛛を蹴散らし、討ち漏らしがないかを確認するといってチェンジOFFしたとき、カナエの身体や服は、もっと傷だらけだった…気がする。
だが、今はもう眠い。
「ふ…んご」
※意訳(殺すなら殺せ)
伊之助が再度意識を落とす瞬間。
「しのぶ?」
そんな声を、確かに聞いた。
◆
背丈はそれほど変わらない、けれどわかる。
柱だけが纏うことを許された羽織。
私と同じ柄の特別な羽織を見る迄もなく、しのぶの…大切な妹の顔を見れば、あの日から切り飛ばされた時間、その年月がどれ程のものだったのか、カナエにはわかった。
「しのぶ!!」
駆け寄ろうとした足がすくむ。
「……?」
何故だろう。
自分の肉体、自分の意識。
それは間違いがない。
怪しい鬼の血鬼術の気配も、無い。
にも拘らず、動こうとしない自分の足がカナエには理解出来なかった。
「…ふふふ、頭だけは回るようですね?」
淑やかに妹が笑う。
「え…え? しのぶ?」
理解出来ない。
いや…理解『したく』ない。
「まったく、呆れてしまいます。なんて滑稽で、なんて下手くそな物真似なのでしょうか。見抜かれている事に気付かず私に駆け寄っていたなら、それはそれで楽に殺して差し上げましたのに」
「…しのぶ?」
左手を鞘に添える妹の姿に、心が怯える。
どす黒い殺意の闇が、カナエの心を凌辱して、嗤う。
「しのぶ! 何を言ってるの!? 私よ! カナエよ!?」
そんなハズはない。
そう、そうか!
「しのぶ、怒ってるのね? だからそんな、子供みたいな意地悪して、姉さんを困らせようとしているのね?」
そうに決まっているのだ。
なぜらな、もし、万が一にも『そう』でなかったなら。
「ごめん。わかるよ? 長い間私を探してくれたのよね? ずっとずっと待っててくれたんだよね? 遅くなってゴメン。でも帰ってきたから、こらからはずっとーーー」
ーーーずっと、一緒に。
その言葉は、心は。
想い、信じ合う実の妹によって遮られた。
初めは静かに、小さな片手を上げて顔を覆い隠し、小鳥のさえずりような小さな小さな笑い声。
「バカにしやがって」
「ーーーーー?」
笑い声の合間に届いた言葉が、信じられない。
だって妹は、しのぶはそんな言葉を使わない。
「ふふ…ふふふふ、ふ……………」
静まり返る。
唐突に妹の全てが制止した。
それに恐れ戦いたように、風も虫も…何もかもが動きを止める。
そして。
「アーーーー!ーー!!ー!!ーーーーハッハッハッハッハッハーーーーーーーーーーーー!!」
呵々大笑。
あの時、カナエの全てを救ったタロウのそれと、まったく同じ熟語でありながら全てが真逆に堕ちていく。
「偽物め」
その言葉を最後に、禍々しい光と文字を纏ってしのぶが融けてーーーーーー
「ーーーーーーーーは?」
理解できない現象。
いや、違う。
『しのぶ』は、理解している。
本気で怒った姉の恐ろしさを。
「許しません」
『肺を損傷しているだなど戯言だ』
百人が百人、そう言うであろう神速で地を駆けて、カナエがしのぶを押し倒した。
「許しませんよ?」
カナエは笑顔だった。
危機を予見したとき、困難に直面したとき、妹が悪さをしたとき。
カナエは常に笑顔でその理不尽に立ち向かった。
この世の理不尽を知らないとでも?
このカナエが?
目の前で親を鬼に惨殺されて、それでも人道を外れなかったカナエが?
花柱まで昇り詰めた、この、胡蝶カナエが?
「しのぶちゃん? 私が少し居ない間に目が腐ってしまったのですね? 耳も馬鹿になって、礼儀も忘れた…と。あんなはしたない笑い声を実の妹から聞くことになるだなんて、姉さんは悲しいわ」
「やめ、やめ…!!」
『ヒトツ鬼』の因子は4年の歳月をかけて、完全に胡蝶しのぶを汚染している。
だが、
「匂いはどうかしら? 姉さんの匂いを感じるかしら? 触感は? 肌触れ合うも他生の縁、なんちゃって、面白いと思いませんか?
面白いですよね? なんで笑わないんですか? 姉さんに恥をかかせるのですか? しのぶはそんな悪い子になってしまったのですか? 違いますよね? しのぶは良い子ですものね? しのぶちゃん? ほら笑って? 笑えよ、おい、笑えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!」
因子?
汚染??
そんなもの『クソ食らえ』だ!
「笑いなさい」
この世の理不尽を分かち合う、掛け替えのない、絆。
「笑いなさい、しのぶ。狂うだなんて許しません。そんな馬鹿な話、姉さんが絶対に許しません」
離さない。
堕ちるなら堕ちればいい。
「絶対に…!」
それでも離さないから。
「絶対に………!!」
「ご、ごめんなさい…ね、姉さ、ん」
そして…融けた。
輝く光の繭が二人を包み、一つとなって産まれた。
この世界で、最初に発現したヒトツ鬼。
その名を蝶々鬼という。
◇
本来の、有り得た世界。
『鬼滅の刃』と題される世界で、胡蝶しのぶは胡蝶カナエの今際の際に間に合った。
日の出まで戦い抜き、鬼に喰われる事なく命を散らしたカナエを看取った。
そして、この狂った世界においても、それは変わらなかった。
しのぶは、そこに居たのだ。
「姉さーーー」
朝日が立ち上る、金色の景色の中に彼女は見た。
楽しげに、嬉しげに、悲しげに。
まるで七色の虹を見て、蕾を綻ばせる草花のように。
長身痩躯の男性を見上げる、しのぶの知らない顔をした女を。
(…姉、さん?)
その当時のしのぶは、まだ14歳の子供で。
両親を亡くし、慣れ親しんだ住処を離れ、たった一人の肉親と共に未来の見えない道を行く。
自分の心がどれだけ痩せ細っているのかも見えず、どれだけの支えを姉に求めていたのかも知らず。
視野を狭め、姉だけを盲信して。
それなのに、誰なのか。
あの女は、誰なのだろうか…?
軽く手を引かれて姉が光る扉の先へ消えて、なおさらに混乱が深まった。
だって、振りほどけたじゃない。
姉さんの手を取った男は、本当にただ誘っただけだ。
まるで友達の家に誘うように、嫌なら好きにすれば良いという体で。それなのに、行っちゃったの?
私を、捨てたの?
私こと、忘れちゃったの?
(そんなわけない。姉さんは帰ってくる)
明日には帰ってくる。
(帰ってきたら、怒ってあげるんだ)
明日こそは帰ってくる。
(帰ってきたら、抱き締めてあげるから)
明日は…明日は…明日は………?
(明日って、、、、、いつ、なの?)
姉が自分を捨てるハズが無い。
そうした確信はある。
しかし最後に見た姉の顔。
自分が知らない顔をした姉の姿がしのぶの心を引き裂いて。
落ちて行く、墜ちて行く、堕ちて行く。
「しのぶ?」
やっと見つけた。
やっと出会えた姉は、あの日の記憶と寸分の狂いもなく。
それは即ち、あの日見た私が知らない『女』としての姉は、やはり見間違いではなかったという証明で。
つまり、私は、やっぱり、本当に。
ーーー捨てられたんだ。
思考が辿り着いてからは、もう止まらない。
止められるなら、それはもう人間ではない。
人間であるが故に鬼に堕ち、醜く惨めに討ち倒される。
そう思っていたのに。
「許しません」
姉は姉だった。
わかっていた。
しのぶにはわかっていた。
姉を失って四年間を、懸命に生きたのだ。
わからないハズが無い。
あの頃の姉がどれだけ必死に『姉』として立っていたのかを。
さして強くもない心を、私のために砕いて、抗って。
それなのに、私は、それなのに……!!
『キュロ…キュロ…』
ヒトツ鬼となった肉体が、奇っ怪に鳴き声を垂れた。
(消えていく、人としての意識が薄れ、闇に浸る。このまま堕ちて、深い…深いーーーーー?)
しのぶの意識が揺れた。
(…いえ、違う、揺れたのは私はでは無い)
揺れるのは上。
遥か高みから空気を揺らし、世界に響く。
ーーー呵々・大・笑ーーー!!
(見上げなさい)
自分ではない誰かの声。
よく知っている、追い求めた誰かの声。
(うつ向いて、べそかいて。貴女の姉はそんな女でしたか?)
違う、違うよ。
だけど、私は…!
(どんな時もDon't Cry、ですよ!)
ド…どん、と?
知らない言葉、知らない感性。
(貴女は私の立派な妹。自信を持って、目を…開きなさい!!)
顔を叩かれたような衝撃に、意識が変わった。
◇
「やぁやぁやぁ!! 今宵は満月!」
月を背負うはモモタロウ。
星より煌めく声が降り、地に堕ちた蝶がその光を見上げる。
「月は円満! 満ちては欠けて!! 欠けも満ちるも永遠奇縁!」
声の先は最上段。
もっとも高い霧雲杉のその先端!!
「兎よ踊れ! 駆けては回って円となれ! この世は楽園、歌え、踊れぃ!! 悩みなんざぁブッ飛ばせ! ハァーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハァ!!」
意気衝天にて天を斬る!
「トァ!!」
蝶々鬼の見上げた世界。
巨大な月を、真っ二つに両断するような大・上・段!!
並みのヒトツ鬼であれば開幕早々、何一つ見せ場なく両断されるであろう、その絶技!
「キァァァァァァァァァ!!」
腹からの、魂を燃やし尽くすような
「一桃騒乱・ジゲン斬!!」
ウッキッキ♪ ウッキウキ♪
クリハチぷんぷんウスどっすん♪
《大・切・断ンンンンン!!》
真っ向から振り抜かれたザングラソードが光となって蝶を斬る。
『キュロ』 『キュロ』
一拍の後、
別たれた半身がそれぞれに呻き声をあげ。
「なに!?」
それぞれから赤い体液のような影が溢れだし、2体のヒトツ鬼となってタロウの前に立ち上がった。
「クッ………」
うつ向くタロウ。
その心はーーーーー。
「クハハ」
折れない。
「ハァーッハッハッハッハッハッハッ!!」
折れることなど有り得ない!!
「そうだ! そうでなくては祭りにならん! いいぞ! もっとだ! 月見なんぞは祭りの肴よぉ、歌って騒いでぇ! 躍り狂えぇぇ!!」
タロウの闘志が燃え広がって。
『花ノ呼吸』
一の鬼が、呼吸を変える。
『蟲ノ呼吸』
二の鬼が、華々と。
「面白い、呼吸を使うヒトツ鬼…面白い、面白い、面白いので、あるならば! 盛り上げなくては男が廃る!!」
取り出したるは『虹色』のギア。
「オニガカリ・ギア!」
ドンブラスターが回って唸るぅぅぅぅう!!!
【ドンドンドン・ドンブラコー!!】
表面に【上弐】と書かれたその能力は…!
『オ…ニ?』
『メッサツ? アッキ…メッサツ??』
動揺するヒトツ鬼の視線の先。
「やれやれぇ、このアバターは流石に規格外なのかな? せっかくのお祭りなのに、テンションの上がりが弱いぜ」
ふぅ、と吐き出す吐息が凍る。
白橡の髪、極彩色の瞳の虹が【上弦】と【弐】にて指し示す。
「童磨、この世界の鬼の実力、拝見してやーーー」
『ーーー真靡き』
二の鬼、その手が変化しながら刀を形作り、生み出されたそれをタロウに突き刺す。
防御すら間に合わず、左目から頭部を貫通したソレの形状はレイピアに近い。
「早い!」
反撃を…いや!?
『御影梅』
一の鬼が、二の鬼の突き技の間隙を無くす形で剣を薙ぐ。
目にも止まらぬ連撃剣!
「…い、や?」
目にも止まらぬ、ではない。
見えない…?
視界が、狭…い。
「ガハッ」
対の鉄扇で御影梅に対処しながら吐血する。
技の終わりと思しき一合を弾き『ーー戯れーー』二の鬼に六ヶ所を撃ち抜かれた。
(このアバターは優秀だ。凄まじい再生速度、怪力、毒への耐性。だが足りない、この連携の前にはゴミに等しい!)
「ゴホッ、そうで、なくてはーーー」
『渦桃』
タロウが身を引いた距離、それを埋めて更に一段大きく迫る。
一の鬼。その刃が月光を切り、上空から螺旋の軌道で襲いかかる!!
「そうだ! 祭りは! そうでなくては!!」
氷の呼吸は使えない。
呼吸によって血の巡りを早めれば、この毒の循環速度も早まる。
そうなれば恐らく、耐性による解毒能力を越えて肉体が崩壊してしまうだろう。
持久戦による毒耐性の強化。
これもま馬鹿馬鹿しい。
二の鬼だけならまだしも、一の鬼の剣舞は業風。
耐性云々の前に斬り殺される…!!
ーーーならば!
『ーーーーー!!』
一の鬼、その剣を受けて右の扇子が弾け飛ぶ。
完全な隙。
二の鬼が、吼える!
『百足蛇腹』
四方八方にうねりながらも駆け抜けて、一足毎に大地が踏み割れる、その膂力!
苦し紛れの左の鉄扇が、二の鬼の羽を斬る。
ーーー低い、あまりにも…素早い!!
『メッサツ!』
身体の真芯を貫かれ、その強力無比な脚力によって空に打ち上げられ、背後にあった霧雲杉へと縫い付けられた。
ーーーだから。
抱き締める。
『グ? グ!?』
「理解していた…一の鬼など霞むほどの、俺への、殺意…!」
【血鬼術・凍て曇】
来ると想定して体内に練り込んでいた術を発動し、己を巻き添えにして凍り付かせる。
己のアバターが氷結する寸前!
「アルター、チェンジ…!」
《ドン・モモタロウ! 天下一!!》
モモタロウギア・アルターの輝きにより、タロウの意識が玩具のような大きさのアルターに転送された。
「ワァーッハッハッハッハッハッハッ!!」
毒と重力から解放されたタロウが笑う。
「素晴らしいぞ! おいカナエ! お前の妹は最高だ!! これ程強烈な殺意を向けられたのは初めてだ! 欲しい! お供に欲しい逸材だ!!」
笑いながら妹を絶賛するタロウ。
次第次第に一の鬼からの怒気が増す。
…タロウ。
お前そういう所なんだよ、タロウ!
「どうした? どうしたんだカナエ! お前も殺る気になったのか! 結構結構、大いに踊れぇ!!」
怒りからか、技の精度を狂わしながら、それでも小さなアルターへと斬りかかる。
「どうしたどうした! 自慢の剣は、花の呼吸は! そんなものじゃないだろう、なァ!!」
アルターの小ささと、見た目にそぐわない剛力に翻弄されながら、一の鬼がたたらを踏んだ。
その瞬間、幻のようにアルターが消え去った。
『………!?』
音がする。
【ドン!】
冬の終わりを知らす音。
【ドン!!】
春が訪れ、氷が割れる、激変の音が…!!
【ドン!!!】
割れては出でる。
桃から産まれず氷から。
何から産まれて何処へ行く、そんな事など知るものか!!
【ドンブラコォォォォォオ!!】
光の渦。
二の鬼を封じる氷も巻き添えに、現れたるはモモタロウ!
【暴太郎戦隊!!】
「俺こそが! ドン・モモタロウ!!」
ザングラソードの刃が氷を纏う。
ドンブラスターに宿した童磨の術が、鬼を救えとギラギラ噛み付く!!
「氷桃無情・トウゲン神楽」
…その剣に、速度はなかった。
緩やかに、神へ奉納するように。
怒りも、嘆きも、悲しみも。
全てのわだかまりを溶かし、春へと導く演舞。
無慈悲な剣が、無慈悲だからこそ。
蝶は斬られた事にも気付かない。
春はそう。
ここに今。
今こそが『明日』なのだから。
◆
「ーーーーー私は…淋しかったんだ」
ぽろぽろと、涙と一緒にぽろぽろと、言葉が落ちた。
「私には姉さんにだけなのにって、ずっと思ってた」
情けなくて、情けなくて。
「姉さんが居なくなって、ずっと、我慢して」
我慢って何だろう。
「ただただ意地っ張りな、だけの、私を、カナヲは慕ってくれて」
空っぽになっていく。
「蟲柱になって、色んな人と、繋がって」
「どんどん、どんどん、姉さんが、消えて、行って」
「淋しい、淋しい、淋しい」
「………あ」
暖かい。
柔らかい。
カサカサの心が、姉さんの香りを吸って。
「ごめん、ごめんなさい、ごーーー」
塞がれた。
指一本。
細くて綺麗な、たった一本の指で、私が止まった。
「私は願いました」
声が降る。
私の上から、花の声。
追い求めては仕舞いに狂った、私の欲望が言う。
「あの御方の力になりたい、と」
「その気持ちに嘘はなく、だから童磨の誘いにあっさりと誘惑されました。もちろん、浦島太郎になるとは存じませんでしたけれど…あれ? でも私は17歳のままですし、男性でもないので表現的には違うのでしょうか」
可愛らしく上品に、姉さんが笑った。
嗚呼、その笑いかた。
笑い声。
なんて、懐かしく、心を満たす。
「淋しい想いをさせましたね」
その言葉だけで、私は。
「ただいま、しのぶ」
「…おかえり、姉さん」
蝶が『今』花へ帰った。