ドンモモタロウが童磨をオトモと認めるまでのアレコレ! 略してドン×どま! オンリーワンのハイブリッド鬼退治物語、満員御礼・大好評連載中…ドンドン行くぜぇ!! 作:マキシマムとと
「新婚旅行みまもり隊!」
それは結婚式の翌日。
竈門炭治郎への状況説明と夫婦となった二人の仲人役を務めた胡蝶しのぶが自室へと戻り、待機していた姉と姉の友人、そして自分の友人と、最後に家族となった炭治郎の妹、その合計四人に事の成り行きを報告した時の事だった。
「新婚旅行みまもり隊!!」
再度となるハルカの発言に、一同の動きが止まった。
「ハルカさん? 血鬼術の気配はありません、よね?」
理解できない現象=血鬼術。
まだハルカの芸風を理解していない胡蝶しのぶが鬼の気配を探すのだが、
「新婚旅行みまもり隊!!!」
取り合わず、それどころかハルカは同意者を募るように右手を真っ直ぐにカナエに向かって指し伸ばし。
「素晴らしい提案ですね」
何故か姉は当たり前に同意してそこに手を重ねて。
「なんだかドキドキする響きで素敵!」
友人の甘露寺蜜璃もそこに加わり、
「た、たい! …ふふっ!」
今一つ理解しているのか否か、ふわふわとした笑顔で楽しそうに禰豆子がそこに手を伸ばした。
そして。
「しのぶちゃん!」
柱にまで上り詰めたしのぶがたじろぐような熱量を伴って、ハルカが真っ直ぐにしのぶを見詰めた。
「カナヲちゃんはまだ16歳で、炭治郎なんてまだ15歳の子供なんだよ!?」
君は17歳だけれどもね?
「私達大人が、しっかりと見守ってあげる、それこそが責任なんだ! 投げっぱなしじゃダメ! しっかりと見守って、その青春の一ページを心のアルバムに記録しなきゃモッタイナイ! そうでしょ!?」
「それは…」
それは、出歯亀と言うのではないでしょうか?
その一言を飲み込んだのはやはりしのぶも人間だからか。
姉として、人として。節度を守るべきだと主張する心はあるのだが『そんなのわかってるよ! わかってるけど人生を全力で楽しむことの方が万倍大切!!』と言ってのけるようなハルカの元気な表情に、ふっと肩の力が抜けた。
「…楽しそうですね」
仕方ないですね。
そんな表情で手を差し出したしのぶに、
「楽しそう? 違うよしのぶちゃん、楽しい! だよ!! 間違いないって!」
五人の乙女の手が重なり。
「新婚旅行みまもり隊、ファイヤー!!」
「「「ファイヤー!!!」」」
「ふや、いやー☆」
春日部を防衛する子供達のようにキラキラと光輝く笑顔で、その五本の手が空を指したのだった。
ーーーこれは。
これは、那田蜘蛛山での決戦から一月も後の話である。
そう。
一月もの時が流れ、それでも彼と彼女は戻れずにいた。
何度となくドンブラスターでアバターゲートの作成を試みた。
桃井陣とコンタクトを取ろうと試行錯誤を重ねた。
だが、現実は彼らの求めには応えなかった。
修学旅行に近い、ともすればそれよりも楽しい雰囲気の中、自分にとっての【現実】に戻れない恐怖を心の底に沈めるハルカ。
そして、その彼女の懸命な強さを心から愛し、支えようとする鬼殺の面々による旅は愉快に始まる。
(優しい皆に、これ以上心配をかけたくない)
(ハルカさん、その悲しみ少しでも薄めてあげたい)
他者を思いやる人間の愛。
それはきっと、お互いを幸福へと押し上げる。
…だが、その汽車は【無限】の名を持つ運命の列車。
その無慈悲なる牙は、今。
◇
「うまい!!!」
無限列車。
八両で編成された車両の後方。
最後尾の二歩手前にある無限6号車は異様な雰囲気に包まれていた。
「うまい! うまい!」
「くぅぅぅ! 確かになぁ、このしょうが焼きなんて絶品だぜぇ!」
「うっまい、う…うま!!」
四人がけの座席を占領し、合計40に近い弁当の山に舌づつみを打つのは煉獄杏寿郎と童磨(モモタロス)、そして禰豆子。
大中小と揃い踏みのハデハデな一団。
食い散らすと言っても過言ではない量の弁当。
その空箱を積み重ねながら、それでもそこに『美しさ』を感じさせる食への感謝が散見されて、同乗した客や空箱の処理に来た職員からの感嘆を集めていたしーーーその隣の座席には。
「7六歩…か。なるほど? 流石は義勇、大胆にして洗練な実に良い一手だ、俺を理解しているからこそ打てる、その一手…面白い!」
「ーーーー」
「…っ! なるほど! そう言うことなのか!?」
こちらは普通に空席だ。
二人の男性は向かい合うように窓際に腰掛けており、通路側の座席は空白で荷物もない。
それでも誰一人寄せ付けない独特の狂気があった。
片方は桃井タロウ、そしてもう片方は冨岡義勇。
目隠し将棋に興じているらしいのだが、傍目にはタロウが百面相をしながら独りで喋り倒しているようにしか見えず、義勇は人形のように身動ぎしない。
ーーー先日、隠が口にした那田蜘蛛山での共闘は紛れのない事実だった。
光の戦士、その参戦を察知した鬼舞辻無惨がなんらかの形で事態に介入すると予見したお館様の判断により、山中で警戒を強めていた義勇。
そこへヒトツ鬼となった胡蝶姉妹を退治したドンモモタロウが合流して下弦の鬼へと対峙したのだが。
…そもそも、義勇は合理を言動の軸として行動している節があり、それはタロウからすれば川の流れを見るように明白で、自分に馴染む感性だった。
表現力に乏しい義勇の意思表示をタロウが汲み取る事で補って抜群の成果を叩き出した結果、お互いに強い連帯感が生まれ、それはこの場に於いても強い絆として作用していたのだが…。
傍目には、普通に怖い。
騒ぐタロウと無視する義勇。
一触即発のような、普通に仲良しのような??
そうした事もあり、誰一人そこには近寄らず。
そのすぐ後ろの座席では。
「蜜璃ちゃん…ほ、本当に!? それって愛の告白なんじゃない? ストッキング、蜜璃ちゃんの髪の毛の色にあわせてプレゼントしてくれたんでしょ?」
「そ、そそそ、それは! そう…だけど、だからって愛の、こ、ここ、告白だなんて…そんな(///ω///)」
「絶対そうだよ! ね、ねね! そうだよねしのぶちゃん!」
「蜜璃さんは本当に可愛らしいですね…そう言えば柱合裁判の日に伊黒さんが蜜璃さんにプレゼントしたハンカチも、同じ蜜璃さんカラーでしたよね? そうそう見る柄でも無いですし、少なくともその色がお好きなのは間違いないのではないでしょうか、姉さんはどう思われます?」
「そうねぇ、とっても素敵なカップルだと思うわ。直接の面識は無いけれど、伊黒さんってあのやんちゃな不死川くんが大切にしてる友人なのでしょ? それだったら人格的にも素敵な人なのでしょうし。そうだわ、ねぇ冨岡くん、冨岡くんはどう思うかしら?」
「ーーーーー」
「そうなの? なら素敵じゃないの」
「…姉さん、姉さんってどうやって冨岡さんとコミュニケーションとってるの? あの人喋るどころか表情筋のひとつも動かさないのに、なんで会話が成立するのですか??」
「ーーーあら? あらあらぁ? 気になるの? しのぶちゃん、もしかして気になってるのかしら?」
「へぇ? へぇ? へぇぇぇぇえ?↑↑↑」
「キャ、きゃあ♡ どきどきするわ! 切ないわァ!」
「ちっ! ちがっ! 私はただ職場の同僚として…!!」
ギャんギャんである。
作者は会話文だけでの文章作成は苦手なのだが、何一つ問題なく会話が弾むこの恐ろしさ。
やはり鬼滅は強い。
そしてその強さに埋もれない鬼頭ハルカよ。
その服装は一月前から一変。
桃井タロウと同じ【滅】の刺繍を省略した鬼殺隊の隊服に袖を通しており『黄色』の面影は腕に金糸で刺繍をされた鬼マークにしか残っていなかったのだが、それにしてもやたらと黄色い。
醸し出す雰囲気がキャピキャピに派手派手なのだ。
その上、女が三人に集まって姦しいとなる上にお一人追加であり、四人集まった彼女達はそれはもう凄い圧を放って周囲を圧倒していた。
当初【新婚旅行みまもり隊】は五人構成だった。
隠密性を重視して! と言う現状からすれば謎としか言えないの理屈で絞られた人数だったのだが、ハルカが、
「こんな美女が五人も揃ったら絶対に悪い虫が集ってくるわ! 虫除け要員が必要です、絶対に!!」
そのように提言し、まず大きく威圧感があって単純な童磨(モモタロス)が呼ばれ、そのお目付け役として煉獄杏寿郎が加わった。
「う~ん、厳しいわね」
加えてから思ったのだが、モモタロスは基本的にガキだ。
お子さま状態のふわふわ禰豆子ちゃんとの相性は良いのだが、自分達の虫除けとしてはあまり意味がない、逆に楽しみそうな感じがした。
頼りになりそうな煉獄さんはその二人の子守りで手一杯に見えるし、もう少し人を増やすべきかな?
そうハルカが思考した折りに、服の裾を摘ままれて。
「あの、タロウ様を…」
「…ほっほぅ~??」
押し隠せないトキメキを魅せるカナエの恋心から、タロウの参入が決定し「それなら義勇も連れていってあげて欲しい」とのお館様の要望を受け入れて最終的な『チーム☆新婚旅行みまもり隊DX』が結成されたのだった。
◆
殆どか柱かそれ以上の実力者、それが奇しくも柱の人数と同じ9名。
「過剰戦力も甚だしいねぇ?」
無意味と理解しながらも、極力鬼の気配を抑えて彼が呟く。
そこは機関部の直ぐ側に連結された1号車。
「ヒョッ、そうは言っても産屋敷からすればまだ心ともないであろうな。その証拠に終着駅には…ふむ、柱だけでも3人。隊士で言えば50から上は先行して現地制圧の真っ最中、と…ヒョヒョッ!」
「恐ろしいィィ、まさか、こんな鉄の塊に乗り込む羽目に陥るとは…恐ろしい、恐ろしいィィ…!」
彼とは違い、気配の制御などという児戯に意識を割く必要性を持たない古参の鬼が、腹に入り込んだ極上の料理を前に舌鼓を打つ。
「しかしそれでも9人は多い、頭の茹で上がった発情夫婦を交えれば実に11人もの大所帯ですか。私なら兎も角として…貴殿には、些か…ヒョヒョッ! 荷が、重いやもしれぬなぁ?」
ベロリ…と、溢れたヨダレを舐めるのは玉壺。
上弦、その伍に座する白の鬼。
「恐ろしい、あんな小童どもに恐れおののいて小便を垂れるような小僧を頭にせねばならんとは、嗚呼、恐ろしい恐ろしい…!!」
一切の責任を負わず、いざとなれば即座に逃げ出せるこの祭りを誰よりも喜び、心の底で愉悦に浸るのは上弦の肆・半天狗。
弱者をいたぶり、虚仮にして、空虚な悪意をカラカラ鳴らす。
そんな彼らがーーーあまりにも。
「惨めだなぁ」
「ーーーはて?」
「…なんぞ、申したか?」
そう………惨めだ。
哀れで無惨で、笑ってしまうほど、
「愚かで滑稽、老害の極みのようなゴミだなぁ」
うふ。
うふふふふ。
そっと、撫でるような緩やかさで、玉壺の瞳をえぐる。
「ヒョ…ヒョ?」
左右の手のひらに、それぞれ【上弦】と【伍】の文字・数字。
「面白いよね? こんなモノに価値を求めていただなんて」
鬼の始祖である鬼舞辻無惨から与えられる血の呪い。
その強さを明確に示す刻印を弄び、ほんの一月前までは下弦に位置して彼の鬼の寵愛を夢見ていた魘夢が嗤う。
「ーーーはて?」
「…なんぞ、申したか?」
再生される。
古めかしい蓄音機のように、僅かな言葉を必死になって。
意識に上らない脂汗を流しつつ。
現の悪夢に踊らせられるが、そのままに。
古き時代の鬼達が、素知らぬままに踊って狂う。
この状況を引き起こしたのは魘夢…ではない。
那田蜘蛛山の月の夜。
光の戦士、その未知なる力を調べるため、無惨の命令を受けて累の首を回収した彼は出会った。
禍々しいアバターゲートのその先【脳人レイヤー】と呼ばれる異世界で、真実の高次元的存在に。
「ソノシ様…!!」
その名を口にするだけで、心が昂り身体が疼く。
『魘夢、お前は見込みがある。人間とは矮小で、小賢しくも浅ましい蛆虫だと思っていたのだが、お前は違う』
偉大なる、事実隔絶した【神】が、魘夢を選んだのだ。
(なんて、素敵なんだろう…夢よりも美しく、夢よりも華やかに。無惨の如きゴミを敬っていた愚かで愚図で、虫ケラ一匹の価値すらなかったこの俺を! 俺を!! 選んでくださった!!!)
『お前には価値がある、それを示せ。簡単だろう?』
「勿論です、この命の…いいえ! 六道輪廻の全てを貫いてでも、貴方様のお役にたって見せます。あァ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! ソノシ様! ソノシ様!! うっぅぅぅんっ!! お美しい貴方様のために、必ずや、必ずやドン王家の生き残りを! ドンモモタロウの首を捧げて御覧にいれます!! うふっ! うふふふふぅぅぅぅぅぅぅうん!! イグっっっ(フリーハンド)!!」
…作者ドン引きである。
正直、魘夢がからんで好きに台詞を言わせたら毎回こんな感じになるのである。
きっと『ソノシ』様も草葉の陰でドン引きの真っ最中に違いないし、人選に後悔もするのだろうが。
だが、仕方がなかったのだ。
魘夢だけだった。
彼だけがドンブラザーズの攻撃を受け、浄化寸前にあった累を体内に吸収し、かつ悪夢という異能を用いてアバター因子との適合を果たす事が出来たのだから。
「ドンモモタロウ…お前の縁と俺の魘、どっちが太くて大きいか…いざ、尋常に…うふふ、うふふふふふふふふ」
恐ろしい未来を予見させながら、それでも彼は本気だった。
「【幽鬼術・強制昏倒睡眠ーーー眼ーーー】」
壁が、床が。
1号車全ての金属が肉に転ずる。
本体の魘夢、その眼球に刻まれた【夢】の文字と全く同じ無数の瞳が形成され、2号車・3号車を津波のように汚染する。
魘夢はもう『鬼』ではない。
彼は幽鬼。
始祖の呪縛から解き放たれて、新たな悪夢を貪る怪異。
その瞳は車両を喰らうに留まらず。
「ーーーはーーーてーーーーーー?」
侵食する。
「…なん…なんぞ、も、、もも、、、し?」
侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する
侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する
侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する
侵食する侵食する侵食する侵食する侵食する。
………そして。
無限【夢】列車が。
その幕が上がった。
◆
「不知火!!」
火を吹くような、とは正にこの事。
狭い車内である事など歯牙にもかけず、業火の迸りを思わせる踏み込みからの突撃が【夢】の眼を切り裂いた。
(へぇ? 早いじゃないか)
しかし、それは無数に発現した悪夢の一部。
6号車を侵食した瞳の大群は、即座にその役割を成し遂げる。
「血鬼術か…!?」
否、これは幽鬼の呪詛外法。
「こんばんは、お前がーーー」
作成した『口』が瞬く間に切り捨てられて、鮮やかな舌が空を舞う。
だが、即座に天井に複数の口を作り直して笑顔を見せた。
「…せっかちな男だなぁ。優しい俺が、せっかく真心でお前達に助言を授けてあげようと思ったのに。大丈夫だよ? 俺は強いから、お話の途中で寝首をかくようなズルはしない、約束してやるよぉ」
「血鬼術を用いての先制攻撃! 悪辣な一手を仕掛けておいて、よくそのように舌が回る!! 一周回って感心したぞ!!」
周囲に広がる混乱の声は、皆一様に低い。
『低い』のだ。
その混乱の、音域が低い。
その意味する所は即ち。
「女は姦しいだろぉ? 汽車はね、美しいんだよ。とりわけレールの上を車輪が噛んで、ゴトゴトギシギシシュコシュコと動き続けるこの音は控えめに言っても最高さぁ…だけど、残念なことにそれを理解してくれる女には出逢ったことがなくてね、ついつい邪険にしてしまうんだ。それに、効き目も抜群だろ? 俺の敬愛してもし足りぬ至高のお方が助言してくださったのさ、俺の為に、俺の為に!! うっふふふ…」
鬼であった頃の魘夢の術は脆かった。
わざわざ切符に血を仕込み、揺り起こさぬよう気を配り、夢であるとは気付かせず。
じわりじわりと術中に落として、それでようやく強制昏倒の睡眠に陥れる事が出来る程度の、脆くて迂遠で面倒な術でしかなかった。
「概念を教わったのさ【制約と誓約】夢へと誘う俺の術は、
①男には効果がない
②夢の内容は指定できない
③対象者の精神には干渉出来ない
敢えてそうした枷を設ける事で、術の強度を確固たる物に改編する。
女達が目を覚ます条件はーーーっ!?」
『昇り炎天』
炎の呼吸、その弐ノ型が魘夢の口を封じる。
「耳を貸すな! 恐らくこの『認識の共有』も【制約と誓約】に含まれている!!」
「ふっ…うふふふふふふふふ! お前、面白いなぁ? 勘が鋭いとかそんなレベルじゃない。流石は名高い炎柱様…それに」
無数の目を蠢かせて魘夢が笑う。
「場馴れしているだけはある」
この6号車に視認出来るのは、
炎柱『煉獄杏寿郎』
元上弦の弐『童磨』
赤の戦士『桃井タロウ』
この三人のみ。
水柱『冨岡義勇』は即座に判断し、実行していた。
7号車にも侵食する鬼の術を『凪』払いながら駆け抜けて、最後尾を走る車両にて炭治郎と合流を果たす。
「貴方は!」
炭治郎にとって義勇は妹の命の恩人。
半々羽織と怜悧な視線。
炭治郎の視点で見れば二度目の邂逅なのだが。
「抜け」
冨岡義勇の絶技、水の呼吸『拾壱ノ型』が魘夢の術を切り祓い、悪夢の進行はここに防がれた。
『ギョッ!!』
ーーーしかし。
「鬼…! いや、これは!?」
複数の車窓から、ヌルリと怪異が姿を見せる。
壺から魚の怪人を産み落とす玉壺の秘術。
騒然とする車内で、いち早く刀を抜いたのは竈門カナヲ。
「炭治郎…!」
口数の少ない者同士の共感力、
「私と水柱様で車内を守りながら制圧するから、炭治郎は上を進んで!」
義勇が魘夢の術に意識を割き、その隙をカナヲが埋める。
言葉に重きを置かなかったカナヲだからこそ、格上である義勇が敢えて眼の処理に注力する意味を即座に理解し、行動に移せた。
「早く!」
「わかった…! 気を付けて!!」
「ありがとう、そっちも気を付けて…!」
「接吻するなら、他所を向いておくが…?」
義勇にしては珍しい気遣いに。
「ありがとう御座います」
「か、カナヲーーーひゃ!?」
「愛してるよ、炭治郎」
耳元に囁かれるその響き。
もうこれ、どっちが主人公だかわかんねぇんだけど、やっぱ恋する女は強いんだよね。
気恥ずかしさから逃げるように車外へ飛び出し。
「俺の方が愛してる…て、馬鹿か俺は!!」
頬を張り、呼吸を強く意識する。
神楽を、躍りを、心の友を。
「ヒノカミ神楽…黒龍演舞!!」
闇夜を喰らう闇の龍。
黒の幻影を纏い、いざ悪鬼の悪逆を討ち滅ぼさん!!
その覚悟を腹に落としたその瞬間。
『あれれぇ? 炭治郎?? ママはどこぉ?』
ボンヤリと寝起きのような表情で龍が呟く。
「………え、リュウタロス?」
『そだよー♪ なんか目が覚めちゃった(ノ^∇^)ノ』
先頭車両の方から続々と這い寄る怪人を一息で平らげて、黒龍と化したリュウタロスが笑った。
『ねーねー炭治郎! ボクねボクね、ママと結婚したんだよ! 途中で炭治郎に代わったから知ってるよね? ママってばホントキレイで可愛くって、最高の結婚式だったよね!! ーーーあれ? あれれぇ? けどけど、変だよね? ボクがここで目覚めたってことはぁ~、炭治郎…』
耳元に迫り、龍が嗤う。
『まだ・・・なんだ?』
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『やだなぁ炭治郎ったら、初夜は終わってるんでしょ? なっさけないのー』
「こっこの! こっちは大変だったんだ!! 気付いたらいきなり結婚式で、お酒も呑まされて前も後ろもわからないままで、そんなお前、初夜もクソもないだろっっっ!!」
『据え膳食わぬは男のハジ、カメちゃんがよく言ってたなぁ~。やーい、ハジおとこーハジおとこー♪』
「うっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
心を乱しながらも、その呼吸が龍となる。
「円舞!」
湧き出す怪人を屠り、日輪の軌道で光を魅せる。
『炭治郎が寝坊助してる間に、ボクとママでいっぱい鍛えたんだよ! 褒めて褒めて~!』
コロコロと態度を変えるリュウタロスを無視して、
「俺は長男 俺は長男 俺は長男 俺は長男 俺は長男」
念仏か。
『違うよぉ~炭治郎はパパでしょ? パパに長男も次男も無いんだよ! しっかりしてよねー?』
「パパでもなんでもいい! 俺は、負けない!!」
『そーそー、最低でもボクを仕込むまでは絶対に死ねないでよね~?』
「ーーーーーーーー!!!!!」
腹の底から叫んで吠えて、炭治郎の戦いが始まった。
◆
「いやいや、強いねぇ?」
戦闘開始から僅か十数分で車両の半数が奪還さた。
人質として機能する予定だった一般人は男女問わず無傷で後方車両に避難させられて、今しがた4号車と5号車を繋ぐ連結器が外されて、緩やかに…だか確実に速度を落として闇夜に消える。
あちらに残った戦力は竈門夫婦と冨岡義勇。
「柱なんて眼中に無かったのに…なかなかどうして、ヤルじゃないか」
1号車の真ん中で、舞台を制する役者のように両手を広げて魘夢が彼を称賛した。
「炎柱…煉獄杏寿郎くん。素敵な瞳だねぇ?」
「父母から頂いたこの眼! 鬼からの賛辞でなければ素直に喜べたのだが、残念だ!!」
威風堂々。
赫き炎刀を突き付けて、狙うはその首ただ一つ。
「素敵な人だ。人にしては抜群に素敵だ。きっと俺が人間のまま、浅くて狭い井の中の蛙だったなら、性差など超越してキミに夢中になっていただろう。うふふ…だから、そうだね。良いことを教えてあげよう」
目を細め、遠くを指差す。
「切り離したのは失敗だったね」
それは、連結を断った後方車両。
「アレには爆弾が取り付けられてるんだぁ、定められた速度を下回る事で起動する特殊な爆弾」
「バカな!?」
アバターチェンジを終えている桃井…ドンモモタロウが驚愕に戦く。
「本当さ、お前たちには真偽がわからなくとも、キミにはわかるだろ? 俺の言葉が本当か、嘘か。俺としては信じてもらえない方がイロイロと楽しめるんだけど?」
「ーーー真実だ! 桃井殿!!」
即断、その判断をタロウもまた信じた。
「来い! エンヤライドン!!」
汽車から飛び降りると同時にアバターゲートを開き、舞い降りた愛機に跨がって並走する。
「ほらほら、そんな小さなバイクじゃ足りないだろ? もっと馬力を出さなきゃ…ねぇ、童磨様?」
「ーーーむ!?」
「時間が無いよ? お前の大切な女神とやらも、一緒に吹き飛んでしまう、それでも黙っているのかな?」
童磨は縛られている。
桃井陣の戒めによって封じられ、モモタロスの意識の下に固定されている。
「…タローちゃん、受け取りな!」
ーーーそれは、偽装。
封印など初戦で壊れた。
あっさりと吹き飛んだ戒めを寄せ集め、逆にモモタロスの意識を縛り、利用していたのは他ならぬ童磨の意思だ。
だが、彼の思惑などこの場においては意味がなく、弾いて寄越された深紅の歯車を受け取り、タロウが叫ぶ。
「『イマタロス・ギア!』」
【ドンドンドン・ドンブラコー!!】
「アバターチェンジ」
ドンブラスターが光を放つ。
撃ち抜かれるは機炎の愛馬!!
《ヨッ! デンライナァ~!! 時空の王者!!》
時間の波を掴まえて!
現れ出でるは未来の車両!
桃の光を自ら生み出し、いざ駆け抜けるは桃源郷!
【ファオン!!】
警笛が響き、車輪が吼える!
「ここは任せたぞ!!」
『おいおいおいおいぃー! やっと出てこられたと思ったのに! なんで俺がデンライナーになってんだよ!? しかも頭の部分だけとかどーなってんだよ!? こんなのディケイドにやらせとけ! お前は戦隊だろがぁ!!!』
「黙れ! 今は忙しい! 鬼退治はやることをやってからだ! は~っはっはっは!!」
『いや今笑うところあったか? なかったよな? なぁ~??』
騒がしく、その影は闇夜に消えた。
「………さて、これで勝ち確定、か」
あっけなかったね。
そのようにこぼし、続ける。
「これでドンモモタロウのWi-Fiはスッカラカン、ジュランティラノを呼び出すどころか、あと一刻も走ればデンライナーの維持すら困難になるだろうし…残念だけど、これでチェックメイト。だけどさ…だからこそ、ここでキミたちに提案したいんだ」
「童磨殿!」
「…ははっ、煉獄ちゃん、お前は本当に男前だよな」
鬼の戯れ言をするりと躱し、全幅の信頼を示すため、あえて童磨の前に立ち背中で語るは炎の柱!
「アレは擬い物だ! 本体の首はこの奥にある炭水車の先!! 運転室の床の底!!」
「うふふ、やっぱり見えてるんだ? 綺麗な瞳…ゾクゾクするぜ」
急所を見抜かれた事すらも、魘夢には悦びでしかなく。
「でもせっかちは良くないぜ? 人の話は最後まで聞きましょう。学校で先生に習ったろ?」
童磨がオーラソードで天井を切り裂こうと意識を向けた瞬間、その天井が青く鮮やかな魚に変じた。
「ヒョッ…ギョッゲ!」
生臭い雨を伴って舞い降りたのはーーー、
「玉壺…はははっ、笑ってしまうぜ。それが【真の姿】なのか? 何十年も偉そうに、後生大事に隠し通していた? なんともオイオイ、情けない姿じゃないか!」
「ゲ…ギョ?」
金剛石よりも硬い鱗を身に纏う、半人半蛇の奇々怪々。
首・胴・手首に【夢】の瞳が数珠ーーーもしくは鎖ーーーのように埋め込まれ、一つ一つの瞳が蠢き、陰湿に嗤う。
「言ってやるなよ、可哀想に。美学なんて人それぞれなんだし、言うだろ? 『チガイはマチガイじゃない』って」
ヒドイよねぇ、ヒドイヒドイ。
嫌味ったらしく嘲笑い。
「お前たちは上弦仲間だったんだろぉ? まぁ、今はもう上弦なんて有って無いようなモノなんだけれども?」
「ーーーなに?」
「そのままの意味さ。ねぇ煉獄くん、煉獄杏寿郎くん? 桃井タロウ…あの赤のドンモモタロウと鬼舞辻無惨の首を交換しないかぃ?」
「な!?」
それは、恐ろしい意味を含んだ提案。
「童磨様もその方が良いだろ? ドンモモタロウさえ居なくなれば、お前の女神は永遠にこの世界から抜け出せない。鬼舞辻無惨が居なくなれば、お前たちは極々普通の人生を歩める。
考えるんだ。
たった一人の異邦人の命でこの先何百、ともすれば何千何万と零落する命を救うことが出来る! お前たちは救世主になれるんだ!」
もちろん。
「この提案を蹴るならば、この俺と俺の全てを捧げたお方の慈悲を足蹴にするのなら」
「ゲゲ、ゲゲゲ! ゲキョォォオオオオオオオオ!!!」
玉壺が光に包まれる。
梵字とも英字とも読めぬ不可思議な光の文字に包まれて…!
「死ぬよりもヒドイ目に遇わせてやるよ」
【シロツバ鬼】
魘夢の前に立ち塞がる鬼を内包した鬼。
ウナギのようにヌメリを帯びた白い皮膚、口吻が前に突き出した独特の形状をした頭部。
若干エヴァの量産型を思わせる出で立ちのそれが、魚臭い吐息とヨダレを垂れ流し、大きな唇を醜悪に歪めた。
毎回毎回ほんと凄い。
来週が楽しみ過ぎなんだよな~( ☆∀☆)
オニタイジンおもちゃ大賞おめでとう!!