青い薔薇たちの物語   作:白羅

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第7話

『トゥインクルシリーズ、クラシック三冠のその初戦。毎年の行く末を占う一戦が今、行われようとしています』

 

 テレビに映っているのは東京レース場。観客席は空き一つ見当たらないような込み具合であり、これから行われるレースの注目度の高さを物語っていた。

 一人、また一人と入場してくるウマ娘に、観客は声を上げ、思い思いの声援を送る。

 そして最後の一人が現れたとき、実況がひと際大きく声を張り上げる。

 

『さあ皆様お待たせしました! 危なげないレース展開でここまで無敗! 周囲とは一線を画す実力の持ち主! 今日の勝者はやはりこのウマ娘か! 一番人気、トウカイテイオーの登場です!』

 

 初のG1という大舞台にもかかわらず、まったく臆することなくむしろ当然だと語るように、堂々と現れた少女。その姿を見て、先ほどよりも大きな歓声が上がる。

 

「人気だねぇ、テイちゃん」

「そのようだな、人気に足元を掬われるようなことがないように祈るばかりだが」

「その程度なら簡単に超えちゃいそうじゃない? よくぴょんぴょん跳ねてるし。それに、そんなのに引っかかるようなら無敗のテイオー様、なんて言わないと思うけど?」

「確かにそうかもしれないが……」

「それに()()()()()()で胡坐を掻くなって、五郎さんなら言いそうじゃない? 実際そうだったんだから。ね、皇帝様?」

「橘君、その呼び方はやめてもらえないかな」

「はーい。ルーちゃんのほうがかわいいもんね」

「それはそれでそうかと思うが……」

 

 盛り上がりを映すテレビを見ていたのは橘と、四人目の無敗三冠達成者『シンボリルドルフ』だ。

 

「えー、そのほうがかわいいと思わない?」

「親しみやすさが欲しいといったのは私だが、その呼ばれ方だとなめられているように思えてならないんだ」

「別になめているわけじゃないんだけど……あ、無礼(なめ)るなよ。なーんて」

 

 頬杖をつき、圧をかけるように睨みながら言う橘。しかし口角が上がっているため、圧は全くない。何かわからないけどニヤニヤしているなという程度だ。

 一方それを見せられているシンボリルドルフは、「ふむ」と言葉を漏らした。

 

「私の真似か」

「せいかーい! オググを威圧してた時の真似、似てた?」

「全く。本来はこうだ」

 

 シンボリルドルフも橘同様に頬杖をついて彼女を睨みつける。彼女の頭の上にある耳も後方へと絞られ、より強く圧をかけることに一役買っている。

 さすが本家と言ったところだろうか。彼女が真似した時には一切感じなかった、押しつぶすような強力なプレッシャーが発せられる。

 いつも飄々としている橘だが、彼女が発する圧をいなせなかった。思わず生唾を飲み、背筋をただしてしまう。

 

「おお怖、さすがだわ……ところでやめてもらっても?」

「これは彼女の言葉が慧可断臂(えかだんぴ)であることを確かめるために行ったものであり、軽佻浮薄(けいちょうふはく)にはしてほしくないものだ。橘君──」

 

 

 

「私を無礼るなよ」

 

 

 

 鋭く、視線だけで首を絞めてしまうほど強く睨む。第一線から退いた立場ではあるとはいえ、唯一無二の()()と言われたその力は健在であった。

 

「うわっ、冗談! これは冗談です!」

「もちろんわかっているさ。安心してくれたまえ」

「耳や尻尾は嘘をつかないってご存じない……?」

「もちろん。だからこそ、その冗談で傷ついたことぐらいは察してほしいのだが?」

 

 なおも耳を後ろに倒したまま威圧するシンボリルドルフ。何も知らない一般人からしてみるとなんてことはない動きの一つだが、トレーナーからしてみれば危険を表すサインの一つである。そのサインを無視した結果、日が落ちるまでウマ娘との鬼ごっこをする羽目になったトレーナーもいる。

 

 

 

 

 爲山のことである。

 

 

 

 

「あー……えっと、この前生徒たちの間で話題になってたカフェに案内するので、機嫌を直してもらえませんか?」

「仕方ないな、許すことにしよう。ちなみに、だが。他に誰か誘う予定は?」

「おっちゃんと、おっちゃんとこのウマ娘は連れてこようかなーって。他に参加したい人もいればって感じですけど」

 

 ネイちゃんでしょー、タボちゃんでしょーと指折り数える橘。悲しいことにその数は片手で足りるだけであった。だが、そこにいて当たり前の彼女が挙げられていないことに気づき、シンボリルドルフは疑問に思う。

 

「あとは……って、これぐらいしかいないや」

「橘君のウマ娘は? たしか、ライスシャワー君だったかな」

「あー、お米ちゃん? お米ちゃんは私の担当じゃないですよ。まだ()ってだけの契約ですし」

「仮、か……そう思ってるのは案外君だけかもしれないよ」

「そんなまっさかー。私みたいな人を選ぶウマ娘はいないですよ。あの子にも走る目標があるでしょうし、それに合ったトレーナーさんを探してもらう。他のトレーナーさんに診てもらえる機会を作らないと、だけどね。そのほうが目標達成しやすいでしょ?」

「目標、か。本人に聞いてみたのか?」

「ううん。私は聞くような人じゃないって、わかってるでしょ。一途に追いかける思いも、誰かに話したくない言葉も、みんな大切なものなんだし、聞いちゃ悪いでしょ?」

 

 その言葉を聞いて、シンボリルドルフは大きくため息をついた。

 

「それが美徳だと?」

「私の性格。大切にしてることを、見ず知らずの他人には話したくない、よね。誰にでも言いにくいことは必ずあると思うからさ。だから私も自分から聞かないようにしてる。間違ってる?」

「ああ、間違っている」

「そ、でも変えないよ。これが私のやり方だから。ルーちゃんにもルーちゃんのやり方があって、それは絶対に譲れないでしょ。確か、すべてのウマ娘が幸福の幸福だっけ。それを否定されたらどう思う?」

「何も、だ。それほど果てしなく遠い夢であることを自覚しているからな」

「あ、今のなし。相手が悪かった。ルーちゃんの精神力の強さを忘れてた。でもルーちゃんぐらいしっかりしてないと夢を否定されることを受け止められないはずなんだよ」

「というと?」

「三冠を取るとか春秋グランプリ連覇なら大きな夢でしょ。でもその中には何でもいいから重賞を勝ちたいとか、一勝でもいいからしたいとか。()()()()の夢の子もいるんだよ。ルーちゃんは笑う?」

「笑わないよ。大同小異、どれだけ小さくても夢は夢だ。笑うこと自体が恥だろう」

「ルーちゃんは偉いねえ。でもそうじゃない人もいるんだよ。自覚してないだけで私もそうかもしれない。うっかり言ってしまうかもしれない。だから夢を聞かないことにしてる。話してくれるっていう場合は別なんだけどね。どう?」

 

 音を出し続けるのはテレビのみ。沈黙が場を支配し、シンボリルドルフが橘の言葉を飲み込み思案する。

 意図を消化し、理解した彼女は優しい笑みを見せた。

 

「……君がそう言うのなら、私は追及しないことにしよう」

「おっさっすがー、話が分かるねー! よっ、生徒会長! 三冠ウマ娘! 三敗が語られる伝説!」

「最後のはけなしているようにも受け取れるのだが……」

 

 シンボリルドルフは「しかし橘君」とまじめに語り始める。

 

「私なら、トレーナーになってくれた時点で見ず知らずの他人にはしたくない。当人の性格や能力を見て、そして夢を己と重ね、千万無量のウマ娘からほんの一握りだけを選ぶ。合縁奇縁、まさに奇跡のようであり、しかしながら運命の出会いだ。たった一回の出会いにすべてをかけ、一生に一度を、命を懸けて走り切る。もちろん各々の夢をかなえるために、だ。夢を叶えるためには誰かの協力が必要になる。たとえ有智高才であったとしても、たった一人では何も成しえない。皇帝だの絶対だのともてはやされた私であっても、だ」

 

 シンボリルドルフからの諭すような、語るような言葉。それには彼女自身の想いが重なっていた。

 全てのウマ娘の幸福。途方もなく果てしない夢。正気であれば子どもの戯言と流すようなその言葉だが、シンボリルドルフは正気で語る。何故そこまでして無謀な夢を語るか、何故膨大な理想を抱えるのか、それは彼女自身にしか分からない。だが1つ確かなことは、その夢は決して1人では成し得ないということ。

 1人でも多くの理解者を、1人でも多くの協力者を集める事が必要になる。そのためには理想を裏づける実績を、夢を見させる程のカリスマが必要だ。

 

 幸運なことに彼女には他者を引き寄せる圧倒的なカリスマと、他者と一線を画す実力が備わっていた。すなわち、彼女は生まれながらにして王であり、怪物でもあった。

 皆の隣に立ち、共に歩もうと想う彼女の隣に立とうと思うものはいなかった。

 そんな時、彼女のトレーナーが真正面に立った。彼女に向けて、彼女の理想を不可能だと言い切った。

『強すぎるんだよルドルフ。背中を見せ続けても、その差が埋まらなければ誰も追いかけない。暴君には誰もついていかない』

 そして、彼女の手を掴んだ。

『とりあえずお前は他人と仲良くすることを覚えろ。今度のオフは近くのカフェでも行くぞ』

 その翌日のことを思い出し、思わず口元が緩む。

 

「トゥインクルシリーズ、さらに続けばDTL(ドリームトロフィーリーグ)まで共に歩むパートナーがトレーナーだ。家族のように、恋人のように、ライバルのように、友のように。その関係性は絞ることはできないがかけがえのない存在になることは自明の理だろう。私はトレーナーに目標を、夢を、そして隋珠和璧のような思いを知ってほしい。そして人バ一体となり、互いに悔いのないよう駆け抜けたい。橘君もトレーナーになったんだ、誰かの夢を背負う覚悟ぐらいは持っていてほしい」

 

 彼女の想いを語るうちの彼女の視線は自然と窓の外の景色へと向けられていた。そこには様々なことを行っているウマ娘たちがいた。昨日の自分に打ち勝つべく自主練に励む者、隣に立つ友と競い合い高め合う者、そしてトレーナーと意見を交わしトゥインクルシリーズを駆け抜けようとする者。皆が一等星のように輝いているとシンボリルドルフは感じている。

 

「わかってくれるな、橘君」

 

 

 

 

 

「ふわぁあ……あ、終わった?」

「橘君?」

「まっ、ストップストーップ!! ただのあくびですって! ここ最近睡眠時間が短くなってたから出ちゃっただけなんです! 話はちゃんと聞いてましたってば! 要するに隣に立ち続けてあげろってことですよね! あ、ほらそろそろ出走ですってよ! ほら見ないと! ね? ね!?」

「まったく……」

 

 命乞いに似た橘の誘導により、ルドルフの視線はテレビへと映る。現在は出走者たちのゲート入りが映されている。

 

『最後、一番人気トウカイテイオーがゲート入りします。今年のクラシック、その最初の舞台が始まります』

 

 一番外、18と書かれたゲートにトウカイテイオーが入るとざわざわとしていた観客たちも静かになる。

 しんと静まり返った中山レース場で緊張が最高潮に達した瞬間、ガシャンという音とともにゲートが開き、コースにいる18人の中から勝者を決める戦いが始まった。

 

『スタートしました! トウカイテイオー、いいスタートを切りました!』

「タイミングバッチリ。いいスタートだね」

「ああ」

 

 出遅れることなくゲートから飛び出したトウカイテイオー。その他の17人も同様に大きく遅れることなく走り始めた。

 好調な滑り出しを見せたトウカイテイオー。だがそのまま先頭に立つのではなく、少しスピードを抑えながら中団あたりに位置付けて見せた。結果として後ろから数えたほうが速い位置にいる。

 

「いいスタートを決めていち早くいいポジションに陣取る。これを選抜レースの時から直感でやってたって信じられないよね。まさに天才って感じ」

「レースのノウハウはトレーナーに教わることが大半だからな。デビュー前からできていたというのは天才の証明か、それか入学前から英才教育を受けていたか、かな」

「ルーちゃんは後者だよね」

「私もある程度才はあったよ。でなければ入学直後から注目されてないさ」

「そりゃそうか。失敬失敬」

 

 第一コーナーに差し掛かるとまた位置取りが変わる。トウカイテイオーはさらに前と進み、五番手あたりに位置付けた。

 

「お、前に行った。足を溜めないのかな?」

「スローペースになると踏んだか、トレーナー君の指示だろうね。後ろで控えるよりは前より、先行して状況を見たほうが勝ちやすいと読んだのだろう」

「スローなら前、ハイなら後ろが有利。理論としては知ってるけど、眉唾だと思ってるんだ。どうなの?」

「あながち間違ってないさ。だが、実力によってその常識も覆されるときはある。特に重賞だと顕著に起こりやすい。それだけ常識にとらわれない強さが集まっていると考えられるだろうな」

「ほへー、勉強になりまーす」

 

 第二コーナーを回り向こう正面の直線に入るウマ娘たち。前、後、左右にいるライバルを気にして位置取りを変える子もいれば、今がベストポジションだと主張しまったく譲らない子もいる。

 トウカイテイオーは後者に当てはまった。だが他の子によるポジション争いの結果、少しだけ位置を後ろに下げるような形になった。

 その顔は、笑顔であった。

 

「全然問題ないって顔してる」

「全体の様子を感じ取れるいい位置だ」

「私からすると前しか見えないじゃんって思うんだけど」

()()のであればそうなるだろう。だが、足音や気配、息遣いといった視覚以外で感じられる情報があれば全く問題ない」

 

 隊列はそのまま最後のコーナーを回り始める。

 トウカイテイオーが一瞬だけ強く踏み込むと、ぐんぐんと位置を上げ始めた。

 それを見たほかの子たちも、抜かれまいとペースを上げ、追いつくべしと溜めた足を動かし始める。

 コーナーの終わりに近づくにつれ、レースの終わりに近づくにつれて観客の声援は大きくなる。観客がそれぞれ応援する子の名前が呼ばれる。名前を呼ばれない子は一人としていないが、ひときわ大きく呼ばれている名前はやはり一番人気のトウカイテイオーであった。

 

『横一線に並んだ最終直線! しかし先頭はトウカイテイオーだ! トウカイテイオー堂々と先頭!』

「後ろも上がってきてるけど」

「だが少し足りないな」

 

 二番手まで上がってきた子が必死にトウカイテイオーを追う。手を伸ばせば届くような距離まで迫っていた。もう少し、あと少しで勝てる距離。だが──

 

『──抜かせない! 抜かせない! トウカイテイオー強い! トウカイテイオーゴールイン!』

 

 二人目がゴール板を駆け抜けるまで、時間にしてコンマ数秒もなかっただろう。だが、つけられた差がすべて。此度の勝者は大方の予想通りとなった。

 

『堂々駆け抜けましたトウカイテイオー! 無敗で皐月賞を制覇しました!』

 

 トウカイテイオーは手を振りながらコースを走り、観客に笑顔を見せる。幼さが見え隠れする見た目と勝利をもぎ取った強さのギャップは、これから彼女の人気がさらに上がることを予感させる。

 その他の少女たちは、静かにコースを去る。歯を食いしばる、こぶしを強く握る、涙をこぼす、声を出す。憂いや悲しみ、悔しさをそれぞれの表現でかみしめながら退場していく彼女たち。

 その姿を見て、橘の口から正直な感想がこぼれる。

 

「……みんな強いね」

「ああ。だが今日一番強かったのはテイオーだった。それだけだ」

 

 やがてトウカイテイオー以外がコースからいなくなった後、コースを一周してから観客の前に立ち、人差し指をピンと立てて見せた。

 その姿を見てひときわ大きな歓声を上げる観客たち。画面越しに見ていた橘やシンボリルドルフからも声が漏れる。そのポーズをとった意図にアナウンサーも気づいた。

 

『一冠目! これはあのシンボリルドルフと同様のパフォーマンスです! これから無敗三冠を達成して見せるという意気込みでしょう! 来月の日本ダービーも目が離せません!』

 

「だってさ。憧れられているウマ娘として、誇らしいんじゃない?」

「もちろん。だが、私の背中を追うだけで満足してほしくはないな」

「詰まるところ、DTLで叩き潰してあげたいと」

「そこまでは言わないさ」

「皇帝か帝王か。いつかの未来が楽しくなっちゃうね」

 

 そういいながら橘はリモコンの停止ボタンを押した。画面は笑顔を見せるトウカイテイオーをいっぱいに移したところで止まった。

 

「顔がいいねえ。この顔だけでファンが集まりそう」

「ウマ娘故に、かな。事実ファンクラブもあるぞ」

「へえー……え、何で知ってるの?」

「この学内で発足したからだよ。生徒会公認でね」

「職権乱用じゃない?」

「統率をとるためだよ」

 

 ふふんと得意げに話すシンボリルドルフ。関連する書類があれば弱みになるかなと手身近な書類を確認するが、それらしいものはなかった。

 

「この親バカさんめ」

「誉め言葉として受け取っておくよ。さ、仕事を続けよう」

「はーい。付き合ってくれてありがとうね」

「このぐらいお安い御用だよ」

 

 体をテレビから書類が山ほど積まれたデスクへと向ける二人。

 現在生徒会に正式に所属しているのは()()()()()()()()()()()()()()()のシンボルルドルフのみである。黒色夢想もびっくりの黒さである。

 

「いつも思うんだけど、人増やさないの?」

「毎年募集はしているさ。だが私でないとできない仕事も多くてね、増えたところで仕事量が変わったりしないんだ」

「仕事へたくそじゃない?」

「君に言われたくないな。睡眠時間し体調を整えることも仕事だよ。聞くところによると、最近一杯食わされたそうじゃないか」

「いっぱい食わされただけです。今度おっちゃんも同じ目に合わせてあげる」

「木乃伊取りが木乃伊になる、なんてことにならないようにな」

 

 

 

 それからは二人とも無言の時間が続き、部屋の中にはペンの音とハンコを押す子気味よい音が続いていた。

 やがて外から差す日の角度が変わり、部屋の奥まで照らすようになったころ、一つの区切りを示すチャイムが鳴った。

 

「おや、こんな時間。そろそろお米ちゃんのトレーニングに行かないと」

「そんな時間か。ありがとう幾分か進めることができたよ」

「どういたしまして」

「お礼と言っては何だがこれを」

「お金ならうれしいんだけど」

「ふむ。では今度私から理事長に打診しておこう」

「冗談なのでやめてください……やめてよね?」

()()だな?」

「私が()()なだけなんです。これでいい?」

「ああ、もちろん」

 

 差し出された紙を受け取り、中身に一通り目を通す橘。

 

「……これお米ちゃんももらってない?」

「まだ渡されてないよ。こうやって渡しておけば逃げられないだろうと思ってね」

「返品しまーす」

「却下。しっかり話し合って決めるんだ。人生を左右する大きな選択肢になるだろうからね」

「私が行っても何にもできないんだけどなあ……」

 

 その紙の一番上にはこう書いてあった。

 

『種目別競技大会エントリー開始のお知らせ』

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