かつてハーレム主人公だった貴方へ〜NTRから始まるバトルモノ〜   作:ウジ虫以下

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第二話『兄のような貴方へ』

 

龍二とホノカが出会ってから一夜が明けた。

 

 自分の寝床をホノカに明け渡した龍二であったが、ホノカのあまりにもな寝相のせいで、腹に踵落としを食らわされていた。だがしかし、東雲龍二の鍛え抜かれた身体の前では少女の踵落としなど生温い。床で眠ることになった龍二であったが、お粗末な寝相によって起こされることもなく呑気に欠伸をしている。

 

 その強固な腹筋に踵落としを行った当の本人、ホノカは負傷した踵を抑え、身悶えていた。呆れたとばかりに溜め息を漏らした龍二が、ホノカに話しかける。

 

 

「服、一着しか持って無かったよな?俺と買いに行ってもいいが………ここは同世代の若葉を頼るか」

 

 

 ホノカは何も持ち合わせていなかった。着の身着のままと言わんばかりに、身につけていた服以外は、何も。これから生活していくというのなら、一着では不味いだろうと考えた。

 

 其れならばいっそ、自分の知り合いで同性、ホノカと同世代である人間に投げてしまおうという思惑に至った龍二。そこで、話に挙げられたのが若葉という少女であった。

 

 

「何?………服?それよりも踵が痛いんだけど、どうしてだろう?」

 

 

 もしかしたら、出会うべきでは無かったのではと少々、ほんの少し、コンマ数ミリ程思う龍二だった。

 

 これが彼等の迎えた初めての朝の遣り取り。

是からも、こんな遣り取りが続くことになる。

 

 

………▼

 キシキシと音を立てる、アパートの錆び付いた階段を降りていく。部屋を出て二人が向かった先は、アパートの隣の一軒家。

 リフォームされているからか、アパートよりは比較的綺麗な普通の一軒家。此処が龍二の目的地だった。

 

 チャイムを鳴らし、目的の人物、若葉が出てくることを祈る。もし仮に、もう一人の住人が出てくれば面倒なことになるのが分かりきっていたからだ。

 

 

「はいはい、なんだい?———龍二じゃないかい」

 

 

想定していた最悪の可能性を引いたらしい。大体、ニブイチだというのに悪い方を引いてしまうなんて……。最近付いてない事ばかりではないか?と龍二は嘆息した。

 

 彼女は大谷 満(おおたに みちる)。この家の持ち主でありアパートの管理人。そして目的の人物、若葉の育て親だった。

 現在はもう、すっかり老けこんでしまった満の年齢は50代だったか。彼女と龍二は20年もの仲であり、龍二の過去を知る数少ない人物であった。

 

 皺を隠せなくなったのか、スカーフを首元に巻き着けて、頭部の下の方で髪を縛っていた。若い頃の満は大層美人であったのだが、苦労してきたのであろう、少しだけ面影がするばかりに落ち着いてしまっていた。

 

 

「それで、ウチに何の用なんだい?最近は顔も出さずに、ほつき歩いて若葉が寂しかってたというのに———!?龍二、その娘はどうしたんだ?」

 

 

 龍二の巨体で隠れており、今の今まで気付きもしなかったホノカの存在を、満は確かに視認した。

 遂に、あの龍二が女でも作ったのか、否其れはないであろうと満は愚かな考えを振り切った。

 

 其れならば、連れ込んだ?誑かした?考え込んだところで、答えが出ることはない。いっその事聞いてしまおう。それが満の回答。

 

 

「…………姪、だ。暫く預かることになったんだ」

 

「…………………ふぅん。それで、若葉に会わせにでも来たのかい。見た所同じくらいの年齢だ」

 

「………あぁ。」

 

 

きっと満の事だ、龍二の浅はかな嘘くらい気づいて見逃しているのだろう。龍二と満の間では、常に主導権は大谷 満、彼女のモノであった。

 

 ちぃと、お待ちよ。と言い残して家の中に引っ込んで行った。若葉を呼びに行ったのだろう。

 

 

「龍二、今の人は?」

 

「アパートの管理人。後、目的の人物の親だ」

 

「……………そう」

 

 

聞く事は聞いたと態度に表したホノカは、もう興味が失せてしまったのだろう、それっきりで黙ってしまう。どうにも、コミュニケーションのやり辛さを感じた龍二であったが、彼も別段会話が好きな方ではないので気にする事はない。

 

 

「———お兄さん!やっと会いに来てくれたんですね!!」

 

 

彼女が今日の目的の人物、大谷 若葉(おおたに わかば)だ。ニコニコと笑顔を振り撒く存在は、最早愛おしさすら感じる。ホノカも、このくらい愛想が良ければいいのだが、と龍二は独り言る。

 

 若葉は白いワンピースが良く似合う純朴な少女だった。彼女の、その過去を気にすることはあっても、落ち込んだりはしないような少女。

 

 太陽や向日葵といった喩えが腑に落ちる少女は、前髪で片目が隠れてしまっているのもチャームポイントと言えるだろう。

 

 龍二は、若葉がそんな少女であったからホノカの事を頼みたいと考えていたのだ。

 

 

「若葉、実は頼みたい事があってな。今日時間あるか?」

 

「………えぇ!?お兄さんが私に頼み事ですか!是非是非、私に出来る事なら頑張ります」

 

「助かるよ。ホノカ、若葉に挨拶しろ」

 

 

龍二に促されたホノカが、前に出される。龍二によって顔を合わせる事になったホノカと若葉。若葉は予想外の少女の存在に酷く狼狽えた。

 

 

「だ、だ、だ、誰なんですか!?お兄さんに説明を求めます!…………問答次第では」

 

「——————姪だ。」

 

 

ホノカの存在を一貫して姪とする事にした龍二。当然、若葉にも其の様に伝える。

 

 経緯を話す。目的を話す。若葉は良い子であったので疑問に思う節が有っても、話を切ったりするような野暮な事はしなかった。

 

 

「……………わかりました。お兄さんの頼みですから、ホノカちゃんに似合う服を見繕いましょう。…………………それでも姪、だなんて」

 

 

ある程度は納得してくれた若葉が、頼み事を受けてくれると言うので一安心する龍二。ホノカはチラチラと二人を窺っている。

 

 

「ホノカちゃん、私は大谷若葉って言います。宜しくね。それじゃあ行きましょう。勿論お兄さんの付き添いで、ですよね?」

 

「…………若葉。よろしく」

 

 

最近のモノノフ町は何だか物騒であるのは事実。昼間とは言え、少女二人で行かせるのにも不安を感じる龍二はボディーガードを引き受けることにした。

 

 

「…………えへへ。お兄さんとデート…♡」

 

 

その呟きは誰の耳に届く事もなく、スッと空に溶けてしまった。

 

 

 余談だが龍二は、めちゃくちゃ買わされた。

 

 

 

 

 

 

若葉side

 

私の名前は若葉。この名前は、お婆ちゃんが付けてくれたモノらしいです。

 

 私は幼い頃から両親というものの存在を知りません。記憶も無ければ、写真も無い。産みの親の顔すらも分からないのです。

 

 でも、悲観した事はないです。

 

 周りの人間は可哀想に、と口々にしますが私には理解出来ない事でした。

 

 だって、お婆ちゃんが居ましたから。私を育ててくれた大好きなお婆ちゃん。自分を愛してくれる人がいるというだけで、こんなにも幸せなのです。

 

 それなのに、何を悲しく思うのか。何を苦しく思うのか。何を哀れに思うのか。何を同情するのか、私にはちっとも分からない。

 

 私の事を思ってくれるお婆ちゃんが居るというのに飽き足らず、私にとって大事な存在はもう一人いるんです。

 

 

 東雲 龍二さん。……お兄さん。

 

 

私が幼い頃から遊び相手になってくれた兄のような存在。とっても身体が逞しくて、それでいて優しい人。私にとって大事な人。愛しい人。

 

 昔から、お兄さんは時々哀しげな、淋しげな表情をする人でした。私と遊んでいる時も何処か思い詰めた様な表情をする人でした。

 

 男らしい其の身体からは想像もつかないような、憂いを帯びた様な人。それが、お兄さんだったんです。

 

 

 最初は兄の様な存在であった筈なのに、私の中での『お兄さん』の存在はどんどん大きくなっていく。

 

 その大きな手で撫でてもらうのが好き。お兄さんと並んで歩くのが好き。お兄さんと喋るのが好き。挙げればキリはないですが、想いは日々募るばかりでした。

 

 この想いが何なのか、分からない時もあったけれど、今なら自信を持って言える。

 

 

 私、大谷若葉は、東雲龍二にどうしようもない程に恋をしていた。

 

 

………▼

 

「…はぁ、最近お兄さん会いに来てくれないな」

 

 

 嘆くくらいなら自分からアプローチを仕掛けろよ、と思われるのも無理が無いかも知れません。

それでも、まだ私は華も恥じらうような乙女だった。

 

 

「……だいたい、お兄さんも悪いんですよ〜?どうして若葉に会いに来てくれないんですか。若葉の事、嫌いになっちゃったんですか〜?」

 

「……………このままだと貴方の若葉が、寂しくて死んでしまいますよ。」

 

 

ベッドの上で寝転がって、足をバタつかせる。こういう時、いつも想うのはお兄さんの事。相場は決まっていました。

 

 

「若葉、龍二がお前に会いに来てるよ」

 

 

お婆ちゃんの声が聞こえた。お兄さんが、私に会いに来てるって………。考えただけで破顔してしまう。笑みが抑えられない。

 

 

(………私のために、来てくれたんだ)

 

 

玄関に居るというお兄さんに会う前に、シミュレーションする。お兄さんに見てもらうなら、常に完璧美少女な、そんな私がいい。

 ………好きな人の前で飾るのなんて、普通のことですよね?

 

 

「———よしっ!」

 

 

 扉を開け放つ。覚悟はして来た。いざ!

 

 

「———お兄さん!やっと会いに来てくれたんですね!!」

 

 

 ダメだった。顔を見ただけで着飾った仮面なんて剥がれてしまって本心が剥き出しになってしまった。…………これじゃあ、残念な女だ。

 

 でも、お兄さんが私に頼み事があって会いに来るなんて、珍しいなぁ。どうしたんだろう?

 

 

 紹介された少女を見てフリーズしてしまう。

 

 

———誰!?誰なんですか、この女!?お兄さんを誑かしてる!?私と同じ歳くらいなのに!?どうして、若葉を選んでくれなかったんですか!?

 

 少女の名前はホノカというらしい。それに彼女は、お兄さんの姪なんだとか。……安心できそうなんでしょうか、これって?

 

…………▼

 

 頼み事の為に街に出て、服を見繕ったのだが、ホノカちゃんは本当に美少女だ。

 

その気になったら私なんか負けてしまう程の美少女。きっと、お兄さんも彼女を選んでしまうだろう。

 

 

 嫌だ。それだけは嫌だ。

 

 

 本当は許せないけれど、お兄さんと一つ屋根の下で寝る事も、毎日お兄さんの手料理を味わう事も我慢しよう。

 

 でも、お兄さんを奪われるのだけは嫌だった。

 

 ただでさえ、お兄さんの周りには綺麗な女性が集まるというのに、同世代の美少女なんて勝ち目が無いのかもしれない……。

 

 

 …………ホノカちゃん。彼女は危険だ。ライバルだ。もっと自分に磨きを掛けねば。

 

 

 

 

心の中で密かに、ホノカのことをライバル視する若葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バトルは次話から。
キャラ設定に若葉・満の設定、イラストを追加しました。見なくてもいいです。
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