神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第100話 後始末

 アナグラへと何とか帰還すれば、そこは戦場の跡地の様に荒れていた。既に空気は平時に戻りつつあったが、エイジとソーマが血まみれの状態で帰還し、アリサやコウタも状況はお世辞にも良い物だとは言い難い雰囲気を見せた瞬間、空気が変わっていた。

 これまでの中でもこうまでボロボロな状態で帰投した事は殆ど無い。平和なアナグラの空気が一転していた。

 

 回復錠で応急処置はされているが、重症である事に変わりは無い。直ぐにエイジは緊急治療室へと運び込まれ、直ぐに治療中となっていた。他の3人も見た目が既にボロボロな事もあり、治療をすべく同じ様に医務室へと運ばれる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁエイジ。お前封印を解いただろ?」

 

「ああ、あの時はそれしか無かったからな」

 

 数日後に漸く目覚めた事で、一番最初にナオヤが見舞いと称してやって来ていた。神機を見ればどんな状態なのかは整備士である以上、直ぐに理解出来た。刀身パーツの摩耗が著しく、大小様々な傷が全てを物語っている。封印を解いた事が直ぐに理解出来ていた。

 

 本来であれば刀身パーツと言う器を超えた力は刀身そのものを崩壊させる危険性が高く、使用する事は無かった。基本的に神機の設計の思想に所有者にも何かしらのペナルティを与える様な物は殆どない。精々がマイナスのステータス程度で終了する為に、黒揚羽の様な性能は異質だった。しかし、黒揚羽はその力を受け止めるべく製造されている事もあり、見た目は何の変化も無かった。

 

 

「よく生きてたな。ギリギリのレベルに抑えたのか?」

 

「レベルに関しては正直な所、意識してなかった。最初は何かが削られる感覚があったけど。…最後は神機が助けてくれた気がする」

 

「…ったく、お前は簡単に物事を考えすぎるんだ。もっと自分を大事にしろよ」

 

「すまん」

 

 これ以上、何を言っても無駄な事は今に始まった事では無い事位はナオヤが一番理解していた。だからこそ本来であれば怒るのがスジではあるが、今までの付き合いの中で心底反省した記憶が一度も無い。相手の事を優先する為に、どうしても自分の事がおざなりになるのは、最早性格だけとは言い難かった。これ以上の事は言うだけ無駄だと理解している。

 だからこそ、ナオヤはそれ以上言うつもりもなかったのと同時に、代わりに厳しく怒る人間が今は居るからこそ、ここで話を止めていた。

 

 

「これ以上の事は俺に言っても仕方ないからな。後の事は頼んだぞ」

 

「まさかとは思うけど……」

 

 最後にナオヤが振り返った先には既に怒りに満ちたアリサが立っていた。ここから先はアリサが怒る方がエイジには効くだろうとの判断で、最初にナオヤが医務室へ入り、その後で気配を消した状態でアリサがそこに立っていた。

 ここから先のトバッチリは御免だとばかりにナオヤは素早く退散する。出る間際に見たエイジの表情は今後の事を予感したのか、部屋に入った時よりも顔色が明らかに悪くなっていた。

 今回の事に関して、技術者的には生還した以上、満点の出来ではあるが、恋人の観点からすれば恐らく0点なんだろう。

 部屋を出る頃にはフロア一面に響く様な大音量のアリサの怒声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件なんだけど、どうやら本部はガーランド支部長の単独テロだと認定して各支部に通達したようだね」

 

「前回の事もありましたから、ここは既定路線でしょう」

 

「しかし、対外的にはどうやって説明したんだ?」

 

「あの放送は支部に向けてのジャックだった事から、一般向けには支部長は最初から居なかった事にしたらしい。ただ、極東に関しては今回の件に関して公言しない事を条件につけてきたがな」

 

「無明、今度は何をしたんだ?」

 

 ここで無明の言い方に何か含みが感じられた。前回のヨハネスの際には上層部の一部を退陣させて人員を入れ替えたが、今回の件でそんな話は何も聞いていなかった。混乱は収まりつつあるが、それでも外部居住区やアナグラの内部には多大なダメージが今でも残っている。

 ここから復興となればそれなりに膨大な予算と人員が必要となる為に、その調整役としてツバキが各方面への指示を出していた。

 

 

「今回の件ではこちらからも条件を出した。今後、今回の件について公言しない条件と引き換えに復興の予算とそれに伴う人員の配置、後は問題となった技術の公開だ。ここでは技術の公開内容は既に知った物ばかりだが、他の支部では大事になるだろうな」

 

「無明君。もうそこまで聞けばネゴシエーターと変わらないと思うんだけど、その力量を見込んで支部長やってくれないかい?」

 

「博士、それは丁重にお断りしたはずです。ここで表に出過ぎるのは何かと拙い事が多いので」

 

「そうか……実に残念だ。で、本部からは彼の身柄を引き渡す様に要請が来てるけど、どうするつもりだい?」

 

 榊が懸念していたのはガーランドの処遇だった。元々ガーランドは学校の教員だったが、生徒がアラガミに捕喰されて以来、突如としてアラガミの生体研究に没頭し始めていた。

 生来から頭脳が明晰だったことも影響し、その執念とも取れる結果としてアラガミ進化論の論文を発表していた。しかし、実際にはそれは今回の事件を引き起こす為の手段でしかなく、純粋な研究結果を一部の本部の人間のエゴとも言えるクーデターの為に利用されていた。

 

 

「このまま引き渡せば、早晩にでも存在そのものが無かった事にされて終わりでしょう。それならばこちらの交渉の材料に利用するだけです。ヨハネスの時とは明らかに状況も異なる以上は最後までこちらの交渉の切り札として活躍してもらうだけです」

 

「頼むから無理はしないでくれ。やりすぎると何かと面倒事しか起こらないからな」

 

「そこの匙加減はしっかりとするさ。ツバキさんには悪いが、これからは少し慌ただしくなるだろう。人員の要求は今後の事も見据えた先の判断だからな」

 

 既に大きな危機から抜け出しているのと同時に、今回の内容は一般には広く知れ渡っていない事が功を奏していた。フェンリル内部での話ならば、外部に漏らさなければ広まる可能性は無い。そこだけが前回と唯一違っていた事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイジも治療に時間はかかったが、身体的には後遺症などの問題が無いと判断された事により、漸く元の生活に戻る事が出来た。アナグラの中は未だ工事個所が多く、その結果任務へ行く際にも手間がかかる日々が続いている。そんな中で、今回の慰労を兼ねた宴会が企画されていた。

 

 

「え~今回はみなさんお疲れ様でした。これからも頑張って行きましょう!」

 

 毎度の如くコウタが音頭を取り、ここで慰労会を兼ねたささやかな宴会が開催されていた。今回の事に関しては上層部は何かと極東支部を問題視する部分もあったが、無明の辣腕によって全ての決着が付いていた。

 復興に関しては既に予算と人員がある以上、完全に任せる事で何時もと何ら変わらない日常を送る事が出来ていた。

 

 

「今回は流石にヤバイと思ったけど、結果的オーライって所じゃないかな?」

 

「エイジ、お前アリサの前で同じ台詞言えるか?」

 

「……無理。暫くは怒らせない様に大人しくするよ」

 

「だろうな。あの声はフロア一帯に聞こえてたからな。知らない人が聞いてたら卒倒しかねない勢いだったぞ」

 

 いつもの屋敷では無く、今回は珍しくアナグラの外で開催されていた。当初は屋敷でとの案もあったが、肝心の屋敷は今回招聘した技術者の臨時宿泊施設となっている関係上、利用する事が出来ず、それならばと屋外での打ち上げとなった。

 既に酒が入っているのかリンドウを中心にタツミやブレンダン、ジーナが珍しく盛り上がっているのが見て取れる。今回の状況は前回に比べれば人員と言う部分では問題は無かったが、まさかアナグラまで侵入された事と、外部居住区での被害が甚大な物となっていた。

 しかし、詳細を調べると人的な被害は予想以上に少なく、結果としては壊れた物を補修すれば元に戻る物に関しては、今回獲得した予算で賄われる事から、結果的には被害は最少限度に留まっていた。

 

 

「何の話をしてるんですか?」

 

「ああ、アリサの怒声が響いてた話だ」

 

 エイジの代わりにナオヤが話す事で、あの当時の事を客観的に伝えたつもりだった。しかし、アリサはそんな風に受け取らず何処かからかわれた様にも聞こえていた。

 

 

「あ、あれはエイジが直ぐに無茶ばっかりしてるから怒ったんです」

 

「顔を赤くして言われても説得力ないから。まぁ、結果論だが生還した事はかなり大きいんだ。アリサには心配の元だったが、実戦でのデータは計り知れないんだ。

 今回の戦いで下手なシミュレーションよりも100倍のデータが取れた。安全マージンは取ったんだが、それを簡単に飛び越えると何かと拙いからな。何にせよ生きているのが一番だ」

 

「それって今後も使うって事ですよね?」

 

「それはエイジ次第だけど、恐らくは使うだろうな。だろ?」

 

「それは……」

 

 エイジはどこか他人事の様な感覚で見ていたが、突如として自分に振られた事で心の準備は出来ていないのか、何をどう言えば良いのか言葉が出てこない。

 アリサに心配をかけるつもりはないが、やはり目の前で血だるまになって倒れれば血の気も失せるだろう。仮にこれが逆の立場であれば、真っ先に反対するのは確実だった。だからこそ、何をど言えば良いのか判断に迷っていた。

 

 

「……今回の件はともかく、今後はもう少し調整して出力を抑える方向で考えるよ。でも、あの時は自分の神機がむしろ力を貸してくれた様な気がしてね。ほら、以前にリンドウさんの使ってた神機の件があったけど、多分あんな事なんだと思う」

 

「でも…何かあったら私は心配しか出来ないのはもう嫌なんです」

 

「これからはちゃんと言うから…」

 

「お前らは……」

 

 何この空気の様な雰囲気が広がりだした事で、この場に居たくない気持ちが優ったのか、ナオヤは既に撤退とばかりにその場を離れた。色々あったが心配しているのであれば、生きる理由になるだろうとの判断をし、今後は今以上に神機の強化の必要性を見出す事が先決だと胸に誓っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナオヤ、ちょっと良いかな?」

 

 その場を離脱したと思えば今度はリッカが絡んで来た。まさかとは思うが、何となく顔は赤く、恐らくは少しアルコールが入っているのかもしれない。そんな事を考えながらにリッカの話を聞いていた。

 

 

「君さ、女の子運ぶならもう少しマシな運び方しようよ。おかげで恥ずかしい思いしたんだから」

 

「あれが一番早かっただろ?」

 

「そうじゃなくて…もうデリカシーが無いんだから。でも、あの時はありがとうね」

 

「お、おう。無事でなによりだな。まさかあそこであれが上手く機能するとは思ってなかったから」

 

 素直に感謝を伝えれれるのは些か照れくさい部分があったが、今は少しだけ酔った勢いも借りたのだろう。言葉はともかくどことなく大胆になっている様にも思えていた。

 あの状況は今になって考えればゴッドイーターであれば、極当たり前とも取れる状況ではあるが、技術班はフェンリルに所属しているとは言え実際には一般人と変わらない。

 

 アラガミの存在は見ていても、至近距離で見る機会は全く無かった。エイジの言った結果オーライは今回の事にも当てはまる。恐らく恐怖心は簡単に払しょく出来る物では無いからこそ、リッカは吹っ切れる為に飲んだのかもしれない。ナオヤはそう考えていた。

 

 

「でもさ、あれって結局なんだったの?」

 

「あれ?あれはバレットだ。ただし、ゴッドイーターが使う物とは違って、弾丸はオラクル細胞が不活性化してるから威力に関しては神機よりも落ちるけどな」

 

「どうやって撃ったの?」

 

「火薬って訳には行かないから、磁力を使った簡易レールガンみたいな構造だな。ただし、1発のみで連射は出来ない代物だ」

 

 何気に放った一言はリッカの想像の斜め上を行っていた。結果的にはゴッドイーターが討伐した関係で詳しい検証は出来ていないが、一般人が今の所出来る事は精々スタングレネードを破裂させて逃げる以外の手段しかない。

 しかし、あの時は確かにオウガテイルに着弾しダメージを与えた様にも思えた。冷静に考えれば凄い事だが、元々遊びで作った物だからか、ナオヤの評価は高い物では無かった。

 

 

「いや、それって凄い事なんだよ。君は深く考えなさすぎだよ。早速榊博士にも相談しないと」

 

「まぁ、リッカが言うなら別に構わんけど」

 

 まさか適当に作った物がそこまで評価されるとは思ってもいなかったが、よくよく考えれば万が一の対抗手段になる可能性が秘めているのかもしれない。どこか他人事の様な感覚はあるが、それでも評価される事は嫌では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、ロビー一帯が少し配置の変更をしている様にも思えるんだけど、何か考えているのかい?」

 

「気が付きましたか。実は今回の予算は、出し渋るかと思ってふっかけたんですが、思いの外簡単に出されたので、空きスペースを使って休憩できるスペースをと思ってます。

 屋敷でも構わないんですが、今後はもう少し人員が増えると、こちらが今度は回らない可能性が高くなるのでその対策ですよ」

 

 未だバカ騒ぎとも言える喧騒から少し離れた所で、今回の顛末をまとめるべく提出された書類を色々と確認していた際に、榊が図面の配置図に違和感を感じていた。これまで無かった場所に何か計画している物があるが、その報告は聞いていない。改めて確認した所だった。

 

 極東支部だけではなく他の支部でも言える事だが、支部そのものは少しづつ拡大させている関係上、居住に割り振る事が多く娯楽施設まで手が回らないのが現状だった。

 ここ極東でもツバキの訓練により、殉職率が大幅に下がっている事から、新たに入ってくる人員は変わらない関係上、徐々に人数が増えて行く。福利厚生とまでは行かなくても、どこかリラックス出来る場所があればと考え、今回の予算獲得と共に計画していたものだった。

 

 

「なぁ、その空きスペースって何を作るんだ?」

 

「バーラウンジの様な物を考えている。設計は出来ているから後は着工待ちだな。工期を考えれば支部内の補修が終わる頃からだろう」

 

「そうか。楽しみだな。これで安心して飲める」

 

 どこからか聞きつけたのか、既に酔った状態のリンドウが何気に聞いて来た。屋敷そのものを閉鎖する訳ではないが、人数が増えると何かと厄介な事が起こる可能性を考慮した結果だった。

 実際には誰かがそこで料理する必要があるが、今はまだ計画中の段階の為に人選は先送りの状態となっていた。

 

 

「そろそろサクヤは臨月だろう。お前こそ、こんな所で飲んでいて大丈夫なのか?」

 

「今日はサクヤに許可貰ってるから大丈夫だ。って態々人の家庭内の事はどうでもいいだろうが」

 

「許可が出てるなら構わんが、飲み過ぎるなよ。水の様に飲んでるみたいだが、あれはあれで希少なんだ」

 

「やっぱりか。いつもの酒よりも飲みやすかったぞ」

 

 今回の宴会は全部が無明の持ち出しだった。事実、料理や酒を用意する以前に内部が破壊されており、そんな環境の中での調理は不可能との判断から用意されていた。

 気が付けば、かなりの数のお重の中身はほぼ空となっているが、今回の事件に関しては各自の負担があまりにも大きかった事から、それを忘れるかの様に騒いでいる。

 

 咎める者が居ない事もあってか、良く働きよく遊ぶがモットーだとばかりに今回のばか騒ぎは夜更けまで続いていた。

 

 

 

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