神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第154話 異動

ロミオとジュウリウスの1件は直ぐにアナグラへと連絡が入っていた。ただでさえ赤い雨の中での感応種の戦いは通常ではありえない程の内容であると同時に、ロミオが意識不明の重体のままフライアへと運び込まれていた。

あまりにも衝撃的なその一報がブラッドの空気を重い物に変えていた。

 

 

「シエルちゃん。ロミオ先輩って大丈夫だよね?」

 

「この件に関しては私にも想像できません。実際の現場を見た訳ではありませんが、本来であれば即死の状態で担ぎ込まれたそうです。今はただ治療の結果を待つ他ないでしょう」

 

「あのバカ…なんで勝手に戦ってるんだ……クソッ」

 

フライアでは現在治療を施してはいるものの、中の様子を知る術が無い以上、今はただ待つ事だけしか出来なかった。ナナの目は今にも泣きそうな程に潤み、シエルとギルは沈痛な面持ちで下を向いている。これ以上この場に出来る事は何一つ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュリウス。ロミオの件ですが、ゴッドイーターが故に処置に関しては問題はありませんが、最後に放った攻撃は恐らくは血の力の影響だと考えられます。ただ、その影響なのか、意識を取り戻すかどうかは私にも分かりません。明日なのかそれとも数年後なのか…今は静観する以外出来ません」

 

治療室から出てきたラケルの言葉は想像以上に厳しい内容でもあった。ジュリウスもガルムの一撃が直撃した事もあってか、今はまだ絶対安静の状態となっている。何時目覚めるのかすら分からない状況をどうやって報告すれば良いのか、言葉にするにはどうすれば良いのかを考えていた。

 

 

「ロミオの件に関しては非常に残念に思います。しかし、ジュリウス。あなたとて同じ様な状態である事に変わりはありませんよ」

 

「自分の身体は自分が一番分かっています。これは外傷だけなので、完治は時間の問題です」

 

「そんな事を言っているのではありません。ジュリウス。あなた黒蛛病に罹患しましたね」

 

ラケルの一言にジュウリウスは驚きを覚えていた。ロミオは運んだ際に、確かに赤い雨に打たれはしたが、未だ罹患の証でもある不気味な痣の様な物は浮き出ていない。にも関わらず、なぜそんな事を知っているのか。

未だ本人でさえも自覚症状が出ていない事を知っているのか理由が分からなかった。

 

 

「あなたのロミオをを思う気持ちは私もよく知っています。今は小康状態を保っていますが、今後はどうなるのかロミオの予断は誰にも分かりません。私も念のために榊博士と紫藤博士とも話をしましたが、今回の状況がどうなるのかは支部としても判断に困っているとの事です。万が一アラガミ化するのであれば、即処分するのがフェンリルの掟ですからね」

 

「しかし、それでは…」

 

「貴方の言いたい事は分かります。今後の様子はフライアが責任を持って管理しますから、安心しなさい」

 

動揺しているジュリウスの心の隙間に入り込むかの様にラケルの言葉は甘い物に聞こえていた。神機使いの末路は2つに一つ。そのまま殉職するか、アラガミ化するかの二択の未来。

しかも、後者であればその処分は部隊長でもあるジュリウスの手によって行われる公算が強い。今のジュリウスにとってその選択肢は最初から放棄していた。

 

ジュリウスの心にラケルの甘言がゆっくりと蝕む。あたかも旧約聖書に出てくるアダムとイヴをそそのかした蛇の如く、ジュリウスをゆっくりと絡め捕っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。すまないがこれから一緒にミッションに付き合ってくれないか?」

 

ロミオの事は公にはなっていないものの、ブラッドには詳細が伝えられていた。意識が未だ回復しない現状では、これ以上の手の施し様はなく、また今後どうなるのかも予断出来ない事が伝えられると、当初の予想通りショックが大きすぎたのか誰もそれ以上の言葉を発する事は出来なかった。しかし、いくら嘆き悲しんだ所でロミオの容体が良くなる訳では無く、今はただ忘れる事が無い様に各自が目を覚ます事の無い部屋に見舞いに行く程度の事しか出来なかった。

 

 

「それは構わないが…もう身体は大丈夫なのか?ジュリウスだってかなりダメージを受けてたはずだろ?」

 

「俺は元々外傷だけだからな。気にする事は無い」

 

当事者のジュリウスから言われると北斗はそれ以上の事は何も言えない。以前同様に2人でミッションを受ける事にした。

 

 

「で、何か言いたい事があったんじゃないのか?いくら簡単な内容とは言え、少し杜撰すぎた内容だぞ」

 

北斗とジュリウスの目の前には既に事切れたアラガミがコアを抜かれた事で霧散し始めていた。北斗が言う様に、今回のミッションに関しては明らかにジュリウスは動きに精彩を欠いていた。

ただでさえ油断すれば命を失うのは当たり前にも関わらず、些細な攻撃を避ける事無く被弾し、またそのフォローの為に動いた事によって討伐の時間はいつも以上だった。

 

 

「今回のロミオの件なんだが、皆には言わなかったが生還率はかなり低いらしい。ラケル先生の話だと実際に運び込まれた時には既に心停止してただけではなく、いくつかの臓器も破裂した事から多臓器不全となっていたそうだ。いくら神機使いと言えど、再生能力には限界がある。峠は過ぎたがこのままだと永遠に目覚める事が無い、いわゆる植物人間の可能性の方が高いらしい」

 

何気に言われた内容は北斗に衝撃をもたらしていた。当初聞いた際には、命に別状は無いが、いつ目覚めるかは不明だと聞かされていた。しかし、今のジュリウスの言葉から想像すれば、それは緩やかな死でもあり、また命そのものが無くなる寸前の様にも思えていた。

 

 

「今回の件で俺は改めて考えた。今回の直接の原因は神機兵にあるんだと本部から言われている。いくら赤い雨とアラガミの襲撃が重なったとは言え、このまま赤い雨の対策が可能な手段を失わせる道理にはならない。だからこそ……いや、これは俺の問題だな」

 

いつものジュリウスらしさがそこには無かった。自分自身は気が付いていないのかもしれないが、そこには諦観なのか、新たな選択肢を見つけたのか、今の北斗には分からなかった。

 

 

「北斗、俺はブラッドを抜ける」

 

「は?」

 

ジュリウスが何を言っているのだろうか。突然の話に理解が追い付かない。北斗の驚きを他所に既に決めた事なのか、ジュリウスの目には明確な意思が存在していた。

 

「この部隊は俺がいなくても既に普通に運用する事は可能だ。事実、今はここの環境にも慣れ始めている。それなら、もう無駄な殉職する様な事は少なくなるだろう」

 

「おい、何勝手な事言ってんだよ。ロミオがあんな事になったのは単なる事故だ。残念なのはわかるがジュリウスが気に病む必要は無いだろ」

 

「お前ならそう言うと思った。だが、これ以上時間をかける訳には行かない。これからの行動と結果が今後の計画を決めるはずだ。俺はこれから神機兵の教導を最優先とする。それが赤い雨から守る唯一の方法だと考えているんだ」

 

「ブラッドを捨てるのか?」

 

北斗の言葉はもう届かないのか、ジュリウスは何も答える事は無かった。この場に取り残された冷たい空気が今後の行方を示している様にも思えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ北斗。さっきフライアの人から聞いたんだけど、ジュリウスがブラッドを辞めるって本当なの?」

 

「そうか。ナナはもう聞いたのか……それは本当だ」

 

「北斗は止めなかったの?」

 

「止めたさ。でも……ジュリウスの心にはロミオ先輩に対する後悔しか無かった。少なくとも俺の目にはそう映っていた」

 

北斗がアナグラへと戻る頃、ブラッドに対しての連絡があるからと全員が一旦フライアへと移動する事になっていた。帰還直後にヒバリからの連絡で北斗も遅れてフライアへと行くと、エントランスには北斗を待っていたのか、ナナとギルが待っていた。

 

 

「ジュリウスのやつ……一体何考えてるんだ」

 

「話は聞いたが正直何を考えているのかは分からない。かなり思いつめた感じではあったがな」

 

ナナだけではなくギルも同じ様に話を聞いていたからなのか、北斗に詳細を確認しようとナナも含めて3人で話こんでいた。これからこの部隊がどうなるのかはこの時点では誰も想像する事が出来ない。

今は沈黙する以外に何も出来なかった。

 

 

「北斗、グレム局長がブラッドに招集命令を出しています。全員速やかに局長室へと来るようにだそうです」

 

シエルの呼びかけにこの場に居たブラッド全員がグレムの元へと足を運んでいた。恐らくは今後の部隊運用の件である事は間違い無い。ここ暫くはずっと極東支部で過ごす事が多かったから忘れる所だったが、現状ブラッドは未だフライアの所属になっている為に、グレムの話を聞くのはある意味当然でもある。

全員が重い足取りを隠す事無く向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「既に聞いてると思うが本日付でジュリウス・ヴィスコンティ大尉がブラッド隊の隊長を辞任した。大尉には今後、このフライアで神機兵の量産に伴う研究と開発を担当してもらう事が決定している。

それに伴って、今後のブラッドの隊の措置だがこれからここは神機兵の生産拠点となる関係上、部隊の運用は停止する」

 

突然言われたグレムの言葉は理解はするものの、納得できる物ではなかった。神機兵が原因となった今回の事件に関しては本部からは結果的には何のお咎めもなく、今後の戦力としての神機兵の製造が決定されていた。そうなれば、ここに神機使いを置いた所で何もする事が出来ず、その結果として部隊の停止が決定していた。

 

 

「停止ですか?」

 

「そうだ。お前たちの今後についてだが、今の状況を鑑みた結果、極東支部の要請もあってこのまま極東支部預かりとする。今後は新たな辞令があるまではそれに従ってくれ。で後任の隊長なんだが……なんだ貴様か。せいぜい迷惑だけはかけない様にしてくれよ。ただでさえ神機兵に対して以前に問題を起こしているからな。これが今回の召集内容だ。質問等は一切受け付けない。なお、この辞令は本日の一二○○より発動する物とする」

 

決定事項を淡々と読み上げ、これ以上は無用だと目の前のグレムは改めて書類に目を通していた。決定された内容に関しては本当の事を言えば、利益優先で他の事に顧みないグレムの下に付くよりも、今の極東の方が何倍もマシである事は誰もが理解していた。そんな事よりも、ジュリウスの辞任に関しては北斗以外は伝聞でしか聞いておらず、もしかしたらこの場に現れるのではないのだろうかと考えていた。

 

 

「なんだ?まだ何かあるのか。質問は受け付けないと言ったはずだが」

 

「そんな事より…なんでジュリウスがここに居ないの?普通だったらここに来るはずだよ」

 

「さっきも言っただろうが。大尉は神機兵の開発で忙しい身なんだ。お前たちの事に構っている暇は無いんだろ?今回の件はラケル博士にも承認を得てるんだ。それ上何を望むつもりなんだ?ガキじゃあるまいし少し位考えたら分かるだろうが。それともアラガミの相手をし過ぎた事でそこまで考える事が出来なくなったのか。

ただでさえお前達の隊員はこのままフライアで経過観察するんだ。一人の役立たずを維持するのもコストがかかる。だったら早々に神機兵を実戦配備するのが当然だろうが」

 

最早用事は何も無いと、グレムは会話をこれ以上するつもりは無いと、そのまま切り捨てた。今後の運用に関してはともかく、せめて真意位は知りたいと思うのはある意味当然の事でもある。しかし辞令が既に発令した状況下ではブラッドそのものが既に所属変更されている以上、このままフライアに留まる事すら困難となっていた。

 

 

「クソッ!なんだあの言いぐさは!俺たち神機使いは奴隷じゃ無いんだぞ!」

 

「ギル。少しは落ち着いて下さい。既に辞令は出てますので、今の我々はここにいるのも許可が必要になるんですよ」

 

「そんな事じゃねぇ!あいつはロミオに対して役立たずと言ったんだぞ。元々は神機兵が止まったのが原因だろうが!」

 

「ギル。ここでその言葉は拙い。気持ちは分かるが、一旦極東に戻ろう」

 

ギルの言葉は辺り一面に聞こえていたのか、その場にいた職員が一斉にギルを見ている。今回の一件は事故として処理されているが、実際の所は停止した原因は究明されていない。これ以上の発言となれば今度は極東に迷惑がかかると判断し、今はただ去るのみとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗。ロミオの事なんだけど……もっと俺たちが早く誘導していればこんな事にはならなかったんだよな。本当にすまなかった」

 

北斗達がアナグラへと戻ると、既に辞令の事は聞かされていたのか、北斗を見つけ開口一番にコウタは謝罪していた。もし誘導がもっと早くに終わっていればこんな結末にはならなかったのかもしれない。

そう考えるとコウタの胸中には忸怩たる思いしかなかった。そんな中で北斗達に真っ先に謝罪しようとコウタは考えていた。

 

 

「コウタさんが謝る必要はどこにも無いんです。あれは誰がやっても起こりうる事ですし、まだロミオ先輩は死んだ訳ではないんで……」

 

「そうか……そう言ってくれると助かる。でも神機兵が急停止したにも関わらず、生産が決まったのは不思議なんだよな。フライアではその話は出なかったのか?」

 

コウタだけではなく、その場に居た全員が確実にそう考えていた。戦場で兵器の急停止は今後どこまで信頼を寄せれば良いのか判断に迷う事になる。にも関わらず、原因はおろか急停止した事実すら発表される事はなかった。何も知らないままであれば手放しで喜べたのかもしれないが、目の前で起きた惨劇を見た後で喜ぶ様な人間はこの極東にはどこにも居なかった。

 

 

 

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