神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第157話 それぞれの結末

明日の為のブリーフィングは随分と簡単に終わっていた。一番厄介なのはマルドゥークが他のアラガミを寄せ付ける可能性だけ。しかし、これをクレイドルが始末するのであれば、そんな懸念はどこにも無く、ただ討伐だけとなっていた。

秘密裡とも言える電撃作戦によって周囲のアラガミの排除は完了している。やるべき事はただ一つだけだった。

 

 

「ねぇシエルちゃん。明日はロミオ先輩の敵を討てるのかな?」

 

「今回の作戦は殲滅ですから、討てるではなく討つと決めた方が良いですよ。それにロミオの容体は悪化してませんから我々に出来る事は何も無いです」

 

ナナはブリーフィングが終わり、今は少し時間が空いたからとシエルと話をしていた。幾らブラッドだからと全員が同じテントで一緒に過ごす訳にも行かず、この場には2人しか居なかった。

 

 

「シエルちゃんはどうしてそんなに強いの?私明日の事考えたらドキドキしてるんだ。これってやっぱり怖いからなのかな?」

 

「ナナさん。私だって強くはありません。ただ自分に出来る事は何なのかを考えてやってるだけです。誰だってアラガミと対峙する事を嬉しいと感じる人は居ませんよ。これは推測ですが、クレイドルの人達も色々と思う所はあるはずです。今回の件でも感応種でなければあのチームだけでやれるはずです。我々はその信頼を裏切らない様にやるだけですから」

 

シエルの言葉には色んな思いが存在していた。ブラッドとして考えればロミオの敵討ちでもあり、感応種の討伐でもある。しかし、これが極東支部の所属となればサテライトの今後の為の防衛戦でもある。

ここ数日の間にあまりにも重大な事が幾つも起これば、最早最優先事項がどうだとかを考える程の精神的なゆとりは最早どこにも無かった。

 

 

「でも、今は取敢えず考えても仕方ありません。ナナさん、少し外に出ませんか?」

 

そんな取り止めの無い提案ではあったが、このままここに居れば色んな事を考えてしまう。多少は気を紛らわすのも問題無いだろうと、シエルとナナはテントの外へと足を運んでいた。

 

時間もそれなりに経っていたからなのか、満月の光が柔らかく降り注ぐ様にも見えていた。これがミッションの最中でなければ月を見るのも悪くは無いだろうと考えていると、そこには北斗が一人で座禅を組んで座っていた。

 

 

「北斗もここに来てたんですか?」

 

「ああ、ちょっと考える事があってね。明日は神機兵も投入されるミッションなんだけど、やっぱり急停止するんじゃないかとか、色々と考えると流石に……」

 

「でもジュリウスが教導してるなら問題無いのでは?」

 

「確かにそうなんだけど、どうしても自分が知る神機兵は完全に信用しきれない部分しかないと言うか……シエルには悪いんだけど、神機兵そのものにどことなく悪意の様な物を感じるんだ。明日の戦いも少し考える必要があるかと思うとね」

 

北斗が危惧するのはある意味当然だった。過去の神機兵との任務を考えると、まともに稼動している姿を殆ど見た事が無い。大半は突然の急停止によって大小様々なトラブルを引き起こしていた。それが無ければ今頃ここにはロミオも居たはず。

そんな中でいくらジュリウスの事を信用していたとしても、そのまま神機兵を信用する事はどうしても出来なかった。

 

 

「それは幾らなんでも考えすぎでは?」

 

「杞憂で終わればそれで良いけど…考えすぎても進まないんじゃ、今日はこれで終いだ。ところでナナは?」

 

座禅を解いた際に周囲を見れば一緒に居たはずのナナはいなかった。これからどこかに行く事も無いにも関わらず、この場に居ないのであれば、どこかへと行ってるのかもしれない。そんな考えが出始めた頃だった。

 

 

「あれ?北斗座禅は終わったの?せっかくこれ貰って来たのに」

 

ナナの手には3本の缶があった。どうやら飲み物を貰って来たのか、そこには少しだけ笑顔がのぞいていた。

 

 

「さっきリンドウさんの所に行ったらギルも居たからこれ貰ったんだ。皆で飲もうかと思ったんだけど、どう?」

 

「ありがとう。有難くいただくよ」

 

ナナが差し出した飲み物は少しだけ甘い様な味わいのドリンクだった。中身はともかく味は中々の物。そんな味が少しだけ明日の戦いの緊張感を和らげた様にも感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は神機兵も投入する事になる。マルドゥークはブラッドと神機兵で当たる様に。クレイドルは感応種の影響下に入らない場所でのバックアップだ。質問が無ければこのまま作戦を開始する」

 

朝食を食べ終えると、ツバキのブリーフィングで最終確認が成されていた。今現在の所は周囲にアラガミの反応は何も無い。このまま一気に作戦が決行される事になった。電撃作戦とも言える今回の戦いの中で初めて大きな音を出しながら神機兵が前を索敵している。

北斗達はその後ろから周囲を警戒していた。

 

 

「北斗。この先の広い場所にアラガミの反応があります。恐らくはそれがマルドゥークだと思われます」

 

周囲の索敵に対していち早くシエルの直覚に反応が出ていた。今は邪魔になる様なアラガミはどこにも居ない。このまま一気に突き進んでいた。

山岳地帯には珍しく開けた場所に出るとその先の崖の上には予想通り、マルドゥークがまるでこれから何が起こるのかを確認するかの様にこちらを見ている。

誰が何かを言った訳では無い。このまま自然と戦いが開始された。

 

 

「シエルは狙撃でバックアップ。まずは3人で出る」

 

北斗の合図と共にそれぞれが崖の上からの襲撃にそなえるべく散会している。万が一の可能性を今は1個でも潰したい考えがあっての指示だった。まずは先制攻撃とばかりに神機兵の一斉射撃がマルドゥークの居る場所へと銃弾を浴びせたの皮切りにマルドゥークは一気に崖下へと降下していた。

 

 

「各自神機兵の動きを見ながら攻撃してくれ!」

 

北斗は指示を出すと同時に一気にマルドゥークとの距離を詰めていた。既に攻撃の態勢に入っているのかブラッドアーツ特有の赤黒い光を帯びた神機が顔面へと叩き込まれようとしていた時だった。

 

 

「やっぱりそうくると思ったぞ」

 

まるで予想したかの様に鋭い神機の刃はまるで刃の様な大きな牙で止められたからなのか、周囲にも響く程の大きな衝撃音が響く。

それが合図の代わりだとシエルの放った銃弾がマルドゥークの視界を塞ぐべく目の部分へと狙撃されていた。

この一連の動作に関しては知能が高い事が前提であると同時に強大な火力も持つ神機兵を上手く使う事で討伐を進めるプランだった。当初の予定通り牙で受け止める事までは

まさにプラン通りの展開だった。しかし、それは北斗達だけではない。またマルドゥークも同じ様な考えだったからなのか動じる様な気配は微塵も無かった。

 

 

「向こうも考えてたって所か」

 

改めてマルドゥークと対峙する。以前の様な状況ではなく、今は確実のその命を奪うためにここに来ている。そんな存在感を放ちながら北斗は睨みつける様な目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギル、少し前に出過ぎだ!」

 

マルドゥークとの戦いにどれ程の時間が費やされたのか、既に時間はそれなりに経過している様にも思えていた。他のメンバーは気が付かないが、前回対峙した北斗は明らかに以前とは違う雰囲気のマルドゥークに僅かながら苛立ちを覚えていた。

 

冷静になればすぐに分かる事だが、知性のあるアラガミは他とは違い本能だけで動く事はあまりない。自分の状況を知った上で本能と融合するだけの行動力がそこにある以上、苦戦するのはある意味当然だった。

 

 

「来るぞ!」

 

北斗が何かを感じ取ったのかマルドゥークは身を一旦縮めたかと思ったと同時に、ギルに向かって突進していく。北斗の声でギリギリ躱す事が出来たのは、ある意味偶然とも取れる状況にギルは少しだけ冷静になる事が出来た。

 

 

「すまねぇ!」

 

以前とは決定的に違うのはガルム種にありがちな跳躍を中々してこない点だった。素早く動く際に大きく跳躍する事で距離を稼ぐ事が出来るが、いかなアラガミと言えど跳躍を一旦すればあとは着地点までは何も出来なくなる。

 

事実、ガルムの討伐の際には北斗は大きく跳躍した瞬間に着地点を見極め、一番無防備な所に渾身の一撃を食らわす事で今まで討伐してきた。マルドゥークとてガルム種である以上、同じ様な行動をするかと思われていたが、この戦いに於いては今までに一度も跳躍する事は無かった。

 

 

「シエル。もう一度やれるか?」

 

「はい。やってみます」

 

素早く動くだけではなく、強大な力を持つ以上ゆっくりと戦う訳には行かなかった。今までに何度か遠吠えをする場面はあったものの、外部でクレイドルがシャットアウトしている事からアラガミの増援は一切来ない。

 

通常であれば気が付く事無く同じ事を繰り返すはずも、この個体は直ぐに学習するのか今では遠吠えをする事も無かった。このままダラダラと戦えば、こちらの方が戦局的に不利になる可能性が高く、またクレイドルと言えどいつまでも出来るとは考えにくくなるのであれば、一刻も早い討伐を余儀なくされていた。シエルの銃弾が2度響くも、まるで意にも介さないかの様にマルドゥークは平然としていた。

 

 

「まさかとは思ったけどここまでとはね……」

 

シエルの銃弾がまるで通じていない様にも見えた際に、一つの可能性が北斗の中にあった。一時期は頻繁でなくても度々現れた感応種がこのマルドゥークの目撃以降一度も姿を表していない。偶然と考える事も出来るが、最悪の場合は感応種を捕喰し、自身の力を増大させている事だった。

ここ最近の感応種はシユウ型が殆どではあるが、イェン・ツィーの姿は一度も見ていない。ましてやその下位でもあるシユウですら発見する事は無かった。

 

 

「どうする北斗?このままだとジリ貧だぞ」

 

「ねぇ、1回スタングレネード使ったらどうかな?」

 

ナナも恐らくは考えていたのか、奇しくも北斗と同じ事を考えていた。今回の戦いの中で神機兵もそれなりにはやっているが、身体が大きい分、動きがあまり俊敏ではないからなのか、攻撃があまり当たっていない。神機兵の最大の特徴でもある強大な火力を活かすのはそれが最適だと考えていた。

 

 

「一旦動きを読んで、ギリギリの所でやってみるか?ナナやれるか?」

 

「任せておいて!」

 

その一言で行動は直ぐに決行されていた。一塊にならず各自が散会しながらの攻撃の為に、マルドゥークはその都度攻撃目標を立てながら攻撃をしている。いくら知性があろうともやはり本来の本能から逃れる事は出来ず、一番目立つ神機兵へと攻撃を開始していた。

 

 

「行くよ!」

 

ナナの声を同時に神機兵に向かって突進したマルドゥークは悲鳴と共に大きく怯む。ここまで大きな隙を見出す事が無かったからと、全員が一斉に攻撃を開始していた。

 

そんな中で北斗は捕喰形態へと変え、一気に攻撃を仕掛けるべく黒い咢が後ろ足へと齧り付いた。この瞬間、生体エネルギーが全身を一気に駆け巡る。ここからが勝負どころになるはずだった。

 

 

「なん…だ…これ……」

 

北斗の体内に何かが暴れ出すかの様に心臓の鼓動が早くなる。何時ものバースト状態ではなく、以前にも感じた感覚が北斗を襲っていた。

 

 

「ふははははははは!」

 

「北斗!」

 

「あれってまさか」

 

以前にどこかで見た光景だった。一番最初に対峙した時も同じ様な状況に陥っていた。あの時は血の力に目覚めるからだとラケルから説明されていた為に納得したが、今は既に目覚めているだけではなく、自身でもある程度の制御が出来ているはずだった。

しかし、今の北斗は明らかに理性のタガが外れ、本能の趣くままの状態へと変貌している。あまりの変貌ぶりに3人は言葉にする事が出来なかった。

 

そこからの北斗の動きは明らかにこれまでとは違っていた。本能のまま動くからなのか、突如として違う方向へ動いたかと思った途端に急転換しマルドゥークの後ろ足に切りつける。本来の攻撃とはかけ離れた行動は周囲にも大きく影響していた。

 

一番影響が大きかったのはシエルだった。今までの様な綿密な動きであれば今後の行動が予測でき、その瞬間を狙って精密な射撃をする事が出来たが、この状態での射撃は行動がトリッキーすぎる事から予測する事が出来ず、結果的には散発程度の射撃しか出来ない。これでは致命傷を与える事も出来ず、ただ自身のオラクルを無駄に浪費する事になっていた。

 

 

「ナナさん。このまま北斗一人は危険です。私も援護に行きます」

 

このままでは打開策が何も無いと射撃は一旦諦めてシエルも自身のデファイヨンを引っ提げマルドゥークへと走った。万が一の事があっても大丈夫な様に神機兵の射撃を活かしつつ一気に距離を詰めていた。

北斗の動きに翻弄されている影響があるのか、マルドゥークはシエルが迫る事に気が付かないまま、シエルの攻撃がそのまま顔面を捉える事に成功していた。

 

 

「ナナさん!」

 

シエルの合図と共にブーストラッシュの態勢を作り出す。幾らなんでもこのままの北斗が危険だからと全力でガントレットへ叩きつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この感覚は……」

 

ブラッドが交戦している所から少し離れた所でエイジは自分の感覚がおかしいのかと少し疑っていた。この場に感応種は確かに居ないが、強い偏食場パルスを感じている。

それでけではない。この感覚はエイジが一番良く知っていると同時に、自身が経験した感覚と酷似じていた。

 

 

「ツバキ教官!ブラッドはどうなってます!」

 

「詳しい事は不明だ。ただ、感応種とは違った偏食場パルスが形成されている。今はアナグラに解析を回しているが、これはこちらからでは分からん。結果が出次第すぐに連絡する」

 

この時点では観測は出来ても詳細は知る事が出来ない。このままでは待っている未来は良い物では無い。しかし、今の段階でこの場を離れる事は戦線を自ら崩壊させる事になる。立場を考えれば流石にそれを自ら崩す事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗!いい加減元に戻れ!」

 

ギルの叫びも空しく北斗は何も考えていないかの様に縦横無尽に動き回っていた。ギルとてアラガミの攻撃を受けていない以上、その事に関しての心配は一切していなかった。

むしろ怖いのはその後。自分の限界値を超えた動きはその能力を持って自らを亡ぼす可能性が高く、またこれがいつまでも続く様ならば今度は違った意味で命の保証は出来なくなる。

このままではこれ以上の過剰な動きは既に自身にも跳ね返っている。それがさも当然だと言わんばかりに北斗の腕や足からは毛細血管が破裂しているのか、所々がドス黒くなっていた。

 

 

「このままだと拙いぞ!一旦距離を取れ!」

 

何かを察知したのかギルが北斗の代わりに指示を出していた。一方的な攻撃に業を煮やしたのか、マルドゥークは皹が入ったガントレットを激しく地面に叩きつけ周囲を振動で揺らす。

不意に地面が揺れた事で全員の足が一瞬止まっていた。

 

マルドゥークとてそのチャンスを見す見す逃すつもりは無かった。ガントレットが僅かに浮かぶと同時にマグマの様な物が足元へと垂れてくる。これから何が起こるのかは誰もが予想出来ていた。

 

 

「キャアアアアア!」

 

勢いよく放たれた火球はそのままナナへと直撃し、この場から大きく吹き飛ばされていた。

 

 

「ナナさん!」

 

「わ、私なら大丈夫。そんな事よりも早く北斗の方を!」

 

ジャケットの一部が焼けこげ、むき出しの肌も少し赤い。本来であれば重度の火傷になるが、そこはゴッドイーター故に最低限の負傷で落ち着いていた。放たれた火球はそのまま炎が消える事無く未だ燃えたままとなっている。

ここが岩場だからこそ火事にはならないが、万が一これが何かに引火すればこの炎は一気に燃え盛る可能性を秘めていた。

 

 

「シエル。俺がマルドゥークの相手をする間に何とかしてくれ!」

 

「何とかと言われても…」

 

ギルの言いたい事は分かるが、既に暴走を初めてから北斗の四肢はドス黒さが拡がりだしていた。これがどんな状態なのかは考えるまでも無い。しかし、肝心の止め方が分からない以上、今のシエルにはどうしようもなかった。

そんな混乱をまるであざ笑うかの様に、ここで改めてマルドゥークは今まで以上の遠吠えを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ?まさか感応種か?」

 

ソーマが一瞬感じたのは以前にも経験したあの感覚。感応種の反応に神機が沈黙した時と酷似していた。ソーマとリンドウに関しては問題無いが、それ以上に拙いのはエイジとアリサだった。既に影響下にあったのか、神機はまるで命を失ったかの様に反応が消え、今はただ沈黙していた。

 

 

「リンドウさん。ここをお願いします。僕はアリサの元に行きます!」

 

「おい!エイジ!」

 

エイジもまた神機の反応が消えた瞬間、一番最初に思ったのはアリサだった。エイジとて神機が動かなければ丸腰ではあるが、まだ自身の能力で回避も出来る。しかし、アリサはまだそこまでには至っていないからなのか、エイジは自分の事を忘れアリサの元へと移動していた。

 

 

「なんでまたなの!」

 

アリサは舌打ちしたい気持ちを抑えながら目の前のコンゴウと交戦していた。通常の感応種であれば、ここまで偏食場パルスが届く事がないからと戦っていたが、まさかこんな所にまで影響が出たのが想定外だった。

 

渾身の一撃とも言える斬撃は一気にその勢いを失い、まるで鈍器で殴りつけた様な手ごたえしかなかった。このままでは一気に押し切られる。そんな軽い絶望感がアリサを襲っていた。

受け止められた神機は既に機能不全となっている事もあり、盾を展開する事すら出来ない。大きな一撃の隙はあまりにも大きな代償を払う可能性だけが残っていた。

 

 

「もうダメ」

 

時間にして僅かではあるが、この状態ではコンゴウの腕はアリサに直撃する。その瞬間アリサは目を瞑っていた。このまま命の灯が簡単に消える。そんな思いしか無かった。

しかし、いつまで経ってもコンゴウの攻撃が来ない。恐る恐る目を開ければそこにはエイジがコンゴウの腕を絡めとり、攻撃をギリギリの所で防いでいた。

 

 

「エイジ!」

 

「アリサ大丈夫か?」

 

「はい大丈夫です。でも…」

 

この状況が何を表しているのかアリサが一番良く知っていた。ネモス・ディアナでの経験がそれを確定させる。今はただ何も出来ない事が歯痒いとだけ考えていた。

 

 

「アリサ。ごめんね」

 

「エイジ…何言ってるんですか?」

 

エイジは一言だけアリサに謝罪し、神機を構えた。ここから何をするのか。考えたくも無いし、知りたくも無かった。アンプルを口の中に放り込むと同時に改めて神機を再接続する。

その行為がどんな物なのかは知っていても、今のアリサに止める事が出来なかった。

 

禍々しい程の漆黒のオーラがエイジの身体を包み込む。その瞬間、エイジの身体はこの場には無かった。

何が起こったのは言うまでもなく、エイジは神機の封印を再び解放し目の前のコンゴウだけではなく、寄ってきたアラガミが全て粉々と言える程に斬り刻まれていた。

 

 

「エイジ…どうして」

 

全身の血の気が引いたのか、膝から崩れるアリサを尻目に今度はブラッドの居る位置へと走り出す。限界以上の速度はエイジの身体を同じ様に傷つけながら現場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕方ない。シエルは北斗を押さえてくれこの場は一旦退却だ」

 

ギルはこれ以上の攻撃は無理だと判断してやもなく撤退を決めていた。このままでは戦線が崩壊するだけでなく、万が一の場合は北斗までダメになる。そんな考えがギルの苦渋の決断の理由だった。

 

 

「北斗。少し落ち着け」

 

疾風の如くこの戦場に現れたのは感応種の影響外に居たはずのエイジだった。混乱した北斗の腹に一撃を加えた事でほんの一瞬呼吸が止まる。自分の意思を落ち着かせると同時に、マルドゥークに向かって一気に走りだしていた。

 

 

「エイジさん!どうして?」

 

ギルの疑問に答える事は無かった。エイジは一気に距離を詰めた瞬間、マルドゥークは待ちかまえていたかの様に鋭い爪でエイジを引き裂こうと、今までに見た事も無い程の一撃をエイジを与えた様に見えていた。

 

マルドゥークが捉える事が出来たのはその場に居たと思える程の残像だけ。エイジは身体全体を素早く移動させる事で腹の下へと潜り、そのまま刃を突き立てていた。

エイジの一撃は致命傷とも取れる程の深手を与えている。血をぶちまけながら内臓と思われる物がダラリと落ちていた。それが何であるかは考えるまでも無かった。

 

「俺は一体?」

 

「北斗。漸く正気になりましたね。エイジさんが作ったチャンスを活かすなら今です」

 

シエルが改めて目くらましの為に銃弾を打ち込むと同時に正気になった北斗とギルが一気に斬りつける。その瞬間マルドゥークのガントレットが崩壊し、そこに止めとばかりに改めて刃を突きつけていた。

 

 

「ナナ!あとは頼んだ」

 

「とりゃああああー!」

 

ナナの渾身の一撃がマルドゥークの頭蓋を破壊する。これが止めとなったのか、マルドゥークはその巨体を地面へと倒しこむと同時に命の気配は消え去っていた。

 

 

 

 

 

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