「何だかアリサさんすごく落ち込んでますね」
「あれは毎回の事だから気にしない方が良いよ」
ツバキの言葉通り、リンドウとエイジはまたもや本部へと新種の調査兼討伐に向けて本部へと旅立っていた。当初はあまりのアリサの落ち込み具合に心配する部分も多分にあったが、ここ最近では周囲も既に慣れたのか、今ではアリサに少しだけ距離を離して様子を見る事だけに留まっていた。
「コウタさん。何でアリサさん、あそこまで落ち込んでるんですか?」
「エイジが派兵に出たからだよ。暫くすれば勝手に立ち直るから放置しておいても大丈夫だから」
ラウンジで一人激しく落ち込むアリサを初めて見たのかシエルもナナも心配げな表情を崩す事は無かった。コウタとしてはこのままこの場からフェードアウトした方が良いのは理解しているも、この2人の心配の仕方に仕方なく付き合っていた。
このままではとばっちりが来るかもしれない。そんな空気を感じた瞬間だった。突如として立ち上がったかと思うと、どこかへとそのまま出ていくのを今はただ見守る事しか出来なかった。
「訓練室かと思ったんだけど、居なかったから北斗どこに居るか知らない?」
アリサと入れ違いでラウンジへと足を運んだのはリッカだった。先だっての話の中で北斗の暴走を抑える為に神機側からのアプローチを模索している事を聞いている以上、ここに来たのであればそれに目途がたった事を示す可能性があった。
「訓練室には先ほどまで居たはずですから、もう暫くすればここに来るのかと思いますが?ひょっとして例の神機の件でしょうか?」
「そうなんだ。実は今回の件なんだけど、ナオヤとも話をしたんだけど一度現状のデータとすり合わせる必要があったんだ。で、北斗に来てもらおうかと思ったんだけどね」
ついでに休憩とばかりにカウンターの椅子に腰をおろしながらリッカはジンジャーエールを口にしていた。少しドライなのかジンジャーの辛さと爽やかな炭酸が喉を潤す。そんな一時だった。
「あれ?皆どうした?」
「北斗こそどこ行ってたの?リッカさんが捜してたんだけど」
北斗自身の用事は無かったが、リッカが呼んでいたのであれば内容は神機に関係すべき事。ましてや自身の状況がそうである以上、それ以外には考える事は出来なかった。
「そっか。実はそこでユノさんに偶々会ってね。それで話をしてたんだよ」
北斗のユノの単語に反応したのか、シエルが僅かに反応する。それが何を示しているのかは分からないものの、先ほどまで訓練をしていたはずが、何故そこでユノの名前が出てくるのか北斗は何も考える事無く先ほどまでの状況を改めて説明していた。
「それは変ですね。ユノさんが今回の黒蛛病の件でどれ程慰問しているのかフライアは知らないはずが無いんですが」
「でもさ、私達のデータも提供されてないってちょっとおかしいよ。フライアに何かあったのかな」
北斗の話は誰が聞いても不思議な内容だった。ユノ自身が今まで慰問先に選んでいたのはサテライトの建設に関する物か黒蛛病患者の慰問。そうなればこの極東の中で誰が一番その件にタッチしているのかは直ぐに理解出来る内容でもあった。
にも関わらず、こちら側からの通信は事実上のシャットアウトとなれば何かあったのかと勘繰る事も出来てしまう。そんな事を理解した上での対応となればブラッドとしても疑問視せざるを得なかった。
「あのさ、話してる所悪いんだけど、私の存在忘れてないかな?」
話に夢中になり過ぎたのか、捜しにきたリッカの存在をすっかりと忘れていた事を思い出していた。どちらの内容も重要な話ではあるが、こちらは神機に関する可能性が高い為に、優先順位は考える程でもなかった。
「すみませんリッカさん。少し込み入った話だったものですから」
「別に怒る様な内容でも無いから問題ないんだけど、せめてきたなら一言位声をかけてくれても良かったかとは思ったよ」
リッカの一言で先ほどまでの疑問は直ぐに立ち消えしていた。今はまだ何を考えるにも検証する材料が何一つない。この場で出来る事はたかが知れている為に、今はリッカの話を聞く事を優先していた。
「実はこの前のマルドゥークの件なんだけど、北斗の神機を思い切ってコンバートするか、大幅なアップデートのどちらかに踏み切った方が良いと判断したんだけど、まずは本人に確認した方が早いかと思ってね。で、確認したいんだけど今の神機って確かクロガネをずっと使って来たんだよね?」
第二世代以降の神機使いは基本的に刀身や銃身の変更が容易に変更できるのが利点だった。アラガミの種類によっては刀身を変更する事で戦闘時の負担が少なるのが最大の利点でもあるが、それと同時に、刀身事の運用が異なる為に、それなりに慣れる為の習熟期間が必要となった。
この部分から当初は戦闘時の優位性の為に変更していたが、今まで培ってきた動きが無になる可能性が高いからと、最近では刀身の変更はしても種別までは変えないのが一般的だった。もちろん今でもアラガミ事に変更しているゴッドイーターもいる事もあり、教導カリキュラムに終わりが無いのはそんな意味合いも含まれていた。
「特にこれと決めていた訳では無いんですけど、仮に他の物となるとどんな物になるんです?」
「これはナオヤとも話したんだけど、ロング以外だと多分チャージスピアかショートなら今の動きを活かせる可能性はあると考えてる。でも、ロング以外に変更となればその習熟期間は通常よりも早く終わらせる必要があるから、訓練の時間は今までの3倍は必要になると思う。私達の口からはこれが一番だとは言えないから、君自身の動き方や戦い方から選択するのも間違いでは無いと思うよ」
まさかの提案に北斗としても選択肢の幅が思った以上にある事は理解していたが、今までの行動を考えると確かにバスターやハンマーの選択肢は無かった。これがマルドゥークと戦う前までであれば、恐らく簡単にコンバートを決めていた可能性は高かったが、今の北斗にはそんな考えがまるで無かった。
一番の要因は無明との対人戦。気配を感じる事無く動くとなれば、今から他にコンバートすれば今まで以上に困難を極める可能性が高く、また時間も膨大に必要になる。
これでまだエイジ達が居ればその可能性もあったが、今は本部に派兵している関係上ここから更なる高見に上るのは厳しいとも考えていた。
屋敷での話から北斗が推測したのはただ一つ。訓練は改めてやる物ではなく日常の全てが訓練であると言う事実。
だからこそ、エイジだけではなくナオヤも普段からは気配を感じにくいのだと改めて考えていた。
「リッカさん。神機は大幅なアップデートにして下さい」
「やっぱりね。ナオヤも同じこと言ってたからね。あ~あ、賭けは私の負けか」
この一言でリッカは少しだけ落胆した表情を見せていた。先ほどの発言を正しく理解すれば、それは普段から教導カリキュラムを見ているナオヤであればどんな反応をするのか、そして無明との戦いを経験した上で判断した事実があった事になる。
見透かされた様な気分にはなったが、目の前でのあの動きを見せられた以上、ここから別の道を模索するのは違うのではないのだろうかと考えていた。
「そんなに俺の考えが分かりやすいって事ですか?」
「ううん。ナオヤの話だと無明さんに何も考えず挑む様な人間を見た事が無いのと、多分意地でも変えるつもりは無いだろうって言ってたんだよ」
まさに北斗の考えていた事そのものだった。伊達に教官をしていないのか、何を考えているのか知られた様な感覚はある種の気持ち悪さはあるものの、何となく納得していた部分もそこにあった。
「取敢えず大幅なアップデートになるけど、まずは刀身のパーツが無い事にはどうしようも無いから、少しだけ時間がかかるよ。刀身パーツが来たらすぐに交換になるから」
今後大幅に変更される物は何なのか、北斗はまだ見ぬ刀身パーツに期待を寄せていた。
「丁度良い所に来ましたね。ちょっと聞きたい事があったんですが、少しだけ時間は大丈夫ですよね」
神機の件が終わり、自室へと一旦戻ろうとした際に、何故か施錠されているはずの鍵が開いていた。まさかアナグラで空き巣の可能性は否定したいが、万が一の事も考え北斗は一気に扉を開けた所でサツキが椅子に座って待っていた。
「ここは俺の部屋なんですが、どうやってここに?」
「それはちょっと言えませんね。そんな事よりもブラッドの隊長でもあるあなたに聞きたい事があったんですが、例のフライアの件なんですが、実はユノが今までに何度も連絡を取ろうとしているにも関わらず、未だ返事が一向に無いんです。で、これは変だと出向いたんですが、関係者以外は立ち入り禁止だと言われて追い返されたんですよ」
神機の前に話をしていたフライアの異変である事は直ぐに理解出来ていた。確かに自分たちが異動になってからは一切の情報開示はなく、こちらが連絡出来たのはジュリウスに繋がった1回だけ。
確かにマルドゥークの討伐ミッションには来ていたが、その後は会話をする余裕すらなかった。冷静に考えれば通常はミッションに合同で参加したのであればその後の検証についても共同で行う事が多く、その結果として情報の共有化が一般的だった。
そう考えれば確かにあの後の行動には違和感しかない。
これが何を指し示すのか北斗には想像出来なかった。
「ジュリウスに声をかければ早かったんじゃないのか?」
北斗は当然とも言える名前を挙げていた。今までの事を考えればサツキとて面識もある以上、話はスムーズに進むはず。そう考えたはずだった。
「私も真っ先に声をかけたんですが、けんもほろろでしたからね。ラケル博士?でしたか、あの人にも念の為に声はかけたんですがジュリウスさんと同様でしたので」
この時点で北斗も何となくフライアの様子がおかしいではなく、疑惑へと変わりつつあった。ラケル博士に関してはブラッドの中で考えても北斗はそうある訳では無い。むしろシエルやナナの方が面識がある為に、大よその人となりは知ってるからこそそんな感情が湧く事は無いが、北斗に関してはそこまでの関係性が無い以上、それはある意味当然の事だった。
「その件については理解しましたが、そろそろ本題に入ってもらえると有難いんですが」
サツキの言いたい事は分からないでもないが、ここは北斗の部屋。態々招いた訳でもないのにそうじっくりと時間をかけられても、こちらとしても困ってしまう。フライアの事は気になるも、それ以上分からない物を悩んだ所で無意味でしかなかった。
「実は、フライアで他に顔見知りで話がしやすそうな人物に心当たりなんていないかと思いまして」
「心当たりですか……それならオペレーターのフランさんなんてどうですか?」
フランの名前を出した瞬間、サツキの目は獲物を狙う猛禽類の様な目をしていた。ただでさえフライアは機密事項が多く、また内部に至ってはFSDで神機兵の格納庫までは公表したものの、それ以上の事になると外部からの情報は全て遮断している部分が確かにあった。
いくら情報を得ようとしても、職員も外部に出る事は少なく、結果的には情報漏洩の可能性はかなり低くなっていた。
「北斗。サツキさんとはどんな仲なんでしょうか?」
自室で寛いで居たはずが、振り向くとそこにはシエルが佇んでいた。一体いつ部屋に入ってきたのか分からないが、何となくシエルの表情が硬い。まさか先ほどの話の事なんだろうか。今の北斗には思い当たる節が幾つも存在していた。
「なんで知ってる?」
「先ほど部屋から出できた所を拝見しましたので、何かあったのかと思いまして」
その一言が何を言いたいのかは理解出来ないものの、特に話すべき内容では無い。一旦はそう考えたものの、やはりフランの名前を出した手前、無関係でいるには少々無理があるのかもしれない。
一体シエルは何を考えているのか分からないが、今は先ほどの内容に対して話た方が何かと問題無いだろうと、改めてシエルと話をする事にしていた。
「そうでしたか。てっきり私はサツキさんと何か密会でもしているのかと思ってしまい申し訳ありません」
「いや、鍵かけたはずなのに目の前で椅子に座ってたら普通に驚くよ。そんな事よりも俺よりもシエルの方がフライアの事を良く知ってると思うんだけど、さっきの話を聞いてどう思う?」
情報開示が全く無いだけではなく、黒蛛病患者の受け入れをしてからは一気に情報統制されているのか、連絡が取れなくなるのは疑惑を持ってくれと言っている様な物だった。確かにフランの名前を出したが、フランとて守秘義務があるのは知っている。
そう考えると、サツキが何を言っても詳細については分からない可能性が極めて高いとも考えられていた。
「サツキ。勝手に動く事には感知しないが、万が一ここに火の粉が飛ぶ様な事があれば、お前の首と胴体は真っ先に離れる事になるぞ」
薄暗い廊下の中でサツキは一人背中に冷たい汗をかいていた。背後から聞こえる声はサツキが知っているいつもの声とは違い、重く響く様な声の主が誰なのか確認しなくても直ぐに理解していた。
「こ、これは紫藤博士。随分と物騒な物言いじゃありませんか」
「お前が何を探るつもりなのかは知っているが、ここではゲスト扱いだからと言って、何をやっても良い訳ではない。調べるのであれば悪目立ちする様な行動をするなと忠告しただけだ。お前の調べようとしている所は決して清廉潔白でやっている訳では無い。その事を努々忘れるな」
この言葉に恐らくは何かしらの調査をしているだろう事はサツキにも理解していた。確かにフリーのジャーナリストからすれば、これから扱う情報は正しく機密とも言える物。
当初はスクープする気持ちもあったが、流石に相手はフェンリルの本部でもあり、また直轄部隊が所属していた場所でもある。下手な事はするなと忠告を受けたと今は理解する事にしていた。
「私も命は惜しいですから。紫藤博士の邪魔や不安視する様な事にはならないと思いますので」
「なら良いだろう。今は下手に騒がず静観するのも一つの考えだと言う事も忘れるな」
その一言が出た瞬間、得体のしれないプレッシャーも和らいでいた。まさかこれからしようとしている事が既に勘繰られていた事に驚きを隠せなかったが、先ほどの忠告を護らないのであれば、自分の命が簡単に消し飛んでしまう。
改めて先ほどの言葉を思い出しながらサツキは北斗から聞いたフラン某の元へと足を運んでいた。
今年の秋にGEBのリメイクでもあるゴッドイーター リザレクションが出るらしいですね。
GE2につながるストーリーとキャラエピもあるらしいですが、少し期待したいです。