神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第170話 野望

ラケルの口から語れたのは以前にレアからも聞いた話の内容だった。子供の頃に重大な事故に巻き込まれ、その治療の際にP73偏食因子を自身に投与した結果、身体の機能は劇的に回復の兆しを見せていた。しかし、それは表面的な話でもあり、実際にはラケルの脳内には常に荒ぶる神の魂がラケルへと働きかけていた。

 

 

「私の中の荒ぶる神はずっと私にささやき続ける。弱肉強食の収斂、終末の捕喰をこの世現せと言い続けている。そして私は…ジュリウスを見出した。あらゆる偏食因子を体内に宿し受け入れる。

まるで奇跡を体現した子……そろそろジュリウスが目覚める頃ですね。そろそろ最後の下拵えをする事にしましょう。さあいらっしゃい。続きはゆっくりと下で聞きましょう」

 

ラケルの言葉が合図となったのか、背後にあった大きな扉がゆっくりと音を立てながら開いて行く。眼下には何かがうずくまっているのか、それとも何かに囲まれているのか、薄明るい光を発しながらその場にとどまっている様にも見えていた。

 

 

「適者生存…この世で唯一の真理。滅び行く物が弱者であると同時に生き残る事ができるのが強者でもある。それは紛れも無くこの世界の絶対的な真理。それは即ち終末捕喰。絶対の強者でもある特異点だけが許される新たな秩序をもたらす最後の晩餐。

創世から繰り返されたこの大規模な事変は全て終末捕喰によって成し遂げられていた。それは地球の生命体全ての再分配でもあり行き過ぎた進化を抑止する為の神がもたらす御業でもある。

にも関わらず卑しい人間と言う存在だけがその神に逆らい己の持つ旧態以前の無秩序を守ろうとする。そんな自己都合だけで直近の特異点は月へと追いやられ、今もなお人類はそのまま享受を受けようとしている。……でもそれがジュリウスならば」

 

まるで近づいて行く北斗達には目もくれる必要すら無いとばかりにラケルは自身の考えをそのまま示し続けている。既にこの場所からラケルまでの距離はゴッドイーターであれば一瞬にして到達できる程の距離へと近づきつつあった。

 

 

「もうそれは要らない人形なの。ほら、見て」

 

突如現れたのはラケルの幼少時代のホログラフなのか、既に車椅子に乗ったラケルからは気配らしいものが一切感じられなかった。それと同時に幼少のラケルはとある一点を指さし、全員がそこへと視線を向ける。

そこに居たのは神機兵の様な物ではあるが、今までに見た事も無い様な物だった。

 

 

「貴方達ブラッドに最後の任務を命じます。私と一緒に……ジュリウスの最初の贄となりなさい」

 

 

冷たく笑いながらのその言葉に呼応するかの様に神機兵の様な物が大きく咆哮する。これが開戦のキッカケとなったのか、突如として神機兵の様な物は北斗達を襲いかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員その場から散開。気を抜くな!」

 

北斗の激に反応したのか、全員が散会した場所に大きなハンマーが落とされたかの様に地響きを出しながら地面に衝撃を与えている。直撃しよう物ならば即死すら免れない程の一撃によって全員の緊張感が一気にピークへと跳ねあがっていた。

 

ラケルがこの場に用意したのは神機兵の大元でもある存在なのか、所々に神機兵としての名残が存在していた。クアドリガの様に大きな巨体は重力を感じる事なく素早い動きで北斗達に襲い掛かっていた。

 

 

「動きが早い!不用意な攻撃はせずに様子を見ながら攻撃してくれ!」

 

大きな咆哮を挙げると共に、再度北斗に向けてそれは一気に押しつぶすべく右腕を振り下ろしていた。先ほど同様に受け流すにはあまりに大きすぎる質量では確実押し負ける。かと言ってギリギリの部分を見極めて回避するには、その存在感はあまりにも大きすぎていた。

 

 

「北斗!」

 

ギルの声が響くも、振りおろされた衝撃音がその言葉をかき消している。直前に回避行動をとる素振りは見えた物の、あまりの早さでの攻撃にギルだけではなくシエルもナナも驚いていた。

 

 

「俺は大丈夫だ。全員攻撃の隙を狙ってくれ。攻撃の直後は大きく隙が開く。そこがチャンスだ!」

 

北斗の声に安堵しながらも、一撃を加えた神機兵らしき物が作った大きな隙を全員が見逃す事は無かった。当初は時間をかけて隙を探しながら攻撃する予定だったが、実際に見ればさしたる程に攻撃の範囲は小さい事から判断し、それぞれが最低限での距離を保ちながらに攻撃を与えていた。

 

神機兵の元になったのであれば、どんな動きなのか位は予想は出来るが、ヴァジュラ並かそれ以上に軽やかに動く様を見ると安易に攻撃を当てる事も困難な状態へとなりつつあった。

 

 

「あれはどうやら装甲が強固なのかバレットも今一つ効いていない様に思えます」

 

シエルの言葉の通り、牽制とばかりに放ったシエルのバレットはまるで何も無かったかの様な反応を見せ、神機兵らしき物の装甲は他のアラガミとは一線を引いていた。このままではいたずらに時間だけがかかりすぎるのは間違い無く、ここがフライア内部である事も考えると、通常のミッション以上に時間の制約が高いと考えていた。

 

 

「シエル!顔面を狙ってくれ。ギルは胸の部分、俺とナナで攻撃する!」

 

動きが早い故に顔面を狙い視界を潰した所に一気に勝負に出るべく北斗が指示を出す。それと同時に各々が行動を開始していた。

 

 

「厄介な動きをするな」

 

「まだあのリーチだから助かってる。下手に武器でも持たれると厳しいかもな」

 

ギルが言う様に、神機兵らしき物は器用に上体を起こしながら右腕を振り回していた。北斗達が攻めあぐねる最大の要因は短いリーチにも関わらず大きく太い物を振り回せば自然と近寄る事が困難になってくる。

まるで虫でも寄せ付けない様な行動が、これまでの攻撃を困難な物へと変化していた。そんな中で、周囲の様子が少しだけ変化し始めている。それが一体何なのか理解出来ないが、戦闘中の直感を無視する訳にも行かず、北斗は次々と指示を飛ばしていた。

 

 

「全員一旦距離を置け!何かが来る!」

 

北斗の言葉をそのまま理解したのか全員がその場から一旦距離を置こうと回避行動に移った瞬間だった。神機兵らしき物の周囲の空間が僅かに歪む。北斗の直感が正しく機能したかの様に、神機兵らしき物が床を叩いた瞬間、周囲から次々とエネルギーの塊の様な物が噴出していた。

 

 

「キャアアアアア」

 

ナナが回避行動を取ったにも関わらず、まるでそれを追いかけるかの様に噴出するエネルギーが襲い掛かる。空間に制限があるこの場所では一旦追いつめられると行動範囲が一気に狭くなる事の弊害でもあった。

 

 

「大丈夫か」

 

「いたたた。な、何とか……」

 

「北斗、もう少し距離を取るか様子を見ないと厳しい事に変わりません」

 

シエルがそう判断したのか、周囲に対する攻撃はあまりにも規格外の様な攻撃方法だった。先ほどの一撃がどれ程のレベルなのかは分からないが、ナナも回復錠を摂取しなければどうにもならないと判断したのか、それを一気に口に含んでいた。

 

 

「あれだけ大きいなら、思い切って懐に入った方が安全かもしれない。悪いが援護してくれ」

 

北斗は先ほどまでの攻撃で何かを感じ取ったのか、あれだけの巨体でありながら手元の攻撃が殆ど無かったと判断したのかシエルに提案している。このまま膠着状態になるならばと北斗の意見を聞き入れ、シエルは改めて北斗の援護を開始していた。

 

北斗の予想は正解だったのか、懐に入った瞬間、一気に攻撃を一点集中とばかりに胸部に向けて攻撃を続けていた。嫌がる事も考慮したのか、それとも今までの行動を見た結果なのか、援護はシエルだけではなくギルも同じ様に間髪入れずに援護射撃を繰り返していた。

 

 

「私も負けてられないよ!」

 

回復した事で状況を確認するとナナは再び突撃とも言える様に一気に距離を縮めていた。先ほどの様な広範囲の攻撃に備える様に注意しながらもナナの視線は神機兵らしき物を捉えている。

このまま距離を一気に縮めようとあと僅かの距離まで近づいた時だった。突如として後ろに大きくバックジャンプしたかと思った瞬間、神機兵らしき物はナナに向かって大きく跳躍を開始していた。

 

 

「ナナ!盾だ。大きいのが来るぞ!」

 

動きを察知したのか、北斗はナナへと指示を飛ばす。今まで何も握られていなかったはずの右手にはまるでチャージクラッシュでもするかの様な闇色のオーラが集まり出していた。ナナは北斗の指示通りに盾を展開した瞬間、それはナナの胴体をなぎ倒すかの様に横のエネルギーをそのまま斬撃にしたかの様にナナへと襲い掛かっていた。

 

 

「ナナさん!」

 

ナナの盾の展開速度が速かったのか、ナナは攻撃を何とか凌ぐと同時に反撃をし始める。既にその準備が終わっていたのか、渾身の一撃は目の前にあった顔面を大きく横に叩くかの様に衝撃を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神機兵らしき物と対峙してから、そろそろ体力の消耗が激しくなろうとしてた時だった。既に右腕と顔面が結合崩壊を起こし、このまま一気に力押しすればどうにかなるだろうと考えていた時だった。今までに何度も見ていたエネルギー弾の放出であれば距離を取れば何も問題ないはず。そう考えていた矢先だった。

 

今までと明らかに違うそのモーションはこの場にいた全員の緊張感を再び一気に引き上げると同時に結合崩壊した顔面から3本の太いレーザーの様な物が放出されていた。少しだけ速度が遅かった事から防御ではなく回避行動で事無きことを得る事は出来たが、問題なのはその威力だった。

 

熱量の大きい3本のレーザーは今までの攻撃とは一線を引くかの様に、地面をも焼き焦がす。直撃しよう物ならば確実に命が消し飛ぶその攻撃は驚愕を与えるには十分過ぎていた。

 

 

「あの攻撃だけは確実に避けろ!」

 

既に何度指示を出したのかすら分からない程に目の前に対峙した神機兵らしき物は圧倒的な攻撃力を持っていた。チャージクラッシュの様な斬撃に周囲にばら撒く様に放つエネルギー弾。極めつけは地面をも焼き焦がす程の極太のレーザーに北斗達の消耗は激しかった。

このままでは最悪の未来が待っている。今まで考えた事が無いそんな思いが少しだけ北斗の脳裏を過ぎ去っていた。

 

 

「このままじゃジリ貧だ。次の行動で勝負に出る」

 

北斗が何かを決意したのか、その言葉に誰も反論する物は居ない。既に回復錠はおろか、Oアンプルさえもが使い切った状況。ここで終わる訳には行かないと、全員が一つの意志となったかの様に決意していた。

 

そんな北斗達に何か感づいたのか神機兵らしき物は光弾を放つべく胸部の装甲を開く。

その瞬間を待ち構えていたかの様に、北斗を先頭に全員が一気に距離を詰めていた。放たれる光弾は広範囲に放たれるも、全部で3発。その向こうには装甲を開いていた為に弱点とも言える部分がむき出しになっていた。

 

 

「うぉおおおおおおお!」

 

北斗の叫び声と同時に、今までの中でも最大級と言って良い程の速度で光弾を避けると同時に暁光の白い刃が一筋の光となって胸へと貫く。それが合図とばかりに全員がそれぞれの神機に赤黒い光を帯びながら結合崩壊を起こした右腕や同じく胸部に向けて攻撃を放っていた。

 

 

「ここが勝負だ!」

 

誰の声とも付かないままに、その勢いに押されたのか神機兵らしき物が地響きを立てながら遂に倒れた。今までの中でも最大級の隙を見逃す事無く全員が渾身の力を振り絞り、止めとばかりに攻撃を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった…か?」

 

「みたい…だな」

 

捨て身とも取れる攻撃で大きな衝撃を伴いながら、目の前には完全に活動を停止した神機兵らしき物は動く様な気配は既に無かった。ここで漸く戦いの終わりだと思った瞬間だった。

突如として格納庫に振動が走る。この戦いですっかりと意識の外に出ていた繭の様な物が振動と共に何かを溢れ出していた。

 

 

「ラケル先生!」

 

シエルの視界にとらえていたのか、既に動こうともしないラケルをも飲み込むと同時に、それは未だに停まる事を許さない。このままここに留まる訳には行かず、北斗達もこの場から脱出する事を余儀なくされていた。

 

 

「晩餐は、終末捕喰はつつがなく進行しています」

 

呑まれたはずのラケルの言葉がまるで何かを伝えるかの様に周囲に響き渡る。それと同時にその場にいるかの様にホログラフなのかラケルが神機兵らしき物の上に現れていた。

それが何を示しているのかを確認する事は出来ないまま、今はその言葉を聞く事しか出来なかった。

 

 

「既に人類に英知が及ぶべき領域は一切無いのです。願わくば手塩に育てた貴方達と一緒にとも考えましたが、どうやら既に…親離れしていた様ですね。私はこれで先に休ませてもらいます。おやすみなさいブラッド。

新しい秩序の先でまた会いましょう。……さあジュリウス、そろそろ起きなさい。皆があなたを待ってますよ」

 

ラケルの表情は何か新しい物が誕生したかの様な清々しい表情をしながらも、神機兵らしき物と同じく繭から漏れだした者へと呑みこまれて行く。まるで全ての物が吸収されたかの様でもあった。

 

 

「あれって…もしかしてジュリウスなの?」

 

ナナの視線の先にはまるで花がゆっくりと開くかの様に大きな振動と共に繭の様な物が大きく開きだす。その中には何かに貫かれたのか、生きているのかすら分からない程に生気を失ったジュリウスの様な物が見えていた。

 

 

「おいおい……マジかよ。洒落にもなってないぞ」

 

それが本当にジュリウスなのかは距離がある為に確認出来ない。既にそこから漏れだした物は北斗達の居る場所までゆっくりと浸食している。これ以上は無理だと判断し始めた時だった。

 

 

《ブラッドの諸君聞こえるかい?そこから巨大な偏食場パルスが出ているのを察知した。そのままそこに留まるのは危険だ。すぐに撤退したまえ!今出ている偏食場パルスは…終末捕喰のそれと酷似している。だが、今直ぐでは無い様にも思える。今はとにかく対策を練る必要がある。すぐに行動に移してくれたまえ》

 

榊からの通信が切れると同時に北斗とシエルはお互いアイコンタクトを取ったかの様に頷くと、すぐにこの場からの撤退をしていた。既に退避出来る部分は極めて少ない。今は周囲の状況をゆっくりと判断する事なく、その場からの離脱を開始していた。

 

 

 

 

 

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