神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝 弐
第178話 新たな計画


 

「なあエイジ。これって例のアラガミか?」

 

「そうですね。データベースと照合しましたが該当が無いのであればそうかもしれませんね」

 

極東での終末捕喰から数日が過ぎる頃、リンドウとエイジは改めて調査を開始していた。ここが極東であれば事後処理に追われる可能性は高かったが、本部である以上リンドウとエイジには何の影響も無かった。

 

 

「何か見つかったのか?」

 

「姉上、どうやらお目当てらしい物が見つかったんですが、まだ痕跡しか無いんでこれから調査って所ですかね」

 

既に期間が残り僅かになった所で漸く手がかりが発見されていた。未だ姿は分からないものの、過去の痕跡をデータベースから照合した結果、新種である事は確認出来たまでは良かったが、それがどんな物なのかまでは未だ分からずじまいでもあった。このまま期間終了かと思われた矢先の出来事に、周囲の警戒をする。万が一の襲撃に対しての当然の対応でもあった。

 

 

「近隣、少なくとも半径3キロ圏内では確認が出来ない。痕跡に関しては何かしらの細胞があればそれの採取をしてくれ。今回の内容に関しては榊支部長の下にも送る予定だ」

 

ツバキの指示にエイジが残留細胞が無いのかを確認する。新種のアラガミがどんな能力を持っているのかは、ここ数年の技術の発展に伴い以前よりも格段に向上していた事もあり、大よそながらの判別を可能としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回発見されたアラガミは、どうやら我々が感知しないタイプのアラガミかもしれないね」

 

「新種って事ですか?」

 

「新種なのは勿論なんだが、今回発見された細胞は簡単に言えば、オラクル細胞の原種がそのまま進化したと言った方が正解に近いかな。君らも知っての通り、アラガミは色んな物を捕喰しながら学習していくのが一般的なんだ。ただ、そうなるとオラクル細胞そのものが複雑怪奇に色んな物を取り込む関係上、細胞を知らべればそれがある程度どんな種族なのかが特定できる。しかし、この送られたオラクル細胞はその概念が一切当てはまらない事から考えると、原初のアラガミと言っても問題無いようだね」

 

当初、リンドウとエイジが摂取したサンプルは本部ではなく榊の下へとデータが送られていた。本来であれば本部付けの研究者の下へと提出するのが筋ではあるが、現在の混乱した状況下の下では落ち着いた研究が出来ない事と、本部でサンプルを調べるよりは極東支部の方が今まで新種が出た数が多いからと、有耶無耶の内に押し切った結果でもあった。

 

そんな中で調べた結果が原初のアラガミの存在。

榊の驚愕とも取れる言葉にリンドウとエイジは改めて個体そのものを探す事が決定されていた。

 

 

「しかし、このままでは期間が過ぎる可能性が高いので、一旦は契約の継続か再契約かの何らかの措置を取らない事にはこちらとしても動くだけの権限が無くなるのもまた事実です。がしかし、終末捕喰の対応に終われたままなので、どうした物かと思案していると言った所が正しいでしょう」

 

未だ回答が来ないままに契約の期限が指し迫っている。ツバキが言う様に、当初の期間での契約が終わるのであれば、今後の活動に対しても何らかの制約が出る可能性が高く、その為にはすぐさま契約の更新が必要になって来ていた。

 

 

「それに関してなんだが、こちらからも個体の調査名目で2週間の延長申請は出してある。恐らくは問題は無いはずだからそのまま受理されるはずだよ」

 

「それならば我々としても困る事は無いので問題ありません。では再度こちらからも申請しておきます」

 

通信が切れると同時にまるで図ったかの様に本部からの一通のメール。先ほどの話に出てきた期間延長における申請の受理が通知されていた。

 

 

「と言う事だ。まずは新種の捜索だが、最悪はその細胞の採取を一番とする」

 

「って事はまた延長に?」

 

「そうなるな。どのみち今の時点で一度戻っても直ぐにトンボ返りになる可能性が高いのであればこのまま索敵を続けた方が得策だと判断した。すまないがあと2週間で結果を出してくれ」

 

「リンドウさん。こうなったらすぐに動いた方が良いかもしれません。採取したオラクル細胞はまだ新しい様でしたから、この近くに居る可能性が高いです」

 

エイジの言葉通り分析した結果、以前の細胞と決定的違ったのが鮮度だった。一番良いのはコアの採取ではあるものの、それが適わないのであれば細胞の摂取が優先となる。しかもそれが新しいのであれば、データとしての幅が広がる事から、今は一刻も早い捜索が必須となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士!いくらなんでも横暴です!」

 

支部長室にはここ最近聞く事が無かったアリサの怒声が響いていた。当初は一旦帰還する話ではあったが、ここにきて急遽2週間の延長が決定していた事が原因だった。

 

 

「アリサ君にはすまないと思ったんだが、こちらとしても新種のアラガミではあるが、今回の内容がある特別な物を示している以上、早急な対応が必要なんだよ」

 

アリサが憤るのはある意味仕方ない部分もあった。エイジとリンドウは派兵はしてるが元々はクレイドルとしての任務に就いている。今回もサテライト002号が完成したからと、何かとそこでやるべき事を幾つか詰めていたが、急遽決まった申請によって予定していた物が脆くも崩れ去っていた。

 

 

「…で、いつまでなんですか?」

 

「2週間の予定になっているね。今回はそれで見つからないのであれば一時的な帰国となるけど、見つかればまた予定が変わるから、一概には言えないね」

 

「それって事実上の期間の未定って事じゃないんですか?」

 

顔は居たって平常だが、目は怒りに満ちている。予定していた物が延長されるとなれば、今後のサテライトの予定も立たなくなる可能性が高く、また個人的な部分でも久しぶりに会えると思っていた物が意図も簡単に延長となれば、落胆ぶりもまたすさまじかった。

 

 

「榊支部長。この件は私に任せてもらえませんか?」

 

このままでは確実に何らかの危害が加えられると判断したのか榊は僅かに冷や汗をかいていた。あまりの剣幕だけは無く、このままでは榊に襲い掛かろうとする程の雰囲気を拙いと判断したのか、弥生からの提案があった。

 

 

「弥生君。何か良い案でも?」

 

「ええ。任せて下さい。じゃあアリサちゃん。ちょっと良いかしら」

 

弥生からの提案に、このままでは身の危険を感じた榊は否応なしに了承する。内容はともかく、この空気をなんとかすべく弥生に任せる事によって榊はこの危機からの脱出に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウ。この先2キロ地点に中型種の群れらしいものがある。こちらにはまだ気が付いて無い様だが、気が付くと何かと面倒な可能性が高い。エイジと共に討伐任務に入れ」

 

周囲を索敵すればもれなく何かしらのアラガミとの遭遇は既に日常茶飯事と化していた。つい最近でさえも接触禁忌種でもあるディアウス・ピターの討伐を終えたばかりではあるものの、まるでそんな事は関係無いとばかりに次から次へとアラガミを発見していく。

既にこれが何体目の討伐なのかは数えていない。今回もそんな日常だと思われし内容だと考え出した所でもあった。

 

 

「リンドウさん。何だかおかしくないですか?」

 

「どれどれ……確かに言われてみればそうだな。まるで何かから逃げている様にも見えない事はないな」

 

アラガミはいくら同種だとしても早々群れで行動する事はあまりない。群れる際にあり得るのは、上位種がそのままボスとして操る様な場面であれば可能性はあるが、眼下に居るアラガミはそんな事はなく、アラガミそのものの動きもどこか警戒をしている様にも見えている。本来の行動とは一線を引いたそれはエイジ達に疑問を投げかけるのはある意味当然だったのかもしれなかった。

 

 

「姉上。レーダー反応を見てくれ!」

 

リンドウが素早くツバキに確認する。群れの様に集団でいたはずのシユウはどこからともなく放たれたレーザーの様な物で次々と貫かれていた。当初は他の部隊が居るのかと思われはしたが、ツバキが確認した際に近隣にはどのチームも存在していない。

にも関わらず、まるでスナイパーが放ったと錯覚する程にオラクル弾の様な物が次々とシユウの身体を貫き、中にはコアに直撃した個体もあったのか一部は霧散していた。

 

 

「何だありゃ?」

 

「リンドウさん。あれは?」

 

遥か先にアラガミの様な物が見えるが距離が離れているせいなのか、その姿が確認出来ない。大きさから考えれば大型種か中型種のどちらか。しかし、リンドウとエイジが知っているアラガミには先ほどの様な攻撃をするアラガミの該当は無い。それゆえにこれが新種の可能性が高いとアタリを付けていた。

 

 

「リンドウ、エイジ。あれはデータベースには無いアラガミだ。今回の目的の可能性が高い。今直ぐに追いかけて討伐後コアを引きずり出せ!」

 

「了解!」

 

ツバキもレーダーで確認したのか、それが目的のアラガミである事が発覚していた。距離があるが先ほどの攻撃からすれば、恐らく逃げる様な事はしないはず。今は一刻も早い行動が最優先となっていた。

距離はあるが全力で駆ければまだ間に合う。そう考えながらに現地に着いたものの、やはり今まで同様にアラガミの無慚な死体だけが横たわっていた。

 

 

「しっかし逃げ足がああも早いと今後の手だてが思い浮かばないのはどうしたもんだかな」

 

肝心のアラガミは結果的には逃走を許したまま姿をくらましていた。以前にも採取した細胞だけがこの地に残りはしたものの、それ以上の手がかりは何も無い。

ギリギリまで手が届く寸前にも関わらず、直前で逃げられた事により、今までの疲労感が一気に3人に襲い掛かる。既に本部を離れてから1週間が経過した事からも、一旦は報告すべきと判断し、本部へと戻る事が決定されていた。

 

報告そのものは既に通達した事もあってか、改めての追加での報告の義務は無い。未だ混乱した中での報告は情報錯綜の原因にもなりやすい。ましてや内容が内容なだけに、情報の管理に関しては厳重になっていた。

 

 

「そうですね。でもここまで何かしら出てるのに、見つからないと言うかすぐに逃げるなんて、まるで野生の動物みたいな警戒の仕方ですね」

 

「アラガミと言っても全部が好戦的とは限らんからな。とにかく今は少し身体を休めた方が良いだろう。こんな任務だと討伐するよりも精神的に参り易いからな」

 

そう言いながらもエイジがリンドウと別れ自室へと足を運んでいた。今回のミッションは討伐とは違い、常時索敵している様な内容の為に肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方が多く、いかに歴戦の猛者と言えども休憩を余儀なくされるのはある意味仕方の無い事でもあった。

ここに来てから初めての捜索ミッションは想像以上に精神を消耗させる。アナグラとは違い、ここでは精神的な疲労を癒すには何よりも時間が必要だった。

 

 

「あの……如月中尉。少しだけお時間宜しいですか?」

 

疲労を癒すべく重い足取りを止めたのは一人の女性ゴッドイーターだった。以前にここでやった教導カリキュラムの際に指導した一人である事は記憶にあったが、今のエイジには誰だったのかと思い出させるのも一苦労だった。

 

 

「構わないけど……どうかしたの?」

 

部下とも言える人間の前で疲労感を漂わせる訳には行かないと考え、何時もと変わらない対応を心掛ける。相手の女性も今回のミッションがどんな内容かを知っていた事もあってか、無碍に扱う事の無い今のエイジの対応には嬉しく感じる部分があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかそんな大胆行動をするとはな……」

 

「言葉を濁さなくてもいいじゃないですか。何か言いたい事があるならハッキリ言ってください」

 

ソーマとアリサはアナグラを離れ、上空1万メートルを飛んでいた。通常であればヘリでの移動を余儀なくされていたが、今回は偶然にも他の支部が使っていた機体を一旦本部に移送するからと、2人はついでとばかりに乗り込んでいた。

 

今回の目的は本部での新種の細胞の受け渡し。元々はソーマが一人で行く予定だったはずが、気が付けばスケジュールが直前になって変更され、今回はソーマ博士の護衛の名目でアリサが同行する事になっていた。

当初はサテライトの件があった為にアリサも渋る姿が確認されていたのはまだ記憶に新しかった。今回の事は明らかな越権行為であるのは当然ではあったが、終末捕喰の混乱に加え新種の発見とフェンリルの主要な支部が落ち着かない様相である事から、半ば強引に今回のスケジュールが決定されていた。

 

 

「いや。本来であれば非戦闘員に護衛が付くのは当然の事だからな。俺の立場は榊の代理である以上、今回の件に関しては特に言う必要は無いだろう」

 

「そんな事は分かってますから。私だってまさかこんな状況になってるなんて思ってなかったんですから仕方ないですよ」

 

半ば言い訳めいた言葉ではあったが、言葉と表情は大きく違っていた。弥生が今回アリサに提示したのは、本部での新種の細胞の運搬についての護衛任務の依頼でもあった。ソーマが言う様に、本来であれば非戦闘員には最低限2名の護衛を付ける規則ではあるものの、ソーマ自身が他の護衛よりも戦闘能力が高い事から護衛よりも強い人間に対しては無駄だとばかりに規定の内容を切捨てていた。

 

勿論、それはただの建前でもあった。ただでさえ新種の細胞を極東で解析するとなれば、本人以外にも最悪はその護衛にまで批判の目が届く可能性が高い。

今までソーマ自身が味わった経験でもあったからこそ、護衛の存在を否定していた。

 

 

「……まあ、確かに弥生と無明に言われれば大半の人間はそれに従うだろうな」

 

今回の護衛に関してアリサが渋ったのはまさにそれが原因でもあった。本来であれば完成した際に今後の予定を何かと詰める予定ではあったが、想定外の任期延長でそれが叶わぬ結果となっただけではなく、サテライトの職人も休息が必要だと取って付けた様な言葉を言われた事により、アリサとしてもそれ以上の抗弁は適わなかった。

 

事実、いくら候補地があっても肝心の職人が居なければ作業に入る事も出来ず、またその職人の棟梁が無明の所の人間であれば、どちらの言葉を優先するのかは考えるまでも無い。表向きはそうではあるが、職人からすればアリサの行動がそろそろ限界に近い事も想定していた事もあり、また倒れる様な局面が発生すれば更に状況が悪くなるのは当然の事でもある。職人からすればアリサは既にエイジの嫁の認識がある為に、結果的にはアリサは現場の人間から心配された結果、押し切られた形となっていた。

 

 

「でもよりによってソーマの護衛ですよ。別に私じゃなくても……」

 

「アリサ。お前、自分の顔を鏡で見た上でそんな事を言ってるのか?だったらその笑顔はおかしいだろう」

 

「もう。コウタじゃあるまいし、一々そんな事言わなくても良いですよ。確かにエイジに会えるから嬉しいのは隠すつもりはありませんから」

 

今回の日程は4泊5日。行先は本部ではあるが、肝心の依頼内容が現地でのクレイドル隊員からオラクル細胞の直接の受け渡しとなっている以上、リンドウとエイジに会うのは必須条件となっている。だからこそ確実に会えると分かっている為に、アリサとしても笑顔が自然と零れていた。

早くエイジに会いたい。今のアリサにはそんな想いだけが存在していた。

 

 

 

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