神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第196話 試験の後は

「やっと終わったよ~。暫くは何も考えたくない」

 

 ここ数日の勉強が終了すると同時に、試験の結果は即時発表されていた。

 元々は任務の際に基本的な行動をしていれば何の問題も無い程度の内容ではあったが、ブラッドに関してはブラッドアーツを持っている事もあってか、戦い方は常時基本からかけ離れる事が多く、その結果として今回の様な試験となれば一から基本を叩き直す必要が出ていた。

 

 

「確かに基本的な事でしたが、今回の試験で初めて知った事もありましたので、私としては有意義な時間でした」

 

「シエルちゃんはそうかもしれないけど、私にとっては厳しい戦いだったよ。これならミッションに出ていた方がマシだよ。ムツミちゃん!ケーキセット頂戴」

 

「はいどうぞ」

 

 結果が出た事で、まずはお祝いとばかりにナナはムツミにケーキセットを注文していた。今回の試験は元々から予定されたものではなく、本部からの要請が一番だった事から対象者の数は限られ、結果的にはブラッドとマルグリットだけが受験する運びとなっていた。

 差し出されたのはメロンソーダとイチゴのムースケーキ。疲れた脳にはピッタリだとどこかで聞いた話をそのまま鵜呑みにしたのか、ナナは出された物をそのまま口へと運んでいた。

 

 

「う~ん。やっぱりムツミちゃんのケーキは美味しいね。これなら何個でも行けそうだよ」

 

「ありがとうございます。エイジさんからレシピを貰ったので、今日初めて出したんです」

 

「これって元々はエイジさんのレシピなんですか?」

 

 何気に話したムツミの言葉にシエルは少しだけ関心を持っていた。

 確かにお菓子やケーキ類はよく出るので特に考えた事はなかったが、まさかムツミまでもがレシピを貰って作っていたと思ってもなかったのか、ここ最近の北斗が何となく落ち込んでいる様な雰囲気があるからと、多少なりとも元気づける事が出来るならばと考えていた。

 

 

「はい。他にもいくつか貰ったんですけど、試作を作るにも手間がそれなりにかかるので、まだ試して無い物も幾つかあるんです」

 

「ムツミさん。出来れば私も作ってみたいんですが宜しいですか?」

 

「シエルちゃんが作るなら私もやりたい!」

 

 シエルに便乗する様にナナも乗っかってくる。今日は試験が終わったまでは良かったが、本来であればミッションが入る可能性があった。しかし、試験の日程をずらす訳にも行かず、その結果ブラッドの代わりを第4部隊やクレイドルが代わりに受注していた。

 そうなれば今後の予定は白紙となる。そんな結果があったからなのか、2人は急遽ムツミとお菓子作りを開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験お疲れ様。予想はしていたけど、改めて結果が出ると嬉しいもんだね」

 

 マルグリットも准尉の試験が終わった事で、漸く一息つく事が出来ていた。

 今回の内容はブラッドの試験のついでとは言え、改めて極東支部になってからの内容は精神的な負担が思いの外大きい物となっていた。

 

 時間にはまだゆとりがあるが、今回の試験の事もあってなのか、エリナとエミールが気を利かせたからなのか、コウタとマルグリットはそのまま非番扱いとなっていた。

 本来であればコウタは全く関係ないが、ここ最近の件でアリサが既に結婚した為にネタとなるカップルが居ないと判断されたのか、極東女子のターゲットは人知れずマルグリットへと向いている。

 現状では着々と外堀は埋められているが、コウタはともかくマルグリットはまさかそんな状態になっていると気が付いていないのか、それとも感づかれない様にやっている結果なのか、何時もと大して変化は無かった。

 

 

「多分、私だけだとこんな結果にはなりませんでした。今まではこんな風に考えて戦ってなかったんで、ある意味新鮮でした」

 

「それは、これまでの実績と蓄積があったからだって。実技が無いのもネモス・ディアナでの実績をちゃんとカウントしたからだよ。実技だったらリンドウさんかエイジと模擬戦やるんだから、そう考えればまだマシだよ」

 

 コウタの言葉にマルグリットも何となくその状況が見えていた。

 確実に手加減はされるかもしれないが、あの2人のどちらかと対峙しろと言われれば流石にどちらも嫌ですと言いたくなるのが本音だった。

 事実、これまでにも昇進試験の実技の結果が悪いからと昇進を見送られた事は何度もある。プレッシャーに負けた結果なのか、それとも本当に実力が無いからなのかは分からないが、それが一つの壁となっていた。

 

 短い期間とは言え、マルグリットも屋敷で教導を受けた際に言われたのは、今やっている行為をエイジは少なくとも10年以上、現在に至っても継続していると言われた点だった。

 

 技術に上限はなく、新たな力が付けばそれを踏み台にして更に教導が過酷な物へと昇華する。それを聞いたマルグリットはただ笑う事しか当時は出来なかった。

 

 

「でも、コウタは私に付き合って非番だったんですよね。本当に良かったんですか?いつもなら実家に戻るのに」

 

「最初は俺もミッションにと思ったんだけど、どうにもこうにもタイミングが合わなくてさ。結果的にはアリサにまで今日は休暇の申請出したって言われたんだよな」

 

「何だかすみません」

 

 2人はラウンジへとゆっくり歩いていた。時間的には非番の人間以外はほぼ出払っているからなのか、2人の間には何時もの様な喧噪は何も聞こえなかった。

 やや微妙な時間。この時間なら小腹を満たす為に何かを摘まむ程度は良いだろうとコウタは考えていた。

 

 

「折角なんだし、何か食べない?多少なら奢るからさ」

 

「え?でも私の為に何だか申し訳ないって言うか……」

 

「試験の打ち上げみたいなものだし、この時間なら軽食程度だからマルグリットが気にする必要は無いって」

 

 そう言いながらラウンジの扉が開くと、そこにはお菓子らしき物を作っているはずのシエルとナナが何か苦戦している様にも見えていた。既にどれほどの時間が経過したのか、教えていたはずもムツミの表情にはクッキリとした疲労感が滲み出ている。

 その表情がこれまでの内容の全てを物語っていた。

 

 

「えっと……2人は何を作ろうとしてるんだ?」

 

「あっ!コウタさん。今、簡単なお菓子を作ろうとしてたんだけど中々上手く行かなくて……」

 

 自信無さげなナナの手元を見ればボウルから何かが散乱したのか周囲に色んなものを飛び散らしながら何か得体のしれない物が僅かに残っている。

 隣にいるシエルに至っては、先ほどからレシピを見ながら何やらブツブツと言っているが、まだ何も始まっていないのか、まだ材料がそのままの状態だった。

 

 

「何を作るつもりだったの?」

 

「いや~クッキーなら簡単だと思って色々とやってたんだけど、思ったよりも上手く行かなくって…ははははは」

 

 何となく笑ってごまかしているものの、周囲に飛び散ったのが小麦粉の慣れの果てだと察知したのか、コウタも渇いた笑いしか出ない。一方でシエルは漸く何かを習得したのか、ここに来て漸く行動を開始していた。

 

 以前に行われた炊事の教導は既存の食料のアレンジに留まるだけだった事もあり、無難に終えていたのはコウタもハルオミから聞いていた。しかし、目の前で繰り広げられた惨劇は一から作る結果でしかない。シエルが卵をジッと見たと同時に、幾つも割り出していた。

 

 

「あの、シエルさんは何を作るつもりですか?」

 

「はい。実は簡単だからとプリンを作ろうかと。ただ、材料が少ないので手順を一旦脳内でシミュレートしてから行動しようかと思いまして」

 

 マルグリットが何気に聞いた代物はそこまで慎重になる程の内容では無い事はマルグリットだけでなくコウタも知っていた。

 クレイドルが発足してからは何かと忙しくなる事が多く、コウタも最後に作った記憶はかなり以前だった記憶だけが残っている。

 しかし、シエルの様な危うい手つきになる程の物で無かった事から、コウタは少しだけ考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だかすみません。コウタさんの手を借りる事になるとは思いませんでしたので」

 

「私もマルグリットちゃんに手伝って貰ったからなんとか出来た様な物だよ」

 

 結果的にはコウタがシエルに付き、マルグリットがナナに付いた事で、何とか一定数の確保だけは出来ていた。

 気が付けば時間は既に日が沈むころへと移りつつある。このまま疲れ切った表情で仕事をする訳には行かないからとムツミも残った気力を振り絞って何時もの様にキッチンの前に立っていた。

 

 

「毎日とは言いませんが、偶に作った方が良いですよ。案外と数をこなすと身体も覚えますし、なによりも慣れると味も食感も良くなりますから」

 

「そうしたい所なんだけど……案外と忙しい事の方が多いんだよね。これがおでんパンなら間違いないんだけど……」

 

 折角だからと4人は自分達で作ったクッキーとプリンを口に運んでいる。料理は各自の感性にも左右されるが、お菓子は科学と同じでレシピと手順を間違えると味が壊れる。

 いくら同じレシピだと言った所で熟練した人間と初心者を比べれば雲泥の差であるのは誰の目にも明らかだった。

 

 

「私も同じです。でも、コウタさんがプリンを作るなんて意外でした」

 

「そうだよ。てっきり食べる専門だと思ってからね。コウタさんは誰から教えて貰ったんですか?」

 

 ナナの一言にその時の光景が思い出されていた。

 マルグリットはナナとクッキーを作る傍で、プリンを作るコウタとシエルを横目で見ていた。当初は大丈夫なのかと心配した部分はあったが、コウタの手つきは意外な程に手慣れていた。

 

 卵液と生クリームを混ぜながら甘さを調節すると同時に、砂糖を焦がしてカラメルを作る手つきに驚いたのはマルグリットだけじゃなくシエルも同じだった。

 文章だけで作るのはイメージが湧かないが、隣でコウタが作るのを見ながら隣で作っていたシエルは、試食の為に自分で食べると予想以上の出来栄えだった。

 

 アナグラの男性陣もそれなりに出来るのかもしれないが、それはあくまでも簡単な物であって、まさかこんな物まで作ると思っていない。だからこそ、慣れたコウタに驚くと同時に、マルグリットの中で僅かに気になる事があった。

 こんな場所で中々作る機会が無いにも関わらず、それなりに手慣れているのであれば誰かに作っていた可能性があった。

 事実、カラメルもタイミングを間違えると苦さが表に出るが、口に運んだそれはそんな気配は微塵も無い。誰にとは思ってないにしろ、何となく面白く無い考えが少しだけあった。

 

 

「これ?これは第1部隊当時にエイジから教わったんだ。因みにアイスクリームだって作れるぜ」

 

 ドヤ顔をしながらも確かにそれなりの水準の物であるのは間違い無いと同時に、当時はそんな事もしていたんだと3人は改めて考えていた。

 アラガミの討伐だけでなく、自分達の生活もそれだけで終わらす事が無い様な考えだったのかもしれない。

 結果はともかく何となくシエルとナナは負けた気になり、マルグリットは少しだけ違う事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。そんな事もありましたね」

 

 ミッションが終わったからなのか、アリサもラウンジで食事とばかりに先ほどの顛末をシエルから聞いていた。

 当時のアリサからすればあの時点でコウタにも劣っていたのは間違い無いかった。

 今でこそそれなりには作れるはずだが、それでもアリサがお互いに食べる人間がエイジである以上、比較する気にはなれないと同時に、当時の出来事を思い出してた。

 

 

「コウタ隊長がプリン作ったんですか?」

 

「そう。案外と手つきも良かったから少し驚いたけどね」

 

 ソファーで先ほどの出来事をアリサとエリナはマルグリットから聞いていた。来た当初はシエルから事の顛末を聞いていたが、その後は用事があるからと作った物を大事に持ち帰ったのか、既にラウンジには居なかった。

 ミッションの関係でエリナも本来はアリサと一緒になるタイミングでは無かったが、偶然にも帰投のヘリが同じだったことから2人でラウンジへと足を運んでいる。そんな矢先の出来事だった。

 

 

「コウタは案外と手先は器用ですからね。何かにつけて出来栄えは良かった記憶が有りますね」

 

「だからって最近は何も作ってないって言ってたんで、ああまで上手く出来るとも思いませんでした。やっぱり誰かに作ったりしてたんですかね?」

 

 何気に放ったマルグリットの一言にアリサとエリナの目に何かが宿っている。自分の色恋とは違い人の色恋は生活のスパイスでしかなく、ただでさえ秘密裡にコウタとくっつけようと企む部分がある極東女子はこの2人だけではない。

 

 エリナとしてもマルグリットを慕っているだけでなく、これからの事を考えれば何かにつけてくっついてくれた方がメリットがあると判断していた。

 一方のアリサに至っても、これまで散々自分がやられた事を今度は他の人間で自分の楽しみたい思惑があった。

 

 事実、結婚してからはヒバリとリッカからも何かといわれる機会が激減していた。他人の恋路は楽しいが逆に惚気話は聞きたくない。その心情が全てにおいて優先されていた結果だった。

 

 

「それは……コウタには聞かなかったんですか?」

 

「それもちょっと…聞きにくいと言うか…」

 

 随分と歯切れの悪い回答ではあるが、それがどんな心情なのかをアリサは何となくだが理解していた。

 自身がそうだった事が一番ではあるが、今はまだ一気に行動に移す訳にも行かず、隣に座っているマルグリットの様子を見ながら当時の事を思い出していた。

 

 

 

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