神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第21話 特務

 嘆きの平原で一人エイジは佇んでいた。

 ここから本来であれば現場に到着しても、こちらから探さない限りアラガミが見える事は少ない。

 しかし、ウロヴォロスに関してはこんなセオリーは一切通用しなかった。事前にノルンで確認はしたものの、想像と現地での確認は天と地ほどの差があった。

 通常あれば他のメンバーと打ち合わせる事もできるが、特務である以上相談する事すらできない。このまま見ていても何も始まらない。

 まずは気づかれない程度の地点から確認し、戦略を立てる事を優先した。

 

 

「やっぱりデカイよな」

 

 データ上、かなりの巨体である事が記載されているが、現地で見れば確実に見上げるレベルでの高さを有し、弱点であろうはずの複眼に至っては今の高さでは攻撃方法は銃撃しかない。

 

 このまま見ていた所で何も始まらず、まず最初にやるべき事はおのずと決まってくる。まずは巨体を支える足を狙い崩す事から始めた。

 

 遠めで見ても大きい物は近くでも大きい。しかしながらこのアラガミは他とは違い、他のアラガミを寄せ付けない事が唯一の救いだった。

 

 大きな音も立てず、気配を殺しながらの移動にウロヴォロスは気がつく事は無い。バーストモードの為に一気に足へと食らいつく。大きな顎が足の一部を喰らいつくと、足の繊維がブチブチと切れる感触が手応えとして伝わってくると同時に全身に力がみなぎり、青白いオーラが身体が発せられた。

 突如として不意を突かれた攻撃をされたと分かった後のウロヴォロスの動きは怒り狂ったかの様な動きを見せていた。

 

 巨体=動きが鈍いなんて事は一般的なイメージだが、ことアラガミにこのイメージは当てはまる事は無い。纏わり付かれるのを嫌うかの様に素早く触手を動かし、エイジに襲い掛かる。

 このまま黙ってみていればたちまち餌食になる事を懸念し、すでにその区域からは離脱していた。

 本来であればアサルトで弱点を狙うが、最初に喰らいついたおかげで、今のアサルトにはアラガミバレットがセットされている。

 

 まずは小手調べと言わんばかりにアラガミバレットを撃ち付ける。

 他のアラガミと違い、ウロヴォロスのアラガミバレットそのものもかなりの威力を示すが、まだ戦いは始まったばかり。万が一が無い様にする為に、ここでの油断は死につながる。

 

 山の様に大きな巨体は身体から生えている触手を器用に動かす事により、足の変わりとなって動き出す。巨体とも言えるほどの大きな身体が素早く動く事で、回避の為のスペースは一気に消失する。

 ここまでの大きさになるとアラガミそのものが大きな力を有する為に、些細な攻撃も命取りと為りかねない以上、様子を見ながら動く事は必須条件となり、行動範囲の確認や攻撃方法を回避しながらも常時確認する。

 

 ノルンのデータバンクには最低限の事は記載されているも、戦場での細かな動きまでは記載されていない。

 行動範囲や方法に関しては自身が手探りでやる以外に無く、その為には最低限、攻撃を受ける事無く回避しながら弱点とも言える場所の確認。そして、その攻撃範囲の見極めはある意味必須とも言えた。

 

 通常任務であれば、回復や最悪の場合のリンクエンドで回避する事は可能だが、今は単独任務の為にそれらの手段を行使する事は出来ない。

 万が一意識を失う事態になれば待っているのは捕喰される未来以外の選択肢は無い。

 最悪の未来を回避する為にはどうしても行動の一つ一つが慎重にならざるを得なかった。

 

 常に離脱を考え攻撃を仕掛けようとした瞬間に辺り一面に閃光が走る。目くらましかと思った瞬間にそれはエイジの予想を超えて、足元から一気に襲い掛かった。

 

 地面からは複数の槍状の物が襲い掛かる。とっさに回避はしたものの、うかつにもいくつかが足を掠めていた。

 致命傷には程遠いが、想定以上のダメージは残るだけではなく、機動力は格段に低下する。時間にして僅かではあったが、この攻撃で一撃を入れて離脱を繰り返すのは恐らくは困難であると悟った。

 

 巨体故に攻撃範囲が想定以上に広い。その上威力も申し分ないとなれば直撃だけは最低限避ける必要が出てくる。しかしながら機動力が低下している以上、撤退はあり得ないのと同時に一つの覚悟をする事を決めた。

 

 エイジの装備はそもそもがその場で火力を活かすのではなく、むしろ手数で押し切る方が良いと判断している関係もあってかダメージの一つ一つは大きくなく、あまりに近寄れば潰される可能性もあった。

 

 戦いの前にシミュレーションした事も影響しているのか、初撃で手に入れたアラガミバレットを上手く活用する事で、少ない火力を補う方法を選んだ。

 本来の戦闘方法とは違い、今は足にダメージが残る以上、従来の様な攻撃方法もできず、かと言って慣れない方法では死ぬ確率は段違いに上昇する。

 

 どんな任務でもまずは生き延びる。それが入隊してから毎回リンドウから言われ続けた言葉だった。

 

 どんなに力があるゴッドイーターと言えど、巨体を活かした単純な物理攻撃とも言える物を受ければ、簡単にその命は簡単にけし飛ぶ。ましてやこのアラガミには、単純だがある意味真理とも言える攻撃が普通に行える以上、通常のミッション以上に身体だけではなく頭脳もフル回転する事で今の戦場が支えられていた。

 思考が止まれば攻撃は単調になり、結果的には致命的なミスを起こす可能性もある以上、何一つ止まる事が許されない。

 

 慎重にやってきた事も影響し、約1時間近くが経過した頃だった。地道に続けた攻撃が身を結び、漸くウロヴォロスは地面に伏した。

 何とかコアを摘出する事が出来たが、払った代償はあまりにも大きかった。

 今回の戦闘で服はボロボロ、刀身の部分も若干の刃こぼれを起こしている。アサルトに関しても銃口は変形し、このまま撃ち込むのは不可能とも言えた。

 

 

「まだまだ先は遠いな」

 

 体に至っても足のケガだけではなく、所々が血で服が染まりシミが出来ていた。

 今回のミッションにあたり隊長権限で過去の履歴を調べた際に、同じ特務でリンドウが討伐していた事が分かった。

 エイジとは違い近接攻撃のみのリンドウが、このウロヴォロスを倒す事は現実的にはありえないとも思えた。このままではまだリンドウの足元にも及ばないと思い、遥か彼方の高みを考えながら、ゆっくりと帰投準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだリンドウの意識は回復はしませんが、オラクル細胞はすでに安定に入っているので、峠は完全に超えたと判断しても良いかと思います」

 

 

 人知れず無明は榊とツバキの元にリンドウの現状を報告すると同時に今後の事についての対策を取るべくしてアナグラに訪れていた。

報告を聞いたツバキは安堵の表情を浮かべ、それと同様に榊もまずは一安心と言った所だった。

 

 今回のミッションから捜索までの間と、既に消されたであろうミッション履歴を勘案すれば、誰が何の為にリンドウの始末をしようかと画策したかは直ぐに知れた。

 無明は今まで調べてきた事をそのまま伝える事を良しとせず、最低限の報告でとどめる事を判断しながらも、今回の事が露呈すればアナグラ全体の士気にも関わる。

 そう考えると言葉では言い表せないのと同時に、今回の件での裏を取る事を考えた。

 

 

「ツバキさん。悪いが暫くちょっとした用事で本部に行く事になった。一人では何かと都合が悪いので一緒に来てくれないか?」

 

「なぜ私なんだ?お前の行く用事と、どう関係があるんだ?」

 

 ツバキの疑問は尤もだった。突如として本部へ行くと言われて、簡単に了承出来る程にツバキは暇ではない。だからこそ、その真意を確認する事にした。

 

 

「表向きは技術交換だが、少し今回の事で非公式に確認したい事がある。悪いがその為にはある程度の地位の高い人間が必要になる」

 

「私は飾りじゃないぞ」

 

「ツバキさんにはしっかりと活躍出来る事があるから問題はない。そんな事で榊博士、しばらくリンドウの事は頼みます。バイタル等はモニターとリンク出来る手はずは整っていますので後はお願いします」

 

「君の本領発揮と言った所みたいだね。リンドウ君に関しては任されたよ」

 

「おい待て、誰も行くとは一言も言っていないが?」

 

「悪いが今回の件は既に先方にも伝えてあるから、今更行かない選択肢は無いんた。寧ろ来てもらわないと、此方の都合が悪い」

 

 

 この時点で既に根回しは完了し、全部の準備が終わっていた事をツバキは悟った。

 

 フェンリルは元々一製薬会社だったが、オラクル細胞の誕生とアラガミの出現に伴い、神機開発の傍らゴッドーイーターを排出してきた。

 人類に取って唯一の希望とも言える者を排出した事により、これまでの企業のパワーバランスは大きく変貌する。

 人類救済の看板は伊達ではなく、結果的には各企業はフェンリルの傘下へと入る。その結果として今では巨大なコングロマリッドを形成していた。

 そんな企業だからこそ商売敵も多く、内部も一枚岩ではない。

 

 極東支部は確かに力関係ではそれなりの影響力はあるが、一企業の一支店にしか過ぎず、またその力を我が物にしようと画策する者は後を絶たない。

 となればどこまで何が関与しているのか確認の為には本部へ行くのが一番早い。

 そこで確かめたものと、今後の判断の材料の為には調べる必要があった。

 

 

 こうして一路、無明とツバキはフェンリル本部へと旅立つ事となった。

 

 

 

 

 

 

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