神を喰らいし者と影   作:無為の極

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今年の仲秋の名月は9月27日です。
今回は二つの話を区分けしました。

次は来週の掲載予定です。




番外編 14 仲秋の名月 壱

 暑かった夏が過ぎ去り、周囲の環境は少しづつ変化をし始めていた。

 既に極東に来てから何度目かのミッションを数える事すら必要ないと思える頃、不意に野営をしながら北斗は空を見上げていた。

 ここ最近は以前とは違い周囲の状況が見える様になったからなのか、それともこれまでが何も見えなかったのかは分からない。

 しかし、眺めた月は何時もと何も変わらないままだった。

 

 

「北斗、月を見てたけど、どうかしたの?」

 

「ナナか。いや、特に意味は無いんだけど月明りが何時もより眩しく感じたから見上げていたんだ」

 

 連続ミッションも当初とは違い、既に手慣れた事から野営に伴う設営やそれ以外の準備は既に滞りなく進んでいた。

 元々は部隊運営に対しサポートする人員が一人着くのが慣例だった事もあり、今回は珍しくフランも同行する事になったからなのか、久しぶりにブラッドとしてミッションを受けていた。

 

 

「北斗、ナナさん、ここでしたか。そろそろ食事の準備が出来るそうです。こちらにいらしてはどうですか?」

 

「今日は確かフランちゃんが担当だったんだよね?」

 

 そう言いながら今回の出動の際に決めた事を思い出していた。

 あれから何度か炊事に関する教導をこなした事によって、結果的に全員がそれなりに食べる事が出来るレベルになりつつあった。

 

 これまでの様に、担当制ではなく当番制で決めるケースが多くなっていた事によって不慣れな人間が担当になった場合、その人間が不在となれば一気に食事の内容が低下する。

 その結果、今後の士気にまで影響が出るなどと言った意味不明なナナの理論が採用された形だった。

 

 しかし、個人の力量とそれは大きく異なる。部隊の中でもナナとシエルもそれなりにはなりつつあるが、やはり普段はミッションに出向く事が多く、また炊事の教導は及第点は出ても、通常の料理となれば未だ及第点には程遠いのが現状だった。

 

 

「そうですよ。既に殆どの準備が終わってますので、後は私達がテーブルのセッティングをするだけです」

 

 食事以外に関しては各員で各々の役割分担が決まっている為に、本来であれば代わりに手伝う事も当初は提案されていた。

 しかし、それでは従来と何ら変わらないだけでなく食事を作ってくれた人にも申し訳ないと言った事もあり、ミッションとは違い食事の準備に関してだけは担当するそれぞれが準備する事が決定されていた。

 

 

「じゃあ、早く準備しよっか。お腹も減ってきたしね」

 

「ナナはいつもそれだな」

 

「それはちょっと失礼じゃないかな。私はいつもミッションには全力だからお腹が減り易いだけです。北斗はもうちょっとデリカシーを覚えた方が良いかも」

 

「それはそれは…今後は気を付けるよ」

 

 おどけながらも先ほどまで苦戦していた事はおくびにも出さず、いつもと変わらないペースでナナは北斗と話していた。

 

 ここ最近、極東支部ではアラガミが活性化しているのか出現率がやたらと高く、またその影響もあってなのか、本来でればミッションよりもサテライトなど周辺に力を入れているクレイドルも目下アラガミの討伐任務がかなり舞い込んでいた。

 

 事実アラガミを討伐しない事にはサテライトの建設も進まず、またその結果として未だ居住区や他のサテライトに入植出来ない人間が増える事になる。

 その為には一亥も早い討伐が要求された事もあり、今回のブラッドと同様に連続したミッションが計画されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこれは普段から料理をしている差なのかな?少なくともいつもよりは美味しいと感じるけど」

 

「アレンジと一から作るのはまた要素が違いますからね。今回の様に一から作ると手間じゃありませんでしたか?」

 

 ナナの感想にシエルが冷静に答えを交わしていた。

 レーションは味は均一な為に誰が作っても同じ物でしかならない。事実、炊事の教導が開始されたと同時に開発班の開発魂に火が付いたのか、これまでもそれなりの味だったコンバットレーションはエイジや屋敷での共同開発を皮切りに次々と新しい物が作られていた。

 

 その結果、これまでのレーションは他の支部やサテライトへと配布、若しくは売却される事になり、他の支部からも新たに購入する為にこれまで以上に榊の手を煩わせる事になっていた。

 

 

「これはレシピもありますし、作り方そのものは簡単ですから問題ありませんでしたよ」

 

 今回フランが作ったのは、以前にクレイドルとの共同作戦で食べたパエリアだった。

 手間のかかる部分はレーションを上手く利用しながらも、味付けの大半はフランの好みとなっている。

 細かい違いはあれど、当時のエイジの作ったものと遜色は無い様にも感じていた。

 

 

「って事はそろそろ私のおでんパンも正式なレーションとして開発してくれないかな。絶対に美味しいと思うんだけど」

 

「おでんパンは有りませんが、まだサテライトではおでん缶は出てるみたいですよ。あれも細かい調整をしながら配布されてますので」

 

 コンソメスープを飲みながらフランはオペレーター権限で見ていた情報を思い出していた。

 これまで戦闘時の内容はヒバリだけでなくフランも同等の権限を持っていたが、それ以外の随所になるとヒバリだけがアクセスできる権限を有していたが、ここ最近になってからフランも同等の権限が与えられていた。

 

 オペレーターはミッション時だけでなく、それ以外でも何かとやる事だけは多い。

 特に帰投の事後ともなれば報酬の管理や新たなミッションの管理に発注、神機使いの健康状態まで把握する必要性がある。

 その為に普段であれば現場に出る事は少なく、仮に出たとしても随時アナグラとの回線は開いたままだった。

 

 

「まだ配布してるんだ。さすがはおでん缶。あれって私も開発には加わってたんだよ。知ってた?」

 

 ナナの言葉に反応したのはギルだった。当初は何かの缶詰位にか思ってなかったが、味の確認だと言われた事で酒の摘みとして食べるつもりだったが、まさか中身がおでんだと思わなかったのか、見た目とのギャップに驚いたのはまだ記憶に新しかった。

 

 

「あれはナナが監修したのか?」

 

「ギルは食べなかったの?」

 

「食べるには食べたんだが……ちょっと俺の口には合わなかっただけだ」

 

「ええ~。本当なのそれ?」

 

 まるで自分の方が味音痴なのかと疑う様な視線にギルはそれ以上の事は口に出すのは憚られていた。

 恐らく合わなかったのは飲んでいる酒の種類。スコッチではなく日本酒であれば恐らくは口に合ったのかもしれないが、ギルの部屋には生憎とその種類の酒が置かれていない。

 それはある意味では仕方ないと思える状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しく過ごす事が出来た食事も終わり、今は各々が自分の時間を有意義に過ごす為に散会となっていた。

 今日のミッションはあまりにも厳しかった事もあってか、本来であればミーティングをする所だが、今は疲労回復を図る事を優先した為に、時間にゆとりが出来ていた。

 普段であれば訓練室に籠るが、流石にミッションに出ている時にそれは出来ない。今は今後の対策を兼ねて北斗は座禅を組みながら今日の内容を思い出していた。

 

 今回のミッションの最重要課題とも言える部隊運用は確かに厳しさが先に出ていた。

 アラガミ単体であれば数の論理で押し切る事も可能だが、今回の様に各自がそれぞれのアラガミと対峙するミッションとなれば、厳しさは尋常じゃ無くなっていた。

 

 誰か一人が倒れれば即作戦が破たんするだけでなく、各々の神機との特性を考えればマッチングによっては早急た対策を要求される事になる。

 焦りが焦りを呼べばそこから先は自分自身が仲間よりも先に危機に陥る事になる。その結果、全員の命が危うくなる可能性があった。

 目を閉じた際に考えるのは本当にこれで良かったのだろうかと言った自問自答。

 

 ジュリウスから引き継いだブラッドの立ち位置は既に極東支部にも完全に認知されており、それ以上の揶揄は既に無くなっていた。

 

 

「北斗。ここにいたんですか」

 

 そんな自問自答を繰り返していた北斗の思考を遮ったのはシエルの声だった。

 既にこの時間は各自が有意義に時間を使う事を優先していたはず。とすれば、シエルがこの場に来たのであれば、それは緊急でアラガミが出没した可能性だけだった。

 

 

「ひょっとしてアラガミか?」

 

「いえ。そうでは無かったんですが、先ほどアナグラから連絡がありまして、今回の物資の中にこの時期だからと普段とは違う物を入れたと連絡があったそうです」

 

 シエルの不明瞭な言葉に北斗は何の事なのかは分からないままだった。

 この時期特有の何なのか想像出来ない。シエルに連れられそのまま皆が居る場所へと移動していた。

 

 

「北斗。これ、今回のミッションの差し入れみたいだよ。なんでも今日は仲秋の名月なんだって。月を見てお団子食べるらしいよ」

 

 ナナの目の前には白い団子が山の様に置かれていた。確かにナナが言う様に頭上の月は存在感を示すかの様に煌々と周囲を照らしていた。

 いつもであれば照明が必要ではあるが、今回に至っては月明かりが想像以上に明るかった事から、それほど照明は必要無かった事が思い出されていた。

 

 

「ナナ、それは間違ってないけど、決して団子が主役じゃないから。作物の収穫を祝う為に団子があるだけだ」

 

「北斗、それって本当なんですか?」

 

 恐らくはナナから少しだけ間違った知識を聞かされたのか、シエルは北斗に確認してきた。

 

 

「旧暦の8月15日の内容だったと記憶があるかな。多分、俺よりもエイジさんの方が詳しいと思うよ」

 

 北斗の言葉にシエルだけでなくナナとフランも頷く部分があった。

 以前にあった様に極東支部での暦のイベントにはどこか懐かしい様な雰囲気が多分にあった。

 本来であれば収穫のお祝いであればここではなく001号サテライトの方がしっくりとくるはずだが、恐らくはそんな事だけでなく極東全体でも広がっている事が予想出来た。

 

 荒廃しながらもどこかその精神的な部分での風習をやる事は、少なくとも他の支部ではあり合えない事でもあった。事実、他の支部であれば精々がクリスマスと新年を祝う程度しかなく、また単純に騒ぐ為の理由付けの様にも思えている。

 しかし、極東ではそんな一面もありながらもどこかそれだけでない部分にフランは少しだけ感心していた。

 

 

「なるほどね。って事はこれを入れたのはエイジさんなの?」

 

「お団子はムツミちゃんが作った物らしいですよ」

 

「ねえ、これってウサギなのかな。目と耳が付いてるよ」

 

 いくつかの白い団子とは別にウサギを象った白い団子が置かれていた。小さいながらも立派にウサギになっているそれは女性陣の関心を誘っている。

 既に月を見るよりも団子に意識が映っているのは仕方ないと考えながら北斗は一つだけ団子を口に放り込んでいた。

 

 

「ギルもどう?少し甘いけど、くどさは無いよ」

 

「すまないが俺は甘い物は苦手なんだ。俺の分は気にしないで食べてくれ」

 

「ギルがそう言うならっと……う~ん。ほのかな甘みが上品な味わいだね」

 

 既にウサギの事は横に置かれたのかナナとフランもそれぞれが口にしている。恐らくはその為なのか、他にはお茶も団子と一緒に入っている。

 厳しいミッションの合間の休憩は結果的には疲労回復の役割を果たす事となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、こんな所でお月見とはね。少し驚いた」

 

「やはり幼少の頃はやってたんですか?」

 

「ここまでの物では無かったけど、やった記憶はあったかな」

 

 団子を食べ終え、改めて北斗は月を眺めていた。先ほどまで自問自答していた悩みは既に消え去っていたのか、何時もより表情が和らいでいた。

 そんな中でシエルは以前に少しだけ聞いた言葉を思い出していた。

 恐らくはそんな意図は全く無かったのか、意味が分からなかったからなのか、極東出身の北斗ならば恐らくは知っているだろうと、不意に聞いて見たくなっていた。

 

 

「そう言えば、一つ聞きたい事があるんです」

 

「聞きたい事?」

 

「ええ。こんなシチュエーションの際に『月が綺麗ですね』って言うのが極東流らしいのですが、北斗はその意味を知ってますか?」

 

 シエルの何気ない言葉に北斗は暫し固まっていた。確かにそれは有名な言葉ではあるが、まさかシエルが誰かから聞いたのかを詮索する訳には行かない。

 大よその見当は付くが、今度はそれを口にすればどうなるのかはコウタとマルグリットを見てきた北斗には容易に想像が出来ていた。

 

 

「……意味は知ってるが、それは俺じゃなくて他の誰かに言った方が良いと思う。と言うか、その言葉の意味はシエルが聞いた人間以外の人に聞いた方がいいだろう。そうだな……ナオヤさんかエイジさん辺りが適切だな」

 

「北斗が知ってるなら教えてくれませんか?」

 

「そろそろ寝る時間だ。言葉の意味はアナグラに戻ってからの方が良いだろう」

 

「分かりました。では戻ってから教えて下さい」

 

 逃げる様に北斗はシエルから離れていた。シエルの性格からすれば帰投すれば確実にこっちに聞いてくるのは間違いない。

 誰が犯人なのかは分からないが、北斗自身はそんな人間でないと思っている。今はただそんな言葉を教えた人間の代わりにアラガミを討伐する事にしようと一人誓っていた。

 

 




夏目漱石の有名な一言がただ書きたかっただけです。
あまりにも有名な言葉ではありますが、中々使いづらかったので、番外編として書きました。


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