「で?概要は理解したが、本当にそれは可能なのか?こっちとしては無駄な事は金にはならない。だとすれば俺は降りる」
榊の概要は極めてシンプルだった。しかし、カレルの疑問も分からないでもない。そんな中で今回の最大の要因は動作確認中のリンクサポートシステムの動作確認だった。
これまでの研究とブラッドのデータを解析した結果、一つの仮説が出来ていた。ブラッドのP66偏食因子の解析に伴い一定の周波数の偏食場パルスを発射する事で感応種の神機を不能にする偏食場パルスを打ち消す方針を打ち出した事だった。
現時点では感応種はそう簡単に出現するケースは少なく、当時の終末捕喰の際に計測した偏食場パルスのデータを流用した結果だった。
「今回のデータに関しては仮定でしかないが、これまでのブラッドの偏食場パルスと感応種の発する偏食場パルスを測定した結果でもあるんだ。結論から言えば、完全な系統かつ同一方向に完全な逆相を合成しようとする場合、そもそも波動そのものが発生させられないんだ。故に感応種の偏食場パルスと同等の波動を発生させる事が出来るのであれば理論上、神機が動作不全となる事は無い」
やや興奮気味に榊は話すが、この場に於いて完全に理解した人間は居なかった。精々が例によって妙な事を口走った程度にしか考えておらず、その結果何となく分かった様な、分からない様な話をで終始した程度の認識しか無かった。
「榊博士の言ってる言葉だが、簡単に言えば感応種と同じ偏食場パルスを発生させる事が出来れば、お互いが打ち消し合って効果が相殺される。その結果、これまで脅威となっていた結果が脅威では無くなる。それだけの話だ」
榊の話を無明は簡潔に話す。それでも何となく理解した様な、しない様な空気が支部長室には流れていた。
「って事は感応種に怯える必要が無いって事なんだな」
「有体に言えばだ。だが、これにも重大な欠点がある」
感応種の脅威が無くなるのはこれまで苦労してきた人間であればあるほどその言葉の意味は大きかった。
これまでは撤退するしかなかった事が一転し攻勢に出る事が出来る。それが如何に大きなアドバンテージになるのかは誰もが考えた瞬間だった。
しかし、無明の言葉に全員が冷や水を浴びせされる。重大な欠点が何なのかが今回の最大の焦点だった。
「で、重大な欠点とは何だ?」
最初に口を開いたのはブレンダンだった。既にこれまでの内容を冷静に把握した結果だったのか、シュンの様に単に浮かれる様な部分はなく、欠点を指摘した無明を見据える。
「一つはこれまで得たデータはあくまでも既存の種にのみ対応する。当然新種が出れば偏食場パルスは感知出来たとしても打ち消す手段が直ぐには出来ない。それと、リンクサポートシステムにかかる膨大な負荷をどこまで処理できるのかだ」
現在開発が進められているリンクサポートデバイスは既に実戦にも少しづつ投入されていた。これまでの結果、発生させるためには既存の神機をデバイスのコアにして運用する以外に手段はなく、その際にはその神機の所有者の出動が無理である事だった。
もちろんそれだけではない。偏食場パルスを常時発生させるとなれば膨大なエネルギーが必要となる為に、稼動限界時間に制限がある点だった。
「……なるほど。そうなると我々が感応種と交戦する際にはその動作が安定して運用が出来る時間の制約が付くんだな」
「そうなるな。それと、感応種に対しての偏食場パルスを発生させるにはそれ用にキーとなる神機が必要となる。現在の極東での感応種のコアがまだ圧倒的に数が足りない。現状では全部の部隊に配備させるには素材の数が圧倒的に足りないのもまた事実だ」
無明の言葉をそのまま理解したのか、ブレンダンは口を閉ざしたままだった。
ここ極東には世界最大級の保管庫はあるが、感応種のコアとなればその数は圧倒的に少なく、また時折出現はするがブラッド以外に殆どが対抗できる状態では無い時の方が圧倒的に多かった。
それ故に感応種のコアが品薄な為、安易に作る事が出来ず結果的には貴重品となっていた。
「と言う事は、今の所は絵に描いた餅って事だな。で、それの実戦配備が出来ないのであれば俺達の出動は無理だとも考えるが、それで良いか?」
「カレル。お前の言いたい事は理解している。そこでだ。今回の任務を行う際には万が一リンクサポートシステムが間に合わない場合、ブラッドの隊長でもある饗庭北斗も同行させる事にしよう。彼の能力は同行した人間に対し、実に有効的な結果をもたらす事になる。
先ほども言ったが、これは偏食場パルスの発生と制御を兼ねた実験も兼ねている。我々とてこの状況に満足している訳では無い。単純に良しと考えた結果でしかない。ただ、今回の全員を呼んだのはそれだけではない」
無明はそう言いながら端末を少しだけ触ると、大きな画面に今後の可能性が記されると同時に、これまでの経過状況を呼び出していた。夥しい程の情報量がこれまで研究してきた結果を物語っていた。
「これまでに発生したアラガミの大群は既にサテライトの候補地を襲撃してるのは知っての通りだが、そこの撤退が終われば今度は既存のサテライト拠点、若しくはネモス・ディアナへとアラガミは襲うだろう。
我々としてもこれ以上の被害を拡大させる訳には行かない。既に撤退に関する準備はそろそろ終焉を迎える。仮に感応種が出た場合、各地で当たる人間が感応種と交戦する事になる。現在の所、この状況をもたらした原因は未だ不明ではあるが、アラガミの数が多く、また各方面へと戦火が広がる事を想定している事から今回は多面防衛を展開する。
万が一が常時ある訳では無いが、用心の越した事は無い。勿論デバイスが有効だと分かれば各自で対応してもらう事になる」
ツバキの言葉に全員が改まって実情を理解していた。既に撤退に関するデータが画面を見る限り拠点候補地の撤退状況は残り2割を切っている。既に撤退をした輸送団は各サテライトへと移動を開始していた。
それだけではなく、今回のアラガミの襲撃の中で一部にシユウ感応種が居る事も確認されていた。既存の中では一番貧弱な能力しか無いが、それでも神機の作動を停止させる能力は脅威でしかない。
既に交戦しているエイジのデータは画面上に出ているが、これと同じ事をやれと言って出来る人間はこの中には誰も居なかった。
「エイジ!これで全部です!」
候補地の撤退の準備が漸く終焉を迎える事になっていた。既に運び出したオラクルリソースがこの場に無いと本能でかぎ分けたのか、アラガミの数も徐々に減り出していた。
ここまで来れば残す所の討伐任務の先が徐々に見えだしていた。
「了解!こっちも今のこれでもう終わりだ」
シユウ感応種が確認された瞬間、その場に居た全員が固まっていた。これまでにも何度か出没した事があったが、殆どがリンドウかソーマが居た場合のみ討伐し、後はスタングレネードの利用に伴う撤退だけが存在していた。
勿論、この場で撤退するのであれば仕方ないが、残すオラクルリソースが僅かに残るのが最大の杞憂でもあった。そんな中でいち早く事態を収拾すべくエイジは行動に移していた。
スタングレネードは何も撤退にだけ使う物ではない。強烈な閃光はアラガミの視界を奪うと同時に行動をも不能へと導く。その結果、多大な隙が発生していた。
時間にして僅かとも言える瞬間、エイジは一気にシユウ感応種との距離を詰めていた。
既にこのアラガミの弱点はアナグラ内部での周知の事実。僅か数秒とも取れる瞬間、翼手と同時にその発生させるであろう部分を一気に斬り裂き、その勢いを殺す事無く一気に首を跳ね絶命させていた。
これまでにアリサは今回の様な場面を何度か見た事があった為に気にした様子は一切無く、その瞬間も自分の出来る作業をひたすら進めていた。
しかし、エイジの戦い方を初めて見た人間はその驚異的な戦闘方法がどれほど非常識な物なのかを理解しながらも、自分達の命が助かった事に安堵していた。
「総員、準備は良いか!撤退と言っても一時的な物だ。この混乱が終われば再びここが拠点になる。改めてここに来る事を考えるんだ」
エイジの激が全員の心を打つ。既にこの地は死んだも同じだと思った人間も居た事から、再びこの地にサテライトを建設させる事だけを意識させるべく大声で叫んでいた。
「アリサ。少しは落ち着いた?」
「こんな時にすみません。私も少しだけ諦めてました」
移動の最中にアリサは不意にエイジの胸を借りていた。理由は一つだけ。これまで苦労して築き上げた物が一瞬にして瓦解した事だった。
これまでも何度かこんな場面に遭遇したが、ここまでの厳しい局面は一度も無かった。
アリサがどれ程サテライト建築計画に集中しているのかは極東支部の人間であれば誰もが理解している。目の前に起こった惨劇はアリサの張りつめた神経を刺激するには十分すぎていた。
そんなアリサの気持ちを知っているからこそ、エイジは撤退の際にも一歩も引く事無くアラガミを屠り去り、全員に対して激を飛ばしていた。
「壊れた物はまた直せば良い。仮に防壁が破壊されても基礎は残るだろうから建築にも時間はかからないだろうし、防壁が残るなら新たにアップデートしてすぐに補修すれば良いから」
「でも……」
「でもじゃない。僕たちはそれをやるんだ。その為に僕はこの場に居る」
アリサの髪を撫でながらエイジはゆっくりと話を続ける。今は一時的な撤退にしかずぎす、これで終わった訳ではない。これが完了すれば今度はこちらから攻勢をかけるのはエイジの中では既に決定事項でもあった。
徐々には成れるサテライト候補地には目に見える範囲では既にアラガミの姿は確認出来ない。今回の件が終わるまで暫し離れる事しか出来ない自分を悔やむしか無かった。
「大変な任務をまかせっきりにしたのはすまなかった。しかし、サテライト建設のオラクルリソースが完全に確保出来た事はこちらにとっても良い情報になるだろう。この後1時間後に全体ブリーフィングを行う。それまでに準備を進めておいてくれ」
「了解しました」
サテライトの撤退任務が無事に完了した一報はすぐさまアナグラにも届いていた。これまでの戦闘データの採取も撤退状況の確認と同時にした事から、エイジとアリサが帰投する頃にはほぼ全員がその事実を知っていた。
「被害は甚大ですが、完全に再起不能になった訳では無いので今後の再建のメドは立て易いかと思います。それよりも今回の襲撃の原因は不明なままなんですか?」
「…今の所は不明だ。ただ、榊博士と無明がその原因に関しては解析しているが、今はそれ以上にアラガミの襲撃を防ぐ事が最優先だ。疲れている所済まないが、お前にも今回のブリーフィングには参加してもらう事になる」
未だ原因が分からずじまいであれば、今後はこの襲撃がどれだけの期間続くのかが予測出来ない。その結果、アナグラ全体にまで士気が下がる可能性が懸念されていた。
今回の任務に当たってはこれまでにも何度か経験した作戦が伝えられていた。しかし、これまでの作戦群と唯一異なっていたのが今回の最大の要因とも呼べる感応種が混じっている点と、その対応策としてのリンサポートシステムの稼働に関してだった。
既に感応種と対抗できる人員は出来る事なら全員がバラバラにするのが一番妥当なのは理解しているが、万が一交戦した事が無い感応種が発生した場合、リンクサポートですら役に立たないとの現実問題を抱えている事にあってか、ブラッドは遊撃の位置につけると同時に、近隣で苦戦している部隊への援護が優先される事となっていた。
「なお、今回の作戦ににはこれまでに経験した事が無い程の被害がこちらに出る可能性がある。勿論、それを我々も指を咥えて見ているつもりは毛頭ない。その為に今回に作戦に関してはこれまでサテライトの防衛任務に当たっていた者達も招集している。今回の件に関してはこれまで培ってきた防衛任務のノウハウを学んだ上で任務に当たって欲しい。
今回の内容はアナグラ全体に影響が出るだけでない。これまで我々に庇護下の元に集まってきた者達の命も護るべき戦いだ。良いか、誰一人命を散らす事は許さん。これは命令だ」
ツバキの言葉が全員の士気を上げたのか、そこには恐怖の感情を持つ者は誰一人居なかった。
今回の原因が何なのかが未だ分からない以上、確実に見えるゴールはどこにも無く、最悪は息切れした瞬間全滅する恐れがあった。ツバキの言葉が無かれば誰でも予想出来るが、今回の件は事実上の、極東の全精力を傾ける戦いへと変貌する。
既にこれからのスケジュールの調整と部隊配置に入るのは時間の問題だった。
この作品では他の神機使いがブラッドアーツを覚える事はありません。
あくまでもブラッドのみが使える設定となっています。