神を喰らいし者と影   作:無為の極

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前回はブラッド.verでしたので、今回はクレイドル.verとなります。

27日は仲秋の名月ですが、残念ながら満月ではありません。その代り翌日は満月でのスーパームーンが観測されるそうです。

作中は満月の表記がされてますのでご了承下さい。






番外編 15 仲秋の名月 弐

 

「今日は済まないな」

 

 

「この程度なら問題ありませんので」

 

 普段で有ればソーマ単独でも何ら問題無い筈のミッションに珍しく北斗が同行する形となっていた。

 原初のアラガミとも言えるキュウビのコア取得以降、これまで以上に研究にのめり込んだのか、ソーマは徹夜が続く事が多々あった。

 本来であれば危険極まりない任務ではあるが、今回の目的がサイゴードだった事もあり、この程度の内容ならばと受注する際にヒバリの機転で北斗がアサインされていた。

 

 

「そう言えば、キュウビの研究はどうなってるんですか?」

 

「今はまだ何とも言えない。他のアラガミの様に簡単に取得出来るならともかく、今は虎の子のコアである以上、慎重に成らざるを得ないのが本当の所だな」

 

 希少価値が高いキュウビの変異種のコアは他のアラガミの様に扱うのはソーマだけで無く榊や無明でさえも慎重だった。

 コアは文字通りアラガミを調べるには一番分かり易く、また解析するにもそれが有れば他は何も要らない程の情報量持っていた。

 しかし、ソーマとて解析=コアの破壊である意味を知らない訳では無い。貴重な資源を使った研究をするにはこれまでやって来た経験が物を言う事が多く、また研究に於いてもコアの解析が出来ないのであれば疑似的に近い物を使うしかない。

 その結果、これまでと同様に細胞片を利用しながら研究せざるを得ず、その結果として研究は遅々として進まなかった。

 

 

「俺は研究の事は分からないですが、大変な事だけは想像出来ます。あれだけ討伐に苦労しましたから」

 

「そうだったな」

 

 結果的に合同ミッションとなったキュウビ戦は激闘と呼ぶに相応しい内容だったのは未だ記憶に新しかった。特に北斗達ブラッドからすれば、感応種の後だった事もあり、クレイドルが間に合わなければ全滅の予感さえあった。

 戦いに於いて仮にと言う言葉は何処にも無く、どんな精鋭だったとしても僅かに歯車が狂うだけで窮地を陥る可能性がある事を身を以て体験していた。

 

 

「何事も大きな結果を出すには小さな積み重ねが必要だからな。次も同じ様なミッションがあれば、また頼む」

 

 アナグラ近隣のミッションだった事もありヘリではなくジープでの移動となっている。北斗がハンドルを握り、そのまま戻る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。ソーマさん、無明さんからの伝言で屋敷の方に来てほしいとの事です」

 

「そうか……」

 

 普段であれば無明はこんな伝言を残す事は殆ど無い。態々ヒバリに頼む以上、何か新たな発見があったのかもしれない。そう結論付けたのか、ソーマは神機を運ぶと同時に屋敷へと足を運んでいた。

 

 

「おっ来た来た。何だ、ミッションに出てたのか?」

 

「ああ?何でお前がこんな所に居る」

 

 ソーマを出迎えたのは無明ではなくコウタ。本来ならばこんな場所に居るはずが無い人間がここに居る時点で何時もとは違うと考えるが、徹夜からのミッションはソーマの思考能力を僅かに奪い去ったのか、頭が回らないままだった。

 

 

「あっ!ソーマ。これからお団子食べるか?これおいしいぞ」

 

 ソーマを見つけた嬉しさからなのか、早足で近寄ってくるシオの手にはお盆に乗せられた幾つもの団子が乗っていた。

 まさかこの為だけに呼んだつもりなのかと思いはするが、無明が呼ぶ以上、そんな事は無いだろうと考えたソーマは未だ目的が分からないままだった。

 

 

「今忙しい所すまないな。今回呼んだのは今後の件も含んだ上での打診だ」

 

 ゴッドイーターではなく、一研究者としての招集は僅かにソーマを緊張させる結果となっていた。

 まだ駆け出しの研究者でしかないソーマからすれば紫藤は既に実績を残している研究者。勿論それだけではない。稀代の戦闘能力を持ったゴッドイーターでもあるその存在は、榊とはまた違った緊張感があった。

 

 

「例のレトロオラクル細胞の件だが、研究の進捗は芳しく無い様だな」

 

「ああ。今はまだ手探りの状態が続いているのが現状だ。コアでは無く他からの細胞での解析と研究の難易度は想像以上だ」

 

 レアなコアの最大の難関は誰もが同じ道を辿る。それはかつて自分だけでなく、榊も通った道でもあった。

 本来であれば確認するまでも無いが、やはり若き研究者が気になるのか、榊も無明に頼む事で進捗状況をそのまま確認していた。

 

 

「他の個体が手に入れば研究は一気に進む可能性が高い。だからと言っていつ出現するのか分からない以上、焦る事なくやってくれ」

 

 研究者であれば焦りは禁物であるのは当然の事ではあるが、まさか無明から言われた事で、漸く自分でも気が付かない程に前のめりになっている事に気が付いていた。

 

 

「そうだぞ。ソーマも少しは休まないとだめだぞ」

 

 改めてシオはそう言いながら団子が乗ったお盆を差し出す。恐らくは口にする迄は手が引っ込む可能性は無いと判断したのか、ソーマは改めて団子を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?おいしいか?」

 

 どこか心配気なシオを他所にソーマはまだ咀嚼しているのか、暫し沈黙が流れていた。普段のソーマであれば何かを食べるにしてもそう時間をかけて食べる事は余り無い。

 本当の事を言えば目の前の団子も一かじりしてそのまま飲みこむ事が多いが、シオの視線が気になったのか何時もと違ったその雰囲気に珍しくゆっくりと食べていた。

 

「ああ。美味いぞ」

 

 ソーマの味気ないと思う程にシンプルな感想はある意味では最大の賛辞の様にも思えたが、生憎とここに居るのはソーマに近い人間しか居ない。そんなシンプルな言葉だけで納得出来る人間はどこにも居なかった。

 

 

「ちょっとソーマ!折角シオちゃんが一生懸命作ったのにそれは無いんじゃないですか!」

 

「そうだぞ。折角時間をかけて作ってたのにそんな態度はヒドイと思うけど」

 

 アリサとコウタの言葉に改めてソーマはシオが作った事を理解していた。綺麗に丸められた団子は当初エイジが作った物だと思っていた。

 歪になる事なく丸められた団子は口の中に入れると上品な甘さが口に広がっていく。

 まさかこれをシオが作ったとは思わなかったのか、ソーマは再度シオに対し感想を述べていた。

 

 

「シオ。有難うな。俺好みの甘さだった」

 

「そっか」

 

 そっけない言い方ではあったが、元々ソーマがそんなまともな感想を口にした事はこれまでに一度も無い。そう言われた事にシオは満足したのか満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ。もう皆来てたのか」

 

 ソーマが来てからどれ程の時間が経過したのか、遅ればせながらにリンドウとサクヤも屋敷へと出向いていた。

 元々今日は仲秋の名月だからとお月見をしたいが為にコウタが企画していたが、今回の中でソーマだけが来る可能性が一番低く、確実にここに来させる為にエイジを通じて無明に依頼をかけていた。

 リンドウとサクヤに至っては単に集まるからと連絡をすれば勝手に来るだろうと判断したからこそ、誰もがあまり気にする事無く満月の月を眺めていた。

 

 

「リンドウさんが一番遅かったんですよ。ご無沙汰してますサクヤさん」

 

「アリサも久しぶりね。その後の新婚生活はどうなの?」

 

「私は……何時もと同じですよ」

 

 既にこの場に馴染んでいるのか、アリサもこの場に居る際に来ている浴衣がそれを物語っていた。既に月は上空で煌々と光っているのか、周囲を柔らかい光が照らしだしていた。

 

 

「折角だから月見酒としゃれこむのも乙なもんだな。っと、ソーマはどうしてる?もう来てるんだろ?」

 

 相変わらずのリンドウだが、ここ最近は激務が続いているからなのか、配給ビールを口にする暇すら無かったのか既に右手には一升瓶が、左手には杯が握られ既に準備万端。一人で飲むのも寂しいと思ったのかソーマを探しに来ていた。

 

 

「ソーマならあそこですよ」

 

「あら?珍しいわね」

 

「本当だな。余程疲れてるんじゃないのか?最近は研究にのめり込んでたみたいだしな」

 

 アリサの言葉に促され、その先を見ればシオに膝枕されて眠りについたソーマがそこに居た。

 確かにここ数日は碌に寝る事もなくほぼ徹夜に近い状況でのミッションはこれまで過酷なミッションをこなしてきたソーマと言えど疲労感は残ったままだった。

 恐らくは団子を食べた事で睡魔が襲って来たからなのか、安心した様に眠っていた。

 

 

「でも、当時に比べれば随分と穏やかになったみたいだし、やっぱりシオのお蔭かしら」

 

 当時のソーマを知ってる人間は今のアナグラには殆ど居ない。今の状況を当時の自分が見ればどんな反応をするのかを想像すれば、明らかに面白い結果しか見えない程に今は穏やかなになっていた。

 当時はまだリンドウとサクヤ位しか相手にしなかったが、エイジやコウタが配属されシオとの邂逅が今のソーマを作ったのかもしれない。

 そんな風に考えるととサクヤも随分とそれは昔の様だった気がしていた。

 

 

「そうだ。折角だし写真でも撮っておくか。何かあった際には使えるかもしれないしな」

 

 コウタはそう言いながら携帯端末のカメラで何枚か撮っていた。恐らくは後日その話を口に出せばどんな結果が待っているのかはエイジとアリサも想像していたが、こうまで警戒感が無いソーマを見たのは恐らくは初めての可能性もあった。

 隣を見ればリンドウとサクヤもどこかニヤニヤした表情で見ていたのかコウタの行動を止める気配はどこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、こうやって月を見ているとあの時を思い出すわね」

 

 サクヤが何気なく呟いた『あの時』の事はこの場にいた全員が当事者でもあった。

 ソーマの父親でもあったヨハネスが極秘裏に計画していた物は、この場にいた全員の行動に阻まれた結果、月で終末捕喰が発動しその後月の一部が緑化していた。

 

 当時の研究者は何か甚大な異変だと騒ぎ立てていたが、本当の事を知っている人間はある意味では当然の結果だとも思えていた。

 既に部外秘中の部外秘なのは月の緑化だけでなく、今ソーマに膝枕しているシオもまた同じだった。

 

 少女を模したアラガミであると同時に特異点でもあったシオは既に一瞬とは言えノヴァと同化した事によって特異点としてだけでなくアラガミとしての能力も喪失していた。

 なぜ喪失したのかは既に榊と無明の手で解析したものの、結果が分からずじまいであった事と同時に、既に特異点としての機能が無いのであればそれ以上の解析の必要は無いとの判断により、現在ではその結果すら無かった事になっていた。

 既に正体は分からなくてもシオはこれまでに何度もアナグラに行っているだけでなく、ここにも他のゴッドイーターが来ている事からその存在だけは知られていた。

 

 

「でも、当時の事があったから今があるんじゃないですか。だってそうでないとサクヤさんもリンドウさんと一緒になれなかった訳ですから」

 

「あら?そう言うアリサも同じでしょ。でも、本当は何時から意識してたのかしら?」

 

「まあ、それは……」

 

 まさか結婚してからも弄られると思わなかったのか、何気に放った言葉はサクヤに直撃する前にそのままブーメランとなって返ってきたのか、アリサはそれ以上の事は何も言えなくなっていた。

 

 

「あれ?何か楽しい事でも話してた?コウタ、ご所望の月見うどんだよ」

 

「おお!サンキュー腹減ってたんだよね」

 

「慌てて食べなくても逃げないなし、誰も取らないよ」

 

 助け船とも言える状況を作ったのはコウタの希望で作っていた月見うどんだった。

 既に団子はシオが作ってた事もあってか、エイジは団子ではなくウサギに加工した団子をいくつも用意していた。かわいらしいその姿のウサギの隣には、何故か今にも転げ落ちそうな雰囲気のウサギらしき物も乗せられていた。

 

 

「えっと……これもウサギなのよ…ね?」

 

 まじまじとそれを見ていたサクヤは流石にこれもエイジが作ったとは思ってなかったのか、今度は誰が作ったのかと思案した矢先だった。まるで何も空気を読まなかったかの様にコウタがそれを持ち上げていた。

 

 

「ひょっとしてこれアリサが作ったのか?」

 

「だったらどうだって言うんですか」

 

 何となく思いつきで言った言葉はそのままズバリだったのか、アリサは不機嫌なままだった。神機の扱いは器用なはずが、どうして料理となるとこれほど不器用なのかは本人ですら分からない。

 単独で置かれれば味があるが、隣に綺麗なウサギが有れば嫌でも比べてしまうのは仕方がなかった。

 

 

「いや、何となくそう思っただけだし。ほら、口に入れれば同じだから」

 

「本当にコウタはデリカシーが無いんですから。少しは空気を読みなさいよ。でないとマルグリットに言いますよ」

 

「いや、マルグリットは関係ないだろ?」

 

 証拠隠滅とばかりにコウタはウサギらしき物をそのまま口へと放り込む。既になじみつつあるやり取りが懐かしさを呼んだのか、リンドウもサクヤの隣で月見酒と洒落込んでいる。

 既に上空高く上がった月はそんなやり取りをほほえましく映すかの様に優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 





「ねえアリサ。マルグリットって誰なの?」

「実は以前はネモス・ディアナに居たんですが、最近になってアナグラに転属してきたんです。コウタはまだ自分の気持ちに気が付いてないかもしれませんが、結構普段から何かと見てますよ。本人は副隊長だからって言ってますけど」

「あらあら。私が居ない間にそんな事になってたなんて。そう言えば、ここ最近ショートヘアの娘をここで見たけど、その娘かしら?」

「多分サクヤさんの思ってる通りだと思いますよ。ここでも教導やってましたから」

 コウタを遠巻きにアリサとサクヤは2人で何やら話をしていた。既に極東女子の玩具……ではなく、温かい目で見ているのは第1部隊だけではなかった。
 ヒバリとリッカの策略もあってか、殆どの人間はこの2人の事を知っていた。知らないのは本人達だけであり、またマルグリットも認めては居ないが何かとコウタを意識する場面が多々見られていた事が更に真実味を与える形となっていた。


「そうだったの……じゃあ、何か進展があったら教えてね。でもコウタがね……」

「任せて下さい。進展があればすぐに報告しますから」

 既にうどんを食べ終えた後でまさか自分が話題に上っているとは思ってもなかったのか、コウタは月見うどんの後は団子を食べていた。
 こうまで騒いでも未だ目を覚ます事無くソーマが眠りについている。どこか懐かしい空気がこの場に漂ってた。


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