神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第201話 それぞれの覚悟

 

「しっかし、今回の任務は厳しくなりそうだな」

 

 ツバキの言葉と同時に部隊編成されるまでに時間が必要になるからと、既にタツミ達はラウンジへと足を運んでいた。

 今回の作戦群は新人もベテランも関係無く各地に配属される事になる。

 今回のタツミ達はそんな中でも全体の指揮だけでなく、万が一に於いての盾としての役割があった。

 

 

「リンクサポートシステムだったか、あれは本当に効果を発揮するのか?現地で動きませんでしたは洒落にならないんだが」

 

「その時はその時じゃないの?まあ、確かに私もそうなると厳しい戦いになるかもね」

 

 ラウンジには普段中々顔を出さない面子が珍しく集まっていた。何時もなら見慣れた人間が多いラウンジにカレルやジーナの姿を見た者は普段は見ない顔だからとどこか遠巻きに眺めていた。

 

 

「皆さんここだったんですか。今回の作戦は私も久しぶりに防衛班の一員としての任務になるとツバキさんから聞きました」

 

「なんだ。カノンもここなのか?もう誤射は治ったのか?」

 

「まあ、その辺はおいおいと……」

 

 明るく来たはずのカノンは何気なく聞いたシュンの言葉に軽く凹んでいた。

 確かにこれまでも何度か北斗だけでなく、エイジやハルオミともミッションに出ていたが、残念ながらその教導の効果が未だ発揮された形跡はどこにも無く、数字だけ見ればエイジと北斗の被弾率は少ないが、それ以外のメンバーの被弾率は何も変わっていなかった。

 

 

「まあ、そんな事よりもさ。今回の件で新たにオペレターが増員されたんだよな。名前は確か……」

 

「星野ウララちゃんと真壁テルオミ君でしょ」

 

 カノンの件を回避するかの様に、タツミはこれからの事について口を開いていた。しかし、タツミはヒバリを見ていたからなのか、それとも最初から記憶にはあまり無かったのか、ジーナの言葉にタツミはそうだと言うしかなかった。

 

 今回の作戦は多面防衛の為に、一人のオペレーターで回す事は事実上不可能であると同時に、今後の人材育成も今回のミッションを通じてやる事から新人の2人も参加する手はずとなっていた。

 当初は誰なんだと思われた部分もあったが、今回紹介されたのはハルオミの弟でもあるテルオミだった。

 元々テルオミはクレイドル付きの整備士だったが、今回の任務に伴って、オペレーターへと転身していた。

 

 

「そうそう。まさかテルオミがオペレーターなんてな。流石に俺も驚いたよ。だってあいつここに来る直前まで神機の整備やってたんだぜ」

 

「今回のサテライト建設地の撤退はある意味では苛烈を極まりない戦いだったらしいからな。いくら何でも人員を裂けるのが一人だけなら仕方ないだろう」

 

 そう言いながらカウンター越しに出されたコーヒーをゆっくりとタツミは口に運んでいる。口に拡がる苦味と香ばしい匂いが広がる事で荒れた様な気持ちがゆっくりと落ち着きを取り戻したのか、少しだけ冷静に思い出す事が出来ていた。

 今回の作戦に関してはそれだけでは無かった。ツバキのブリーフィングの後で紹介されたブラッドが今回の感応種の対抗手段となる事もあってか、終了後に早々に紹介されていた。

 既にタツミに関しては以前に行われたエイジとアリサの結婚式の際に少しだけ面識があったが、それ以外の人物に面識が無く、その結果改めて今回招集された人間との対面がなされていた。

 

 

「しっかし、あいつら…ブラッドだっけ?本当に大丈夫なのかよ?これまでにも厳しい防衛戦はあったけど、こうまでの規模の物は経験してないんだろ?」

 

「シュン。お前だって同じ様な物だろ。正直言えば、ブラッドの連中がどうなろうと俺には知った事じゃない。如何に効率の良い報酬を得る事が出来るのかが問題であって、あいつらの実績なんてどうでも良い。目先の数字に囚われるのはガキと同じだ」

 

「それを言うならカレルも同じだろうが。あれからどれだけ経ってると思ってるんだ。俺だって成長してるぞ!」

 

「ふっ。そうやってすぐにムキになるのがダメなんだよ。戦場で冷静さを失った者から退場する。それがここでの真理だろ」

 

 紹介された際に、これまで感応種に苦戦していたのが苦も無く討伐出来ると紹介された際にシュンは北斗に対し、どこか対抗意識を持っていた。

 ここは世界最大の激戦区でありながらも各自がそれぞれ単独での任務を負っている事もあってか、やや敵対心の方が勝っていた。

 全員では無いが、各々が自分達の自負を持ってるからなのか、それとも単に何も知らないからなのか、挨拶はややぎこちないまま行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、シエルちゃん。さっきの防衛班の人達だっけ?何だか怖そうだったね」

 

「恐らくはこれまでも単独でサテライト拠点を護ってきた方々ですから、やはりそれぞれ何かしらの自負があるんだと思います。今回の様な大規模な多面作戦となれば少なくとも一定以上の実力が要求されますから、恐らくはその自信が少し雰囲気に出てたんだと思いますよ」

 

「なるほど……って事はタツミさんは人当たりが良さそうだから、まずはそこからかな。ねえ、おでんパンはいくつ用意した方が良いかな」

 

 ラウンジで防衛班の面々が集まる頃、ブラッドもロビーでまた話をしていた。

 今回の作戦に於いてのブラッドの立ち位置は決して楽観視出来る物では無い。既に何度も感応種と交戦経験があるからと言っても、何か特別な事をしている訳は無く、他のアラガミと同様の戦いをしているにしか過ぎなかった。

 そんな中で防衛班の隊長でもあったタツミだけは何となく面識があった。

 

 結婚式の際にヒバリから紹介されただけではあったが、人当たりの良さとは裏腹に、

これまでの激戦を戦い抜いたその実力は行動の随所に出ていた。

 極東のアラガミは他に比べれば例え小型種と言えども油断する事は出来ない。そんな中で支援を受ける事無く任務にあたるその実力はクレイドルの影になってはいるが、やはり素晴らしい物があった。

 

 

「今回の任務に於いて俺達の立ち位置は遊撃である以上、見知らぬ誰かと組む事もあるからな。まずはその辺りの事だけでも解消した方が良いだろう」

 

「たまには良い事言うね。ギルも騒動を起こしちゃダメなんだよ」

 

 入隊当時の事を言われるとギルは何も言う事が出来なくなっていた。当時はロミオにいきなり殴りかかった事が一番最初の話だったが、当時はまだケイトの事があった事から何かにつけて苛立ちを思えるだけでなく、もっと真剣な部分が必要なんだと厳しく当たっていた頃の話を持ち出していた。

 

 

「あのなあ……当時と今は違う。後は純粋な神機使いとしての能力は参考になるだろ。北斗だってそう思わなないか?」

 

「確かにギルの言葉は一理ある。俺達だって終末捕喰を防いだんだ。今さら他に後れを取るつもりは無いさ」

 

 お互いの技量を認めると同時に、人間関係がぎくしゃくしたままでは何かにつけて綻びが出ないとも限らない。となれば円滑な運用をする事を考えたのか、こあれから始まる作戦群に北斗は改めて気を引き締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな時にこの反応が起こるとは……まさかとは思うがこれの仕業なのかもしれないね」

 

 各々が作戦前の団欒を過ごす頃、支部長室で一つのアラガミの反応が榊の元へと伝えられていた。

 これまでに何度か見た事がある様で、良く見れば違う反応に榊は思わず自分の考えの一部が口からこぼれた事に気が付いていた。

 既に今回の作戦に於いての結果が確定している為に、そこからの可能性を考えるのはある意味当然だと思われていた。

 

 

「榊博士もやはりそれを考えていましたか?」

 

「これまでの作戦を考えれば可能性はあったんだが、まさかこんな場面になるとは思ってもなかったと言った方が正解だね」

 

 端末に届いたデータがもたらすのはどう贔屓目に見ても災いにしか見えない。万が一の事を考えれば最早ため息しか出なかった。

 

 

「しかし、今回のケースであればクレイドルで当たるしかないでしょう。ただ、手さぐりでの戦いは今回の場面では厳しいのもまた事実。我々としても最大限の努力を払う必要があるでしょう」

 

 既に今回の状況は多方面ではあるが、リンクサポートデバイスの数が限られている事から、多くに分ける事が出来ず、結果的には4部隊にしか編集出来なかった。

 

 そのうちの1部隊がブラッドであるものの、これはあくまでもリンクサポートシステムが不調に終わった瞬間に現場へと移動する手はずになる。その為に、何かと事前に準備する事が多くなっていた。

 既にアラガミの襲撃は広範囲に渡るからなのか、アナグラで確認出来るだけでもかなりの数に上っている。

 既にブリーフィングが終了している以上、今はただ今回の結末を見守る事だけしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤退戦って感応種も出たんだよな?」

 

「シユウ感応種が出たよ。流石にあれはヤバいと思ったけど、結果的には何とかなったよ」

 

 クレイドルは今回の作戦に於いて第1部隊との混合が決定されていた。一番の要因はこれまでここでの討伐任務は第1部隊と第4部隊で執り行われていたが、今回に作戦の際に第4部隊は防衛班に編入された事により、結果として第1部隊はそのままクレイドルの方へと編入される形となっていた。

 既に今回のサテライト撤退戦の状況は誰もが知っているが、やはり当事者の言葉が一番重かったのか、エイジの感想が今回の作戦の深刻さを物語っていた。

 

 

「いや、俺もログ見たけどあんな戦い方するのはエイジだけだって。普通はその段階で撤退するか、増援呼ぶしかないだろ」

 

「それも一瞬考えたんだけど、現状でそれは無理だったからね。今回の襲撃は本当に疲れたよ」

 

 アナグラに帰投した際に見たエイジとアリサは既に制服がボロボロの状態だった。

 泥と返り血にまみれた制服を着たエイジはこれまでの様に綺麗な姿しか見た事が無かったゴッドイーターの驚きを誘い、アリサもまたアラガミの返り血を浴びていたからなのか、既に制服の白い部分が殆ど無いままだった。

 

 データで見る結果と違い、自分の目で見た人間は今回の戦いの厳しさを直ぐに理解していた。本来であれば主力だけを投入するのが最適な事は誰もが知っているが、それでも絶対数が足りないからと事実上の全員参加となっていた。

 

 

「原因はまだ分からないってのは厄介だよな。これまでだと大体はアラガミが原因なんだけど、今回はその影すら見えないんだって聞いている」

 

「常時何かしらの理由がある訳じゃないしね。でも、それ以上は止めときなよ。流石にエリナとエミールも余計な力が入りかねないから」

 

 エイジの言葉にコウタは2人を見た。確かに表面上は何時もと変わらない様にも見えるが、今回の様な大規模な作戦の参加は今回が初めてとなっている。既に握られた手がどこか震えている様にも見えた事で、コウタは失言した事を理解していた。

 

 

「2人ともそんなに固くなる必要は無いから。私だって今回の作戦で初めて参加するんだし、ここは極東なんだから階級も関係無い。何時もと同じ感覚で良いのよ」

 

 コウタのフォローとばかりにマルグリットは優しく声をかけていた。

 本当の事を言えばマルグリットとて緊張しているが、第1部隊に於いては副隊長でもあり階級も尉官となっている以上、目の前の2人に悟られる事無く平静を装う事に成功していた。

 

 

「今回のケースだと、クレイドルと第1部隊、防衛班に関しては混成部隊になるのは間違いないよ。恐らくは僕らが攻勢に回って防衛班が守勢に回る配置になると思うよ」

 

「今回のケースだとそれが妥当なんだろうな。って事は編制された部隊で再度確認するって事か?」

 

「発表される内容次第だけど、多分そうなるだろうね。撤退戦と防衛戦は全くの別物だから、こっちが指揮するよりも確実だと思う」

 

 まだ編成に関しては発表されていないが、エイジの言葉を額面通りに受け止めれば妥当な判断であるのはコウタだけでなくマルグリットも分かっていた。

 ブリーフィングが終わってから既に30分が経過しようとしている。時間的にはそろそろ部隊編成の発表がされる頃だった。

 

 

「エイジの言った通りだったな」

 

「消去法で言えばだけど、これは旨く行き過ぎたかもね」

 

 各部隊長の端末に送られた内容を瞬時に確認していく。今回の内容はやはり攻勢と守勢に回っているが、それでも防衛班は第1世代の神機使いである事からそれぞれがクッキリと別れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では今回の概要ですが、いきなりの実戦なので大変だと思いますが、それぞれの特性を考えた上で配置します」

 

 今回の作戦群では現場だけでなくオペレーターも即実戦配備される事になっていた。

 確かにヒバリとフランはオペレーターとしては優秀ではあるが、全部の部隊を一度に見るのは物理的にも厳しい部分があるだけでなく、間違って情報やタイミングがズレる事があれば部隊そのものが危うくなり兼ねないとの配慮から、ウララとテルオミの部隊はベテラン勢が多い部隊への配置となっていた。

 

 これまでに何度も研修してはきたが、いきなりの実戦となれば部隊全員の命を預かる事になる。仮に部隊が生き残ったとしても危うい場面に何度も遭遇するオペレーターは現場からは信用される事は無い。今後の事も考えた上での配置となっていた。

 

 

「現状はフランさんはブラッドをお願いします。ウララさんはエジさんの部隊を、テルオミさんはリンドウさんの部隊をお願いします」

 

 部隊編成が上がると同時に各部隊の特性を把握し、配置を決定していく。この業務は本来であればツバキがやるべき事ではあったが、これまでの任務の状況を一番現場で把握しているのはヒバリである事から、今回の配置に関しては全権委譲されていた。

 

 

「あ、あのわたす…ん、んん。私で大丈夫なんでしょうか?確かに研修は受けましたが、こんな大規模作戦が初任務なんて聞いてませんでした」

 

「誰もが初めてが必ずありますし、エイジさんなら最悪何とかなりますから。今からそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

「そうそう。エイジさん何だかんだ言って撤退戦の時は鬼神の如き働きだったからウララちゃんは心配いらないよ。僕も実際にこの目で見たけど戦い方も安定してるから大丈夫だって」

 

「そう言ってくれるんなら……私も出来る限りの事はやりますので」

 

 撤退戦のエイジはまさに普段の温厚な雰囲気は微塵も無く、アラガミの側からすれば出くわした瞬間に命を刈り取る死神の様にも見えていたと錯覚させる程に鬼気迫る物があった。

 撤退戦が難しいのはいかに被害を出さずに終わらせるのかが最重要課題となる。

 

 常に相手に背中を見せる戦いはある意味では不可能にも思える程の内容でもあり、常時犠牲が出る前提で行動する事が殆どだった。

 そんな中で被害が0はある意味脅威の数字でもあった。残す所はあと数時間。

 ここにお互いの存在意義をかけた大規模な作戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

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