神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第217話 模索

 ナオヤの心配をよそに、リヴィは習熟する為のミッションを幾つか選択していた。

 リヴィとて今の神機になる前には色んな神機を試した結果でもある。しかし、それはあくまでも本部レベルでの話でしかなく、ここは極東。既に何度もミッションに出ている事もあってか、何となくアラガミの個体能力やその強度がこれまで体感した中でも最大級である事は間違い無かった。

 これまでであれば、小型種の討伐にそんなに時間がかかるのはなぜなのかと思う事すらなかったが、やはり何かが違っていたのか、ここが極東である事は嫌が応にも意識させられる事が多くなって来ていた。

 ミッション後のデブリーフィングはこれまでやっていなかったが、リヴィと合流してからは格段にその数が多くなっていた。

 

 

「やっぱりデブリーフィングは必要ですね。これを機にもう少し知っておくのは悪くないと思いますので」

 

 リヴィが率先してやっているものの、ブラッドの中ではシエルだけが唯一ホクホク顔で望んでいた。

 これまでの戦術やアラガミの捕喰傾向、周辺地域の分布と覚える量はシエル以外のメンバーはどこか視線が定まらないままに空を見つめていた。

 

 

「なるほど……流石に世界の中でも名だたる最前線と言った所か。確かに通常種でこれだとすれば接触禁忌種となれば相当な物になるのだろうな」

 

 本来であれば北斗がリヴィに対し説明するのが一番ではあるが、これまでの状況から判断すればこのメンバーの中ではシエルが最適だった。

 これまでに討伐した経験があるアラガミの特徴やその攻撃方法、弱点の部位など話し出せばキリが無い。既にどれ程の時間が経過したのか、気が付けばナナは少しだけ居眠りをしていた。

 

 

「あとは、可能性としては未公認だが特異種の事もある」

 

「そうだな。あれはある意味では厄介極まりないのは間違いないな」

 

 北斗の言葉に反応したギルもここ最近の中で一番大変だと感じていたのがキュウビとマルドゥーク戦だった。

 実際には認定していないが、知能が高いアラガミはそれだけで厄介な物となっている。

 これまでにもブラッド苦戦したのはその傾向が強く、それ以外のミッションではそこまで気になる様な存在は全く無かった。

 

 

「ところで話は変わるが、今回の同行に当たってだが、北斗の能力でもある『喚起』によってブラッドアーツの習得も並行してやっているが、具体的にはどんな状況で習得出来るんだ?」

 

 何気に話したリヴィの言葉に北斗だけでなくシエルも困惑していた。実際に今回のミッションに関しては確かにその習得も一つの条件として提案されていたが、実際にどんなタイミングで習得できるのかは、北斗自身も全く分からないままだった。

 事実として最低限の可能性がP66偏食因子の所有と同時に、これまでの感覚からすれば自分の意志の枠外での覚醒となって事もあってか、シエルもギルも自分達がどうやって習得出来たのかすら理解できないままだった。

 そんな中であまりにも不確定要素が高すぎるそれを条件にされた事もあってか、どうすればと言った事を今回改めて考えさせされる形となっていた。

 

 

「俺に聞かれても……」

 

 そう言いながら北斗はシエルに視線を向ける。自分よりもそれに反応した人間に聞いた方が早いからなのか、視線を向けられたシエルもどうやって習得出来たのかを言葉にしろと言われても困惑する事しか出来ないでいた。

 

 

「私よりも、ギルの方が……」

 

 北斗から来た視線はシエルを経由しギルへと向かう。ギルの下には3人の視線が集まるものの、ギルにしても分からない以上、説明できる要素はどこにも無かった。

 

 

「それを言うなら俺にも分からない」

 

 帽子を目深にかぶり直し3人の視線を一旦遮断する。今のギルに取ってはそれ位の回避しか出来なかった。

 

 

「多分、感情がわーって爆発したら出来るんじゃないかな?シエルちゃんもギルもそうじゃないの?私はどっちかと言えばそんな感じだったけど?」

 

 大よそ答えらしい物が無いのかと思われた矢先だった。これまで居眠りをしていたはずのナナの声が背後から聞こえて来る。確かに言われてみればそんな記憶が無い訳ではないが、それがどんな状況だったのかを考えると一概にそれが正しいとは言い難い。

 しかし、ナナの発言以外に手だてが無いのもまた事実でしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うのはどう……かな?」

 

「なるほど。それは確かに一理ある。早速実証してみよう」

 

「でもその前にコレット特務少尉って言うのはどうかと思うんだ。そう言えば、北斗はリヴィって名前で呼んでたよね?で、コレット特務少尉は最初は饗庭隊長だったのが、気が付いたら名前で呼んでたけど」

 

 ナナの何気ない言葉に改めて思い出すと、確かにコレット特務少尉ではなくリヴィと呼んでいた。最初は何気に聞き流していたが、他の人間が特務少尉と階級まで言うのに対して北斗は普通に名前で呼んでいる。その事実に気が付いたのか、ナナとシエルの視線は厳しい物となって北斗に向いていた。

 

 

「この前の任務の際に、そんな話が出ただけだ。長いのは戦場でも呼びにくいだろ?だったら名前の方が合理的じゃないのか?」

 

「…北斗は戦闘時にはその力を如何なく発揮するけど、それ以外っててんでダメだよね~。少しは周りの影響を考えよっか」

 

 ナナの言葉だけなく視線には何となくヒンヤリとした雰囲気が漂っていた。気が付けば隣に居るシエルも同じ様な目をしている。

 それが何を意味するのかを理解出来なかったのは北斗だけは無かった。

 

 

「なるほど。では私の事はこれからはリヴィと呼んでくれれば良い。実際任君達の階級は少尉と准尉だ。准尉も実際には少尉相当官と聞いている。それならば少しはマシになるのではないか?」

 

「じゃあ、これからは私達も名前呼びだね。これからも宜しくねリヴィちゃん」

 

「そうですね。これからは宜しくお願いしますリヴィさん」

 

「なあギル。何となくシエルとナナの様子が変だけど、これはこれで纏まったんだよな?」

 

「……多分な」

 

 言葉の表現は間違っていないが、何となくその文脈の中にあったそれが違っていると理解したのはギルだけだった。本来であれば口に出せば北斗も理解するかもしれないが、この状況でそれを口に出せば、矛先は自分へと来るのは間違い無い。

 それを悟ったが故にギルはこの状況をただ眺めているしか出来なかった。

 

 

「で、話は元に戻るんだが、今後のミッションの重要なキーとなる可能性もある。やはり習得の方法が分からないとなれば、何かと困るんだが……」

 

 ナナの言葉を参考にすれば感情が高まる事をすれば良いのは間違い無かった。しかし、感情が高まる行動はある意味では厄介な部分があった。

 リヴィはブラッドにはまだ伝えていなかったが、特務少尉としての任務の中に、制御不能となった神機使いの抹殺が任務として入っている。任務に入る際には徹底して感情を押し殺している為に、喜怒哀楽の表情を出す事が難しくなっている事実が存在していた。

 既に数える事すら出来なくなるほど手をかけた今のリヴィに取って、感情を爆発させる行為は難しい物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これか……俺にも予定があるんだが、それは理解してるよな?」

 

 口調は穏やかにも関わらず、目は既に怒りに染まっている様にも見えたのは自分だけでは無いと思いたい程にナオヤの表情は複雑だった。これまで教導の名目で新人と訓練したかと思った途端に、今度はブラッドからの依頼。

 今日の予定が何かと立て込んでいるにも関わらず横槍を入れる以上、結果は火を見るよりも明らかだった。

 

 

「だったら、予定してたアレは私がやっておくよ。だからナオヤはそっちに行っても大丈夫だよ」

 

「リッカがそう言うなら仕方ないか……で、何で今さらコレット特務少尉の教導なんだ?」

 

ナオヤの疑問は無理も無かった。既に少尉の立場で教導する意味がどこにもなく、今回の件に関しても正確な検証をした訳ではないが、一旦は心身共にギリギリまで追い込めば何らかの変化が発生するだろうと考えた末だった。

 

 

「今回はブラッドアーツの取得の為に色々と検証しようかと思ったんです。で、折角ならばジュリウスの神機の習熟も兼ねた教導が一番かと思いまして…」

 

 提案したのはナナだったが、既にナオヤの雰囲気が悪くなっているだけでなく、今後の事も考えれば、ここは一旦北斗が全面に出る事でそれらしい内容にした方が良いだろうと考えた結果だった。

 暇が無いのは間違い無いが、事前に確認しなかった事もあってか、流石に北斗もナオヤを目の前に言葉のキレはなくなっている。既に事情を説明している以上、後はナオヤの返事を待つだけだった。

 

 

「コレット特務少尉だったな。俺は教導の際に肩書は一切考慮しないがそれでも良いか?」

 

「こちらとしてもその方が有難い。極東の教導がどれほどの物なのかは本部でも聞き及んでいる。折角のチャンスは有効活用した方が合理的だろう」

 

「……そうか。これから準備するから少しだけ待っててくれ。リッカ、悪いけど残りの分は頼んだ」

 

「了解。いつもの様に頑張ってね」

 

 その言葉と同時にナオヤは教導用の服に着替え直す。それが今回の了承代わりとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だか何時もより厳しい気がするんだけど気のせいかな?」

 

「ナナさんの言う通りです。確実に厳しいのは間違いありません」

 

 訓練室の内部ではリヴィとナオヤの教導を見る為に北斗達がオペレーター室から見渡していた。かたや神機使い、かたや一般人である以上、お互いの基本の能力は格段に異なる。

 本来であれば教導するのはベテランの神機使いか資格を持った元が付く人間が殆どだった。にも関わらず、ここでは目の前に対峙したナオヤがその任を担っていた。

 圧倒的な力の差では無意味だと思うのがこれまでの常識でもあったが、ここは世界で一番過酷な戦場と言われる地域であるが故に温すぎる教導が意味を成さないのは既に周知の事実でもあった。

 

 リヴィも他の支部の神機使い同様に、一般人の教導で何が出来るのかと思いながらも、ロングタイプの得物を片手にナオヤと対峙する。どれ程の物なのかと力量を試すつもりの軽い気持ちだった事を真っ先に後悔する事になったのはある意味仕方の無い事でもあった。

 

 お互いが対峙した瞬間、リヴィは奇妙な感覚に襲われていた、これまでの常識から言えば、お互いの殺気が混じる程の闘志は相手を飲みこもうとお互いの主導権を握ろうとするのが通例だった。しかし、目の前にいるナオヤにはそんな殺気はおろか、闘志すらも感じさせない程にただ静かだった。

 目の前に出された一本の棒に視線が固定される。リヴィはその棒の先端から視線を外す事が出来なかった。

 

 

「くっ!」

 

 そこに有るべきはずの先端は既にリヴィの目の前にまで到達していた。決して視線を外した訳でも無く他の事を考えていた訳でもない。気が付いた瞬間に眼前にまでせまりくる一撃は、ただ回避する以外の選択肢を選ばせてくれない。

 あまりにも異様な一撃がこの戦いの開幕を迎える事になっていた。

 人間の反射速度の限界値を超えるかの様な動きはこれまでにリヴィが対峙したアラガミや暴走した神機使い以上の速度で襲い掛かってくる。

 

 本来であれば神機のモックを使うのが通常ではあるが、今回はギリギリまで追い込む事が目的の為に、ナオヤが一番動きやすい得物を使った教導メニューとなっていた。

 一本の固い棒が獣の爪の様にリヴィに襲い掛かると同時に、反撃とばかりに横薙ぎに振るった僅かな隙は一点集中とばかりに差し込まれる。

 純粋な教導であればこの一撃で決着が付くが、それをギリギリで躱したリヴィは既に目の前の人間の認識を改めていた。

 

 

「ナオヤさんは本気でやってるぞ。何時もの様な遊びの部分が殆どない」

 

 まさに一方的とも言える内容とその光景をギルは何度も経験している。基本に戻った動きは、自分にとって当たり前の行動でしかなく、その結果事前に察知できる情報は驚くほどに少なかった。事前行動が出れば対処が確実なのは間違い無い。

 にも関わらず、ナオヤの攻撃の一つ一つが無拍子の如く動く事により事前の攻撃のモーションを確認する事は不可能に近かった。リヴィの命を落とさんと言わんばかりにナオヤは攻撃を続けていた。周囲に聞こえるのは僅かな息遣いと、時折聞こえるお互いの得物が交差する時だけ。

 外に漏れない程の風切り音とは裏腹に、お互いの視線は常に交わり続けている。一瞬でも目を離せば命が刈り取られる程の重圧は見ている者にも襲い掛かる程の内容だった。

 

 

「まさかこれ程とは…」

 

 リヴィはナオヤと対峙しながらも、その技術の高さに驚かされていた。極東では当たり前の光景ではあるが、それが他の支部からすればありえないと一笑される内容に当初は疑問を持っていた。

 事前に教導の事も確認はしたものの、やはり聞くとやるとでは天地の差がある。これまでにリヴィは何度かナオヤに直撃出来ると思われる一撃を当てようとした事はあったものの、全ての攻撃がまるで誘導されるかの様に迎撃される。

 攻撃の際に起こる僅かな隙を常に狙われるからなのか、どうしても防戦一方になりやすく、行動の一つ一つが洗練されているからなのか、攻撃の隙すら淀みが無い。

 時折入れるフェイントは最初から無かったかの如く無視されるだけでなく、逆にナオヤの時折殺気を込めたフェイントに本能が反応するのか、ギリギリで回避せざるをなえない場面が多々あった。

 時間と共にまるで詰将棋の様にこちらの攻撃範囲を狭め、行動を制限してくる。既にここから出来る事は何も無いと思った瞬間だった。

 僅かに漏れた息の吐く音と同時に螺旋状に突かれた一撃がリヴィの獲物を破壊する。

この時点で勝負は決していた。

 

 

「流石は本部所属の特務少尉だな。ここの連中なら最初の一撃で終了だったんだが」

 

「いや。私の方こそ極東が如何に高度な戦力を保有しているのかを理解させてもらった」

 

 僅かに弾む息がこれまでの戦いの現していた。いつものナオヤであれば息が弾む所まで行く事は殆ど無い。それはリヴィの戦闘能力が高い事を示していた。

 

 

「まあ、本当の事を言えば慣れない神機で戦うなんて正気の沙汰じゃないんだが、そのレベルなら何とかなるかもしれんな。ちなみにエイジは俺のさらに上を行くぞ」

 

 厳しい戦いの最中にも関わらずこちらの動向を伺っていた事に驚いたものの、自分が僅かに懸念していた事を言い当てられた様な気分にリヴィは驚いていた。

 今回のミッションの際に、ジュリウスの神機で螺旋の樹を探索する以上、最悪の展開を考えなかった訳では無かった。今回の最大の任務は万が一の際には自分が確実に生き残り、ここに帰還する事。

 既に神機の接合に関してはブラッドだけでなく、目の前のナオヤもその特性に関しては聞かされている事をリヴィは知っている。

 まさかとは思うが、今回の教導で自分の力量が試されたのではないかと思えていた。

 

 

「そうか。教導教官にそう言ってもらえるならば安心だ。私も期待に添える事が出来るように約束しよう」

 

 当初の目的とは違ったものの、それでも今後のミッションの憂いを無くす事だけは成功していた。

 

 

 

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