神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第219話 崩落

「油断するなよ!」

 

 アナグラへの通信が切れると同時に北斗達は既に暴走した神機兵と対峙していた。これまでにも何度か戦った事はあったものの、今回の数は圧倒的に多い。

 本来であれば苦戦する要素はどこにも無いはずが、何故か今回の神機兵との戦いはこれまでの様な感覚で戦う事が出来ないでいた。今回の戦いは何時もとは何かが決定的に違っている。疑問を持ちながらの行動は何時もの様なキレのある行動をする事が出来ないままに時間だけが経過していた。

 

 大剣型の神機兵は時折強烈な一撃を上段から振り下ろす。この行動はこれまでにもあった事なので、特に何も感じる事は無いが、その行動そのものにどこか違和感があった。

 原因は未だ分からないが、本能が何かあると警鐘を促す。しかし、これまでの様な戦いではないからなのか、暴走した神機兵は数に物を言わせる様な戦いを強いる為に、本能が警告するそれを意図的に押し殺しながら北斗は戦っていた。

 

 

「うそっ!」

 

「北斗!」

 

 想定外の災いは突如としてやってきた。これまでの神機兵の一撃がゆっくりと大地を破壊したのか、周囲に大きな皹が入り始めている。そこから先の展開は考えるまでも無かった。

 

 

「全員この場から退避!」

 

 北斗の叫び声が早かったのか、それとも全員の反応速度が早かったのか周囲一帯に広がる皹を回避すべく行動に移そうとした瞬間だった。その場から離れる為に大きく跳躍した先にいたのは一体の神機兵。

 まるで生贄だと言わんばかりにリヴィに向かって大剣を振りかざしていた。

 

 

「リヴィ!」

 

 神機兵の大剣がは横なぎに斬りかかったからなのか、リヴィは直撃だけは回避に成功していた。ギリギリで盾の展開が間に合った事は僥倖だが、問題だったのはその態勢だった。

 罅割れた大地はその場を破壊するかの様に一気に崩壊し始めている。これまで気が付かなかったが、この場所の下は大きな空洞が広がっていた。

 北斗に響く警鐘はこれを暗に示していた事が今になって理解できるも、時すでに遅し。崩壊した大地は空中で防御したリヴィの足場を容赦なく奪い取っていた。

 

 

「俺はリヴィのフォローに向かう!シエル、この事はアナグラに報告してくれ!」

 

「北斗!」

 

 崩れ落ちる大地を足場に北斗は叩き落とされるリヴィに向かって跳躍を開始していた。

 今ならまだ何とか出来る可能性が高い。そう判断した行動をシエル達は見ている事しか出来ないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……では至急回収の為のチームを派遣しよう。しかし…」

 

 シエルからの一報はアナグラの会議室へと届いていた。崩壊した大地の先がどうなっているのかは、現時点では把握できない。これまでの調査でも大きな空洞がそこに存在していた事実が無かった事からフェルドマンは直ぐにチームを派遣すべきだとは理解しているが、問題なのはその編成だった。

 この時点では極東支部とはある程度のわだかまりは修復出来ているも、問題なのは協力出来る人間がどれだけ居るかだった。完全に修復された訳では無いこの状況下では、北斗の捜索はやるかもしれないが、リヴィの捜索をやってくれるのかに疑問が生じている。

 今回の計画に関して半ば強引にやり過ぎたツケがここに来て表面化する可能性も否定出来なかった。

 

 

「フェルドマン局長。君がどう考えているかはともかく、ここにでは簡単に見殺しにする様な人間は居ない。その点に関しては気にすべき問題では無いと思うんだが?」

 

「お気遣いありがとうございます。しかし、場所が場所なだけに派遣する人材をどうするかが問題かと」

 

 榊の言葉に内心焦りが生じていた。今回の作戦の最大の要点はリヴィの持つ特性を活かす以外に方法が無い事だった。情報管理局はその任務の特性上、疎まし気に思われる事は度々存在する。今回の件に関しても、上層部の判断を全員が確実に理解していなかった結果が招いた部分も存在している。その結果が今に至るのは違いなかった。

 ただでさえ厳しい内容だけに、果たしてそれを受け入てくれるのかすら判断に困る。誰が悪いと言う様な程度の低い問題では無かった。

 

 

「フェルドマン。今回の捜索の件だが、我々がやろう」

 

「しかし、それでは……」

 

 フェルドマンに差し出した声の主は紫藤だった。フェルドマンの中では紫藤は既に退役した神機使いのイメージがあったからなのか、その提案に関しては戸惑いがあった。

 

 

「そう言ってくれるなら助かるよ。すまないが宜しく頼んだよ」

 

 フェルドマンが口にする前に榊がそのまま容認していた。内容に関してはともかく、退役した神機使いで大丈夫なのかとの思惑がそこに存在していた。

 

 

「そうそう。彼は退役してなどいない。未だ現役なだけでなく、間違い無く極東の最高戦力なんだ。結果に関しては気にする必要はないよ」

 

 榊の言葉にフェルドマンは認識を改めていた。事実、フェンリルのデータベースには紫藤が退役した事になっている。確かに本人を目の前にすれば、とてもじゃないが退役した様には見えなかった。

 改めて見れば確かに紫藤の動きに隙は無く、常に自分の存在を消すかの様な行動はその辺にいるゴッドイーターとは比べものにならない。既に行動を開始した紫藤の背中を見て自分の認識が誤っていたのだろうかとも思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってて…大丈夫か?」

 

 足場の崩壊から間に合ったのか、北斗はギリギリの所でリヴィを助ける事に成功していた。どこまで落下するのかすら不明なこの状況下でリヴィと合流できたまでは良かったが、問題なのはここがどこなのかだった。崩壊した上を見れば何となく距離は掴めないでもないものの、周囲は既に明るさが足りないのか、目を凝らす事で漸く周囲の状況が見えている。

 このままこの場所に留まる訳にも行かず、脱出の方法を模索せざるを得なかった。

 

 

「ああ、何とかと言った所だ。しかしここは一体……」

 

 改めて周囲を見渡すも、螺旋の樹の外縁部とそう変わる様な雰囲気は無かった。上空を見上げれば、ポッカリと開いた大きな穴が空の代わりとなって周囲に光をもたらしている程度だった。

 

 

「あの上から落下してるのは間違いないが、このまま戻るのは困難って所だろう。シエルに任せたから後はここで待機だな」

 

 周囲を見渡すと、少し先の状況が見えないからなのか、暗闇の中に景色が消えている。このまま下手な行動を起こした場合、今度は違う意味で遭難する可能性だけが残されていた。気が付けば視線の先にはお互いの神機が横たわっている。

 一先ずそれを回収してからだと、北斗とリヴィは自分達の神機の回収を急いでいた。

 

 

「どうやら足をひぱった様だな……すまない」

 

「謝る必要は無いだろ。あの状態であれば誰がやっても同じ事だ。むしろ俺の方こそさっきの神機兵の行動が少し変だった事は気がついていたが敢えて無視したからな」

 

 今になって北斗も自分の中で鳴っていた警鐘を無視した事を悔やんでいた。確かに神機兵が地面に叩きつけた際に、通常であれば反作用が働く事で多少なりとも神機は宙に浮く。しかし、先ほどの攻撃の殆どはまるで衝撃を与えているかの様に反発する事は無かった。

 あの時点で衝撃が地面に伝播しているのは確定していたが、やはり戦闘中の為か目の前の討伐に集中した結果でしか無かった。

 

 

「無線が通じないんじゃ後は何も手だては無い。せめて周囲の状況でもとは思うが、流石にこの光量だと視界に止めるにも限界があるからな」

 

 時間がどれほど経過しているのかすら判断が出来ず、周囲の状況も視界不良の為に確認する事が出来ない。となればやるべき事は何も無かった。

 既に周囲の探索をするつもりが無いからなのか、北斗は改めて神機を隣に於いて瞑想している。

 本来であればこの作戦がどれほど重要な物なのかを一番理解しているはずの自分が一番足をひぱった事で招いた事態を何とか挽回できる方法が無いのかとリヴィは一人考えていた。いくら北斗が何と言おうが現実問題として何も出来ないのもまた事実。その影響だったからなのか、お互いの沈黙が暫く続いていた。

 

 

「リヴィ。さっき何か聞こえなかったか?」

 

「北斗も聞こえたか。どうやらアラガミが周囲に居る様だな」

 

 突如として瞑想を止めたのは周囲にアラガミの気配を察知したのがキッカケだった。どれほどの数なのか、大きさなどうなのかはまだ分からない。

 しかし、こあれまでに戦って来た勘がそれを知らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「持ち物は全て持ったか?」

 

「俺はバッチリだ」

 

「念の為に簡易キットも装備しました」

 

 無明の行動を読んでいたとばかりに会議室から出れば、そこにはリンドウとエイジが立っていた。今回の捜索に関しては未だ解明されていない場所での捜索だけでなく、万が一の際には討伐をこなす必要もあった。

 本来であれば大規模な救出チームを編成するが、今回の場所が場所なだけに、行動を共にする人員は必要最小限に止められる形となっていた。

 

 

「あの…私も連れていってくれませんか?北斗は私達の隊長です。リヴィさんも今は私達の部隊には必要な人物ですから」

 

「だとさ。どうするんだ?」

 

 3人の前に立っていたのはシエルだった。既に捜索チームの名前を見た際にはこれ以上の人選は無いだろうと全員が考えていた矢先の出来事。既に準備は整っているのか、シエルも良く見れば何かしらの物資を持っていた。

 

 

「ここで断っても無理にでも付いて来るのであれば、素直に受け入れた方が良いだろう。だが、今回の捜索に関しては螺旋の樹の内部に尤も近いだけでなく、恐らくは偏食因子の投与時間にも影響が出てくる事になる。万が一ついてこれないと判断した場合には素直に従ってもらう事になるが、それでも良いか?」

 

「はい。それで結構です。私は目の前に居ながら何も出来ませんでした。せめてこれ位の力にはなりたいんです」

 

 シエルの真剣な眼差しに無明だけでなく、リンドウとエイジも同じ事を考えていた。目の前に居ながら助ける事が出来なかった悔しさがどれ程の事なのかは言うまでも無い。

 それだけが確認出来るのであれば、後は時間との戦いとなるだけに一刻も早い行動が要求されていた。

 

 

「気持ちは分かるが、ここで力が入り過ぎると後が大変だぞ。少しはリラックスして行こうや」

 

「リンドウさんの言う通り。今からそれだと大事な時に疲れるだけだから、少し落ち着こうか」

 

 リンドウとエイジの言葉に反対の意見は無かった。既に準備が出てきている以上、あとは一刻も早い現地入りが必要となる。残された時間はそう多くは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな所にまでアラガミが居るとなると、今後の計画には多少なりとも警戒が必要になるだろうな」

 

 アラガミの反応は数体のオウガテイルだった。既に霧散したのか先ほどまで横たわっていた個体は既に無く、先ほどの地点から少し離れた場所で2人は休んでいた。

 未だ視界が悪い中では下手に動く事が出来ず、通信も回復する気配がどこにも無い。今は上空の穴から差し込まれる光が届く範囲の中で行動するしか無かった。

 

 

「今は下手に動いた所で仕方ないな。助けが来るまでには素直にここに居るだけだ」

 

「確かに。実際にここがどんな場所なのかすら判断出来ないんじゃ、こうするより仕方ないだろうな」

 

 改めて座ると同時に、周囲を観察する。未だ闇に閉ざされた場所は見えないままだった。既に時間の概念はあやふやになりつつあるも、今はただ待つ事だけしか出来ないままだった。

 冷静に見れば、この場所はこれまでとは少し雰囲気が違う様にも見えていた。細い木々が枯れて折れるのではないのだろうかと思わせる様に、木々には生命力を感じる事は無い。そもそも螺旋の樹そのものがアラガミと近い性質であるだけでなく、この中にはジュリウスがひたすら戦っているのはブラッド全員の共通した認識であった。

 この場所で生命力を感じる方が異常だと思うには少しだけ冷静さを欠いていた事だけが思い知らされていた。

 

 

「そう言えば北斗、折角だから聞きたい事がある。なぜブラッドはそうまで仲間を信用する事が出来るんだ?本来ならば我々の事は憎いとさえ思うのが普通じゃないのか?」

 

 リヴィの言葉に北斗は少し驚いていた。これまでリヴィだけでなく情報管理局が介入した支部は少なからず忌避感が存在していた。いくら表面上は体裁を整えていても、言葉の端々や行動にそれが僅かながらに出ている。それがこれまでは当たり前だとばかり思っていた。

 しかし、今回の部隊編成を行った際に、他の支部では多少なりとも忌避感はあるかもしれないが、ここ極東支部の中でも特にブラッドに関しては格段にその傾向が少なかった。

 

 

「それは多分ジュリウスがこれまでそうやってきたからだと思う。確かにブラッドはこれまでのゴッドイーターとは違い、特殊な偏食因子の適合した人間の部隊だ。ただでさえ珍しいだけでなく、感応種の討伐までやってるとなればそれなりに注目も浴びる。今でこそこんなだけど、最初の方はかなり酷かったんだ」

 

 北斗の笑みにリヴィは少しだけ何かが分かった様な気がしていた。自身の立場もそう考えさせるからなのか、これまでの経歴を見ればブラッドの立ち位置はかなり特殊な物である事は一目瞭然だった。

 既に極東では固定した種となった感応種だけでなく、全世界を巻き込んだ終末捕喰を止めた事など、言い出せばキリが無い。本来であれば驕りがあったり横柄な態度になる事も多々あったが、この目の前にいる隊長は前隊長のジュリウスの考えをそのまま引き継いでいるのか、そんな事は微塵も無かった。

 ミッションの最中でさえも自身の鍛錬を欠かす事もなく、またこれまでに同行したミッションを見ていても、その戦い方に慢心は存在していなかった。だからこそ、この部隊で戦う事に嫌気がさす様な事が無かった。

 

 

「そうなのか」

 

「ああ。特にシエルとギルは……まあ、機会があれば話を聞くと良いさ」

 

 色んな事を話したのは今回が初めてだったのか、リヴィは何も言う事もなくただ北斗の言葉を聞いていた。時折出てくる家族は何を意味するのか、今なら少しだけ分かった様な気がしていた。

 

 

「リヴィ。気が付いてるか?」

 

「ああ」

 

 先ほどまでの穏やかな空気はどこにも無かった。既に臨戦態勢に入っているのか、北斗の右手には神機が握られている。未だ視界の中には何も映らないが、その見えない先にはアラガミが居る事だけは気配で気が付く。

 既にお互いの思考は同じだったのか、リヴィもまた神機を構えて様子を伺っていた。

 

 

 

 

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