神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第223話 提案

 

「すぐに目を離すとこれなんですから……北斗、私の話を聞いてますか?」

 

「聞いてるよ。そろそろ身体を慣らす必要があるから動かしてただけだ」

 

 諦観漂うシエルの言葉に北斗は開き直る事しか出来なかった。意識を取り戻した当日は大人しくしていたが、やはり元来よりジッとしている事を良しとしない性分が変わる事はなく、偶々見かけたコウタの訓練に、気が付いたら参加していた。

 

 

「コウタさんも北斗の事は知ってるはずですよ」

 

「まあまあ、そんなに怒らなくても良いんじゃない?実際に身体は完治してるんだろ?」

 

「身体は良くても休養の指示が出ている以上、それは最低限守るべきです」

 

「それは……そうだけど」

 

 コウタがやんわりとフォローを入れるも、それすらも聞く耳をもたないのかシエルは一刀両断の様にコウタの言葉をバッサリと斬る。この場にはコウタ以外にもう一人いるはずだが、今は所要で外していた。

 元々コウタはここ最近になってエイジから教導では無いにしろ体術の稽古をするケースが多くなっていた。最大の理由は万が一の際の回避の精度の向上。それともう一つがマルグリットの神機パーツのコンバートが絡んでいた。コウタにとっては何気ないはずがなぜこうなったのか、話は少しだけ前に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がですか?」

 

「ああ。今はショートを使っているのは知ってるが、今後の事を考えるともう少し火力があっても良いかと思ったんだよ。実際にコウタにも聞いたが、ここ最近はコウタとは別行動してる事が多いんだろ?で、他の部隊と組むなら自分の火力が必要なのも分かっているとは思うんだが」

 

「それはそうですが…」

 

 北斗が負傷してからは再びミッションの回し方が従来へと戻っていた。リヴィのブラッドアーツの習得が進まないのであれば作戦が進捗する事はなく、だからと言って部隊そのものを遊ばせる程に極東支部もゆとりは無い。だからこそ今後の事を含めてナオヤとリッカが相談した結果が現在に至っていた。

 

 

「確か、舞踊は名取レベルまでは出来るよな?」

 

「まあ、そこまでは師事しましたから」

 

 ナオヤとマルグリットの話にリッカはついて行く事が出来ないままだった。舞踊の名前が出た時点で屋敷絡みなのは理解出来るが、リッカは師事している訳では無い。しかし何かしらの目的があって確認している事は知っている為に、この場は口を挟む事はなかった。

 

 

「足さばきは全ての動きに通じる部分があるんだ。多分理解してないかもしれないが、今回俺達が検討しているのがヴァリアントサイズだ。使い方は特殊だが、使い方によってはこれまで以上に神機の火力は上がる。動きが似ている部分があるからどうかと思ったんだが、一度やってみないか?」

 

 ナオヤはそう言いながらヴァリアントサイズのモックを持ち出してた。実際にはまだ極東内部で使用している人間は誰もおらず、現状はパーツだけが用意されている。

 ナオヤも最初にこれを見た際には何か閃く物があったのか、暫くはこちらの開発に力を入れていた。

 

 

「しかし、周りの行動を見ながらじゃないと扱いにくくないですか?」

 

「だからなんだよ。視野が狭い人間にこれを使わせる訳にはいかないが、マルグリットなら大丈夫だと思ったんだがな」

 

 そう言いながらナオヤはモックを持つと同時に、自身が見本を見せる様に動いていた。

 普段であれば整備士がそんな事をする事は無いが、教導の教官でもある以上扱いは熟知しているのか、これまでに使った事が無いはずのヴァリアントサイズを持った動きに澱みは無く、流麗に動く様に誰も言葉を発する事は出来なかった。

 ナオヤの動きはまるで舞を舞っているかの様な円運動と同時に時折見える強烈な一撃を思わせる風切り音は周囲の空気を斬り裂く様に変化させている。当初は何気に見ていいたはずのリッカも動きの後半はナオヤの思惑に気が付いたのか既に魅入られている様にも見えていた。

 本来であればそんな事は無いはずの動きはリッカだけでなくマルグリットもその気にさせる程の勢いが存在していた。

 

 

「まあ、こんな感じだ。名取かって聞いたのはそれが原因だ」

 

 本来の神機の使い方と一線を引くそれはあきらかにこれまでの神機とは異なっていた。

 直線ではなく曲線を活かした行動と同時に、遠心力がその力を助長する。円運動を利用した舞踊の足さばきを使いこなせるのであれば、理論上は可能な事は直ぐにマルグリットにも理解出来ていた。

 

 

「でも、コウタやエリナ達との連携も必要になるんじゃ…」

 

「その点なら手は打ってある。そろそろ……忙しい所悪いな」

 

 ナオヤの言葉の先には呼び出されたであろうコウタが訓練室に姿を現してた。いつものクレイドルの制服とは違い、明らかに通常の教導で着用する服を着ている。それが何も意味するのかマルグリットには分からなかった。

 

 

「いや、俺の方こそ無理言った手前当然だよ」

 

「なんでコウタがここに?」

 

 突然コウタが現れた事にマルグリットは軽く混乱していた。神機のコンバートの話がコウタの出現に繋がらない。理解出来ないと思われたのか、その理由はコウタの口から聞かされていた。

 

 

「実は、今後の事でナオヤとエイジに相談してたんだ。実際に今のメンバーで第1部隊は固まっている以上、火力の向上は必須だし今後の事も考えれば俺も少しは身体のキレが増した方が迷惑がかからないだろ?」

 

 何気に話されたコウタの言葉にマルグリットは以前にコウタから聞いた悩みの事を思い出していた。防衛班の活躍で今では第1世代の神機使いの能力は改めてクローズアップされたが、それまでは旧型や遠距離型は使えないなんて話は多少なりとも聞こえていた。

 事実、近接攻撃が出来ないだけでなくオラクルが欠乏すればたちまちお荷物になってしまう。攻撃手段がそれ以上存在しないのであれば実質は一人少ないミッションと大差なかった。

 また、遠距離型の特性上どうしても後方支援の形が優先するからなのか、未だに何も知らない人間からは時折そんな事が聞こえていた。コウタ自身は既に第1部隊長が故に面と向かって言う人間は少なく、また実地の際には第1部隊に優先的に配属される事から、表に出てくる事は無かった。

 

 

「そんな事無い。コウタの指揮があるから私やエリナ、エミールが自在に動けるのは皆知ってる。コウタが気にする必要なんて無いよ」

 

「それでもなんだよ。実際に昨日今日始めた訳じゃないし、流石にこれ以上の醜態を晒す訳にも行かないから」

 

 コウタの醜態を晒すの意味が今一つマルグリットには理解出来なかった。

 誰に対して言っているのか分からない。事実部隊内でもエリナは敢えてそう言う事はあるが、貶めるつもりは毛頭なかった。エミールに関しては未だにコウタの指揮がなければ危うい部分がまだある。自分もそんな事を微塵にも思っていないからこそコウタが誰に対して言っているのかが謎だった。

 

 

「ねえ、ひょっとしてコウタってマルグリットには本当の事言ってないんじゃないの?」

 

「さあな。それは俺には分からん。実際に話を直接受けたのはエイジであって俺じゃないからな」

 

 2人の話を遮らない様にリッカとナオヤはヒソヒソと話す。お互いがこれだけ近いのに気が付かない現状は傍から見るともどかしく映っていた。そんな中で突然訓練室の扉が開く。開いた先には療養中だったはずの北斗がそこに立っていた。

 

 

「ひょっとしてお邪魔でした?」

 

「いや。今は少し休憩だ。これからコウタと体術の教導やるんだ」

 

「それ、俺も一緒でも良いです?」

 

「確か療養中じゃなかったのか?俺はそう聞いていたんだが?」

 

 北斗はまさかこれだけの人間が訓練室に居たとは思ってもなかった。本来であればヒバリかフランに訓練室の状況を確認するのが手っ取り早いが、今は療養中である事は2人共知っている。ましてやそんな中で訓練室なんて話になれば真っ先にシエルに連絡が行くのを知っていたからこそ、こっそりと行動に移していた。

 そんな中でナオヤが居た事は幸運だったが、その場にリッカが居た事で北斗は人知れず背中に冷たい物を感じていた。

 

 

「怪我はもう問題ないんです。今は少し落ち着く為に少し身体を動かしたいと思ったんですが」

 

 このままでは拙いと判断した北斗は普段とは違い、かなり饒舌に色んな理由を述べていた。既にそれが怪しいと公言している様な物ではあるが、現時点ではそれに気が付かないままだった。

 

 

「だったら、俺と一緒にやらないか?ナオヤ、俺と同じレベルなら問題ないだろ?」

 

 北斗に助け船をだしたのはコウタだった。本来であればナオヤとやる予定だったが、実際にはあまりの技術の違いで比べものにならない部分が多分にあった。実際にコウタ自身の能力も向上しているが、比較するのがナオヤだった為にせめて北斗ならばと思ったのが理由だった。

 

 

「ナオヤさん。コウタさんもああ言ってますから」

 

 この状況からいち早く脱出したい北斗からすれば渡りに船。ナオヤの返事を聞かないままに、真っ先に訓練室内の隅で柔軟を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん。北斗を見かけませんでしたか?」

 

 シエルは北斗が療養中である事を理由にここ最近おろそかになりつつあった戦術論についての話をしようと部屋まで向かっていた。いつもならば何も用事が無ければラウンジか自室に居るはずの人間が居ない。それ以外では訓練室もあるが、まさかとの考えからその可能性は真っ先に排除していた。

 いくら大丈夫だとは分かっていても、やはり北斗の性格を考えるとミッションに出ている可能性も否定出来ない。安否を確認する為のビーコン反応を確認する為にシエルはロビーへと向かった結果だった。

 

 

「私は見てませんね。でも出撃した形跡はありませんし、神機は現在メンテナンス中です。心当たりは無いんですか?」

 

「予想出来る所は捜したんですが……どこにも居ないんです」

 

 可能性があると思われる場所は全て回っている。ヒバリとて落ちこんだシエルを見るのは忍びないが、実際にビーコン反応はアナグラ内部を示している。この時点でシエルが分からない物をヒバリが知る由は無い。どうしたものかと思案していた矢先だった。

 

 

「ナオヤさん。北斗さん見ませんでしたか?」

 

「あいつならコウタと体術の教導やってるぞ」

 

「ナオヤさん。それはどう言う事でしょうか?」

 

 突然の情報にシエルはナオヤに詰め寄っていた、一番最初に除外した可能性が結果的には正解だった事にシエルは苛立ちを覚えている。しかし、ナオヤにそれを言った所で何も話が進まない以上、今は真っ先に行動に移していた。

 

 

「少しは身体を動かしたいとか言ってたぞ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 鬼気迫る様な表情に流石のナオヤを僅かにたじろいでいる。これが男連中なら鉄拳の一つでも喰らわすが、相手が相手なだけにそれも出来ない。その結果ナオヤはただ頷く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつだって女性陣の方が強いんだから仕方ないって」

 

「そりゃそうだけど、ちょっと過保護過ぎないか?」

 

 コウタのフォローも空しく北斗は自室へと戻る事になっていた。よほどシエルに厳しく言われたのか、普段の北斗を知っている身とすればトボトボと歩く北斗の背中はどこか哀愁が漂っていた。

 いつもであれば我先にとミッションに出向く勇敢な姿はどこにも無い。一方のナオヤも少し申し訳ないと思ったのか、先ほどの顛末をコウタから聞いていたのか、北斗の居場所を漏らしたナオヤは珍しくカウンターのエイジと話をしていた。

 

 

「でも、ここ最近の情報管理局絡みのミッションは割と過酷だったからさ、多少は羽を伸ばすのも悪くないとは思うんだけどな」

 

「だろ?俺もそう思ったんだけど、どうやらシエルからすればよろしくないらしい」

 

 時間はお昼を回っていたが、夕方にはまだ程遠い。すでにミッションに出ている人間が殆どだった事から、ラウンジにはエイジ以外にはナオヤとコウタしかいなかった。コウタもどうやら同じ考えだったからなのか隣に座りながらジンジャーエールを飲んでいる。割と辛目の味わいがどこかスッキリとした気分を誘っていた。

 

 

「でも、療養中を盾にされるとそれ以上は言えないのもまた事実だしな……」

 

 何か思う所があったのか珍しくナオヤが凹んでいた。普段は教導教官の一面が強すぎる事からも周りからは少し距離は置かれている。

 普段の人と成りを知っている人間はそうは思わないが、やはり新人からすれば鬼教官である事に変わりは無かった。もちろんその話は新人と同行する機会が多いコウタも知っている。しかし、コウタとてナオヤとの付き合いがそれなりに長い事からも今回の件に関しては珍しいとさえ思っていた。

 

 

「だったら屋敷で療養なら許可が出るんじゃない?」

 

「それ、良いかも……って。あれ?」

 

 背後から聞こえた言葉に2人が振り向くと、先ほどの提案をしたのは弥生だった。何時の間に来たのかは分からないが屋敷であれば建前上は温泉療養が主張出来る。弥生が提案する以上屋敷の予定を知った上での発言なのは間違いなかった。その事実を察したからなのか、その提案に誰も反対する者はいなかった。

 

 

「ナオヤは少し気を抜きすぎよ。珍しく背中が無防備だったから」

 

 コロコロと笑いながら弥生はエイジの前に座る。先ほどの提案に関しては魅力的なのは分かるが、問題はその許可をどう取るかだった。

 

 

「実は今後の作戦に関して少し非公式で打ち合わせをレアと当主がする予定だから、屋敷の手配が出来るのよ。折角だし皆を誘ったらどう?ローテーションを見た限り夜間任務は皆入ってないみたいだし、コウタ君も久しぶりにマルグリットちゃんの手料理を食べたいでしょ?」

 

「え……まぁ。はい……」

 

 気軽にウインクしながら言われた時点で2人は何も言う事は出来なかった。エイジはそんな話は聞いていないと思いながらも弥生の為にフレーバーティーを入れる。既に決定事項だったのか、弥生の言葉を否定する材料は誰も持ち合わせていなかった。

 

 

 

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