神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第234話 変異種

 薄暗い空間の中に濃密な殺気の様な物がこの場に漂っていた。咆哮の先に居るのはこれまでに見た者とは明らかに異なる個体。可能性としては変異種である事だけが現時点で分かっている状態だった。

 先ほどの強烈な一撃で抉れた地面がこれまでのアラガミとは一線を引いている。それが何を意味するのかを考える前に3人はそれぞれの行動を起こしていた。

 

 

「お前達気を付けろ!」

 

 無明の言葉に誰もが警戒を緩める事は無かった。目の前に居たのはこれまでに何度も討伐した事があるディアウス・ピター。しかし、先ほどの攻撃によって誰もが油断するどころか更に警戒を高めながらに様子を見ている。既に交戦中ではあるものの、散開した事もあってか、その行動を確実に観察する様に見ていた。

 

 

「エイジ、やれるな?」

 

「はい」

 

 エイジがディアウス・ピターと交戦しながらにどこまでの物なのかを図っていた。

 このメンバーであれば偵察に近い任務ではあるものの、新種のアラガミの弱点や挙動を引き出す事に関しては一番だった。

 実際にこのメンバーでの戦いを直接見た事がないアリサが仮にこの場に居れば確実に卒倒したくなるほどの行為。これが無明になれば完全に挙動を引き出す前に仕留める為に今後のデータに残す事が困難な状態となり、リンドウに関しても高火力で応戦する事から、完全に挙動を引き出すには適さなかった。

 常に8分程度の能力で慎重に行動パターンを引き出す。遠距離の攻撃に関しては完全に防ぎ切り、中距離から近距離にかけては状況を見て回避行動を続けている。

 既に雷球を何度放ったのは分からないが、その隙を逃す事をエイジはしなかった。同じ部分を何度も斬りつけた結果、ディアウス・ピターの前足の先端が斬り裂かれていた。

 

 

「用心しすぎたんじゃねぇか?」

 

「いや、明らかにあれは変異種だ。今まで見た事がなかったが、背中から肩口にかけての部分に瘤の様な物がある。これまでと同じだと思うな」

 

 エイジの行動を見ながら無明はディアウス・ピターから視線を外す事は無かった。既にどれ程の時間が経過したのか、右の前足部分の先端は既に破壊され斬り飛ばされている。

 これまでであればそろそろ倒れる頃にも関わらず、動きそのものは当初と何も変わらないままだった。エイジが対峙しているとは言っても無明とリンドウも何もしていない訳ではない。回避が厳しいと判断すればこちらに意識を向ける様に行動し、エイジの援護をしている。まるで何かのコンビネーションの様にも見える動きに隙は無く、態勢を整え終えた後、エイジが再び戦列に加わる事を幾度となく繰り返していた。

 既にどれ程の時間が経過したのかすら分からなくなる頃、突如としてディアウス・ピターの動きが止まる。その姿はまるで何かに変化するかの様な行動だった。

 

 

「リンドウ。ここからが本番だ」

 

 無明の言葉にリンドウは改めて変化し始めているディアウス・ピターの姿を見ていた。これまでであれば精々が活性化する程度の物だったが、目の前にいるそれはこちらの想像を大きく上回る。これまで瘤の様な部分からはメリメリと音をたて4本の刃を連想させる一対の翼が大きく開く。赤黒いそれが何を意味するのかを考えるまでもないのか、改めて全員が距離を取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。で、実際にはどうなんだ?」

 

 ソーマが会議室に入ると、そこにはタツミ達防衛班が全員揃っていた。以前にもあったアラガミの大群は未だ距離はあるものの、万が一の事を考え早い防衛ラインの構築の為に招集されていた。

 

 

「あの…現時点ではまだアナグラに到着するまでに時間があります。目的は不明ですが、以前の様な強固な個体は確認出来ません」

 

 ウララの拙い説明に誰もが口を挟む事無く話を聞いている。既にやるべき事は一つしかない以上、考える必要は無かった。

 

 

「まだ完全にここに来るのかは測り兼ねる状況なんだ。だからと言ってギリギリまでひきつけるのも得策じゃないからね。大丈夫だとは思うんだが、万が一の際には君達にお願いしたいんだよ」

 

「それは構わないが……クレイドルの連中がどうしてるんだ?リンドウさんとエイジの姿が見えないが?」

 

「彼らは違う任務中なんだ。今から呼び戻すとなると時間的に厳しい物があるからこそ君達にお願いしたい」

 

 カレルの疑問は尤もだった。この場に2人が居ない時点で戦力的な部分の采配を改める必要が出てくる。しかし、榊の口から別任務と言われた以上はこの戦力を上手く活用する他無かった。

 画面上のアラガミは未だ移動中なのか、それとも動いていないのか、探知する範囲が広すぎる為にハッキリとは分からない。榊の言葉通り、画面の向こう側がどうなっているのかは誰も分からないままだった。

 

 

「ここでそんな事を言っても埒が明かない。まずはお前達に今後起こりうる可能性を前提とした作戦を伝える」

 

 沈黙を破るかの様にツバキの声が会議室に響いていた。このまま漠然としているほどの余裕がある訳では無く、現時点でアラガミの群れが見える以上早急な対策を打つ必要性があった。

 改めてツバキの口から今回の作戦に関しての全容が伝えられる。既におなじみとなりつつあるそれに誰も口を挟む事は無かった。

 

 

「作戦は以上だ。これからは随時警戒態勢に入る。万が一の事も考えてリンクサポートシステムも配備させるが何か異論はあるか?無いのであればこれで解散だ」

 

 警戒水準を上げつつ状況に応じて迎撃する作戦に誰も異論は無かった。既に作戦が伝えられた事により、それぞれが部下へと連絡をしている。既に螺旋の樹の探索を続けているブラッドの事は一旦は意識を棚上げし、全員がそれぞれの立場で備えに入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは厄介な代物だな」

 

 リンドウの呟きが全員の総意とばかりにディアウス・ピターと対峙していた。翼の様に広げられた刃の攻撃範囲は3人の想像を絶する物だった。

 これまでの様に大きな隙を突いた瞬間に一撃必殺と言わんばかりの攻撃を加えた方法を取っていたが、翼の攻撃範囲はその隙すら少なくなる代物だった。使い方を熟知しているのか、それとも警戒しているのか、時折大きく振りまわす様な行動を取るも、回転が終わると同時にその場から大きく跳躍する事で距離を取っている。

 時折散発気味に当たるリンドウとエイジのバレットが今の攻撃の手段となっていた。

 

 

「確かに厄介だが、やり様は幾らでもある。データも取り終えた以上は討伐をする以外に無いだろう」

 

「何か方法でもあるのか?」

 

「隙は突くんじゃなくて作る物だ」

 

 リンドウの言葉を遮るかの様に無明は自分の神機を確認し、ディアウス・ピターとの距離を一気に詰めた。これまでの様に3人で攻撃をするのではなく単独での攻撃に何かを見出したのか、リンドウだけでなくエイジもまた無明の攻撃方法を見るべく注意しながらその行動を見守っていた。

 

 基本的に単独任務が多い無明からすれば、複数での攻撃から織り成す戦法は基本的に隙を作り出す手段として見ている部分があった。

 生存率と効率を考えれば単独任務に比べ、そっちの方が格段に上なのは当然の結果でもある。しかし、基本が単独の人間に攻撃をし続ける事による隙を作り出す方法は無に等しかった。

 

 元々無明の神機は旧型と呼ばれた第一世代。黒い刀身はあっても銃撃の手段はなく、また自身の行動能力を極限にまで高める為なのか、それとも重量の増加を嫌うからなのか、盾が潔く外されている。事実上の刃だけの神機はある意味では自身の能力の裏付けとも言える代物だった。

 全速力に近い速度で走りながらもカウンターに備える為に視線は常に固定している。ディアウス・ピターとの距離がゼロになるには然程の時間も必要とはしなかった。単独攻撃だと察知したのか、ディアウス・ピターは雷球を飛ばすと同時に翼で斬り裂くつもりなのか、牽制とばかりに5発の雷球が無明に襲い掛かかっていた。

 

 

「ったく相変わらずだな」

 

 リンドウの言葉がまるで耳に入ってなかったのか、エイジは無明の一挙手一投足をひたすら見ていた。ディアウス・ピターが放った5発の雷球は防ぐ事が出来な勢いで襲い掛かるも、全てがまるで身体をすり抜けるかの様に後方へと流れて行く。

 距離を詰めながら雷球の間合いを完全に把握したのか、無明は完全に避け切った瞬間、襲い掛かるかの様に前へと大きく跳躍していた。本来であれば跳躍した攻撃は勢いを利用するには問題無いが、空中での移動が出来ない以上、リスクとも表裏一体となっている。これまでにもエイジ自身が無明から学んだ行為でもあり、また教導でも必ずそのメリット・デメリットを指導していた。

 既に跳躍した先にあるのはディアウスピターの顔面。そのまま一気に決着をつけるかの様な攻撃に見えていた。

 

 

「おいおいマジかよ」

 

 顔面の攻撃をまるで待ち構えていたかの様にディアウスピターはにやりと笑った様な表情を見せ、自身の背中を器用に動かし翼の刃で斬りつけようとした瞬間だった。空中では態勢を変えるのは至難の業ではあるが、それすらも予測していたのか、無明は自身の前に黒い刃を突き立てる。

 迎撃ならば体格差で弾き飛ばされるはずのそれは一瞬の出来事だった。薙ぐような斬撃に近い翼を弾き返す事は無く、そのまま刃を滑らせて自身の身体をそのまま縦に回転させている。既にその勢いまでもが予定通りと言わんばかりに自身の身体全体を回転させながら回避と同時に漆黒の刃が翼の根本を斬り刻んでいた。

 

 

「僕にもあんな動きは無理です」

 

 高みの頂点とも言える部分に近づきつつあったと思った地点は未だ中間だと言わんばかりの攻撃にエイジも見ているだけに留まっていた。跳躍をしたのは攻撃を引き出す為の事前行動にしかすぎず、また攻撃の威力をそのまま自身の攻撃に転嫁した斬撃は普段の攻撃以上の物を有していた。

 大きく怯んだディアウス・ピターの眼前に先ほどまで脅威の存在だった翼の片翼が大きな音を立てると同時に横たわる。先ほどの隙がこうやって作られていた。

 

 

「エイジ、俺達も続くぞ!」

 

「はい!」

 

 2人も一気に距離を詰めるべく全力で走り出す。既に態勢が大きく崩れた今は反撃の可能性が無い事を示していた。エイジの黒い刃は走った勢いそのままにディアウスピターの右目に深々と突き刺さる。そこを起点にその刃は頭蓋までも斬り裂くかの様に一気に振り上げられていた。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 リンドウは気合いと共にまだ健在の片翼を一気に斬り落とす。本来であればそのまま距離を置くが、エイジの一撃が効果的だったのか、ディアウス・ピターが動かない事を確認すると同時に刃を背中に突き立てる。

 背骨があれば確実に切断するかのような勢いと同時に深々と突き刺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか変異種があんな攻撃をするとはな。今後の事も考えると対策を立てない事には死者が増えるだろう」

 

 それぞれの渾身の一撃をもって討伐したディアウス・ピターは、断末魔をあげながらその場で大きな音を立て横たわっていた。既にコアが抜かれている以上、霧散するのは時間の問題。通常種に比べ霧散する時間が長かった事からも、この個体がかなりの物である事に間違いは無かった。

 

 

「外見の特徴があれだけってのもな……」

 

「元々接触禁忌種ですから、討伐の際の特記事項って事にすれば問題ないんじゃないですか?」

 

 通信が完全では無いにしろ事実上の切断に近い状況の為に、アナグラもログを解析しながら更新する為には討伐した人間に聞き取りをするか、その本人が更新する必要があった。

 特記事項にせよ何にせよ、リンドウからすれば面倒以外の何物でもない。ただでさえ面倒な事務仕事はエイジにこっそりと丸投げしている以上、ウンザリとした表情を浮かべるのは仕方の無い事だった。既にそれなりの時間が経過したのかディアウス・ピターの身体が霧散していく。改めて今回の任務の過酷さがここに来て改められていた。

 

 

「面倒事は……任せたぞ」

 

「リンドウさんには最初から期待してませんから」

 

「お前ら夫婦そろって……ちょっとアリサに毒されてないか?ったく、少しは敬えよ」

 

 先ほどまでの過酷な戦いから既に日常へと変化している。このメンバーだからこそ何も起こる事がなく終わりはしたが、今後の脅威となるのは間違い無かった。既にここに来るまでに何体かの神融種も討伐したものの、危なげない戦いはそのまま結果へと続いている。だからこそ榊としても極秘任務を振っていた。

 

 

「お前達、そろそろ行くぞ」

 

 先ほどのディアウスピターが門番だったのか、その後アラガミを見る事は無かった。外部やこの上層部の事も気になるのは間違い無いが、各自のやるべき事がハッキリしている以上、考える必要は無い。改めて3人はそのまま奥へと歩き続けていた。

 既に先ほどの場所からそれなりに歩いた先に、これまでに見た事が無い様な大きな繭が成っていた。これまでの様に大きな物では無く、人間が一人だけ入れる程の大きさは目的の物の可能性が高い。既に準備した苦無で一気に引き裂く。その中には今回の目的でもあったロミオが眠った様にうずくまっていた。

 

 

「やはりか……リンドウ、エイジ。目的は達成した。一旦は屋敷に連れていく」

 

「アナグラじゃないのか?」

 

「いや。一旦は確認する必要がある。目覚めてからは戦闘訓練をするつもりだ。既にツバキにもそう伝えてある。時間は有る様で無いからな」

 

 当たり前の様に出た言葉にリンドウは少しだけロミオを見ながら気の毒にと思っていた。アナグラとは違い、屋敷での戦闘訓練は常軌を逸すると思える程に過酷な部分が多分にあった。

 以前にマルグリットが訓練をした際にも、ギリギリまで見極められたのか体力限界の極致まで訓練が続いていた事を思い出していた。もちろん、その対価に見合うだけの力が付くのは間違い無い。ただ、そこまで持てばが前提の話にそれ以上の事は何も言わないままに帰投していた。

 

 

 

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