神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第248話 遍歴

 

「ロミオさん。お疲れ様でした」

 

 リンドウ達を真っ先に出迎えたのはフランだった。実際にフランはロミオを見るまでは、これまでのロミオの戦績やそれに関するデータの更新をしながらも、どこか幻でも見ているのではと思いながらに手を動かしていた。

 事実、フライアでのブラッドとしての活動記録はそう多く無い。それはロミオだけでなくジュリウスも同じ事だった。

 最初はジュリウス一人だった部隊にロミオが加入し、その後は2人だけの部隊が続いていたが、北斗とナナが加入してからのブラッドはまさに激変とも言える程に状況は大きく変わり出していた。

 

 感応種でもあったマルドゥークによって重篤な怪我からのロミオの戦線離脱に伴うジュリウスの離脱、それと同時に神機兵の運用に伴いフラン自身もフライアから極東へと異動していた。

 極東に来てからは北斗を隊長としてのミッションを実際に見て来た事もあってか、それに関しては驚く様な部分はどこにも無かった。しかし、現在の螺旋の樹の探索を進めている中での突如としてのロミオのデータ更新はフランにとっては驚愕の一言だった。

 実際に同行したメンバーの実力から考えればミッションの内容そのものは妥当ではあったが、問題なのはその個人記録。コンバットログは虚偽の報告をする事は事実上あり得ないのはゴッドイーターだけでなく、オペレーターも常識となっていた。

 対象アラガミは通常種から接触禁忌種まで極東に長く居れば誰しもが一度は対戦した事がある。

 現時点で確認されているアラガミの名称のほぼ全部がこの短期間でログに記載されているのは幾ら冷静さを装っても、尋常では無かった。

 

 

「うん。フランこそお疲れ様。ひょっとして今日って何かあった?」

 

 フランの内心などまるで考える事も無い様にロミオは当たり前の様にロビーへと姿を現していた。まだフライアから来たばかりの頃はどこか品定めされている様な視線は感じたが、今のロミオに対する視線はそんな物ではなかった。

 ブラッドそのものは終末捕喰を止めた事によって知名度は高い。しかし、何も知らないゴッドイーターは珍し気な視線を向けるが、今のロミオには明らかに驚愕の意味が宿っている。そんな状況を察したからなのか、ロミオはフランに何かあったのかを聞いていた。

 

 

「いえ。何もありませんよ。恐らくはロミオさんを見て驚いてるんだと思いますよ」

 

「俺、何かしたっけ?」

 

「しいて言うなら、ロミオさんが復帰した事が一番だと思います。ブラッドが来た当初の事を知っている人間であれば、恐らくはそうだとしか……」

 

 ロミオにはそう言ったが、フランはそれが事実だと感じ取っていた。地域住民を護る為に感応種から身を挺した事は既に極東の中でも知られている事実。しかも意識不明のままフライアごと飲みこまれた事実を勘案すれば、最早それ以外にはあり得ないとまで考えていた。

 そんな人間が突如として現れただけでなく、この世界の最前線と言われる極東でも、上から数えた方が早い数字を叩き出した事実に誰もが驚愕するのは、ある意味では当然の結果でしかなかった。

 

 

「へ~そうなんだ。何だが俺って歓迎されてない?」

 

「それは無いと思いますよ。ただ皆さん驚いてるだけだと。それと、今後の予定に関してですが、榊支部長とフェルドマン局長が連名で会議室への出頭を求めています。手続きはこちらで全部やっておきますので、至急お願いします」

 

「え?榊博士とフェルドマン局長が?俺、何もやってないんだけどな……」

 

 アナグラに来る前にロミオは大よその事を北斗から聞かされていた。ロミオが戦線から離脱してからの状況に、当初は理解が追い付かない部分もあったが、一部は屋敷でツバキから聞いていた事もあってなのか、大よその事は理解していた。榊一人なら分からないでもないが、ここに情報管理局長のフェルドマンまでとなればロミオにとっても気持ちの良い物では無い。

 詳しい事は分からないが、何となく呼ばれた理由は想像出来る。それが何を意味するのかを確かめる為にロミオは改めて会議室へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、ロミオ君。戦線復帰おめでとう。詳しい事は聞いていたから驚く事は無かったけど、まさかこうまで結果を残すとは思わかなかったよ」

 

 会議室の扉を開けると、そこには数名の職員とフェルドマン、榊とツバキが色々と作業をしていた。ロミオが入ると同時に全員の視線がロミオに向けられる。そんな視線を感じたからなのか、ロミオは少しだけ居心地が悪くなっていた。

 

 

「いえ。これまでの教導の結果ですから」

 

「その件に関してはツバキ君からも聞かされているから問題ないよ。さて、今回君に来て貰ったのは、いくつかの要件があったからなんだ。ツバキ君、後は頼んだよ」

 

「ロミオ・レオーニ。貴官を本日一四○○付けでブラッドに原隊復帰。並びに同部隊に於ける階級を上等兵から曹長へと昇格する」

 

 榊の言葉にうなずくと、ツバキは幾つかの文言が書かれた読み上げ書類をロミオへと渡していた。ロミオの手には1枚の紙。中身は先ほどの言葉を文章化した辞令だった。

 

 

「了解しました」

 

「それと、今後の予定に関してだが、ロミオがブラッド内に於いて一番階級が低い。今作戦が完了時に改めて昇格の試験を受けて貰う事になる。何か異論はあるか?」

 

 突如として渡された辞令と同時に昇格の話はロミオの予想を大きく裏切っていた。これまで全く自身の階級に無頓着だった訳では無いが、それでも内心は多少なりとも思う部分は存在していた。しかし、今は然程階級に関心を示す事は少ない。

 ハリボテの階級が極東では如何に役に立たないのかを肌で感じているからこそ、大きな驚きを見せる事は無かった。

 

 

「いえ。特にありません」

 

「そうか。因みに他のメンバーに関して言えば、饗庭北斗、シエル・アランソンは少尉。ギルバート・マクレイン並びに香月ナナは准尉となっている」

 

「えっ?」

 

 ツバキの言葉にこれまで意にも介さなかったはずのロミオは小さく驚きをこぼしていた。

 自分達よりも後から来たにもかからず、自分の階級を一気に抜き去る事実は以前であれば確実に愕然としていた可能性はあるが、今はそこまでの欲望は無い。にも関わらず、全員が尉官クラスはロミオにとっても驚きの対象でしかなかった。

 

 

「先ほども言ったが、この作戦終了時に貴官も試験を受けて貰う事になる。ここでの階級は殆ど意味を成さない事は知っての通りだが、ブラッドに関しては終末捕喰を止めた実績を買われた結果だ」

 

 突然の出来事はロミオの理解を遥か彼方へと追いやっていた。まだしっかりと確認した訳では無いが、現在探索しているあれが終末捕喰の成れの果てである事は理解している。

 それが何を犠牲にし、そして誰がその絵図を描いた事も理解した上での結果だった。

 

 

「レオーニ上等兵。私は情報管理局長のフェルドマンだ。既に大よその事は知っているとは思うが、改めて私の方からも今後の作戦に関しての説明をしたい」

 

 呆気にとられたロミオを見ながらも、このままでは時間の無駄とばかりにフェルドマンから今後の作戦に関する全容を改めて確認する事になっていた。螺旋の樹の出現と今に至るまでの経緯、そして話の最大の内容はリヴィに関する事だった。

 

 

「了解しました。でも俺にそんな大それた事なんて出来るかどうかは分からないんですが?」

 

「それでも構わない。どうやら君の事は幼少の頃に会ってからの心の拠り所になっている様にも見受けられる。君が復帰した以上、自分の神機を今後は振るう事になる。これ以上の問題は恐らくは無いだろう」

 

 リヴィの過去をやんわりと聞きながらもロミオは以前に感じた感応現象の事を思い出していた。

 お互いの記憶を交換したかの様な出来事は今でも驚きを持っている。屋敷でエイジから聞かされた際には、まさか自分が体験するとは思ってもいなかった。しかし、屋敷で食事をした際にはそんな雰囲気は微塵も感じなかった。

 今でこそ記憶が鮮明になっているが、それまではどこかボンヤリとした感じにもなっている。何気に言われたフェルドマンの言葉にロミオは暫し今後の事について考えていた。

 

 

「では我々からの話は以上だ。現在は神機の整備中に付き、出動は出来ない。それまでの間はゆっくりと過ごしてくれ」

 

 ボンヤリとした所でフェルドマンからの言葉。情報の共有化が終わった為に、ロミオはそのまま久しぶりのラウンジへと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。ナナが見つかったのか」

 

「はい。上層部の探索をしていた他の部隊からの通信によると、その様です。連戦になるのは気がかりですが、今はナナさんの体調を優先する事が先決だと判断しました。神機の整備が完了後の出撃となります」

 

 

「整備完了の予定時間はどの程度になる?」

 

「4人分の整備になりますので、時間にして3時間程は必要になる予定です」

 

「そうか。では、それが終えてからの出発だな。フラン。全員にそう伝えておいてくれ」

 

「了解しました。では直ぐにその旨連絡します」

 

 既に神機は整備班に回されているからなのか、フランは端末を叩きながら上がってくる情報をツバキに報告しながら逐一確認していく。既に予定時刻が出ている為に、後はそれを伝えるだけとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、これからもう一働きだな。でも、リンドウさん達は今回来ないんだよな?」

 

「流石にサテライト絡みだとあっちの方が優先になるのは当然だしな」

 

 神機の整備が終わる頃、突如として計画の変更が余儀なくされていた。最大の要因はサテライト建設予定地に接触禁忌種が複数体発見された事が発端となっていた。

 以前にも視察した際に記憶している数と今の数は大きく乖離している。どれほど時間が経過したのかをロミオは感じながら出撃ゲートを歩いていた。

 これまでに、このゲートを歩き出動したのは数えきれない程経験している。しかし、今のロミオにはそんなゲートすら懐かしいとさえ思える程だった。4人の足音だけが響き渡る。ナナの捜索の為に4人は改めて決意を胸に神機保管庫へと歩を進めていた。

 

 

「やはり私なんかよりもロミオの方が能力は上だな。ここに来る度にそう感じる」

 

「そうか?俺はそんな事考えた事もなかったけど?」

 

 独り言の様に呟いたリヴィの言葉を拾ったのか、ロミオはさも当然だと言わんばかりに返事をしていた。ロミオが参戦するまではリヴィがその役目を果たしていたが、呟いた様にロミオになってからは中層までにアラガミの姿を確認する事は殆どなかった。

 これまでリヴィがその役目を果たしていた際には何回かの戦闘が行われていたが、中層に至るまでに戦闘らしい戦闘は殆どない。適合する神機との相性がどれほど重要なのかをリヴィは肌で感じ取っていた。

 

 

「いや。私の時にはここまでじゃなかった。やはり各自の能力に適した物を使うのが最適だと感じただけだ」

 

 子供の頃に感じたそれが刺激されるのか、今のリヴィの言葉はどこか自虐的な様にも感じていた。万能である事は脅威ではあるが、実際にそれを当てはめればすべてに於いて平均以下。悪い言い方をすればそれば中途半端でしかなく、当時のラケルの寵愛を失ったそれにリヴィの今の感情は酷似していた。

 

 

「それはリヴィの考えすぎだって。俺だって最初からこんなんじゃなかったんだぜ。今の状況は偶然なんだし、実際に色んな神機を使うなんて出来っこないんだから、そこは素直になろうぜ」

 

「いや……しかし……」

 

 落ち込んだ様に見えるリヴィの表情はフェルドマンから聞かされた言葉にまさに当てはまるとロミオは感じていた。

 リヴィの情報管理局に入隊するまでの状況は分からないが、入ってからの任務は常に冷淡な様にも見えていた。それは自身が期待された結果、また捨てられるとの強迫観念に因るものなのか、それとも元々の性格なのかは分からない。ここまでの道程をどうやって歩んできたのかは分からないが、その感情は決して良い物では無い事だけは理解出来る。自分も嘗ては一度は通った道。ならば自分の事を話した方が今よりもマシになるんだとロミオは判断していた。

 

 

「いやもしかしも無いって。俺だって実際にブラッドの中では一番最後まで焦ってたんだ。北斗なんて俺よりも後に入隊して真っ先に血の力に目覚めたかと思いきや、次はシエルにギルにナナだぜ。リヴィがそれだったら俺なんて落ちこぼれも良い所だ」

 

 ロミオの当時の状況を語り出した際に、北斗とギルはそれ以上の事は何も言わずにおこうと判断していた。先ほどの言葉に何かあるのは以前に聞いた独白で理解している。

 少なくとも北斗だけでなくギルであっても今のリヴィにかける言葉を持ち合わせていない以上、今はロミオの考えに委ねる事にしていた。

 

 

「でも、今はそんな事はないはず……」

 

「それはあくまでも結果論。あんな教導受けたら誰だってこうなるって。アラガミ以外に命の危機を感じるなんてもう御免だよ」

 

 当時の事を再び思い出したのかロミオの表情はどこか苦虫を潰した様にも見えていた。

 命がけの教導は決して誇張した訳では無い。今だから理解出来るが、あれがあったからこそ今の自分があるのは間違い無いと言い切れる。それに関しては感謝しているが、再び同じ事をやれと言われてはいそうですとは言い難い物だけが残されていた。

 そんな2人の会話を聞いていた北斗は人知れず安堵していた。先ほどのロミオの発言は事実上のトラウマに近く、また命の危機に追いやられた当時の状況と同じ台詞。仮に今の技術がなかったらどうなっていたのだろうか?そんな考えが脳裏を過っていた。

 自分の自信が全てを覆す。今のロミオは正にそれそのものだった。

 

 

「そろそろだな」

 

 目的語が無いギルの言葉に全員の視線は一か所に集中していた。アナグラから出る前に確認した場所はここから100メートルも無い場所。事前にキャッチした情報に間違いがなければ、そこにはナナが居るはずの地点だった。

 

 

「ここで合ってるんだよ……な?」

 

「情報ではそうなってる」

 

 どこを見渡してもそれらしい場所が見当たらない。本当の情報が正しかったのか、それとも誤報だったのか、判断すべき材料が見当たらない。ここに来た全員がそう感じた瞬間だった。

 壁だと思われた場所から突如として振動と同時に砕け散った破片が北斗達の方へと飛んでくる。その場所に立っていたのは探索していたはずの少女だった。

 

 

 

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