神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第29話 捜索

「なあ、最近第1部隊の連中はロビーに居ない事が多いけど、何かあったのか?」

 

 

 シオの事でほぼ毎日に近い位のレベルでラボに足を運んでいる事が影響したのか、エイジは背後から不意に声をかけられていた。

 

 

「シュンさんどうしたんですか急に?」

 

「お前らを最近見る事が少ないから、何か依頼でもあったのかと思ってさ。ひょっとしたら新型レーションの開発とかか?よかったら俺にも横流ししてくれよ。あれさ、結構良い金になるんだよ」

 

 

 何気ないシュンの一言ではあったが、エイジの背中に冷たい汗が流れる。

 一瞬シオの事がばれたかと心配したが、どうやらそうでは無いらしい。

 

 ここ数日はシオの事で行動する機会が多かったが、冷静に考えれば普段であれば毎日ロビーに居るはずの人間がゴッソリと居なければ疑問の一つも出るのはある意味当然の事だった。

 

 秘匿するのであれば、本来ならば通常と変わらない行動をするのが当然だったが、シオの存在はそんな単純な事すら認識出来なくなる程のインパクトがあった。

 

 アラガミの少女シオ。彼女は今までに発見されたことが無い、人間の形を模したアラガミ。当然アナグラ内部に公表する訳にはいかず、現在の所はごく一部の人間のみが知らされる事となっていた。

 特にコウタやアリサに関しては、ほぼ入り浸っていると言っても過言ではなく、その姿はミッションの出撃以外にロビーで見かける事が極端に少なくなっていた。

 

 

「レーションではないですが、榊博士の依頼でいくつかやる事があるので」

 

「あ~、榊博士ね。ま、良い話あったら教えろよな」

 

 

 アナグラ内部での榊の評判は正直な所、余り良い物ではない。フェンリル全支部でもトップクラスの頭脳の持ち主でもあり、いち早くアラガミ防護壁を開発した人物。

 彼が居なければ早晩にでも人類は滅亡していたのではないかとまで言わしめられた人物でもある。

 

 しかし、天才と何かは紙一重。

 天才の名を欲しいままにすると同時に、単語の頭にマッドが付く程の変人では?とまで揶揄される程の極端な人物でもあった。

 そんな榊博士の用事であれば恐らくは碌な話ではない。決して貶めるつもりは毛頭無いが、今までの事を考えると一概に否定する事は出来ない。

 面倒事に自ら首を突っ込みたいと思わなかったそシュンはそう判断したのか、まるで何事も無かったかの様にその場を去った。

 

 しかし、何気に放たれたシュンの一言でエイジは改めて気がついた。本人たちは気が付いていないつもりだが、他人から見ればこの異常とも言える状態は案外と気が付く人間も確実にいる可能性が高い事に変わりない。

 今後はもう少し周囲に合わせよう。そう考えて行動する事をエイジは心に誓った。

 

 

「今度は何でしょうか?」

 

「毎回悪いね。今度は彼女の服を着させてほしくてね。いつまでもあの恰好では気の毒だからね」

 

 シオは保護された当時からフェンリルのボロボロの旗を身体に巻付けたまま現在に至る。既に見慣れていた事もあってか榊に言われるまで何も思わなかったが、改めて言われた事で再度シオを見る。

 シオはまるで気にした様子は無いが、冷静になればなるほど榊の言いたい事は痛いほどに良く分かっていた。

 

 

「博士、それって俺らに関係ないですよね?丁度今バガラリー良い所だったんで帰ります」

 

「だったら俺に用はないから帰るぞ」

 

 いくらアラガミとは言え、誰がどう見ても10代前半の少女にしか見えない。

 そんな状態で着替えなんて話であれば、世間的には変質者扱いされても何らおかしくない。

 誰しもが好き好んで変質者の烙印を押されたいと思う事は無いとそう考えたのか、コウタとソーマはラボから去って行く。

 

 

「まあ、男連中に期待はしてないから良いけどね。エイジはそこで見学するの?」

 

「エイジはシオちゃんの着替え見たいんですか?」

 

 

 呆気にとられていたが、これから着替えるとなればここに居る必要性は無い。特に何も考えて居なかったが、変質者の烙印を押される訳にはいかない。そう考えてエイジも慌てて外にでた。

 

 

「さあ、シオちゃん今から楽しい事しますよ」

 

「たのしいことってなんだ?それ、おいしいのか?たのしみだな」

 

 

 今の恰好から考えれば、服を着替えてかわいい恰好をするのは悪い事ではない。

 むしろ良い事だとシオを説得し、ラボの別室へと連れて行ったかと思った途端、大きな声と共に衝撃が走った。

 

 

「どうした!」

 

 大きな音と衝撃が内部から聞こえるのはただ事ではない。

 緊急性が高い何かが起きたのだろうか?と考えラボに向かうと、そこには大きな穴とサクヤとアリサが咳き込んでいた。

 

「シオちゃんが嫌がって逃げちゃいました」

 

「まさかこうなるとは……実に興味深い」

 

 まさかの逃亡に一同唖然とするも、このまま放置はできない。これからの予定を考えていた所に携帯端末からの通信が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ほどリンドウの腕輪反応がまたあった。個体に関しては現在調査中だ。全員出撃準備をし、30分後には集合しろ」

 

 

 突如としてツバキからの緊急任務が入った。現在秘密になっているとは言え、逃亡したシオの捜索も早急に必要となっている。

 通常の任務ならともかく、リンドウの腕輪反応が出ているのと同時に両者の任務が緊急時案となる以上、選択の余地は全く無い。

 現地での判断にゆだねられる事になった。

 

 

「前回同様リンドウの腕輪反応をキャッチした。なお、前回と同種の個体だけではなく、他ににもいくつかの反応が見られる。恐らくは場所から判断して堕天種と判断される。全員気を引き締めてかかれ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮魂の廃寺へ急行すると当初の予想通り、そこにはプリティヴィ・マータとコンゴウ堕天種が2体いた。

 このまま乱戦となれば確実に苦戦するのと同時に戦術にミスがあれば命まで落としかねない。特にプリティヴィ・マータは活性化すれば厄介極まりない個体は苦戦を強いられる可能性があった。

 ただでさえリンドウの腕輪反応だけでなくシオの捜索迄が今回の任務に含まれる以上、こんな所で余計な時間を費やす訳には行かなかった。エイジは今回のそれを踏まえて慎重に作戦を立案する事にした。

 

 

「まずはコンゴウ堕天種を2体殲滅。それを倒した後でプリティヴィ・マータの討伐とする。二手に分けるけどαがソーマとコウタとサクヤさん、βはアリサと自分がやる。プリティヴィ・マータに戦闘音を察知されると厄介だからなるべく離してからの討伐後に合流。その際には信号弾で合図。 これで行くけど、何か質問は?」

 

「問題ない」

 

「じゃあ、全員散開!」

 

 

 

 いくらシオの捜索も兼ねているとは言え、リンドウの腕輪反応も気がかりとなる。

 しかし、どちらを優先させるか今更言わなくても全員が理解していた。

 鎮魂の廃寺は全部で3層に分かれている為、分断そのものは一度おびき出せば容易に出来る。戦闘音さえ注意すれば問題なくこなせる内容だった。

 

 エイジとアリサのコンビはコンゴウ堕天種を最下層へとおびき出す。

 コンゴウ種の一番厄介なのが異常とも言える聴覚の鋭さ。いくら遠くても簡単に察知されると面倒以外の何物でもなかった。

 

 

「アリサは顔面を重点的に頼む。その隙に回り込んで背後から攻撃を仕掛ける。こちらに意識が向いたら挟撃で一気に決める」

 

「了解」

 

 

 コンゴウ堕天種はそもそも従来種から一定以上の進化した存在。通常種に比べ格段に体力、力が増大している為にまともに戦おうと考えれば時間がかかる。

 当然戦闘音が出れば他にも気が付かれる為に、出来るだけ迅速に討伐する必要があった。

 

 今回は二手に分ける事で、戦力の低下が起きると同時に短時間での討伐が要求される。その為には奇襲とも言える戦法で一気に殲滅する手段を選んだ。

 

 コンゴウの攻撃方法は極めて単純だが油断は禁物だった。

 注意点としては背中からのパイプ攻撃と丸太の様な太い腕から繰り出されるパンチ、そして大きな身体を利用したパンチがメインとなる。

 奇襲攻撃の最大の特徴は此方からの攻撃が一番最初に当たる点でもある。

 

 この状況を上手く利用し、一気に背中のパイプの結合崩壊を狙う。

 気配を殺し、背後からの凄まじい斬撃を当てる事でコンゴウ堕天種のパイプが大きな音と共に砕け散った。

 パイプが結合崩壊した事で背後からの攻撃に気が付いた瞬間、アリサの凄まじい射撃で顔面を狙うとコンゴウの視界は一気にふさがれた。

 

 視界を奪われれば、行動範囲が一気に狭まるその瞬間、エイジはコンゴウの背面に気が付かれる事無く素早く移動する。

 振り向いたコンゴウの先にはエイジの姿は既に無く、改めて背後から自慢の腕を肩口から一気に斬り落とした。

 悲鳴とも咆哮とも着かないまま暴れ回るが狙いを定めない攻撃は最早攻撃では無く、ただ暴れ回るだけの存在でしかない。

 

 片腕ではバランスが取り辛いのか、パンチを繰り出すも全て躱され、コンゴウは為す術もないまま斬り刻まれ、程無くして地面へと沈んだ。

 

 

 

「αチームは大丈夫かな?」

 

「ソーマとサクヤさんがいるから多分大丈夫ですよ。コウタはちょっとあれですけど」

 

「様子見て、戦闘中なら加勢するよ」

 

「了解です」

 

 

 

 コアを抜き取り、そうこう言いながら移動すると既に終わっていたのか全員が合流する事になった。残すはプリティヴィ・マータ1体。全員の緊張感は否応なしに高まっていく。

 

 物陰から様子を確認し、このまま一気に突撃しようかと確認すると、そこにいるはずのプリティヴィ・マータは全く動く気配が無い。動かないと言うよりも、むしろ生命活動そのものが停止している様にも見えた。

 この地域には事前調査で他のアラガミはが居ない事が確認されているが油断は出来ない。

 

 

「なあエイジ。あのプリティヴィ・マータ何か変じゃないか?」

 

「言われて見れば確かに……」

 

 コウタが言う様に、プリティヴィ・マータはいつまでたっても動く気配もなく、気が付けば時間が経過したからなのか、そのまま霧散していた。

 攻撃を受けた形跡すらないにも関わらず消え去ったそれは通常ではありえない現象。

 またもや襲撃かと思われた瞬間にその上から今まで見たことが無い様なアラガミが不気味な存在感と共にこちらを見ていた。

 

 

「まさか、あれがやったのか?」

 

 

 今までに見たことも無いが、狂暴である事だけは直観的に理解出来た。その風貌は他のアラガミと比べても明らかに異質とも言えた。

 襲いかかる様な雰囲気は無く、暫くはその場に佇んでいたが、やがてそのアラガミは一瞥したと同時にその場から立ち去って行った。

 

 

「あのアラガミは……」

 

呆気に取られた中で一人だけ違う反応を示していた。余りにも小さく呟いたその声は誰の耳にも届かないまま消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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