神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第30話 憶測

「同種を捕喰したアラガミだって?実に珍しいサンプルかもしれないね」

 

「直接見た訳ではありませんが他には居ない様な感じでしたので、恐らくはそうかと」

 

 リンドウの腕輪情報から始まったミッションだったが、いざ現場で戦闘が始まると、それは想定外の結果となった。

 

 当初予定していたアラガミのうち2体は討伐したものの、恐らくはそれが今回の目的と思われた個体が何者かに捕喰されていた。

 今回の戦闘区域近辺での出動要請は第1部隊以外には出ておらず、逃げ出したシオも結局は別の場所で発見された為に、可能性から除外された。

 

 現場に残った細胞から、ヴァジュラ種の中でも更に高位のアラガミである事が発覚し、このデータを元に急遽対策が取られる事となった。

 

 

「あんな個体は今まで極東に居たんですか?」

 

「いや、今までは居たのかもしれないが、まともに発見されたのは今回が初めてだろうね。ヴァジュラ種の中でも接触禁忌種、名称はディアウス・ピターの様だね」

 

 

 名前と共に映像が画面に出される。今までのヴァジュラ種とは違い、それは邪悪な人間の顔を持つアラガミ。この醜悪な顔を見ながらそう考えると、今まで討伐したヴァジュラやプリティヴィ・マータが可愛らしく見えた。

 

 接触禁忌種とまで言われる程のパワーとスピードを保持している以上、その凶悪さを改めて知る事となった。

 このアラガミに対する対抗策を考えているそんな中で、アリサの様子が少しおかしい事にエイジは気がついた。

 顔色は若干悪く、よく見ればスカートの裾をしっかりと握るその手は僅かに震えている。あの事件から既に立ち直っているはずのアリサが心持ち怯えている様にも見えた。

 まるで目に見えない何かに脅えているかの様に。

 

 

「ミーティングはここまでだ。ここまで接近しているなら近日中にまた現れるだろう。それまで警戒を怠るな。恐らくはあの個体がリンドウの腕輪を持っているはずだ」

 

 

 ようやくラボでのミーティングが終わり散開となった。今までの中で間違いなく一番の激戦になる事だけはその場に居た全員が予測できた。

 

 

「アリサ。さっきから様子がおかしいけど、どうかした?」

 

「いえ、大した事では……」

 

「らしくないよ。まさかとは思うけど……」

 

 

 以前に感応現象で見えた光景。それはアリサの両親がアラガミに喰い殺された光景だった。

 当時は突然の状況で何も分からなかったが、そのアラガミが今だからこそ理解出来た。両親を喰い殺したあのディアウス・ピターである事。

 当時の事からは判断出来ないが、同種である事に変わりない。

 となればアリサのトラウマの元凶とも言える存在。そんな心理状態でまともに戦える事は事実上不可能とも思えた。

 それは単純な戦力としての心配なのか、それとも個人的な部分での心配なのか。

 今のエイジにとって、隊長になってからの初めての接触禁忌種の討伐任務。自身も初めて対峙するだけでなく、今度は部隊全員の命を預かる立場は就任して初めて分かる事実。いつもであれば気がつくも、今はアリサの変調すら気がつく事が出来ない程に配慮出来る心のゆとりは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までの検証から勘案すると、恐らくはエイジ君達が見た個体はかなり特殊なのかもしれないね。過去の実例から考えても特異すぎる点が多い事から、今回の件はあくまでも推定にしか過ぎないレベルだけどね。君の見解を教えてもらえないかな?」

 

 

 今回のミッションは今までに前例がない位の苛烈な戦いが予想されていた。

 一番の問題点が、今までの仮定を根底からひっくり返すかの様な存在のアラガミ。このまま放置する事は容認出来ないレベルの存在でもある。

 仮に目を背けたとしても、これもまたそのまま放置すれば近い将来、必ず3禍根を残す可能性が極めて高い事が予測された。

 

 

「直接見た訳ではないですが、今までの仮定から推測すれば恐らくはリンドウの神機が関連している可能性が極めて高いでしょう。その影響で異常な位に知能が発達した可能性は否めません」

 

「やっぱり君と同意見か。恐らくは過去の例に見ない厳しい戦いになるのかもしれないね」

 

 

 今回発見されたアラガミは、今までの例から考えれば明らかに異端とも思える存在でもあった。従来のアラガミは捕喰の欲求に極めて従順な為、ある意味では獣と変わらないはずだった。

 

 しかしながら今回発見されたディアウス・ピターには今まで討伐してきたアラガミ知性が感じられる。恐らくは捕喰の果てに進化し、学習能力を身に付けたといっても過言ではない。

 現在の状況から考えると決して楽観視できない。そう考えるのは至極当然とも言えた。

 

 

「そう言えば話は変わるが、シオの服についてだけど、君の所で何とか出来ないかい?」

 

「そうしたいのは山々ですが、暫くは開発の兼合いで時間が取れないのが現状です。確かアラガミ由来の服の事でしたよね?」

 

「困った事に服の特性上、重要機密案件になるから該当者が限られるのがネックでね。どうしたものか」

 

「なら、技術班のナオヤに任せては?あいつなら口も堅いですし、製造に関しては屋敷であれば機密は守れます」

 

「君がそこまで言うならそうする事にしよう。早速彼を呼ぶことにしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黛ナオヤ出頭しました。榊博士、何の用でしょうか?」

 

「忙しい所済まないね。実は来てもらったのは他でもない重要な任務でね。君は機密事項に関して確実に守る事はできるかい?」

 

 

 作業中に突然呼ばれ、いざ出頭すればそこには榊博士と無明が珍しく居た。

 普段であればそこまで気にしないが、開口一番機密事項に関する事で念を押される時点で碌な事ではない。

 恐らくは自分の中で何かとてつもない事が起きるのでは?との疑問を持ち続けた。

 

 

「物にもよりますが、最低限の事は守ります。ちなみにどんな内容でしょうか?」

 

 

 ナオヤ意見は至極真っ当なものだった。突然呼ばれて機密事項だから守れ。しかも聞く前に確認までされれば尋常な内容ではない事位は容易に想像できた。

 この時点で確認する事は不可能。しかも内容が単に洋服となれば本来の業務とは無縁の世界。

 ナオヤが警戒するのはある意味、当然の事でもあった。

 

 

「そこまで警戒しなくても大丈夫だよ。今回の事に関しては機密の内容は今の時点では公表できないが、無明君や第1部隊までが内容に関知してるから問題ないよ」

 

 

 無明の名前まで出されると、ナオヤも流石に冷静になる事が出来た。

 ナオヤも屋敷に住んでいる関係上、無明の名前は絶対だった。その一言で全幅の信頼を寄せる事ができ、かつ信用するにはおつりがくるレベルだった。

 

 

「解りました。聞いてはいませんが機密事項は順守します」

 

「いや~そう言ってくれると助かるよ。今回以来したいのは特殊な服を作ってもらいたくてね。材質の関係上、機密事項に触れるのと外部に漏れるのは絶対に阻止したいんだ」

 

「服は構いませんが、一体誰の服なんですか?」

 

「それはまた後日になるよ。今回のメインは材質でね。材質はアラガミ由来の服を作ってもらう事になるから機密事項に抵触する事になる。秘密は守れるね?」

 

 

 

 榊に言われたものの、そこまで念を押されると一体誰に何を作るのか疑問しか出てこない。機密を守るのは問題ないが、ここにきて大きな問題が発生していた。

 

 

「服は構いませんが、サイズとデザインは本人を見ないと何とも出来ませんのでサイズを教えてほしいのですが?」

 

 

 

 この一言に普段であれば何を考えているのか皆目見当もつかない榊が固まった。

 服を作ると簡単に言うが、実際には動きやすさや用途によって色々と変わってくる。しかもサイズとなれば現状では誰も測っていないので、サイズに関しても未知数。

 榊も服を作る事を優先しすぎた結果、珍しい失態を犯した。

 

 

「数値については後日知らせるよ」

 

「それなら一向に構いません。しかし、デザインに関しては門外漢なので協力者を立てても構わないでしょうか?」

 

「協力者ね。誰が候補かな?」

 

「女性の方がデザインやトータルで考えると良いかと判断しました。それを踏まえれば楠リッカを推薦したいと思います」

 

「ああ、それなら構わないよ。彼女にも依頼したいと考えていたから大丈夫だよ」

 

 

 

 この時点で本人の預かり知らない所で商談が成立していた。

 後の事は榊が考えるだろう事を予測し、ナオヤはラボを出た。

 しかしながら今回の依頼は冷静に考えると内容そのものがおかしい。そもそもアラガミの素材は神機には使用するが服そのものに利用する事はあり得ないと考えるのが普通だった。にも拘わらずアラガミ由来の材質を使った服。しかも一部を利用ではなく材質と榊博士は発言した。

 

 まさかとは思いつつも可能性は否定できない。無明の名前と第1部隊の名前が出たのでそれ以上の事は考えなかったが、どう考えても何かある。あとは確認した時にでも考えれば良いと判断し、その思考を遮った。

 

 

「ナオヤ、榊博士から聞いた?」

 

「聞いたって何を?」

 

「例の服の事だよ」

 

「ああ、それなら聞いたよ。細かい部分は聞いていないけど機密事項だから他言無用って事で何も言えない事になっているけど」

 

 

 

 整備班に戻るや否や、既に聞いていたのかリッカが回りを気にしながら話しかけてきた。

 機密事項をわざわざ大きい声で話す必要はないのと、いくら身内みたいな感じの整備班でもケジメを付ける必要はあった。

 

 

「アラガミ由来なんて普通は考えられないけどね。可能性は限りなく高いけど、見た訳でもないし詳細も聞いた訳じゃないからコメントし辛いかな」

 

「だろうね。わたしも詳しくは聞いていないけど、第1部隊と君の名前が出たから特に気にする事はなかったけど、よくよく考えると不思議な部分もあったからさ」

 

「また連絡が来ればすべてが分かるのかも。ってあれ、もう連絡が来たよ」

 

 

 

 先ほどの会話から時間がかかるとは思ったが、端末に送られたメッセージを見ると意外にも時間がかかる事が書かれていた。

 そもそも詳細を聞いていない以上、これ以上の追及も出来ない。あとは改めて連絡が来るのを待つだけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

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