神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第32話 結末

 当初から想定されていた不特定多数と思われたアラガミの大群が遠くで見える。

 もう残りの時間は僅かだった。このまま取り逃がせば恐らくは今後討伐する事は一層困難になる事は間違いなかった。

 

 取り逃がす=それはリンドウの腕輪が回収不能になるのと同義だった。

 時間の猶予は推定5分程度。残る選択肢は限られていた。

 このまま撤退かギリギリまで討伐するか。エイジに究極の選択が迫られる。

 

「サクヤさん、回収用のヘリはどうなってます?」

 

「もう、そこまで来てるわ」

 

「エイジ、このままだとヤバい。どうする?」

 

 

 コウタの発言に対して、エイジの心の中は既に決まっていた。ここで取り逃がせばどうなるのか、恐らくは今後の事まで視野に入れれば撤退の二文字は存在しない。

 しかしながらこのままでは時間が圧倒的に足りないのは言われるまでもない。逡巡す事無くエイジは最後の手段を取った。

 

 

「サクヤさんは撤退の準備、コウタとアリサは援護、ソーマは手伝ってくれる?」

 

「お前何考えてる?前みたいな無茶はよせ」

 

「そんな事はしない。これで一気に決着をつけるからみんなフォローしてくれ」

 

 

 

 そう言いながらエイジはポーチから一つのアンプルを取り出し一気に飲み干す。その瞬間、エイジの体から蒼白いオーラが放出された。

 

 

「これで一気に決める」

 

 

 そう言った瞬間、いつもの倍以上の速度で一気にディアウス・ピターに突進する。

 その場に居た他の人間は今まで見たことも無いような早さで突進するエイジにあっけに取られた。

 

 恐らくは何らかのアンプルだが、見た目は通常のオラクル解放剤にしか見えなかった。

 効果に関しては何かが圧倒的に違うのと同時に、その力が何か儚い様な物にも見える。

 エイジは恐らくこのアンプルの効果を理解していたからこそ、出る間際にフォローをと言ったのだろう。

 

 その一方で、アンプルを飲み込んだエイジ自身も驚きを隠せなかった。

 事前に無明から渡されたのがこの1本だけ試作で作られたオラクル解放剤。

 当初に聞いた際には使いどころを間違えれば命の危険にされされる可能性がある事を注意されていた。

 

 従来品よりも強い攻撃力が発揮されると同時に、すべての行動に対しても3倍近い速度で動くことが可能となる。

 しかしながら代償は大きく、いくら強靭な体を持ってしても体の強度が変わる訳ではない。体の本能に基づくリミッターを解除し、一時的に強靭な行動が可能となる為に効果が切れると反動が一気に襲い掛かる代物でもあった。

 一つづつ説明する時間はもうない。仮に説明した所で反対されるのが関の山である事は容易に想像出来る。

 それならばフォローを任せて一気に仕留める事が効率的だとに決めていた。

 

 体のリミッターが解除されたからと言って、行動における反射的な物が上がるだけであって思考までが付いて来る訳ではない。そこが実際に利用する際には最大の難点とも思われた。

 

 この薬剤を実際に無明が試した際に、懸念すべき材料だとは厳しく言われていた。

 自分の限界値を意図も簡単に超えるそれを制御するには並み大抵の努力では克服できない。

 人類として超える事が出来ない壁を突破し、制御する為にはどうすれば良いのだろうか?見えない壁を手探りで探すのと同じ行為であると、そう考えていた矢先だった。

 

 手に余るこの効果をいかに生かすか、シンプルにそう考え目の前のディアウス・ピターと対峙した瞬間に、以前にも感じた感覚が蘇ってくる。

 

 以前に行った撤退戦の際にも感じたあの感覚が見事に蘇る。

 あの時に感じた感覚は白い線の様な物がいくつかアラガミ向かい、結果的にその線に沿って神機をふるった際に、通常以上のダメージを与える事が出来た。

 正にその当時の感覚が今ここで蘇ってきた。

 

 ディアウス・ピターは切り落とされた腕でエイジを振り払う様な攻撃するも、まるでそこに攻撃が来るのが事前に分かっていたかの様な動きで攻撃をいなし、そこを狙えと言わんばかりに白い線が集中している目に神機を突き刺した。

 

 銃撃ではなく直接の攻撃により今までの蓄積されたダメージが噴出したかの如く、その場に大きな音をたて倒れた。

 フォローで走ってきたソーマもここが最大のチャンスとばかりにチャージクラッシュの体制を作り、コウタとアリサはオラクルが枯渇しても構わないとばかりに全弾を撃ち尽くす。

 弾切れを起こす頃に漸くディアウス・ピターの断末魔と共に巨体が倒れる音が戦場に響いた。

 

 

「エイジ大丈夫か?」

 

「まあ、なんとか。時間が無いから早くコアの回収と調査をよろしく」

 

「コウタ、そのままエイジを頼む。アリサ、早く調べるぞ」

 

「分かりました」

 

「もうヘリは来てるわよ」

 

 

 現場にはすでに回収用のヘリがその場で留まり、4人が乗り込むのを待機していた。先ほどの影響なのか指示を出した瞬間にエイジは気絶したままの為に、コウタに背負われヘリに乗り込む。

 

 一方でソーマはコアの回収、アリサは腕輪の調査を始めた。焦る気持ちを落ち着かせながら冷静に探り出す。

 ソーマがほどなくしてコアの回収が完了した際に、アリサも腕輪と神機を発見し回収していた。ギリギリの所で全員を回収したヘリは一気に上昇し、辛くも難を逃れる事に成功していた。

 

 アラガミの大群は先ほど討伐したディアウス・ピターを喰らい尽くし、まるで跡形も残すつもりが無い様な勢いで襲いかかっているのが眼下に見えている。

 

 帰りのヘリの中は討伐が完了した事による喜びよりも、まるでお通夜の様な雰囲気が漂っていた。

 結果だけ見れば勝利したものの、先ほどの戦いでソーマ・アリサ・コウタの3人が負傷、エイジに至ってはそれに追加で体の一部が筋断裂を起こし動く事すらままならなくなっている。

 

 時間制限があった戦いは薄氷を踏む様な行動で何とか勝利をもぎ取った形となった。

 しかしながら、今回の戦いで大きな戦果もあった。一つは今回の異常とも思えるアラガミのコア回収、もう一つはリンドウの腕輪及び神機が回収出来た事だった。

 

 この時点ではリンドウの生存はほぼ絶望とも言えた。

 以前のサクヤであれば恐らく悲しみの淵から這い上がる事は難しいとも思えたが、色々と検証作業をしていると同時に心の整理が出来ていた。

 あとは解析に回される前に何とかこの腕輪だけでもとの思いがそこに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たち良くやった。全員の様子を見れば想像できるが、現状は全員が絶対安静にしろ。サクヤも目立った外傷は無いが同じ扱いだ。全員に1週間の休暇を与える」

 

 

 帰投後の報告はサクヤが代わりにしたが、あの状況の事はアナグラでは既に知らされていた為に、帰ってからは異様な雰囲気に包まれていた。

 予想はされていたが、第1部隊の全員が負傷しての帰投。この事実に対してアナグラには重苦しい空気だけが漂っていた。

 そんな中でのツバキの判断にありがたみを感じ、全員が一旦医務室へ直行となった。

 

 

「エイジはまだ寝てるの?」

 

「全身があの状態ですから、今は仕方ないのかもしれません」

 

「あいつはこんな時ほど無茶するから、誰か目が覚めたらバカだと言っておけ」

 

「ソーマ、そんなに熱くならない。心配する前に少しは自分の事も考えてちょうだい」

 

 

 ものの見事に全員が運ばれた後は絶対安静となった。その中でもソーマは治癒能力が高い為か、今では8割方元の状態に戻りつつあった。

 実際には体そのものは直ぐに治るが肝心の神機は簡単には直らなかった。

 

 今回の中で一番被害が大きかったのがソーマの神機。刀身は若干の刃こぼれを起こし、盾に至っては所々に亀裂が入っている。

 コウタの神機は銃砲が歪み、あの状態で最後に派手な連射をした事で大掛かりな調整が必要となっていた。

 

 アリサの神機もまた銃砲の一部が歪み、盾に亀裂が入ってる為に、修繕ではなく新規で作成した方が早いと判断されていた。

 その中でエイジの神機に関しては見るも無残な状態となっており、恐らくは神機のコア以外一旦廃棄して新規で作った方が早いとまで判断されていた。

 

 余談ではあるが、この現状を見たリッカは人知れず叫びたい気持ちがあったものの、神機を見ればどれ程厳しい戦いだったのか誰よりも一番理解していた。

 

 当然そうなると体云々よりも肝心の神機の修復に時間がかかり、結果的には出撃そのものが出来ず開店休業状態だった。

 こんな現状を把握しつつも、サクヤはリンドウの腕輪を提出前に端末からアクセスしてロックを外した所で提出していた。あとは再度確認する為である。

 

 

「一体、リンドウは何を調べてたのかしら?でもその前に私もこの体を治す事が先決ね」

 

 

 疲労感を含んだまま誰にも聞こえない声でサクヤは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コアを調べた結果、やはりあのアラガミは神機の影響を受けていた様ですね」

 

「やはりそうだったか。同種を喰い荒らした時点でそうじゃないかと仮説は立てたのが、当たったようだね。で、君はこの後どうするつもりだい?」

 

「簡単に神機を調べて、問題なければリンドウの所へ持って行きます」

 

「また分かったら連絡くれるかい?」

 

「逐一報告します」

 

「よろしく頼むよ」

 

 

 無明は回収された神機を調べ、特に問題が無いと判断し、屋敷へと持ち帰った。その際に腕輪に何かされた形跡はあったものの、事情を踏まえ見逃す事にした。

 

 

「しかし、このコアは実に興味深い。あのアラガミの大群にも何らかの影響を及ぼした可能性まであるとは。これから早速調べる事にしよう」

 

 

 

 榊の異常とも言える飽くなき探求心。これが一体どんな影響を及ぼすのか、今の所は誰にも想像が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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