「なあ、何時まで俺は戦闘訓練と言う名の任務をこなさないとダメなんだ?いい加減教えてほしいんだが」
エイジ達がアナグラでのミッションをこなしていると同時に、無明もリンドウと共に任務をこなしていた。
本来であれば無明一人で行う事も出来るが、恐らくは今後ありうる可能性の高い戦闘に備えての役割と戦力としての判断を下す為に、2人で隠密行動をしていた。
「暫くは遊んでたんだから、その対価分位は文句を言う前に働け。これから少しきわどい調査をする事になる。ここからは音をなるべく出すな」
いつも以上に真剣な様子に流石にリンドウも黙る他無かった。なぜならここは任務で派兵される場所ではなく、厳重な警備がされているエイジス島だった。
榊とツバキとの会談の後、状況の確認をする為に、事前に調べてあった情報通りの配置が何故か変更されていた。
本来であれば外部からの侵入者に対するはずの警備配置が、ことごとく変更され、まるで侵入者を排除するかの様な配置へと変更されていた。
本部で調査した結果が外部に漏れたのか、それとも今後の状況を鑑みて万が一の備えなのかは誰にも分からない。となれば潜入して確認し確実な物証をとらえる為に、誰にも気づかれる事無く忍び込んだ。
「事前の計画とは違うって、何がどうなってるんだ?」
「建前はアラガミから守る為のシェルターの名目で外部に対しての防衛施設が配備されていたが、防護壁が完成してからの行動が一切見えない。そうなれば内部で何かが起きているのは容易に推測できる。しかし、外部からでは何も確認出来ない以上、現地へ赴くしか他無いだろう」
「だからと言っていきなりは無いだろう」
小声で話していると、作業員と思われし人間と化学者然とした人間がこちらに向かって歩いて来るのが分かった。正規の手続きを取って入っていない以上ここで見つかる訳には行かず、まずは姿を隠してやり過ごす事を優先した。
「あとは特異点が見つかれば計画は発動できるはずだが、施設はどうなんだ?」
「全部完成してる。後は計画の実行を待つだけだ」
「そうか。で、現場で作業してた物はどうした?」
「知らない人間はそのまま返したが、一部知り過ぎた人間は始末した」
「今は情報漏洩が一番のリスク。やむ得ないか」
「後はどうなっているんだ?」
「連絡があり次第緊急招集をかけてそのまま実行だ。まだ見つからない以上、気を緩めない事だな」
「違いねえな」
誰も居ないと判断したのか、やたらと口が軽いまま2人はそのまま去って行った。
施設が完成した折に何人かが事故で亡くなったとは聞いてたが、知り過ぎた為に処分されていたとは思わなかった。
作業員が言う様に情報漏洩を避けるのであれば、それが一番簡単なやり方でもある。無明にとってはごく当たり前の判断だと思うも、残念ながら隣に居たリンドウにはそう考える事は出来なかった。
「あいつら人の命を何だと思ってるんだ。これがあいつのやりたい事なのか!」
「静かにしろ。そもそも怒る論点が間違ってる。良いか、この計画は特定の人間だけを残し、後は終末捕喰で人類の全てを抹消するつもりだ。今更末端の人間の一人や二人が居なくなった所で何も変わらない。こんな時ほど冷静な判断が必要だ」
「しかし」
「お前の言いたい事は分かる。ゴッドイーターとして人類の守護者としてやってきたなら、お前の感情は間違っていない。だが、今俺達がやっている事はそんな崇高な事ではない。今は事実関係の確認と今後の対策を決める為の情報収集にしか過ぎない。仮に分かった所でお前はその人間を殺す事が出来るのか?お前の感情一つですべての事が瓦解する。その時にどうするつもりだ?」
ここまでハッキリと言われれば、リンドウも反論するのは多大な労力が必要となった。
ゴッドイーターの職務と今の職務は性質が違う。情報を持ち帰るのは今後の為に、ひいては未来の為に行動しているのであって、けっして目先の事に囚われる訳には行かなかった。
「分かった。まずは最低限必要な物を確認して撤収。これで良いんだろ?」
「そうだ。おそらくこの近くに当時と変わらないなら一つの部屋がある。そこで書類を確認して戻るのご今回の任務だ」
「確認ってみるだけなのか?」
「写真に撮ってデータを抜き取るだけだ。相手は何も気が付かないままの方が何かと都合が良いのと、下手に動いて警戒されると帰るのも大変だからな」
「おまえいつもこんな事してるのか?」
「そこまで頻繁にはしない。今はもっと簡単に何とでも出来る事の方が多いからな。今回は色んな意味で警戒しながらやらないと、かなりシビアな状態になりかねん」
そんな事を言いながらも、気配を完全に消したまま目的地にたどりついた。幸いにも周辺には誰も居ない。後はデータを抜き取ってそのまま撤収となった。
「ねえリンドウ、あなた最近屋敷には居ない事が多いみたいだけど、私に何か隠してない?」
屋敷に戻るとサクヤからの通信が入った。今の所リンドウの存在は一部の人間以外には秘匿されている為に、おいそれと通信すら出来ない状態でもあった。
「悪いな。今は無明と戦闘訓練に励んでるから居ない事の方が多い。気持ちは分かるが通信でさえ盗聴されている可能性が高いからこれ以上の長話は出来ないぞ」
「分かったわ。でも危ない事はやってないわよね?」
「心配するな。今はそんな事が出来る状態じゃねえから。それとサクヤ、お前が調べていたデータの件だが、あれは処分しといてくれ。持っているとお前に被害が及ぶ可能性が高い。俺としてはそれだけは避けてほしいんだ」
「あら、心配してくれてるのね。例のデータなら処分しておくわ。じゃまた後でね」
そう言いながら通信は切れた。しかし調べて行くうちに今回の計画の残酷性とその可能性は否定できないレベルに達していた。
知り過ぎれば抹消はやり過ぎている。恐らく情報を知りすぎたのがゴッドイーターだとしても結果が変わる事は無いだろう事を考えつつ、今後の動きを協議する必要があった。
「毎回すまないね。悪いけどまたシオを外に連れて行ってほしいんだ」
「今度はどうしたんですか?」
「相変わらず事態は好転しない事に変わりないんだが、せめて気分転換にでもなればと思ってね。最近はヨハンの件もあるから、これを持って出てくれれば大丈夫だから」
そう言われ、手の中にあるのは一つのネックレスだった。エイジ達もシオの元気の無さには何とかしたいと言う気持ちはあっても、現在支部長からの特務の関係でおいそれと外に出す事もはばかられる状況である事は理解していた。
そんな時の榊からの提案は正に渡りに船だった。
「これは何なんですか?アクセサリーにしてはやや大きい様にも思えるんですが?」
「アリサ君、これは偏食因子を制御し、偏食場そのものの反応を隠す事ができる装置なんだよ。本来であればもう少し小さく出来るんだが、生憎と時間が無くてね。動作は保証できるから頼めるかい?」
「シオちゃんの為ですから、頑張りますよ。早速行きましょう」
予想通り、シオの様子はある程度は以前よりも良くなって居る様に思えた。
しかしながら、榊の発した以前よりも特異点の力が強くなりつつあるこの状態は決して楽観視出来る物では無かった。
未だに現状が分からないままでは今後の活動にも影響が出始める事になる。一度帰投してから再度榊に確認するのが手っ取り早いと考え、シオの様子を窺っていた。
食事も終わり、帰投準備に取り掛かろうとした矢先だった。前回同様にシオの身体から全身を覆うような紋章が現れ、再びシオの様相が一変した。
前回と決定的に異なるのは、今回は偏食因子の制御装置をつけているにも関わらず、何の効果も見えない点と今度は今までの口調とは大きく違い、目に見えない何かに引きずられる様に動きだした。
「モットタベタイ。ヨンデル。イカナキャ」
「どうしたのシオちゃん!それ以上は!」
アリサの呼びかけに反応する事も無く、ソーマとエイジも取り押さえようとするが、ゴッドイーターである彼らの制止を振り切り海の中へと飛び込んだシオをその場で呆然と見る事しか出来なかった。
表向きは3人でのミッションの為に、何か特別大きな変化は無い様にも思えた。
しかしながら、今までの何か踏みとどまる様な事はまるでなく、ただ本能のままに動くアラガミの様にも見えた。このままでは拙いと判断するも、今の状況では手の施しようが無い。
後は対策を考えるしかなかった。
「博士、シオちゃんが海に飛び込んで行方不明になりました」
「例の現象が起きたのかい?」
「そうなんですが、前回の状況とは大きく違っている様にも見えました。まるで何かに引きずられるかの様に」
この一言で、榊が今まで第1部隊に隠していた事を公表する決心が付いた。このまま隠匿した状態では後手後手に回る事は間違いない。しかも、現状では特務と称して捜索されている事も拍車をかけた。
これ以上の隠匿は命取りにつながる以上、一刻も早い対応が要求されていた。
「アリサ君すまないが、第1部隊のメンバー全員を呼んでくれないか?重要な話があるから至急で頼むよ」
その後、全員が揃ってから、榊は改めて今回のあらましとその可能性、そして本来の計画について話す事となった。
当時ツバキに説明した際にも大きな衝撃があったものの、当時はまだ一人に対しての説明だったが、今回は今の現状を踏まえた上での説明となった為に全員が激しく動揺する事になった。
そんな中でもコウタの動揺が最も大きく、普段は明るくムードメーカーとしてのコウタしか知らないアリサやソーマは声をかける事すら出来なかった。
「エイジ、ごめん。ちょっと一人にしてくれないか」
「わかった。話が大きすぎて混乱するだろうから、落ち着いたら連絡して」
そう言いながらも、激しく落胆している事に変わりない。家族の為に危険な職務をこなし、家族の為を思っての行動をしていたはずが、実の所はそれら全てが虚構だと判明した事で理解と思考のバランスを大きく崩していた。
恐らくは暫くの間はミッションにも影響が出るだろうと判断する事を決めた。
「俺はどうすればいいんだよ」
コウタはふらふらしながらも気が付けば自室のベッドの上に座っていた。
入隊当初からエイジス計画に多大な希望を持ち、そしてその力に微力ながらにもと思い任務に励んできた。
しかしながら、シオの様子と現状、今後の推測される事から、エイジス計画は当初から実行するつもりは一切無く、本来のアーク計画こそが本命だと言う事に落胆していた。
全員が助かる前提のエイジス計画とは違い、特定の決められた人間だけが助かるアーク計画には本来であれば簡単に賛同できる道理は無かった。
今までやってきた事が全て水泡に帰す。そんな思いに囚われていた時に、自身の通信端末が部屋の中で鳴り響いた。
それがコウタに究極の選択を迫られる合図でもあった。