神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第42話 焦燥

 襲撃された後、シオを攫った人間を追う様にロビー付近まで来ると、まるでここが廃墟にでもなったかの様な錯覚を覚えた。

 ついさっきまでは騒がしく感じていたはずの場所に人の気配が全く感じられず、2人はここが何処なのかと一瞬だけ考えた。

 

 理由に関しては今までの事を考えればごく単純な話。

 今回の件は第1部隊だけではなくアナグラにいる全隊員にもヨハネス支部長は話をしていたのだった。

 これでは、討伐する所ではなくアラガミが襲撃に来れば防衛する事すら困難とも言える程の状態でもあった。最悪は今後の部隊運営以前に内部での状況確認すら出来ない恐れがある。

 しかしながら、幸か不幸か受付にはヒバリが佇んでいた。

 

 

「ヒバリさんこれは一体?」

 

「みなさん、支部長の提案に賛同し、箱舟へと移動したみたいなんです」

 

「じゃあ、今ここに居るのは全部で何人位なの?」

 

「それに関してですが……」

 

 既に状況を知っているのが、ヒバリの口は重く、浮かばない表情が何となくでも現状を表している。

 

 

「ここには、恐らくだけど10人も居ないだろうな」

 

 ヒバリと話をしていると、背後からタツミの声が聞こえて来た。その顔には苦渋とも言える表情と、まるで何かを諦めたかの様な感情のこもった声だった。

 

 

「タツミさんは、ここに残るんですか?」

 

「ああ、支部長から話は聞いたが、どうも自分の性に合わない様な気がしてな。まっ、ヒバリちゃんがいるからってのもあるんだろうけどな」

 

 先ほどよりも幾分かは砕けた雰囲気があったものの、それでも大幅な人員の削減、そして部隊長としての責務と今後の事を想像すれば最悪の未来しか見る事が出来ない。

 だからと言ってこのまま悲観していてもアラガミが容赦する事は無い。そう考えると今のタツミが空元気である事に変わりなかった。

 

 

「ところで、おまえらはどうしたんだ?」

 

「いえ、ちょっと今は急いでるんで」

 

「そうか。まあ、どうするかは俺に決める権利は無いが、残るならこのまま頼むぜ」

 

「また詳しい事は後ほど」

 

 タツミ達と別れ、捜そうとした際に、博士がシオに渡したネックレスの事を思い出した。あれは偏食場を隠すのと同時に、あとで聞かされた発信機としての役割。

それさえあれば居場所の特定は簡単だと判断すると同時に行動をラボへと向ける事にした。

 

「ソーマ、あのネックレスだ。博士の所に行けば何か分かるかもしれない」

 

「そうだな。まずは一旦ラボに戻るぞ」

 

 今来た所を慌てて引き返すと、そこにはアリサとサクヤが居ただけだった。

 

 

「アリサ、博士は?」

 

「今ここに来たんですが、ここには居ない様です。先ほど小さな爆発音があったみたいですがどうしたんですか?」

 

「そうか。実はシオが支部長に見つかってそのまま拉致された。今は後を追っていたがネックレスの発信機の事を思い出して戻って来たんだ」

 

「そうですか。って誰が拉致なんて!」

 

「まずは落ち着いて。暗闇の中で攫われたから正体は不明だけど、間違いなく支部長の差し金だろうね。ところでロビーには行ってみた?」

 

「まだですけど、どうかしたんですか?」

 

「どうやらここに居る殆どの神機使いはアーク計画に賛同してるみたいで、今はほとんどもぬけの殻だ。さっきタツミさんに聞いたら、今は10人も居ないらしい」

 

「じゃあ、今度はどうやって?」

 

「それは今の時点では分からない。だた、シオが攫われている以上、あとは計画が速やかに進行するはずだから、それを何とかするしかないよ」

 

 一縷の望みとばかりに部屋へと飛び込めば、肝心の榊はラボには居なかった。既にシオの拉致から時間はそれなりに経過している。

 

 一番想像したくない事実が現実となり、今後の事も考えればのこされた時間はあと僅かだった。

 1分、1秒が長く感じるも、ここに留まった所で事態が好転する事は無い。そう考え二手に分かれて捜す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない無明君、君が居ない所でまさかヨハンにやられると想定外だったよ」

 

「そうなると時間はあと僅かですね。これが現在の所、研究所から取ったデータになります。恐らくはこれが終末捕喰を起こすノヴァの設計図です。ただ、支部長はこれ以外にももう一体製造している様です。しかし、これに関しては確実な物では無いので記憶にとどめる程度の方が良いかもしれません」

 

「2人で何を話してるんだ?悪いけど俺にも分かる様に説明してくれ」

 

「時間が無いから手短に言うが、終末捕喰を発動する為のキーとなる特異点が拉致された。おそらくはこのコアを取り出し、ノヴァを起動させるつもりだ。

 もう時間が無い。リンドウは他の皆と合流してくれ。今は一刻も早く止める事が最優先だ。こっちはやる事がまだあるから、合流には時間がかかる」

 

「分かった。で、今はその特異点はどこに?」

 

「エイジス島だ。おそらくはそこに支部長もいる。潜入方法は前回のルートを使え」

 

 シオの拉致と共に、最終計画が発動し、あとは時間との戦いとなった。今は開発している物を完成させ、それを何とか間に合わせる他何も出来ない。

 取り出してから作動させるには、一刻の猶予も無い。無明はそう考え、まずは戦力としての確保でリンドウを向かわせた。

 

 

「榊博士。すみませんが、まだやる事がいくつかありますので、このまま失礼します。用件が終わり次第に直ぐに戻りますので」

 

「君に心配は無用だとは思うが気を付けてくれたまえ」

 

 無明は榊の元を離れ、目的の場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナグラから通信が途絶えたコウタは今まさに悩み続けていた。

 あのままであればここまで悩む事は無かったが、アナグラの急襲ともなれば状況は一転する。このままここに居れば他の人間を見殺しにするのと同じ。

 このままではと思った矢先だった。

 

 

「コウタ、アナグラの事が心配なんでしょ。ここにいる位なら行ってらっしゃい」

 

「母さん。でも、俺は……」

 

「コウタの言ってくれた事は親として嬉しかった。でも、こっちにもチケットは届いてたんだよ」

 

 そう言いながら、届いたチケットを見せた。手にあるのはコウタ自身が受け取った物と同じ乗船用チケット。

 これが一体何を指し示すのか今のコウタには判断が出来なかった。

 

 

「母さん、ごめん。俺、嘘ついてた。実際に助かるのは俺たちだけなんだ。周りの人たちは見殺しになる事を知っていた。でも、母さんとノゾミの前では何も言えなかった」

 

「いいのよ。あなたが何の為に戦場に出て戦っているのか位は分かっていたわ。これでもあなたの母親ですからね。だから、私たちの事だけじゃなくて、今自分がやらないといけない事、後悔しない事をしなさい。わたしたちはコウタを信じてるからね」

 

 母親からは責められるかと思ったが、現実にはその逆だった。今まで知らないふりをしていても、実際にはしっかりと理解してくれた事にコウタは嬉しさが心の中に広がった。

 ならば、今の自分がすべき事は何なのか答えを出すまでもなくコウタは全速力でアナグラに向かって走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ、今何をしている?」

 

 シオが攫われ、心当たりを全員でしらみつぶしに捜していた際に、通信機が不意に鳴った。

 

 

「兄様、シオが攫われました。今は全員で捜索しています」

 

「なら丁度いい。シオは現在の所エイジス島に向かって運ばれている。このままだとコアを抜き取られてノヴァの起動キーとなるのは時間の問題だ」

 

「シオはまだ大丈夫なんですか?」

 

「それは分からん。ただ、反応を見る限りはまだ大丈夫とだけは言えるが、悠長にしているだけの時間は無い。全員でエイジス島に行くんだ。だた、あそこにはノヴァだけではなく、恐らくだがガーディアンの役割を果たす何かかあるはずだ。装備を整え次第向かえ。整備班にはナオヤに言ってある」

 

「兄様は一体どこへ?」

 

「俺はまだやる事がある。今回の件に関しては大人の世界にもある程度の根回しが必要になる。お前たちは気にせず全力でやれ」

 

「了解しました」

 

 無明からの通信が切れ、今度は第1部隊全員に対しての連絡を取る。探索に向かっていた面々もエイジが到着する頃には整備班に到着していた。

 

 エイジ達を出迎えたのは事前に聞いていたナオヤとリッカだった。2人とも支部長からの話は聞いた物の、自分達の考えと合わないと考え辞退したと聞いていた。

 

 

「皆の神機は整備済みだよ。あとは全力で助けないとダメだからね」

 

「エイジ、兄貴からこれを持って行く様にって渡された。中身は前回のディアウスピターでも使った物だが、あの後で改良してある。ただし、ダウングレード版なだけで重ね掛けは絶対にするなと言われている。お前はいつも考えなしに動くから心配だけど、必ず生きて帰ってこい」

 

「ああ。分かってる」

 

 2人からも言われ、改めて神機を見れば今まで同様にしっかりと整備されている事が容易に理解できた。

 

 これから行くのは死地に近い。そう考え、より一層の気持ちを引き締め向かう事になったが、ここでも問題が一つだけあった。

 エイジス島に行くにはどう考えても海上からの移動しかなく、今現在の所海上からのルートによる侵入は困難を極めていた。

 元々外周には対アラガミ用にレーダーが設置され、いくら目に見えなくてもレーダーには確実に反応する。このままでは何も出来ないと判断した時だった。

 

 

「エイジス島なら地下からの工事用連絡路があるはずだよ」

 

 

 

 振り向かなくてもその声の持ち主が誰なのかはエイジ達には直ぐに理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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