神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第45話 終焉

「来る前に無明から聞いたが、あれは何だ?」

 

「今戦っているのが支部長です」

 

「は?何だそれ?あれはアラガミだろ?」

 

 リンドウが驚いたのは、ここへ向かう直前に無明から大よその事は聞いていたが、内容に関しては時間の都合で現地で確認する羽目となった。

 今のリンドウの目に映っているのは女型のアラガミ、そしてその背後に逆さになった女性の様な顔の巨大なアラガミが鎮座している姿だった。

 

 

「あれが出て来た直前に支部長が吸収された形なの。だから攻撃方法も従来のアラガミとは違うわ」

 

「じゃあ、あの巨大なアラガミは」

 

「おいリンドウ、詳しい事は後だ。今はあのアラガミを討伐しないと終末捕喰が始まる。時間がもう無いからさっさと動け」

 

「少しはオッサン労われよ。っと何だあの攻撃は?」

 

 距離を置くことで最低限の情報交換は出来るものの、本来の場所とは違いエイジス島は隠れる様な場所があるほど大きくない。

 攻撃が来れば躱すか防ぐ以外の手段は存在しない事もあってか、これ以上の話はソーマの話し方で時間が無い事だけは容易に理解が出来た。その間にもリンドウに向かって光弾が立て続けに放たれる。

 

 

「ったく少し位は手加減しろよ」

 

「エイジ、攻撃はこちらで凌ぐから、あの輪っかを破壊出来るか?」

 

「了解です」

 

 戦場においては先輩も後輩も無い。生き残る事と相手に勝利する事の前では些細な事でもあった。今まで苦戦を強いられてきた戦線にリンドウが加入する事で今までよりも攻撃のバリエーションが広がる。

 

 

「コウタ、アリサ、あの天輪に向かって一斉射撃で破壊するぞ」

 

「了解」

 

 囮となったリンドウに攻撃が集中している隙を狙い、3人の銃撃が天輪に向かって一斉に放たれる。攻撃の途中ではいかなる防御も間に合わず、そのままバキッと音がしたと同時に破壊された。

 

 

「ダウンだ!ここが勝負だ!」

 

 

 エイジの叫びに再び攻撃を仕掛ける。捕喰と同時にリンクバーストを展開する事で全員がバーストモードへと突入していた。一斉攻撃により女型の髪と脚が次々と結合崩壊を起こし、左右の腕が切り落とされ攻撃の手段を失っていた。

 目の前のアラガミは既に死に体、これ以上の行動は不可能とも判断出来た。

 

 

「これで終わりだ」

 

 ソーマの無慈悲な一言と共に神機がドス黒いオーラに包まれ、チャージクラッシュの体制に入る。この時点で何も防ぐ手段が無いアラガミは肩口から袈裟懸けに斬られ右半身と左半身が真っ二つとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わったのか?」

 

 

 コウタの確認とも感想ともとれる言葉だけが静まり返った一面に響いた。今まで苦しめられたアラガミは動く気配は無い。このまま終わりを迎えたと思われた時だった。

 

 

「まさかお前たちに敗れるとは」

 

 

 誰もがこの声を聞き戦慄が走った。たった今討伐したはずのアラガミから声が聞こえている。ここから復活ともなれば恐らくは確実に全滅するのはこちら側だと判断出来るのは間違いなかった。再び緊張感が全員に襲い掛かる。

 

 

「残念だが私はここまでだ。しかし遅かった様だな」

 

 声の主はヨハネス支部長。しかし、今の言葉は明らかに何を示しているのか理解しようとした時だった。今まで静まりかえっていた筈の空間が大きく歪み、やがて地震が起きたかの様な大きな揺れと地響きが始まった。

 

 

「計画は既に完成した。後は終末捕喰が…始まるのを…待つ……だけだ」

 

 そう言い残し、最後の言葉が途切れた。討伐はしたが時間が想定以上にかかり過ぎた。それはシオの消滅と終末捕喰の始まりと共に世界の終焉の合図とも取れた。

 

 

「エイジ!どうにかならないのか?」

 

「今言われても、手の施し様が無い」

 

「間に合わなかったんですか?」

 

 

 一番恐れていた結末。すなわちシオのコアが完全に吸収されると同時に終末捕喰の始まり。それはそのまま人類の終了を意味す事でもあった。

 そのまま見ているだけでは何の解決も出来ない。そう考えてノヴァに向かって銃撃を浴びせるも、バレットは弾かれ、まるで何も無かったかの様な反応だけが残る。

 

 

「無駄だ。覚醒したノヴァは…止まらない」

 

 

 死刑宣告にも似た無慈悲な言葉にこれ以上何も出来ない絶望感だけが広がった。

 

 

「止められねえなんて認めねえぞ!」

 

「でもどうやって?」

 

 

 イラつくソーマの言葉がそこにいる全員の声の代弁でもあった。これ以上の事は何も出来ない。そう考えていた時だった。突如シオの身体から触手が噴出し、地面へと突き刺さった瞬間に今まで覚醒していたはずのノヴァの動きが停止した。

 

 

「ありがとね」

 

 今まで聞いて来た声。その声の持ち主を全員が理解していた。

 

 

「シオなのか?」

 

「みんなありがとね」

 

 

 その声が響くと同時にノヴァが再び動き出し、やがてゆっくりと上昇し始めていた。

 

 

「シオ!お前まさか!」

 

 

 ソーマの叫びがそのまま伝わったのか、改めてシオの声が鳴り響く。

 

 

「あの、おおそらのむこう。まんまるいのあっちのほうがおいしそうだから、たべにいくね」

 

「シオ!」

 

「いまならわかるきがするよ。なんであんなにたのしかったのか。なんであんなにむねがあたたかくなったのか。きっとこれがそのきもちなんだ。きっとこれがほんとうのにんげんのかたちなんだ」

 

 

 今生の別れの様に話すシオの言葉に誰もが何も言えず、ただ黙って聞いているしかなかった。

 まるで今までの思い出を確かめるかの様な穏やかな声。おそらくはシオとしての意識があるであろう最後の言葉。

 コウタとアリサは涙が流れているのを止める事すら出来ず、エイジとリンドウは今出来る可能性を考え、サクヤは俯いたまま何の言葉も発する事は出来ない。今この場でソーマだけが現状に抗おうとしていた。

 

 

「にんげんのほんとうのかたちをみたいから……だからシオもずっとみたいから、きょうはさよならするね。えらいかな?」

 

「えらくなんて……ない」

 

「えへへ、そっかごめんな」

 

 既にノヴァは最終局面にまで達し、このまま放置すれば空の彼方へと運ばれるかの様な状況にまで進行している。残された時間はあと僅かだった。

 

「このままだと、おわかれしたがらないかたちがあるからたべて」

 

「そんな事出来る訳無いよ」

 

「そーま、おいしくなかったらごめんな」

 

 

 この一言が全てを物語っていた。地上に残された身体が空へ運ぼうとしてる身体を引き留めている。このままでは終末捕喰は始まり、シオの気持ちを無駄にすると誰もが思っていた。

 シオの最後とも言えるその言葉でソーマが動き出し始めた時に声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シオ、本当にそれで良いのか?それが本当の気持ちなのか?」

 

 低いながらにも良く通る声が辺りを響くかの如く一帯に聞こえてくる。声の出どころを確認しようと全員が振り向く。そこには榊博士と無明が飛び込んできた。

 

 

「ほんとうの……ほんとうの……き…………」

 

「本当にそうなのか?」

 

 無明の声が辺り一面に響く。その声に怒りは無く、まるで何かをなだめるかの様にも聞こえた。

 

 

「ほんとうはまだずっといっしょにいたい。みんなでごはんたべたい。たくさんおはなししたい。でも……」

 

「シオだけじゃない。お前たちはどうなんだ?」

 

 

 無明の言わんとする事の意味はその場にいる全員が理解する事は出来なかった。

 なぜ今頃になってそんなことを言うのか、その場で無明が考えている事は誰も理解する事は出来ない。

 

 

「ソーマ、お前はどうなんだ?それで良いのか?」

 

「良い訳ないだろ!なんでここに来たのか!なんでこんな事になってるのか!お前に何が分かる!」

 

「お前の気持ちは分かった。だがな、これはお前たちだけの問題じゃない。ここに居る人間だけの問題じゃない。良いか!自分達の人生は自分で決めるしかない。少なくとも俺はこの物語をここで終わらせようなどとは一切思わん。あとは自分達が決めろ。10秒だけ時間をやる!」

 

 この言葉に一番最初に反応したのはリンドウだった。途中からこの戦闘に参加していたとは言え、今まで無明と榊博士が何をやっていたのか詳しくは知らないが、それでも何かをやろうとしていた事だけは理解している。

 そしてこの発言で、全体像がおぼろげながらに見えていた。

 

 

「おい無明!完成したのか?」

 

「時間が無かった。今回はセカンドベストだ」

 

「なら、俺はお前を信じる。後は頼んだ」

 

 会話の意図は分からなくてもこの話の流れで何かが出来る事だけは全員が理解していた。そうなればやるべき事は一つだけ。あとはそれを実行するだけだった。

 

 

「お前たちはどうする?」

 

 これ以上の回答は全員の顔を見れば聞くまでも無かった。可能性があるのであればその可能性にかける。それ以上の事は何も望まないと覚悟を決めた顔だった。

 

 

「博士、例の物をお願いします」

 

「良いかい、今の状況はかなり拙い事になっている。はっきり言えばポイント・オブ・ノーリターンを超える事になる。それでも良いかい?」

 

「もう迷いません。榊博士と兄様を信じます」

 

「じゃあ、今から作戦を開始するよ。エイジ君とコウタ君にはこのバレットを撃ってもらう。しかし、順番を間違えたり外すとその場で終わりだよ。あとはソーマ、君はノヴァにあるシオのコアを摘出するんだ」

 

「あれは攻撃が通用しなかったぞ?」

 

 これから何をすべきなのか、全員が榊の意図を組もうと考えるも、時間は既に無いに等しい。

 これ以上の説明をすれば時間がかかり結果的には何もしていなかった事にもなり合えない。そう考え、これ以上の会話を斬る様な言い方で、結論だけを述べた。

 

 

「これ以上は時間が無い。質問は受け付けない。コウタは最初に額に向かって撃て、そのあとでソーマが取り出し、再びエイジが撃て良いな?アリサはソーマにリンクバーストするんだ」

 

「了解しました」

 

 

 人類の存亡を賭けた最後の作戦がここに開始される。時間はもう僅かだった。

 無明の指示の通りにコウタがノヴァの額に向かってバレットを放つ。その瞬間着弾した部分が黒く変色をし始めていた。

 

 

「今だ、アリサはリンクバーストをレベル2まで撃て!」

 

 

 アリサが今あるすべてのアラガミバレットをソーマに渡し、一気にレベルが2まで行くと同時に無明はソーマにオラクル解放剤を注入した。その瞬間、ソーマの身体が蒼白く光り、今までとは違った状態でバーストしていた。

 

 

「あそこまで行けるから全力で取り出せ。その瞬間にエイジが改めてコアのあった場所で撃て!」

 

 その一言で一気に事が動きだした。限界値まで上昇したソーマの身体は通常以上の脚力を使い、本来であれば届くはずのない所まで一気に到達した。

 バーストモードの影響なのか、それともコウタが放ったバレットのせいなのか、今までどんな攻撃を加えてもびくともしなかったノヴァの身体がまるでバターを切るかの様に簡単に切り裂き、そのままコアの摘出を図った。

 

 

「エイジ!直ぐに撃て!リンドウはその後触手を斬りおとせ!」

 

 無明の指示通りの行動でノヴァからシオのコアが摘出され、そこに蓋をする様にバレットが着弾した。

 

 

「これで終わりだ」

 

 リンドウが触手を斬った途端にシオの周りに出ていた触手が一斉に引いていく。まだこれがどんな現象を起こすのかは誰にも理解は出来ていない。

 しかしながら、榊と無明の表情には安堵が浮かんでいる。これから一体どうなるのだろうかと誰かが口を開こうとした瞬間だった。

 

 再び、ノヴァの額が光を帯び、白い触手が大地を覆う。この時代に外から地球を見る事は出来ないが、もし見る事が出来たのであれば地球全体を大きな植物の根が蔓延り、大輪の花が観測されたはずだった。

 しかし、今はそれを確認する術は今は何もない。

 

 再度起きた大きな地震はそこにいる全ての人間の目を集めた。

 5つの花弁が開いた花がまるで何かに吸い寄せられる様に宙に浮かび、そのまま空へと飛び去って行く。その光景はエイジス島だけではなく、一部の地域を除く全地域で観測された。

 

 一般人には何が起こったのか理解できる人間は誰も居なかった。

 この現象を見て理解できた人間は恐らく今回の関係者しかいない。それほどまでに幻想的でもあり、世界の終わりを感じずにはいられない程の恐怖に涙する者、一体これが何に怯えているのかすら分からない程の光景でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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